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第92話 コメ作りを止めろ
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「貧しいからだよ」
「そ、そ、それはそうだが。そうはっきり言われるとゾヨ」
「はっきり言わないと分からないと思ってさ」
「そうなのかヨ? エチ国はニホン一の米どころと聞いているのだヨ」
「そのコメは、ここ何年も相場が暴落しているんだろ? とれすぎて」
「あ、そういえば。そうなのかヨ? イズナ」
「まあ、そういう、側面もある、ゾネ」
「戦いを見ていて思ったんだ。兵の数ばかりは多いが、その装備はかなりひどい。統一性がないというか、そこらのものを適当に身につけているだけというか」
「うむ。それは我も思っていたヨ」
「それに団体行動の訓練がされていないのか、動きがバラバラだった。私語は多いし、そろって巨乳好きだし、身のこなしがまるで農作業夫だった」
「ちょっと別の単語が混じったようなのだヨ?」
「巨乳なら、我も好きだゾヨ!」
「だからハルミにくっついていたのか?」
「あの谷間はなんか幸せな場所だったゾヨ」
「そこに潜んでいたのか。だがそんなことは強調せんでよろしい。そういうわけで、あれは食いっぱぐれた農民を金で雇って、即席兵士に仕立てたのだと思った。だが、その彼らに特別な訓練をする時間とか装備とかを与えていない。まさしく寄せ集めの烏合の衆、そのものだった。それもこれも、金のなさのなせる技であろう?」
「ぐーの音も出ないゾヨ。まさしくその通り」
「飢餓感があるから、飯を食うには困らない軍人になりたがるやつも多いことだろう。そうすると、今度は戦争をしなければならなくなる。戦争がなかったら予算が削られるからだ。だから無理にも敵を作り、この国は危機にされされていると喧伝し、その前に攻めていくべきだという論理が増長する」
「まるで見ていたかのようなのだヨ」
「俺のいた世界でも同じだったからな。結局は経済なんだよ」
「ああ、お主は異世界から来た人間だったのだな。それで不思議なことに詳しいわけか。戦車を作ったやつと同じだゾヨ」
「お? なるほど。そういうことか。俺のいた世界から来たやつだから戦車という発想が出てきたんだな。それにしてはずいぶんお粗末な戦車だったが」
「プラモオタクとか自分で言っておった。エンジン? とやらができないと嘆いていたゾネ」
ああ、なるほど。だからあの戦車は「ガワ」だけだったのか。動かす機構も、弾を撃ち出すメカニズムも知らなかったわけだ。
俺なら開発してやるけどな。だいたいのことが分かっていて、あとは資金さえあれば……。あるわけないか。エチ国の経済はきっと破綻に近い状態なのでであろう。それをさらに軍人に搾取されて、民衆の生活は苦しいに違いない。
それならここはひとつ。
俺も搾取する側にまわろうっと。
「おいっ! なんかいま、ものすごく不穏な発言が聞こえたゾヨ?!」
「え? そうだった? いや、べつにあはははは」
「それはともかくとしてだな。オワリのトヨタ侯爵は、いままで一度も戦争で負けたことがない、と言っていたぞ」
「お主も誤魔化すのヘタな……な、な、なんだと! なんて生意気なやつなのだゾヨ」
「(誤魔化せたようだ)相手のほとんどがイズナ軍だったらそれは当然だ。あの装備に兵士だぞ」
「うぐぐぐぎぎぎぎ」
「悔しがってんのか、それ。あの志気の低さ、装備の悪さ、練度の低さ。どれをとってもオワリ軍の足下にも及ばない。だから、侯爵はあえてイズナ軍の半分の戦力で戦いを挑んだんだ。それで充分だと思ったからだろうな」
「我の軍をなめていたのか。けしからんやつなのだゾヨ」
「実際に50騎の騎馬が突入した段階で、もう戦意喪失していたじゃないか」
「うぐぐぐぐごごごごご」
「悔しがり方がちょっと変わったな。いくら防御壁を簡単に破られたからと言って、ああまで簡単に制圧されるようではとても軍隊とは言えない」
「まあまあ。イズナ軍の欠点はそのぐらいにしておくのだヨ。これ以上言うとイズナが窒息ししそうなのだヨ」
「まずは、そこをはっきり分かってもらわないと、次の話ができないからな」
「次の話? があるのか」
「それが本題だ。イズナの君臨するエチ国を豊かにする方法だ」
「そ、そそそそそそそそそそそ?」
「全部そで言われて、話が通じるわけないだろ!!」
「そ、そんなことができるのか? と言っているのだヨ」
「お前は通訳か。そういえば長い付き合いだったんだっけな。できるぞ。俺にまかせてくれるのなら、エチ国をもっと豊かな土地にしてやる」
「コメをもっと高く買ってくれればいいのだゾヨ」
「市場価格に文句をつけんな。それは、ダメな経営者の発想だ。市場にケンカ売っていいことなんかなにもない」
「じゃ、どうすれば良い?」
「コメを作るのを止めろ」
んなことできるわけがなかろうどたばたがたぼこと、わめき散らすイズナをミノウが必死で抑えている。できないわけがないだろ。止めるだけなんだから。
「うちの農民たちを殺すつもりかーー」
「その代わりに作ってもらいたいものがある」
「そんなことをした……いったいなにを作るのだゾヨ?」
そのときだった。タケウチ工房から伝書ブタがおてまみを持ってきた。それでこの話はいっときの中断である。
「そんなもんで中断するなよ、いいところだったのにゾヨ」
「おてまみってなんなのだヨ?」
「死語となって久しい昭和の文化だよ。ウエモンには毎日結果を送れと言ってあるんだ。そうすればこれがそのままちょこれいとの開発記録に……」
はいけい
いわれた通りになんかつくってみた。できたけど、なんかとってもへんなあじ。たべてみろ。
美人のウエモンより
記録になるかぁぁぁぁ!! 経過を書け経過を。美人とかどうでもいいんだよ! 起こったことを書けと言っておいたのに、できたってだけかよ!
どんな問題が起こって、どんなふうにした……お前ら、なにを勝手に食べてんだ?
「うむ、これがちょこれいとなのかヨ むぐむぐ」
「うむ。新食感であるな。むぐむぐ。甘い。甘いのだが、ぜんぜんうまくない。ユウ、これを作るつもりなら止めた方がいい。これは売れないゾヨ。うちの農民は死ぬぞ」
まだ開発途中だって言ってるじゃないか。それとこれをイズナのとこで作れとは言ってない。そもそもあの気候じゃ無理だ。
どれ、どんな味だ? むぐむぐ。
「うむ。なるほど。ねっとりとしているのに口当たりはがちがちで、固いガムみたいな食感。やたら甘いのに臭みがあってしかも舌触りがざらざら。まったりともせずそのくせめっさくどい……食えるかぁぁぁ、こんなもん!!」
「味もひどいが食感もひどいのだヨ」
「なにこの、いやなざらざら感は」
「改良の余地がある……というより余地だらけだな。とても食べ物とは思えん。臭みが抜けていないのが一番の問題かな。発酵が足りないのかもしれない。もっと時間をかけさせよう。それとこのざらざらはいったいなんだろう? このつぶつぶはいったいどこから来たのだ。まるでわざと砂でも入れたかのような」
「ひとり言が始まったのだヨ」
「どう返事していいのか困ってたのだが、これはいつものことゾヨ?」
「考え出すといつもこうなるのだヨ」
「おもろいやっちゃな」
お前らもなー。
「おっと話が逸れてしまった。これはあとで考えて返事をする。それはともかくとして、イズナのところでは小麦は作ってないか?」
「小麦か。作ってはいるゾヨ。ただ、コメの裏作なので量は多くないし、品質もあまり良くないようだゾヨ」
「そうだろうと思った。ではコメ作りを止めた土地で、小麦を作ってくれ」
「小麦を?」
「もちろん全部切り替えるわけじゃない。コメの作付面積のうち3割程度でいい。小麦の生産に振り向けてもらえばいいんだ」
「しかし小麦なんか作っても、うどんかソバのつなぎぐらいしか需要がないのだゾヨ。そんなものいくら作っても」
「それは心配するな。需要なら俺が作る。それと、お前んとこで作った小麦はタケウチ工房で全量を買い取るってのはどうだ?」
(先物で安く買い叩くけどな)
「おいおいユウ。お主そんなこと約束して、そんな金がタケウチ工房にあるとは思えんのだヨ?」
「お前ら俺をいったい誰だと思っているんだ?」
「口の悪い変態ゾヨ」
「態度の悪いがきんちょヨ」
やかましわ!! なまじっか正しいだけに余計腹が立つ。
「言い方を変える。俺のバックに誰がついていると思う?」
「タケウチ社長だヨ」
「しらんがな」
「天下の大財閥・トヨタ侯爵だよ」
「ああっ! そういえばお主。あのエースと取引をしておったな。確か新工場を建てるとかなんとか。もしかして最初から小麦の開発をするつもりだったのかヨ」
「いや、さすがにあのときはそこまで考えてはいなかった。最初の開発商品はちょこれいとだ。だけどあれはもともとイズナ調略用の商品の予定だったし、大量生産は難しいと思っている。原料であるカカオの大量調達が難しそうだからな。しかし、小麦なら話は簡単だ。安くて良いものさえできればいくらでも使える」
「我を調略だと? それはうまいのであろうな?」
うまいものなら調略されてやると、言わんばかりだな。
「お主がいま食べたものだヨ」
「こんなもんで我が調略されるかぁ!!」
「だからこれはまだ開発中だと言ってるだろ。言ってないけど。これから言うんだけど。イズナにこんな簡単に会えるとは思っていなかったし、戦争もこんなに早く終わるとは思っていなかったんだよ。そのうち、めっさうまいちょこれいと食わしてやるからな。そのとき食べて驚くなよ」
「そ、そ、そうなのか。もうワシの調略とか必要なくなったようなのだが、それでも食べていい?」
そ、そ、そんな可愛い表情でこっちみんな。萌えてまうやろが。そのときは死ぬほどもふもふしてやる。
「なんかちょっと寒気がしたゾヨ? ところで小麦の話だが、問題は需要だゾナ。さっき、需要を作るとか言ってなかったか?」
「ああ、言った。そこはまかせてくれ。小麦の需要ってのはコメ以上にたくさんあるはずなんだよ」
「それはウソなのだ。そんなこと言ったら我のご飯が全部うどんになってしまうのだヨ。それは止めるのだヨ」
誰がお前の食卓の話をしてんだよ。俺のいた世界では、コメの生産は年間800万トンぐらいだった。それも年々下がっている。小麦の生産は500万トンぐらいだが、加えて500万トンも輸入していた。計1千万トンだ。そのぐらい需要は小麦の方が高いのだ。
この世界では、小麦はほぼうどんだけのようだが、俺が作りたいケーキやパンには小麦が必須だ。そして、なにより1番に作りたいものはアレだ。
「小麦の需要はうどんだけじゃない。その商品開発は俺にまかせろ。資金はトヨタからいくらでも出させる。それで、イズナの小麦を買う。粉にしてしまえば保存が利くから、専用の倉庫を作れば良いだけだ。土地はいくらでもあるし」
「それなら良い。すぐにでも作らせようゾナ」
あっさり同意した。それもそのはずだ。コメはいくら作っても買い手がなかなか見つからないのが現状だろう。それが最初から買い手の決まっている作物となれば、作り手にとってこんなありがたい話はあるまい。その分値段は叩きまくるけどなうっししし。
「乗り気になってくれて嬉しいよ。しかし、作物の場合はすぐにできるものではないから、詳細は別途打ち合わせが必要だ。田んぼもそのままでは排水が悪すぎてダメだから、その改良も必要になる」
「なぬ? そのままでダメなのか? 水さえ抜けば良いであろうゾナ?」
「それだと湿害にやられる。コメ作りには水を溜める必要があるが、小麦は水が溜まってちゃダメなんだ。専用の小麦畑にする必要がある」
「そうなのか。そうだったのか。だから小麦の品質があんなに悪かったゾヨ?」
「そうだろうな。小麦は乾燥した環境での栽培に適した作物だ。湿潤なニホンの気候で作るなら、水はけがなにより重要だ。そういう土壌改良をしなければならない。コメの裏作ってことにそもそも無理があるんだよ」
「そうだったのか。そのことすぐにもうちの農民に教えてやりたいゾナ」
「農家の代表を何人かうちの工房に派遣できないか? 俺も農業に詳しいわけじゃない。大まかなやり方と試験の仕方を知っているだけだ。現場の声を聞いて開発を進めたい。品質が良い小麦をたくさんとれるようにしようじゃないか。コメだけに頼る経済は弱い。商品を増やせばリスクヘッジにもなる」
「分かったのだ。よく分からんけど分かったのだ。さっそく派遣するメンバーを選出させるゾヨ」
「よろしく頼む。っとその前に、イズナはやるべきことがあるだろ?」
「……そうだった。同盟を結ぶのだったな。それはすぐには難しいが、話は進めるのだゾヨ。まずはエチ国のコシノ家に話を通してみるのゾナ」
「そうしてくれ。そのときはミノウもハクサン家? だったかに話をつけてくれるな?」
「了解なのだヨ。またそこでトランプをするのだヨ」
「おおっ、いいなそれ。楽しみにしてるゾナ」
面白きことは良きことなり。なにかの血がしからしむりそうだ。
「交渉ごとだから時間がかかるのは仕方ないが、なるべく急いでくれ。小麦を植えるなら10月までにはやらないといけないだろう。もう1ヶ月もないぞ」
「そうなのだな。帰ったらすぐやるゾヨ」
「それと、これから戦後処理を行うのだろう……あれ、大丈夫か、お前んとこ。戦後補償費とか請求されるんじゃないか? 払えるか?」
「う? そうなのか? 我はそんなこと関わったことないから知らないゾヨ」
こちらの常識が分からんが、普通なら勝った方は賠償請求だかなんだかをするものだろう。攻め込んだのはイズナ側だしな。
「それを払わないと捕虜になった人たちも返してもらえないだろ?」
「捕虜? ああ、つかまった連中のことか。やつらなら、いま下で一緒になって酒飲んでいるヨ」
なんでだよ!!!!??
いくら常識が違うからって、そんなんありか!?
「そ、そ、それはそうだが。そうはっきり言われるとゾヨ」
「はっきり言わないと分からないと思ってさ」
「そうなのかヨ? エチ国はニホン一の米どころと聞いているのだヨ」
「そのコメは、ここ何年も相場が暴落しているんだろ? とれすぎて」
「あ、そういえば。そうなのかヨ? イズナ」
「まあ、そういう、側面もある、ゾネ」
「戦いを見ていて思ったんだ。兵の数ばかりは多いが、その装備はかなりひどい。統一性がないというか、そこらのものを適当に身につけているだけというか」
「うむ。それは我も思っていたヨ」
「それに団体行動の訓練がされていないのか、動きがバラバラだった。私語は多いし、そろって巨乳好きだし、身のこなしがまるで農作業夫だった」
「ちょっと別の単語が混じったようなのだヨ?」
「巨乳なら、我も好きだゾヨ!」
「だからハルミにくっついていたのか?」
「あの谷間はなんか幸せな場所だったゾヨ」
「そこに潜んでいたのか。だがそんなことは強調せんでよろしい。そういうわけで、あれは食いっぱぐれた農民を金で雇って、即席兵士に仕立てたのだと思った。だが、その彼らに特別な訓練をする時間とか装備とかを与えていない。まさしく寄せ集めの烏合の衆、そのものだった。それもこれも、金のなさのなせる技であろう?」
「ぐーの音も出ないゾヨ。まさしくその通り」
「飢餓感があるから、飯を食うには困らない軍人になりたがるやつも多いことだろう。そうすると、今度は戦争をしなければならなくなる。戦争がなかったら予算が削られるからだ。だから無理にも敵を作り、この国は危機にされされていると喧伝し、その前に攻めていくべきだという論理が増長する」
「まるで見ていたかのようなのだヨ」
「俺のいた世界でも同じだったからな。結局は経済なんだよ」
「ああ、お主は異世界から来た人間だったのだな。それで不思議なことに詳しいわけか。戦車を作ったやつと同じだゾヨ」
「お? なるほど。そういうことか。俺のいた世界から来たやつだから戦車という発想が出てきたんだな。それにしてはずいぶんお粗末な戦車だったが」
「プラモオタクとか自分で言っておった。エンジン? とやらができないと嘆いていたゾネ」
ああ、なるほど。だからあの戦車は「ガワ」だけだったのか。動かす機構も、弾を撃ち出すメカニズムも知らなかったわけだ。
俺なら開発してやるけどな。だいたいのことが分かっていて、あとは資金さえあれば……。あるわけないか。エチ国の経済はきっと破綻に近い状態なのでであろう。それをさらに軍人に搾取されて、民衆の生活は苦しいに違いない。
それならここはひとつ。
俺も搾取する側にまわろうっと。
「おいっ! なんかいま、ものすごく不穏な発言が聞こえたゾヨ?!」
「え? そうだった? いや、べつにあはははは」
「それはともかくとしてだな。オワリのトヨタ侯爵は、いままで一度も戦争で負けたことがない、と言っていたぞ」
「お主も誤魔化すのヘタな……な、な、なんだと! なんて生意気なやつなのだゾヨ」
「(誤魔化せたようだ)相手のほとんどがイズナ軍だったらそれは当然だ。あの装備に兵士だぞ」
「うぐぐぐぎぎぎぎ」
「悔しがってんのか、それ。あの志気の低さ、装備の悪さ、練度の低さ。どれをとってもオワリ軍の足下にも及ばない。だから、侯爵はあえてイズナ軍の半分の戦力で戦いを挑んだんだ。それで充分だと思ったからだろうな」
「我の軍をなめていたのか。けしからんやつなのだゾヨ」
「実際に50騎の騎馬が突入した段階で、もう戦意喪失していたじゃないか」
「うぐぐぐぐごごごごご」
「悔しがり方がちょっと変わったな。いくら防御壁を簡単に破られたからと言って、ああまで簡単に制圧されるようではとても軍隊とは言えない」
「まあまあ。イズナ軍の欠点はそのぐらいにしておくのだヨ。これ以上言うとイズナが窒息ししそうなのだヨ」
「まずは、そこをはっきり分かってもらわないと、次の話ができないからな」
「次の話? があるのか」
「それが本題だ。イズナの君臨するエチ国を豊かにする方法だ」
「そ、そそそそそそそそそそそ?」
「全部そで言われて、話が通じるわけないだろ!!」
「そ、そんなことができるのか? と言っているのだヨ」
「お前は通訳か。そういえば長い付き合いだったんだっけな。できるぞ。俺にまかせてくれるのなら、エチ国をもっと豊かな土地にしてやる」
「コメをもっと高く買ってくれればいいのだゾヨ」
「市場価格に文句をつけんな。それは、ダメな経営者の発想だ。市場にケンカ売っていいことなんかなにもない」
「じゃ、どうすれば良い?」
「コメを作るのを止めろ」
んなことできるわけがなかろうどたばたがたぼこと、わめき散らすイズナをミノウが必死で抑えている。できないわけがないだろ。止めるだけなんだから。
「うちの農民たちを殺すつもりかーー」
「その代わりに作ってもらいたいものがある」
「そんなことをした……いったいなにを作るのだゾヨ?」
そのときだった。タケウチ工房から伝書ブタがおてまみを持ってきた。それでこの話はいっときの中断である。
「そんなもんで中断するなよ、いいところだったのにゾヨ」
「おてまみってなんなのだヨ?」
「死語となって久しい昭和の文化だよ。ウエモンには毎日結果を送れと言ってあるんだ。そうすればこれがそのままちょこれいとの開発記録に……」
はいけい
いわれた通りになんかつくってみた。できたけど、なんかとってもへんなあじ。たべてみろ。
美人のウエモンより
記録になるかぁぁぁぁ!! 経過を書け経過を。美人とかどうでもいいんだよ! 起こったことを書けと言っておいたのに、できたってだけかよ!
どんな問題が起こって、どんなふうにした……お前ら、なにを勝手に食べてんだ?
「うむ、これがちょこれいとなのかヨ むぐむぐ」
「うむ。新食感であるな。むぐむぐ。甘い。甘いのだが、ぜんぜんうまくない。ユウ、これを作るつもりなら止めた方がいい。これは売れないゾヨ。うちの農民は死ぬぞ」
まだ開発途中だって言ってるじゃないか。それとこれをイズナのとこで作れとは言ってない。そもそもあの気候じゃ無理だ。
どれ、どんな味だ? むぐむぐ。
「うむ。なるほど。ねっとりとしているのに口当たりはがちがちで、固いガムみたいな食感。やたら甘いのに臭みがあってしかも舌触りがざらざら。まったりともせずそのくせめっさくどい……食えるかぁぁぁ、こんなもん!!」
「味もひどいが食感もひどいのだヨ」
「なにこの、いやなざらざら感は」
「改良の余地がある……というより余地だらけだな。とても食べ物とは思えん。臭みが抜けていないのが一番の問題かな。発酵が足りないのかもしれない。もっと時間をかけさせよう。それとこのざらざらはいったいなんだろう? このつぶつぶはいったいどこから来たのだ。まるでわざと砂でも入れたかのような」
「ひとり言が始まったのだヨ」
「どう返事していいのか困ってたのだが、これはいつものことゾヨ?」
「考え出すといつもこうなるのだヨ」
「おもろいやっちゃな」
お前らもなー。
「おっと話が逸れてしまった。これはあとで考えて返事をする。それはともかくとして、イズナのところでは小麦は作ってないか?」
「小麦か。作ってはいるゾヨ。ただ、コメの裏作なので量は多くないし、品質もあまり良くないようだゾヨ」
「そうだろうと思った。ではコメ作りを止めた土地で、小麦を作ってくれ」
「小麦を?」
「もちろん全部切り替えるわけじゃない。コメの作付面積のうち3割程度でいい。小麦の生産に振り向けてもらえばいいんだ」
「しかし小麦なんか作っても、うどんかソバのつなぎぐらいしか需要がないのだゾヨ。そんなものいくら作っても」
「それは心配するな。需要なら俺が作る。それと、お前んとこで作った小麦はタケウチ工房で全量を買い取るってのはどうだ?」
(先物で安く買い叩くけどな)
「おいおいユウ。お主そんなこと約束して、そんな金がタケウチ工房にあるとは思えんのだヨ?」
「お前ら俺をいったい誰だと思っているんだ?」
「口の悪い変態ゾヨ」
「態度の悪いがきんちょヨ」
やかましわ!! なまじっか正しいだけに余計腹が立つ。
「言い方を変える。俺のバックに誰がついていると思う?」
「タケウチ社長だヨ」
「しらんがな」
「天下の大財閥・トヨタ侯爵だよ」
「ああっ! そういえばお主。あのエースと取引をしておったな。確か新工場を建てるとかなんとか。もしかして最初から小麦の開発をするつもりだったのかヨ」
「いや、さすがにあのときはそこまで考えてはいなかった。最初の開発商品はちょこれいとだ。だけどあれはもともとイズナ調略用の商品の予定だったし、大量生産は難しいと思っている。原料であるカカオの大量調達が難しそうだからな。しかし、小麦なら話は簡単だ。安くて良いものさえできればいくらでも使える」
「我を調略だと? それはうまいのであろうな?」
うまいものなら調略されてやると、言わんばかりだな。
「お主がいま食べたものだヨ」
「こんなもんで我が調略されるかぁ!!」
「だからこれはまだ開発中だと言ってるだろ。言ってないけど。これから言うんだけど。イズナにこんな簡単に会えるとは思っていなかったし、戦争もこんなに早く終わるとは思っていなかったんだよ。そのうち、めっさうまいちょこれいと食わしてやるからな。そのとき食べて驚くなよ」
「そ、そ、そうなのか。もうワシの調略とか必要なくなったようなのだが、それでも食べていい?」
そ、そ、そんな可愛い表情でこっちみんな。萌えてまうやろが。そのときは死ぬほどもふもふしてやる。
「なんかちょっと寒気がしたゾヨ? ところで小麦の話だが、問題は需要だゾナ。さっき、需要を作るとか言ってなかったか?」
「ああ、言った。そこはまかせてくれ。小麦の需要ってのはコメ以上にたくさんあるはずなんだよ」
「それはウソなのだ。そんなこと言ったら我のご飯が全部うどんになってしまうのだヨ。それは止めるのだヨ」
誰がお前の食卓の話をしてんだよ。俺のいた世界では、コメの生産は年間800万トンぐらいだった。それも年々下がっている。小麦の生産は500万トンぐらいだが、加えて500万トンも輸入していた。計1千万トンだ。そのぐらい需要は小麦の方が高いのだ。
この世界では、小麦はほぼうどんだけのようだが、俺が作りたいケーキやパンには小麦が必須だ。そして、なにより1番に作りたいものはアレだ。
「小麦の需要はうどんだけじゃない。その商品開発は俺にまかせろ。資金はトヨタからいくらでも出させる。それで、イズナの小麦を買う。粉にしてしまえば保存が利くから、専用の倉庫を作れば良いだけだ。土地はいくらでもあるし」
「それなら良い。すぐにでも作らせようゾナ」
あっさり同意した。それもそのはずだ。コメはいくら作っても買い手がなかなか見つからないのが現状だろう。それが最初から買い手の決まっている作物となれば、作り手にとってこんなありがたい話はあるまい。その分値段は叩きまくるけどなうっししし。
「乗り気になってくれて嬉しいよ。しかし、作物の場合はすぐにできるものではないから、詳細は別途打ち合わせが必要だ。田んぼもそのままでは排水が悪すぎてダメだから、その改良も必要になる」
「なぬ? そのままでダメなのか? 水さえ抜けば良いであろうゾナ?」
「それだと湿害にやられる。コメ作りには水を溜める必要があるが、小麦は水が溜まってちゃダメなんだ。専用の小麦畑にする必要がある」
「そうなのか。そうだったのか。だから小麦の品質があんなに悪かったゾヨ?」
「そうだろうな。小麦は乾燥した環境での栽培に適した作物だ。湿潤なニホンの気候で作るなら、水はけがなにより重要だ。そういう土壌改良をしなければならない。コメの裏作ってことにそもそも無理があるんだよ」
「そうだったのか。そのことすぐにもうちの農民に教えてやりたいゾナ」
「農家の代表を何人かうちの工房に派遣できないか? 俺も農業に詳しいわけじゃない。大まかなやり方と試験の仕方を知っているだけだ。現場の声を聞いて開発を進めたい。品質が良い小麦をたくさんとれるようにしようじゃないか。コメだけに頼る経済は弱い。商品を増やせばリスクヘッジにもなる」
「分かったのだ。よく分からんけど分かったのだ。さっそく派遣するメンバーを選出させるゾヨ」
「よろしく頼む。っとその前に、イズナはやるべきことがあるだろ?」
「……そうだった。同盟を結ぶのだったな。それはすぐには難しいが、話は進めるのだゾヨ。まずはエチ国のコシノ家に話を通してみるのゾナ」
「そうしてくれ。そのときはミノウもハクサン家? だったかに話をつけてくれるな?」
「了解なのだヨ。またそこでトランプをするのだヨ」
「おおっ、いいなそれ。楽しみにしてるゾナ」
面白きことは良きことなり。なにかの血がしからしむりそうだ。
「交渉ごとだから時間がかかるのは仕方ないが、なるべく急いでくれ。小麦を植えるなら10月までにはやらないといけないだろう。もう1ヶ月もないぞ」
「そうなのだな。帰ったらすぐやるゾヨ」
「それと、これから戦後処理を行うのだろう……あれ、大丈夫か、お前んとこ。戦後補償費とか請求されるんじゃないか? 払えるか?」
「う? そうなのか? 我はそんなこと関わったことないから知らないゾヨ」
こちらの常識が分からんが、普通なら勝った方は賠償請求だかなんだかをするものだろう。攻め込んだのはイズナ側だしな。
「それを払わないと捕虜になった人たちも返してもらえないだろ?」
「捕虜? ああ、つかまった連中のことか。やつらなら、いま下で一緒になって酒飲んでいるヨ」
なんでだよ!!!!??
いくら常識が違うからって、そんなんありか!?
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