異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第103話 やつは対岸にいる!

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「これは見事なものだな」 と感心するコウセイさん。
「ああ、思っていた以上に成功だった」 と俺が答える。

 エースとハルミにゼンシンを加えたメンバーは、さらにアチラ、ミヨシ、その他までが一緒になって昨日行った貞生寺まで出かけている。エースさん、皆の引率ご愁傷様です。

 その間に俺たち(ヤッサン、コウセイさん、アクセル)は噴水壁の最終確認中だ。

「レクサスです。ブレーキもないと車は走れませんよ。しかし、ここまでキレイに吹き上がるとは驚きです。これはただの壁ではありませんね。美術品といってもいいぐらいです。しかも、向こう側はまったく見えないという機能も果たしています」

 淡々としたコメント乙です。

 バルブの調整は俺がやって、噴水は3mちょっとの高さに落ち着いた。見事に向こう側の風景は見えない。たとえ、素っ裸のハルミが大股開きで頭を洗っていたとしてもである。

(もう許してやれヨ)

 だが、俺にはまだ不満がある。噴水の高さが不揃いなのである。最大と最小の差が約20cmもある。加工精度のばらつきと水圧の微調整ができないことが原因だろう。

「噴水カーテンとしての機能はほぼ満足させたな。ただ、もう少し噴水高さの調整ができる構造が必要だと思う。次からはバルブに水量調整機能を付けたものを高級品として作ることにしよう。ちょっとお高くなるけどそのほうが見栄えが良い噴水になるぞ」

「ユウはもう次の商品のこと考えているのか?」
「ああ、ヤッサン。改善はどんどんやらないといけないんだ。こんなのはマネされたら商品寿命は終わりだからな」
「いや、そう簡単にまねできるしろものではなかったぞ。俺でもいっぱいっぱいだ」

 そうなのか。とはいっても安心しているわけにはいかないだろう。加工精度を上げるのが難しいのであれば、なおさら微調整できる機能を追加する必要がある。

 ただ、このノズルはそれほどニーズの多い商品ではない(必要とするのは温泉宿だけである)。急いで改善する必要もないだろう。心にはとどめておく程度でいいだろう。いま、急いで開発する必要があるのはなんといっても小麦だ。

「いやぁ。私としてはこれでもう充分です。ユウさん、ほんとにありがとう。300万はかかりましたが4日で完成なんて驚きでした。こんな素晴らしい噴水壁なら、きっとお客さんに楽しんでいただけるでしょう。見ているだけでも楽しいですよ。これはうちの温泉の目玉になります。明日から早速営業を再開しますよ、4日分の売り上げを取り戻さないとね」

 喜んでもらえて重畳であります。差し引き100万でこれなら、ぼったくりもいいとこだけどね。黙っておくけど。

「では、ノズルは予備を30本サービスに置いておきます。在庫が切れそうになったら我が工房に発注してください。リードタイムは1週間ほど見てください」

 よし、ここはこれでOKだ。今日はゆっくり温泉に浸かって、明日には帰ると……あれ? どうしたの、みんな?

「俺たちはまだ休んだ気がしないのだが」
「あ、そうだった。ソウたちは仕事をしにこっちに来たみたいになっちゃったな。それじゃしばらくこちらで静養してくれ。鍾乳洞とかまだ行ってないやつもいたな。あれは一見の価値があるから見ておいたほうがいいぞ」
「ユウはどうするんだ?」

「俺はもう帰る。ここにいてもすることないし、ちょこれいとの進捗も気になるし。他にもいろいろ開発ネタはあるんだ。早くそれらを進めたい。エースが研究所を建ててくれたら、すぐにも着手できるようにしておかないとな」

「ユウ様。第3研究所の工事はすでに始まっています。ひと月ぐらいで完成する予定です」
「え? もう始まってるのか。さすがはトヨタさん。やることが早いね。じゃ、ますますこちらも早く動かないと」

 そこに、お寺に行っていたはずのアチラとミヨシが帰ってきた。

「大変です、ユウさん、社長、みんな!」
「アチラか。えらく帰るのが早いな。なにかあったのか?」
「侯爵様とハルミさんが」

「ついにヤっちゃったか? あん痛い」 ごち~んと音がした。
「ヤったとか言うな!」

 ミヨシのツッコミがきつい。おっぱい揉んだときもここまでの仕返しは来ないのに。

「行方不明なんです!」

 はい?

「それ、行方不明じゃなくて、寝取られ あぁん痛いん」 がごご~んと来た。
「寝取られとも言うな!」

 お前は言論弾圧主義者か。

「僕とゼンシンが仏像観察に夢中になっているうちに、ふたりとはぐれちゃったんですけど、それきり姿が見当たらないんです」
「ゼンシンはどうした?」
「その他と一緒に残って探しています。一緒に探しに来てください」

 その他を入れて7人で貞生寺へ行った。そしてふたりだけがはぐれて行方不明になったと。

 そこまで大きな寺でもないのに、5人の前からふたりだけ姿が消えた。どう考えてもそれは、あれだよなぁ。

(なんなのだヨ?)

 一昔前なら逃避行。いまなら不倫旅行?

(不倫にはならないと思うヨ)

 じゃあ、浮気というか寝取ら……ミヨシ? そこでオウミヨシを構えてなにをする気だ。刃がこっち向いてるぞ?

「事件性があるとは思えんが、散歩がてらみんなで行くか?」
「そんな、そんなのんきなことで良いのですか?」
「アチラ落ち着け。ハルミはともかくエースは大人だ。大丈夫だと思うよ。放っておいてもそのうち帰ってく……あれ? ソウ、どうした」

 そこには真っ青な顔をしたソウがいた。そしてその隣には同じくらい真っ青な顔になったシエンタが。

「レクサスです。本家に連絡とってすぐ捜索隊を派遣させます。侯爵様を失ったら、トヨタ家は危機が危機の危機となりまんにゃわ」

 なんでお笑いカンサイ弁が混じるんだよ。いつも冷静なレクサスがおもろいことになっとる。捜索隊とかそんな大事なのかこれ?

 そんなこんなで、みんなで貞生寺まで出かけることになった。必死な形相のソウとレクサスを除くと、だいたいは物見遊山気分である。どえらい温度差である。

 しかし俺、ここに戦争に来たんだよなぁ。それがなんで温泉の壁とか作って、次は人捜しなんかしてるのだろう。

 なんとも締まらない異世界での波瀾万丈人生である。そして寺に着いて、三々五々散って行った。残ったのは俺とミヨシだけである。

「なあ、ミヨシ。あのふたりがどこかへ行くとしたら、どんな場所だと思う? ここらにアスレチックジムなんてないよな?」
「なに、あすれちくじむって?」

「筋トレ専用の施設だよ」
「そんなものあるわけないわよ。どこかでふたりして石とか持ち上げてるんじゃないの」

 ミヨシも物見遊山側である。

「ありそうだ。じゃあ、大きめの石のあるところでも探すか」
「じゃあ、寺の下の河原なんかどうかしら」
「ああ、そうだな。河原で石でも投げて遊ぼう」
「いや、遊ぶのは後にして姉さんたちを探さないと。でも、私は水切りは得意よ」

 遊ぶ気満々じゃねぇか。そんな欠片も緊張感のないままで、俺とミヨシは河原に降りて行く道を探した。

 寺は川の崖の上に建っていた。下に降りるための階段をミヨシが見つけた。

 河原は手で持てる程度の小石でできていた。歩くとざりざりと音がして、そのつど石が動く。とても歩き難い。俺は体力もないがバランス感覚も悪いんだよ、ほっとけ。

 川の名前はキソガワというらしい。うん、予想通りだね。水は川幅の半分くらしかないが、大きな川だ。

 ちょうどいい大きさの石を見つけたので、川に向かって投げてみる。ぴゅー。

 かっこーん。

 うん、水のあるところまで届かないね。

「ユウはどんだけ力がないのよ。たった10mが投げられないの?!」
「う、うっさいな。この身体は肩ができてないんだよ!」

 やっぱりユウには筋トレが必要よねぇ、とか物騒な言いながらミヨシが投げてみる。ぴょぴょこぴょん。

「得意な割には3回跳ねただけだったようだが」
「う、うるさいわね。今日は調子が悪いのよ」
「よし、じゃあ、俺が。今度は水辺から投げてやる。これなら届かないことはあるまい」

 ぽっちゃーん。

「水には届いたけど1回も跳ねなかったね?」
「もう帰ろう」
「飽きるの早いわね!?」

「こんなことしても、金にならないし」
「ヘタだからそんなこと言ってるんでしょ、負け惜しみ男」

「ひ、人を電車に乗ってる女の子を助けてエルメスのカップセットをもらった男みたいに言うな!」

「なによそれ。ユウはときどきわけの分からないことを言って誤魔化す……あれ? 対岸に誰かいる?」

「対岸って、ああ、なんか動いてるな。あれ? あの辺りってあんなに切り立った岩ばかりなのか。こちら側とずいぶん違うんだな。河原がほとんどないのは川の流れの関係だろうけど、岩が削られてないというか切られたようというか」

「というよりも、切ったばかりの岩って感じが……」

「ユウ?」
「ミヨシ?」

 見交わす目と目。俺たちはあれがなんなのかという疑義について、とても嫌な予感を共有していた。自然破壊、環境破壊、器物破損、公共物破損。俺の心の中でうごめく四文字熟語たち。高岡早紀、森高千里、常盤貴子、鈴木杏樹。それは四文字熟女。

「あのバカどもを止めろぉぉお!!!!」

 そしてダッシュして階段を上が……る途中で休憩する。

「ぜぇぜぇぜぇひぃぃふぅふぅへぇほぉ」
「こんな階段くらいでなにやってんのよ、もう。あ、アチラ! 姉さんたち見つけたわよ。対岸にいるわ!」

「え? そうですか。じゃあ、えっと、どうすれば?」
「皆さん、あちらに吊り橋があります。それを渡って対岸に行きましょう。ハルミさん、対岸のどの辺ですか?」
「ここからすぐ見えるまっすぐな岩のところよ。岩が不自然に切れていたら、きっとそこにいるわ」

 それを聞いて全員が、あぁ、なるほどね。という顔をした。もうハルミの剣技のことは周知の事実だ。おかげで、俺たちの嫌な予感を共有する人が増えた。あいつは石垣直角か。

「す、すぐに、行って、やつを、とめ、止めて、ぐでぇぇぜぇぜぇぜぇはぁ」
「了解しました。行きましょう!」

 真っ先に飛び出して行ったのはスペイドだった。それに負けじとソウがダッシュした。俺は、ここで待ってることにする。

「レクサスです!」
「ユウは行かないの?!」

 体力のいることは門外漢だ。それに男と女のラブゲームも専門外だ。勝手にやってくれぜぇぜぇ。

「せめて小石を10mぐらいは投げられるようになるのだヨ」
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