異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第66話 オークショニア・ミヨシ

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「斬鉄の剣士……なのか、この私が? そんな、そんな、高い評価を、この人はしてくれた。社長の依怙贔屓じゃない、そんな評価をしてもらったのは、初めてだ。この人が、私の初めての人……」

「おいアチラ。ハルミがこれ以上とっちらかってどこかへ行かないうちに回収しろ。そして物置にでも放り込んでおけ」

 ハルミの仕事はこれで終わった。どのみち、もうなんの役にも立ちそうにないし、ここは引き上げだ。

 しかし、ハルミは侯爵になお問いかける。

「でも、あの、えっと。そんな高い評価をしていただいて恐縮ですが、あなたはどちら様ですか?」
「ああ、いえ別にたいしたものではありません。見ての通り、ただの通りすがりの紳士ですよ?」

 舞台の上にずっといるハルミには、俺たちの声が届いていない。相手が誰だか知らないのだ。

 ……相手のことをなにも知らないままで、普通に剣技をやっていたのか。剣を振るう以外のことにまるで興味なしだな、こいつは。それもある意味才能か。そこにミヨシが割り込む。

「あの、トヨタ侯爵様ですね? 私はミヨシと申します。ぜひ、ご覧いただきたいものがあるのですが、この後のご予定などありますでしょうか」
「あ、いや。特に急ぎの予定はないが、まだ、なにかあるのですか?」

「はい、それについては、これからここの皆さんにも説明しますので、少しだけお時間をください」

「会場の皆さん。少し予定が狂ってしまいましたが、この後タケウチ工房では、ただいまお目にかけましたニホン刀を、オークション形式にて販売いたします、即売会となっておりますので本日限りの販売です。興味のある方はあちらの公園まで、ぜひお立ち寄りください」

「ほう、あの刀。まだあるのですか?!」
「はい、そういうわけでした。侯爵様にもぜひご覧いただければと」

 さすがは我らがミヨシGJ! である。これで上客をひとりゲットだ。

 あの人は確実にオークションに参加してくれるだろう。ああいう人が来ると分かっていれば、最初から値段をつけておいて展示即売会という手もあったのだが、それはまあ今さらである。

「こ、こ、侯爵様ぁぁぁぁ?!」

 ハルミ、反応が遅せぇよ! アチラ、ハルミを早く回収しろ。それから、ミヨシには予定通り進めろと合図を送る。

 ぞろぞろと観客を引き連れて、ミヨシが歩いて行く。行く先は、剣技大会には参加できなかった工房の者たち(ソウ、コウセイさん、ヤッサン、その他大勢)が、あらかじめ設置していたオークション会場である。
 会場とはいっても、テーブルをいくつか並べてその上にニホン刀を置いただけだが。

 オークションなので人は多いほど良い。だけど、これほどのニホン刀を買える人は限られている。購買意欲を煽って借金してでも欲しいと思わせるのが、オークショニアの腕である。ミヨシ頼むぞ。

(やっぱり人をだまくらかす男だったノだ)
(借金までさせちゃダメであろうヨ)

 ものの例えだよ、例え。それにしても、人数多いなこれ。

「皆様、お集まりいただきありがとうございます。これよりオークション方式による、ニホン刀の即売会を開催します」
「おい、ねーちゃん。さっきのニホン刀はもう折れちまったが、あれと同等のものだという保証はあるのか?」

「ありません。うふ」

 どらどらどらどらどらリーチ一発と観客がコケる。

「さて、こちらの1本は、さきほどお見せしたニホン刀のバージョンアップ品です。反りはやや抑え目にしてあります。焼き入れという当工房独自の技術によって刀を強化することで、ごく自然に出てくるこの刀紋の美しさをご覧下さい。それを国指定の一級刀工技術者が磨き上げることで、さきほどのような「鉄を斬る」ことのできる刀に仕上げるのです。斬れ味ではさきほどの刀とほぼ同等ですが、美しさではこちらが勝っていると、当工房の職人の弁です」

 ええ? あ、いや、それ、そんな打ち合わせはなかったんだが? まさか1本1本にそんな講釈をつけるつもりか。そんなこと誰が考えたんだ?

 ミヨシがこちらを見て、えへへと笑った。お前かよ! たいしたやつだよ!! 惚れてまうやろ!!!

 ほぉ。よく分からんがさっきのよりも良い刀だってことか。確かにあの反りと刀紋とやらはとてもマッチしている、本当に美しい。欲しい、ぜひにも欲しい、我が家の家宝にしたい。俺も買うぞ。いくらだ、いくらなら買えるんだ!?

「今回の販売は限定生産品です。そのために、オークション方式での販売とさせていただきます」
「おーくしょんとはなにかね?」

「はい。競りだと思っていただければ良いと思います。この会場の中で、もっと高い値段をつけた方にお売りします」

「ニホン刀は、さきほどの試技で1本失われましたので、残りは6本しかありません。それぞれに特徴がありますのでその都度紹介をします。その中からご自分の希望にあったものをお買い上げいただきたいと思います」

 そういうことか。ちょっと俺家に戻って金を取ってくる。いったいいくらぐらいになるんだ? 見当もつけかないな。かかあにへそくり出させよう。おいおい、大丈夫かよ。俺なんか女房を質屋に入れるぞ。初鰹じゃねぇよ。

「その6本というのを、最初に見せてはもらえないかな?」

 トヨタ侯爵である。間違いない、この人は買う気だ。

「はい、こちらに並べてあります。ただし、これを手に取って見ることができるのは、一度でも落札に参加された方限定となります」

 少し離れたところから、じっと見つめる侯爵。隣にいる従者となにやら話し合っている。

 それにしてもミヨシさん、なんもかんもがお上手です。俺の出る幕はなさそうだ、黙っていようっと。

「それから、専用の鞘はこちらにございますが、こちらはオプション販売となっております。サービスとしてお客様のご希望の銘を無償で入れさせていただきます。鞘の金額は、落札価格の5%となっております」

 鞘とセットの値段じゃないのか。しかし、どのみち鞘なしでは持ち歩くことはできんぞ。ずるい商売だなぁ。しかし欲しいよな。自分の銘を入れてもらえるなら、そのぐらいの負担は我慢するかな。それよりも問題は落札価格だ。おう、それだなぁ。俺たち一般兵士に買える値段だろうか。間違いなく無理だろ、あの斬れ味だぞ? ならなんでここにいるんだよ! どんなやつが買うのか気になるじゃないか。

「それからお買い上げいただいたニホン刀には、メインテナンスサービスも付属しております。斬れ味が鈍ったり光沢が失われたなどの問題が発生したましたら、当工房までお持ちいただければいつでも無償で補修や研磨などをさせていただきます。どうぞご利用ください」

 もう俺の世界じゃない。自分が技術屋の分野を出てはいけないことを実感させられた。鞘で売り上げを上乗せしたあげくに、アフターサービスまで込みにして売ろうということだな。これは商売人の発想だ。

「それでは開始します。スタートの値段は」

 ごくり、という音がした。この値段は俺が指定したのだが、その通りに言うのか、それともミヨシがもっと違う値段を考えたのか。見守るだけの祭り囃子の中。

「10万円から始めます。この値段で欲しいという方、どうか手を上げてください」

 じゅ、じゅうまん……。いきなりその値段かよ、もう無理だ。俺には手が出ない。うん、女房を下ろしてこよう。ほんとに質屋に入れたんか。

 俺は1万からって言ったのだが……。最初は安めに設定しておいたほうが、高く売れるという方程式があっちの世ではあってだな、まあいいけど。

「「「はい」」」

 おっと、いきなり3人の手が上がる。さきほどの侯爵ではない3名だ。よしよし、幸先はいい、って待てこら、村長も混じってんじゃねぇか!

「3名とも、地元の名士たちだな」
「そうなのか。金持ってそうな連中か?」
「うなるほど持っているという話だ。村長以外はな」

 じじいの情報だから確かだろうが、村長無理すんな。落札価格に期待しよう。

「じゃあ、ワシは15万で」
「それでは18万」
「20万!」

 ってな感じでオークションは続き、結局村長は早々にリタイアした。

「はい、それではこれで打ち切ります。77万円でそちらの方、落札です。おめでとうございます。パン!!」

 想定よりは安かったが、それでもそこそこの値が付いた。もっと良い刀があると宣言しているのだから、2本目以降はこれ以上安くはならないだろう。これなら期待通りの売り上げが達成できそうだ。それにしても、なんと様になっているハンマープライスだことで。あれ? 誰だそんなことまで教えたやつは。

(ぴゅ~ヨ)
(ミノウ、お前か! よくやった)
(ぴゅ~、あれ? 怒られる流れだったのに、拍子抜けしたヨ)
(怒られること前提でやってんじゃねぇよ)

「さて、では次に移ります。次のニホン刀は、いままでと構造を少し変えております。詳細は企業秘密なので公開はしませんが、鉄の組み合わせを従来の3種類から4種類に増やしたものです。そのために刃物としての切れ味を保ちつつ、刀自体の柔軟性が増しました。ますます折れにくくなったのです。この刀ならば、先ほどの試技でも折れることはなかった……かもしれません。そのぐらい強度の高いニホン刀です。さぁ。これも10万からです!」

 さっきのも充分丈夫だったぞ。あれ以上にしたってことか。どうするとそんなことができるのかねぇ。嘘はないと思うな。買うならここだ。俺も参加してみよう。

「50万!」
「70万」
「75万」

 キリがないのでこの辺にしておこう。2本目は107万で落札された。3本目は120万、4本目も120万。そして、いよいよ大本命・トヨタ侯爵の登場である。

「残り2本となりました。こちらの2本は、構造がまた変わっています。鉄の組み合わせが、これまでの4種類から6種類に増えています。それによって刀全体に粘りが出て強靱さが増し、さらには」

 ここでもったいぶるミヨシさん。

「通常の使い方をされている限り、この刀は錆びることがありません」

 ええぇっ!? そんなまさか。そんな刀なんてあるわけないだろ。いや待て、そういえば女房にこの間買わされた包丁は錆びないって言ってたぞ。あぁ、うちもそうだ、流行ってるらしいな、あの包丁……そういえばあの包丁もタケウチ製じゃなかったか? ああ、そうだ間違いないタケウチだ。俺もミカちゃんに買わされたぞ。お前もか!? え? ミカちゃんって俺の彼女……なにぃ?!

 そこ、痴話ケンカにならないうちに帰った帰った。

「万が一、錆が発生することがありましたら、無償で新品とお取り替えいたしますので当工房までお持ちください」

「200万!」

 え? は? ほ? へ? と、なんだかどこかで見たような文字列が並ぶ。会場中の人が呼吸を忘れたようだ。

「に、にひゃく、まん。そ、それ以上の方は見えますか」

 いるわけがないと思いながらも、一応聞いてみただけのミヨシである。それまでの4本と違って、あっというまに5本目と6本目は落札された。トヨタ公爵によって。

 しめて824万(本体)+41.2万(鞘)の売り上げである。

 ∩( ・ω・)∩ばんじゃーい


余談

 剣技大会の少年組は当然のようにハルミが優勝となった。まだ足が地に着かないほどの感動の中にいたハルミは、賞品にもらった両刃の剣を、その場で一番年の若い子(最初に試技をした子)にあげてしまったらしい。

 それもあって、タケウチ工房はしばらく非難の的となる。

 一番の理由は、ハルミの試技の後、俺たちが観客のほとんどを引き連れて行ってしまったために、閑散とした剣技大会になってしまったからだ。
 その観客は青年組の出番になっても半分も戻ってこなかった。運営さん、激おこである。

 だが、こちらにも事情があるのだ。祭りの運営のことなど知ったことではない。

(お主ってやつはどうしてこうも薄情なのだヨ)
(我はもう慣れてきたノだ)
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