異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第159話 青紙の『はい』の部分

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「地球か……なにもかも、皆懐かしい」
「ミノ国なノだ?」
「久しぶりに帰ってきたときは、こう言うんだよ」

「おかえりーーユウ!!!」

 到着するやいなや、そう言いながら抱きついてきたのはミヨシだった。

「ただい……分かったから。歓迎してくれるのはよく分かったから、そのオウミヨシを持ったまま抱きつくのは止めて。殺す気か!」

「おい、ユウ。これ食え」

 と茶色い塊を突きつけて、いつものつっけんどんな言葉を投げたのはウエモンだ。

「嫌だ」
「なんでよ!」
「ウエモン、お前の表情が気に入らない。それは俺にまずいものを食べさせようとしている顔だ」
「そ、そんなこと、ないんだからね?」

 図星じゃねぇか。俺を騙すのなら、もう少し勉強してからにしろよ。

「ということは、まだちょこれいとはできてないということだな?」
「うっ、ぐぅ」
「ゾヨ」

 イズナもご苦労である。まあ、ゆっくりやってくれ。急ぐ理由はなくなったからな。

 最初の出迎えはこのふたりだけだった。みんな忙しいだろうから仕方ない。なにしろタケウチ工房は、この地域ではトップクラスの大企業になったのだ。
 それもわずか数ヶ月で急成長しただけに、人員も設備も足りていないはずだ。

 ここはタケウチ工房の食堂である。オウミがここに俺たちを運んだのだ。

「オウミ。なんでここに転送したんだ?」
「ここにいれば、みんなに会えるノだ。ご飯もでてくるノだ」
「ご飯のほうが本命じゃないのか?」

「あ、ミヨシ。我にはナツメも忘れないでくれなノだ」
「もちろん、分かってますよ、オウミ様」
「ナツメが本命かよ!」

 そして懐かしい……ようなそうでもないような顔が、続々とやってきた。一通り挨拶を済ませたら、新規に建設されたシキミ研究所の社屋に移動を、

「ユウ。待ってたぞ。すぐに行ってくれ」

 しようとしたらエースとレクリエーションがやってきた。

「レクサスです、もう原形もとどめてませんよ?」

「エースおひさ。で、行くってどこへだ?」
「連絡はしただろ? お前宛に首長のオオクニ様から案内状が届いている」
「首長のオオクニ? ああ、首都にいるとかっていうやつのことか。青紙とかいうのが着いたんだってな。で、首長ってなんだ?」
「この国の首長だよ。元は人間だが、俗に言うところの神様だ」

 いやいやいや。普通、神様は首長にはならない。ニホン国を統べる人間のことだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。

「そうか。それはよかったな」
「よかったな、で済ませるな。そういうことじゃなくてだな」
「そんな急がせるなよ。今帰ってきたばかりなのに。ちょっとぐらいゆっくりさせろ」
「急いだほうがいい。どのくらいで準備できる?」

「えっと、これからご飯食べて、休憩して、こちらの生産や開発状況と被害を確認して、またご飯食べて、寝てから、だな」
「それじゃ、明日になってしまうだろ!」

「その通り。あ、ミヨシ。俺にはマグロの刺身をお願い。ミヨシのさばいた魚をしばらく食べてないので、舌が飢えてるんだ」
「うふふ。そう思ってたっぷり用意してあるわよ。でも先に侯爵様とのお話し合いを終わらせてよ。それまでに準備するから」

「そうか。そうしよう。で、続きだが」
「ユウ、すぐに行け!」
「なんでだよ! その前にホッカイ国であったこととか、こちらであったこととか、いろいろ報告しあう必要があるだろうが」

「それは、ある。あるが、それでもこれは急ぎなんだ。ほら、これがその青紙だ」
「おっと。それ、俺が触った瞬間にまた飛ばされるんだろ? そうはいくか」

「触っただけでは飛ばないノだ。出席しますか? 『はい』『いいえ』 と書いてある部分の、『はい』のほうに親指で触ると飛ばされるノだよ」

「結婚式の案内状かよ! でも、前回の赤紙のときは触っただけで飛ばれたようだったが?」
「よく読まないうちに、そこに触ってしまったノだろう。どんくさいお主のこときゅぅぅぅぅぅ」

「お前に言われたたくないっての」
「きゅぅぅぅ。久しぶりの感触なのだきゅぅ」

 羽根をつままれる感触を味わってんじゃねぇよ。

「じゃあ、そこに触らないように持てばいいんだな。どれどれ。いいものをやるからすぐに来い? なんだよ、この短い手紙は!!」

 この世界の連中は、文章を書くということを極端に嫌うのだ。いろんな技術も文化も、そのほとんどが、

「口移しなのだヨ」
「口伝えだっての。同じネタを何度も使う……あ、ミノウか。どうだ、洪水の後始末は終わったか?」
「だいたい終わったのだ。水を吸ったり排出したりで、疲れたヨ」
「それはご苦労であったな。洪水の原因は、やっぱりイズナのダムだったのか?」

「それが一番の原因だヨ。ただ、それでも」
「ん?」
「我がここにいれば、あそこまで被害は大きくならなかったと思うヨ。雨雲がこの地にあんなに長く停滞したのは、おそらく我がいなかったからだと思うのだヨ」

「……そういえば、お前は幸運に恵まれた魔王だったな」
「正確には、我がいるとその土地がとても恵まれたものになる、のだヨ。それがホッカイ国で忙しくしていたものだから、この地での我の加護が薄れたようだヨ」

 忙しくイテコマシで遊んでいたと思うのだが。でもそれなら、俺にも責任の一端があるか。

「じゃあ、イズナだけを責められないな」
「そうなのだヨ。だからしばらくは我はここにとどまるヨ。完全復旧までにはもうちょっとかかるのだ。だから首都には、今回もオウミを連れていってくれヨ」

「お前も行きたいだろうに、この国のほうが大事か」
「もちろんなのだヨ」
「いざというときに転送してもらえないから、オウミは最初から連れて行くつもりだったが、お前も行きたがると思ってたぞ」

「行きたいのはやまやまなのだが、今は無理なのだヨ」
「わかった。それじゃ、カンキチから支援要請が来たら、食料とかを運んでやってくれ。運搬部長さん」
「おう、それはまかせるのだ。我は部長なのだ、えっへん」

「なにを言うノだ。我だって部長であるぞ」
「え? オウミもか。ウソヨ?」
「ウソじゃないノだ。我は送迎部長に就任したノだ」

 そ、そんなものたいした職種じゃないのだヨぼかすか。お前こそただクッソでかいだけのアイテムボックス持ちなノだすかぽんたん。痛い痛い痛い。どうして私を間に挟むのぉぉ! ぽかすかぽか。オウミもしばらく見ないうちに柔らかくなったヨぺしぺしぺぽにょ。ミノウこそなんか黒っぽい頭になったぽかすかぽん。きゅぅぅぅぅぅ?!

「ユウコが間に挟まってボコボコになってんぞ。帰宅の挨拶はそのぐらいにしておけ」。
「「あれ??」」

「ユウコも少しは抵抗したらどうだ」
「そこはエルフの心意気で」
「またそれ!?」

「ユウ。もう寸劇は終わったか?」
「だれが寸劇だ! まだ終わってない。ミノウ、ハルミはどこだ?」
「ハルミは元服して就職したヨ。エースの口利きで、チュウノウ市役所の治安維持課に務めることになったヨ。毎日剣術の稽古と巡視に明け暮れているようだヨ」

「そうか、あいつにはふさわしい職種だな。この街の犯罪なんか激減するだろうなぁ」
「犯罪なんか我が許さないヨ。ハルミの仕事は主に災害時の救援活動ヨ」

 まるで自衛隊だな、そりゃ。

「今回の災害でもハルミには大変助けられたヨ。ハルミの言うことは誰もが大人しく言うことを聞いてくれるのだ。とても楽だったヨ」

 尊敬まで集めてんのか。ますます自衛隊みたいだな。すごいな、あいつ。

「言うこと聞かないと斬られると思っているようだったヨ?」

 そっちか! そこは自衛隊とは違うとこだな。

「ユウさん。私もついて行きますので、早く行きましょう」
「レンタン。お前はいらない」
「レクサスです。どうしてですか!?」

「そんなに何度もボケるとネタがなくなる」
「そんなネタはいりません! 私がいたほうがややこしい交渉ごとなどでは便利ですよ?」

「それはそうだが。エースはいいのか? 執事を連れて行ったらお前が困るんじゃないのか?」

「それは心配ない」
「そうなのか?」
「俺も行くから」

 はぁ?!

「あ、私も行くからね」
「ウエモンはダメだろ」
「我も行くゾヨ」
「お前はそこで反省してろ!」

「じゃあ私も」
「ミヨシはそんな遠くで聞き耳立ててんな!」

「「「「「じゃあ、俺たちも」」」」
「お前らは忙しいんだろが! 仕事してろ!!!」

 もう、すぐに遊びたがるんだから、ここのやつらは。

「いいじゃないか。工房は儲かっているから、また研修旅行でもしようかと思ってな」

「エース、こいつらこんなこと言ってるが?」
「実費参加ならいいですよ?」
「「「「やったー!! さっそく店じまいして準備だ!! おー!!」」」」

「レクサスとユウコ。それにオウミ。来い、すぐに飛ぶ」

 これ以上のんびりしているとまた社員旅行になってしまいそうだ。なんのために、なにをしに首都まで行くのかまったく分からないまま、ふたりと1魔王に声を掛けた俺は、『はい』と書かれた手紙に親指を押し当てた。

 ところで、首都ってどこにあるんだろ?
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