異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第91話 命令違反の件

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 こんこんこんこん。ここんこん。もうお馴染みとなった説教タイムである。場所は最初に案内された俺たちの部屋である。アイシンは外で宴会に参加していて不在である。

「あー、ハルミ。命令違反の件についてだが」
「は、はい」
「みんながいる前では褒めておいたが、それで終わったと思ってもらっては困るんだ。だからここで言う」
「は、はい」

 戦いはミノ・オワリ混成軍の圧勝で終わった。中央のイズナ軍もすべての戦車を失ったことで半ば戦意喪失していた。さらにハルミの刀が石垣を切り飛ばすに至っては、守るすべさえも奪われ戦闘は一方的となった。

 中央にいた5,000の兵が、わずか50騎の騎馬部隊に翻弄されるままとなったのだ。そこに満を持して突撃した3千の歩兵が襲いかかると、あっけなく城は陥落した。

 中央の城が陥落したのを見た左翼の部隊は、誰に指示されるまでもなく白旗を揚げた。

 ハルミは大活躍であった。野面積みの石垣を横になぎ払って高さをなくして騎馬部隊を中に入れると、侯爵の指示で、7カ所あった物見台(櫓)をことごとく切って倒した。これで、城は「目」をなくした。

 そうなると、まだ外にいる仲間は誰にも見られることなく(抵抗されることなく)突入できたのだ。

 ハルミは、さらに仲間を迎え入れるべく城の周りの石垣を次々と破壊して行った。必要もない部位の石垣も相当切ったようであるが、そこはまあご愛敬である。

「我が名はハルミ。斬鉄の剣士・ハルミである。巻き添えをくらいたくなくば、そこをどけ!!」

 などと大声で叫ぶと、ハルミの前に立ちはだかる剛の者はひとりもいなかった。

 その時点で、すでに魔人・ハルミの伝説はできあがっており、敵兵士たちは恐れおののいて逃げ惑うだけであった。

 しかし中には弓でハルミを討とうとしたものも、いたことはいたのだ。だが。

「城はもうダメだ。だが、せめて一矢を報いないことには、戦士としてのプライドが保てん。ぎりぎりぎり」
「待てこら!! 弓を引き絞ってなにをする気だ」
「お前は黙って見ていろ。あの魔人に一泡吹かせるのだぁぁぁぁぁぁ。痛てぇなもう、なんで邪魔をする!?」

「そんなことして、あの巨乳に当たったらどうするつもりだ」
「いや、どうするって。俺は当てるつもりで」
「ばか者! あんな貴重なものにキズでもつけてみろ。国家の損失だぞ!」

「いや、ここは戦場。国家ってどこの。で、あの子は巨乳だけど魔人。俺は敵……誰がバカだよ! このこのこの」
「痛痛痛。やったな、お前の愚行を正してやったのに感謝ぐらいしやがればかすか」

「あーみっけ、ふたりともたいーほ」
「「あぁぁぁっ!?」」
「はい、拘束終了。檻の中に入ってな」
「「(´・ω・`)ショボーン」」

 まあ、そんな感じでハルミ暗殺計画は無事とん挫したのである。人の死なない異世界で戦争を描こうなんてすると、どうしたってこうなるって話である。

「なんの話?」
「ハルミはまだ座ってろ!!」
「は、はいっ」

「で、命令違反の件だが」
「め、命令違反はしていないぞ! 私は言われた通りに」
「言われた通りに?」

「せん、戦車をぶった斬りに行ったのだ」
「俺は見える限りの戦車をぶった斬れ、と言ったんだぞ」
「見える限りの戦車を斬ったではないか」

「見えてもいない戦車まで追いかけて斬ったじゃねぇか!!」
「あの丘からは50台分しか見えなかっただろ。だから残りが見えるとこまで走れば、また斬れるだろうって、ね?」

「ね? じゃないっての。可愛く言ったつもりか。俺は戻ってこい、と言ったよな?」
「そうだったかなー。それは聞こえなかただだだだだっ。痛い、耳を引っ張らないでっ」

「都合の悪いことが聞こえないのは、この耳かこの耳か」
「聞こえなかったんだってば、いだだだだだ」
「本当は?」
「……はい、聞こえてました」

「なんで戻らなかった?」
「もっと斬りにゃほっひゃから」
「なんだって?」
「もっと」
「うむ」
「斬りたかった、んだもんっ」

「んだもんっ、じゃねぇよ! そこを強調すんな。それとお前の趣味で戦争をすんな! お前は俺の護衛として連れてきたんだぞ」
「だけど、戦車を斬れって言ったのはユウだぞ?」

「あー、それはだな。イズナに一泡吹かせようとだな」
「私は戦車を斬った。それのなにがいけないのだ」

 あ、あれ? なんで逆ギレ?!

「斬ったことは褒めているだろ。その後だ。なんでお前は俺をほったらかした上に、先頭に立って相手陣地に飛び込んで行くんだよ!」
「それは、その、まあ、なんというかね?」
「なんだよ!」
「その場のノリ」
「やかましいわ!! ノリで戦闘すんな!」

 ごんごんごん。これは頭を叩いた音です。

「うぅぅ。私は活躍したのにぅぅぅぅ。なんで怒られるのよぅぅぅぅ」
「それは結果オーライだろうが。お前に万が一のことがあったらソウはどうなる? じじいは心臓麻痺で死ぬぞ? それに侯爵だって責任を負うことになるんだぞ」
「ううぅぅぅぅぅぅ。それはそうだった。スミマセン」

「今回は、侯爵の機転がお前を救ったんだ。そんな幸運が何度もあると思うな。あとでお礼を言っておけよ」
「うぅぅぅぅ。分かった。ちゃんと言う。だから」

「なんだ?」
「宴会に参加させて?」
「あと1時間正座したらな」
「えぇぇぇ。それじゃあ宴会が終わっちゃうよぉぉぉ」

 屋敷の外では宴会の真っ最中だ。祝勝会である。

 俺もハルミも最初に少し挨拶だけをして、ちょっと中座するね、といってこの部屋に戻ってきた。ハルミに説教をするためである。

 今晩のうちに言っておかないといけないと思ったのだ。ハルミの暴走癖は、これから本人だけでなく周りも巻き込んだ悲劇を起こす可能性が高いからだ。

 今回のこともそうだ。あのとき侯爵がいなかったら。敵部隊があんなに油断していなかったら。あんなに弱い兵でなかったら。戦車に頼り切った戦略しか立てていない弱兵でなかったら。

 ハルミはこの世にいなかったかもしれない。そう思えば、どうしても言っておく必要が。

「なぁ。もういいだろ?」
「やかましい! 反省してんのか。心配しなくても食べ物ならまだいくらでもあると言ってたぞ。酒だってたっぷりあったし」
「そうだけど、そうじゃないのだ」
「ん? 違うのか?」

「ユウは知らないのだ。宴会で一緒になって飲んで騒いで笑ってときどき怒ってまた笑って。そういうことが楽しいのだ。それに」
「それに?」
「そういうときではないと、みんなが私を褒めてくれないだろ?」

 褒められたいのか、こいつは?

「いつも褒められているじゃないか? じじいとかミヨシとかに」
「あれじゃダメなんだ。社長は失敗しても褒めてくれる。ミヨシも同じだ。それはそれで嬉しいけど、あれは違うんだ。赤の他人が褒めてくれる。それが一番嬉しいんだ。他人は酒でも入っていなければ、面と向かって誰かを褒めたりはしないんだ。お互いが照れちゃうからな。だから今日の宴会だけなんだ。だから行かせてくれ、お願い」

 俺はもともと宴会には興味がない。酒なんか飲めばすぐ眠くなるだけだ。たらふく食ったら寝る。それだけで充分な人間だ。

 酒の席での話に内容のある話などはない。同じことを無限ループで聞かされるアホらしさには耐えられない。酒も飲めないが「そういう席」自体が嫌いなのだ。時間の無駄だとしか思えない。

 しかしハルミは違うのだろう。

「分かったよ。じゃあ、これからはもう単独行動はしないと誓え」
「分かった。誓う。二度とあんな無謀なことはしない」
「無謀だと理解できてりゃいい。じゃあ、行ってこい」

 よっしゃぁぁぁぁ!! という雄叫びを残してハルミは宴会の場に全力で走って行った。あれだけ正座させたのに、足はしびれてないのかな?

 と思った瞬間に、どんがらがっしゃしゃーんというけたたましい音がした。

 おそらく、ドアの桟につまづいて傘立てに思い切り頭から突っ込んだ拍子にドアノブをまっぷたつに斬ってしまったことに驚いてドアを開けたつもりが体当たりをして吹っ飛ばしてしまった、音であろう。

 だいたい当たってると思うよ?

 さて。俺はどうするかな。ちょっと食べ足りないけど、まあいいや、今日はもう寝よう。

「寝るんかいヨ!」
「ああ、びっくりした。ミノウ、お前もいたんか」
「お主も宴会に参加するものだと思ってたのに、行かないのかヨもぐもぐ」

「ああ、酒の席は嫌いだ。あ、なんだそれ。俺にもくれよ」
「ほれ。ジャガイモとベーコンの炒め物とか言ってたのだ。我は気に入ったのだ。ユウも食べるのだヨ」

「なんだ、お前もえらくご機嫌だな。酒入ってるのか?」
「ああ、もちろんなのだ。あちこちに置いてあるグラスから、少しずつちょろまかして飲んできたのだ。そういう酒はうまいのだヨ」

「そのうち、チョロ・マカスなんて魔法具を作ったりするなよ。楽しそうでなによりだもぐもぐ。あ。ほんとにうまいな。冷めているのにうまい料理ってめずらしいなもぐもぐ」

「気に入って良かったのだヨ。じゃあ、これも食べるのだ。これは牛肉とピーマンとインゲンをマグロ油で炒めたものらしいヨ」

「ピーマンはちょっとなぁ。もぐ。おや、これはいけるな。ピーマンのアクが上手に消してあるじゃないか。これはシーチキンだな。ほほぉ。その脂が苦みや青臭さを抑えているわけか。それに牛肉の旨みが加わってこれは良いものだ。ぱくぱくぱく」

「素朴な味付けであるがいけるであろう? じゃ、こちらのアユの塩焼きも食べてみるのだヨ」
「ちょっと待て、ミノウ。お前、さっきから様子がおかしくないか?」

「な、なにを言っているのだ。我はいつもとまったくぜんぜんちっとも同じじゃないヨ?」
「違ってるじゃねぇか! お前が俺に親切にするのがそもそもおかしいんだよ。なにが目的だ?」

「べ、別に目的なんかないのだヨ。ただ、いつも世話になっているユウにたまにはお返しとしてだな」
「それは、イズナに関係する話か?」

 柱|ω・)ヤ、ヤァ

「ヤァじゃないっての。いつからいたんだ?!」
「お前はアホかーー、辺りからゾヨ」

 ん? そんなのあったか? えーと。CTRL+Fで検索っと。あ、出てきた出てきた。そうか、あそこか。

「2話も前じゃねぁかぁぁぁぁ!!」

 どんだけ気の長い魔王だよ。そんな前から俺にくっついていたのか。

「お主じゃなくてハルミにくっついていたようだヨ。我もしばらく気づかなかった」

 ああそうか。ハルミのことを気に入ってたようだったな。

「それでイズナ。ミノウを使って俺を良い気分にさせて、どんな要件だ?」
「れ、例の契約の件なのだゾヨ」

「やっぱりそれか。俺の言うことをなんでも聞くってやつだな」
「なんでもとは言ってないゾヨ」
「いや、88話ではなんでも、って言ったぞ」
「あれは、その言葉の綾だ」

 綾が好きだな、お前らは。

「ともかく、言った以上は契約だ。守らないといけないよな?」
「うぐぐぐ。それはそうだ。お金で手を打つきはないか?」
「お金かぁ。そういえば、俺いま無職なんだよな。今回の件でいくらかの手当は出るにしても、金がないってことには変わりがない、か」
「そうか、それじゃ40円で手を打たないか?」

 打つかぁぁぁぁ!!! なんでそんなはした金で俺が釣れると思うんだよ!!

「我も現金はそのぐらいしか持ってないのだゾヨ」
「そ、そうかすまん。金なんかいらないから、ひとつ頼まれてくれ」
「な、なんなのだ、なんなのだ。あんまり怖いことは嫌なのだゾヨ。面倒なことも嫌なのだゾヨ。金ならないゾヨ。誰か助けてくれぇぇ」

 俺は恐喝する893か。そんな無法なことは頼まねぇよ。

「ミノ国とエチ国との間で、軍事同盟を結んでもらいたい」

「軍事同盟だと? いったいなにが目的なのだヨ?」
「ミノとはもともと利害関係はないゾヨ。親好もないが戦争をしたこともない。それなのにわざわざ軍事同盟が必要なのか?」

「ああ、オワリ国とエチ国は、はるか昔から犬猿の仲らしいじゃないか」
「ああ、オワリとはそうだゾヨ。天敵ともいえる間柄だ」

「迷惑なんだよ」
「「えっ?!」」

「こちとら、戦争なんてくだらないことに巻き込まれるのは嫌なんだよ。のんびりと商品開発しならが余生を送りたい」
「お主、まだ12才であろうが」

「と、ともかく、戦争なんかまっぴらなんだ。だが、犬猿の仲であるエチ国とオワリ国とに仲良くしろ、と言ったってそれは無理なことだろ?」
「絶対に無理なのだ。断じて無理なのだ。あんなとこ早く潰れればいいゾヨ。またいつか攻めてやきゅぅぅぅぅ」

 試しに首根っこをつまんでみた。あら、可愛い。こういうのは魔王に共通した特質なのかな?

「だからさ。軍事同盟はミノ国と結べ。ミノ国はすでにオワリ国と緩やかな同盟を結んでいる。そうするとどうなる?」

「そんなものは勝手にすればいいでは……ない……良くない……ダメだそりゃ」
「簡単な理屈だろ? エチ国もオワリ国も、ミノ国の同盟国になるんだ。お互いの同盟国であるミノ国をはさんで戦争なんぞできまいて。それだけでこの辺りはずっと平和になる」

「なるほど、それは良いアイデアだ。イズナ、早速それをするのだヨ」
「いや、それは良いのだが、良くないのだが。そうするとだな、我が困るというかなんというかほんじゃまか?」

「分からんダジャレを飛ばすな。イズナが困るのは、自分が遊びに外に出られないからだろ?」
「そそそそそそ、そんなそなおのあおえおできあしええ。ゾヨ」

「なに言ってんのかぜんぜん分かんねぇよ! 図星指されたときの誤魔化方がヘタすぎだろ。エチ国の連中のことは良く分からんが、どの時代のどの国でも、やたら好戦的な人間ができるのには理由がある。しかもその理由は、いつもだいたい同じだ」

「「それはどういう理由なのだゾナヨ?」」

「貧しいからだよ」
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