異世界でカイゼン

soue kitakaze

文字の大きさ
102 / 336

第102話 仲が良いですね?

しおりを挟む
「こちらが、ニホンの最初の女優・小山貞の出生地と言われる由緒あるお寺・貞生寺です」
「エース、こっちにも女優って職業の人がいるのか?」
「アズマやカンサイにはいるけど、この辺にはまだまだ……」

 エースがすごく残念そうな顔をしている。

「ここはまだまだ田舎だからねぇ」
「それはハザマ村がってことじゃなくて、ミノ国やオワリ国がってことか?」
「そうよ。中央からも遠いし、この女優さんも中央に行ってから有名になったのよ」

「そうなのか。文化的にはミノ国は田舎なんだな」
「まあ、仕方のないことだけどね。こちらには演技をさせられる舞台もないし観客もいない。東の現中央と西の元中央に挟まれた文化不毛地帯なんて悪口もよく言われるよ」

「いいじゃないか。それなら文化じゃなく文明ってやつをこの地から発信して、ニホン中を驚かしてやろう。それとついでに富もごっそりいただこう」

「ねえユウ。文明と文化? って同じものじゃないの?」
「全然違うぞ、ミヨシ」
「どう違うの?」

「簡単に言ってしまうと、文明は普遍的で文化は限定的だ、ということかな」
「ますます分からないのだけど?」

「厳密な定義を言い出すとキリがなくなるので、大まかに言うぞ。文化というのは特手の地域でしか通じない常識だと思えば良い」
「特定の地域でしか?」
「そう。例えばご飯を箸で食べる。これはニホンでは常識だが、外国ではそうじゃない。フォークやスプーンですくって食べたり、国によっては手づかみもある」

「外国なんか行ったことないもん」
「難儀だな。じゃあ言葉だ。方言はその地方でしか通じないだろ?」
「ああ、それなら分かる」

「だから方言は文化だ。それと違って普遍性を持つ常識が文明だ」
「例えば?」
「たくさんあるぞ。ミヨシが着ている服も文明だ。ここまで乗ってきた馬車も文明だ。これらはどこの国でも地域でも通じるだろ? 流行廃れはあるにしても、服は人を寒さから守るし、馬車は人を運ぶという機能に変わりはない」

「なるほどね。なんとなく分かった気がする」
「とりあえずは、だいたいで覚えておいてくれればいい」

「ユウは博識だな。私はぜんぜん知らなかった、というか考えたこともなかった」
「私なんか説明されても、さっぱり分からない」

 エースもハルミも教え甲斐のない連中だ。

「それでねユウ」
「なんだミヨシ?」
「どっちがどっちだっけ?」
「お前もかよ!!」

「ともかく、普遍的なものをいろいろ発明して、それを全国販売することでこの地を文明発祥の地にしよう、ということで良いよな? ユウ」
「その通り!」

 エースはポイントだけはつかんでいる。それだけ分かっていれば問題ない。まあ、社長なんだから、そのぐらいじゃないと困るけどな。

「それで、ここにはなにがあるんだ? ただ有名女優さんの出生地だってだけ?」
「それではまず入り口から行きましょう。山門には見事な仁王像が建っているので見てもらおう」

 おおっ、と声が出た。ほんとだ。見事に。

 でかい。

(感想がおかしい。これは芸術作品だヨ。でかいだけじゃなくて造形の美しさに感動するのだヨ)
(そんなこといわれても、それしか思い付かんから仕方ないだろ)

 全長10mはあるんじゃないかってぐらい、でかい。こんなのに踏まれたら屁ぐらい出るわな。

(屁もどうでもいいと思うのだヨ)
(お前も仏像のことなんか知らないだろうが。いちいちツッコむな。古典落語にそういうのがあったんだよ)
(くせもの、におうか?)
(そっちは知ってんのかよ!)

「どちらも金剛力士という仏像です。こちらから向かって右側が阿形(あぎょう)、左が吽形(うんぎょう)となってます」
「侯爵様。あぎょうとかうんぎょうとか、いったいなにを意味してるんですか?」

「ハルミ殿、よくぞ聞いてくれました。これは五十音です」
「あいうえおかきくけこ、ってやつのこと?」

「そうです。五十音を縦書きにすると、最初の文字が『あ』で右上側から始まるでしょう? それで阿形の像は右側。そして五十音の最後は『ん』で終わりますよね。だから左側が吽形というわけです。両方で初めから終わりまでを現しているわけです」
「へぇぇ、すごい。伯爵様は物知りですね」

(俺の博識について、ハルミからはなんのコメントもなかったようだったが。なあ、ミヨシ、このふたりなんか良い感じじゃね?)
(うんそうね。ハルミ姉さん、仏像なんかに興味あるはずがないのに話を合わせているわ。これは相手に気に入ってもらいたいという女の意思表示よ)
(そうなのか。女ってややこしい生き物だな)

(私も女だけどね)
(うん、ミヨシなんかそうとうややこしあん痛ぃん)

「ただ、問題もありましてね」
「え?」

「右か左からは、どちらから見てのことのかが決まっていないのですよ」
「え? それじゃぁどっちがどっちか?」

「そうです。参拝者側から見てなのか、本堂からつまり仏の側から見てのことなのか、決まっていないのです。それで結局、二種類の仁王像が存在しているというお笑いです」
「あははははは。侯爵様、おかしぃあはははは」

(愛想笑いまでしてるし)
(もう完全にふたりだけの世界ね。ユウを誘っておいて良かった)

「この筋骨隆々な造形美を見てください。素晴らしいでしょ」
「うんうん。すごいです。こんな筋肉、私も欲しい」

(筋肉仲間かよ!)
(最近、毎朝ふたりで筋トレしているらしいわよ)
(もうそれほどの仲か?)
(それほどの仲みたいね)

「あ、そちらのおふたりさんも、よく見てあげてくださいね」
「「あ、はい。いえ、お構いなく」」

「え? で、では、次に行きます。次こそはこの寺院自慢である、大本尊の不動明王です」
「不動明王? ってゼンシンが作ろうとしてたやつじゃないか」
「え? ゼンシンってユウさんとこにいるあの鉄を作る職人さんですか?」

「ああ、やつは本来は仏師志望なんだ。なりゆきで鉄作りをやらせているが、いずれは仏師になるだろう。特に不動明王を掘りたいと言ってたな」
「そうでしたか。確かいまは工房に戻っていましたね。それは残念なことをしました」

「ゼンシンがこれを見たら喜んだだろうな。ところでこれはそんなに値段は高いものなのか?」
「いや、値段はどうか知りませんが」
「あんたはなんですぐお金の話になるのよ!」

 ハルミに怒られた。解せぬ。

 金にならないのなら、ゼンシンという貴重なリソースを使って仏像なんか作らせる必然性がないじゃないか。

「いつかゼンシンさんにも見てもらいましょう。そしてこの素晴らしさに感動する気持ちを分かち合いたいものです」

 お前は話し相手が欲しかっただけかよ。

 まあ、それも無理のない話だ。仏像の素養がないハルミでは、相づちを打つぐらいはできても、その感動までは分かち合えない。

 俺たちに至ってはその他大勢の観光客だ。いくら説明されても、はぁぐらいしか言えなもんな。こいつも、ある意味孤独なのだろう。

「ここまで馬車を飛ばせば2時間とかからない。近いうちに連れてこよう」
「じゃあ、明日にも連れてこようか?」

 早すぎるだろ!! ミヨシは近いうち、という言葉の意味を。

「だって、明日ノズルの納品が完了したら、ゼンシンの仕事はもうないでしょ? それならこっちにいたっていいじゃない」

「「ああっ」」

 それもそうだった。

「そういえば、社内研修だか旅行の途中で、仕事を振ってしまったんだったな。全員こちらに戻して、旅行の続きをしてもらうか」

「ああ、そうだな。それが良い。侯爵様は明日の予定は?」
「ええ。もちろん、私はかまいませんが……」

(かまいませんが……ときたぞ。ミヨシ、ここはもう一押し必要のようだ、つんつん)
(きゃん。背中をつつかないで。分かってるわよ)

「そのときはもちろん、ハルミ姉さんも一緒に来てくれるわよね?」
「え? あ、ああ、それはもちろん、来ても良いのなら」

「ああ見えてゼンシンはものすごく人見知りする子なのよ。侯爵と話をしたこともないでしょう? そんな人とふたりきりなんてあの子には無理よ」
「そういえば、そうだったな。うん、そうだ、確かに」

「ハルミ姉さんには懐いているし、もともとゼンシンを連れてきたのもハルミ姉さんだし。そこは、ぜひ一緒に来てあげるべきよ」

 立て板に水か! よく即興でそれだけの理屈がくっつけられるもんだな。

「分かった。じゃあ、明日は私も一緒に来ることにする。侯爵様はそれで良いですか?」
「ええ、もちろん。かまいませんとも。明日、またここに来ましょう!」

 エースのやつ、いままで一番の笑顔で答えやがった。お前って意外と分かりやすいやつなんだな。

(でもミヨシ。こうなっちゃうとソウとハルミの間がどういうことになるか。俺は知らないぞなでなでなで)
(ちょ、ちょっと、なんでそこでお尻をなでるのよ!! 私なんて全然知らないわよ。こら、止めなさいぎゅぅぅ」
(いてててて、爪を立てるな爪を! 背中じゃ物足りないってこの手が言うものだからあだだだだだだだ)

「前から思っていたのですが」
「え?」
「おふたりは、仲が良いですね」

(いや、あの、その。なんだ。そういうわけでもないのだが、そういうわけでもあるような。な? ミヨシ?)
(そこでなんで私に振るのよ! ぎゅぅぅぅl)

 またつねられた。ぎゃーー。

 こうして無責任な俺たちを巻き込みながら、三角関係は続いて行くのでありましたとさ。

(三角関係って、お主らを邪魔するものはいないようだヨ?)
(お前はすっとぼけてんじゃねぇ!!)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!

Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。 裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、 剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。 与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。 兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。 「ならば、この世界そのものを買い叩く」 漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。 冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力―― すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。 弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。 交渉は戦争、戦争は経営。 数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。 やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、 世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。 これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。 奪うのではない。支配するのでもない。 価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける―― 救済か、支配か。正義か、合理か。 その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。 異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。 「この世界には、村があり、町があり、国家がある。 ――全部まとめて、俺が買い叩く」

毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。 元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。 バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。 だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。 アイドル時代のファンかも知れない。 突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。 主人公の時田香澄は殺されてしまう。 気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。 自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。 ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。 魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。

鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。 大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。 目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。 これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。 ※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

処理中です...