162 / 336
第162話 首都の財政
しおりを挟む
「だが、断る?」
「オオクニがそれを言うな!」
遷都しろと、言ったとたんにこれだ。まったくどこまで引きずるのだ岸部露伴。
「いや、引きずっているのは彼じゃないと思うノだ」
「タケチャンマンはどうして断るんだ?」
「ここは私たちの聖地だ。引っ越しなど考えられるものか。タケチャンマン言うな」
「じゃあ、タケチャン。お前には赤字削減のためにどんなアイデアがあるんだ?」
「短くしろとも言ってない! そ、それは、だな。なるべく質素な暮らしをして、その食事も控えめに」
「そんな程度のことも、いままでしていなかったのか?」
「していたわ! バカにするでない!」
「それでは赤字は減らなかった。そうだろ?」
「うが、ごご」
「オオクニはどうなんだ、遷都する気はあるのか」
「タケノウ……タケチャンもいきなりだから驚いたんだ。そこまでのことをするとなると、時間が必要だ。少し考えさせてくれ」
「オオクニ様。せめてスクネでお願いします」
「それで、遷都をするとどうなるのだ? 遷都にも莫大な金がかかるぞ?」
「遷都先はアズマだ。まずは大都市・アズマを確保しておく。ここままではまたどこかの魔王に盗られるぞ」
「そんなけしからんこと! させるものですか!!」
「いままでされ放題されてきたんだろ? このオウミに盗られるっていったいどんだけボンクラなんだよ」
「それ、我への悪口なノか?」
「ややこしくなるから出てくんな」
「しかし遷都など。そんなことできるはずがない。我らはここで生まれて育ったのだ」
「うむ。私もさすがに遷都というのは行き過ぎだと考える」
「……そうか。首長までがそういうのなら仕方がないな」
「すまんが、もう少し穏やかな解決策を考えてくれ」
「アズマは、俺がもらう」
「「はぁぁぁ?!」」
「オウミ、さっそく国盗りだ。お前も手伝え」
「分かったノだ。そういうのは大好きなノだ」
「ミノウもできる範囲で手伝わせる。カンキチも呼ぼう」
「なんかワクワクなノだ。久しぶりに大暴れできるノだ」
「魔王が3人いたら、国のひとつやふたつなんとでもなるだろ。その上こちらにはトヨタ侯爵・エースまでいるんだ。政治的なことはやつにまかせればいい。そうだろ? レンチョン」
「私の呼び名はそれでもう固まったんですか?! それはまあ、あの方ならやるでしょうね。ミノオウハルとの交換条件ぐらいはつけるかもしれませんが」
「ちょちょちょっ、ちょっと待って、ねぇ待って。待ってってば待ってよ。そんなに急がなくても良いではないか。まあご飯でも食べていってよーん?」
よーんじゃねぇよ。タケチャン、自分のキャラが崩壊しているぞ。
「あら、私はもともとこういうキャぎゃぁぁぁぁっ」
「キモいから止めろ!」
「痛たたたた、だからって髪をまとめて10本も抜かなくても。あ、ご飯ができたっす」
もうお前のキャラぼろぼろだぞ。武神はどこいった?
「話の途中だが、準備ができたので昼にしよう。さぁ召し上がれ」
「えっと、召し上がれと言われても。これって?」
「我は、我はいいノだ。いまはお腹がいっぱいぐるぅぅぅぅ」
「オウミ、腹が減っているなら遠慮するな。今日は好きなだけ食べていいんだぞ」
「いやいや、この音はそうではなくてだな。遠慮はしないノだ。しないノだがユウが食べるノだ」
「いやいやいや。俺は朝食べてききゅるぅぅぅぅ」
「朝は食べ損なったではないか。我に遠慮はいらないノだ。食べるノだ」
「おふたりとも? 遠慮はいりません。どうぞ召し上がれ。我が国特産のうどん……の粉と生……魚の生モロヘイヤ和えです」
「「食えるかぁぁぁぁ!!!」」
「庶民の口には合いませんかね?」
「どの口にも合わねぇよ! なんでうどん粉だよ! うどんにしろうどんに。粉のままで出すな! 魚もせめて焼け。モロヘイヤも茹でてからにしろ。生のままで和えてどうする!」
「あらあら。高級食品に食べ慣れていない人たちは気の毒に。私たちなんか毎日これを、おぇっ。食べていますよ?」
「いま、おえって、言わなかった?」
「言ってません」
「明らかにえづいていたノだ」
しかもおかずはその1品のみである。そして主食は。
「あの、これはいったい?」
「それはな、パンという食べ物だ。庶民にはまだ普及しておるまい」
うん、普及はしていない。俺がホッカイ国で作ろうとしていたぐらいだから。ここにパンという文化があったのは驚きだが、それよりも。
「こんこん」
「痛っ。なにをするノだ。そんな固いもので我を叩くではないノだ」
「す、すまん、ちょっと硬さを計ろうかと思って」
「わざわざ我の頭でするでないノだ!」
「オオクニ。この黒っぽい石ころがパンというものか?」
「「その通り!」」
いや、そこで自慢気にハモられても。
「これ、ライ麦粉と水を混ぜて、乾燥させただけじゃね?」
「え?」
「なんだ知っておるのか。さすがカミカクシだな」
「小麦は使わないのか?」
「そんな高い……庶民の食材など使えるはずがないだろ」
「高いって言いかけた?」
「言ってない」
ライ麦は小麦に比べるとグルテンの量が遙かに少ない。だからパンにするとどうしても固くなってしまうのだ。そのために、俺のいた世界では、あまり好まれるパンではなかった。ダイエットに夢中な女性は除くが。
「塩はどうして入れない?」
「そんな高い……庶民の食べるようなもの、使えるはずがないであろう」
「また高いって言わなかった?」
「言ってない」
パンというのは、生地に塩を入れることによってグルテンを引き締めて腰のある生地になるのだ。そうすれば、焼いたときにパンらしい弾力が生まれるのだ。
うどんだって塩を入れるだろうに。こいつらがそれを知らないはずがないのだが。
ちなみに酵母はなしでもパンは焼ける。ピザで良くあるクリスピー生地なんかはその典型だ。
しかしそれは応用の利かない生地にしかならない。中になにかを入れたり(クリームとか餡とか)、サンドイッチにしたりということができない。だからホッカイ国では酵母を使ったのだ。もちろん俺の好みである。
しかし、塩なしではそれさえも無理だ。
「窯で焼いた?」
「そんな高い……庶民の使う設備など使えるはずがなかろう」
「いま、高いって言ったな?」
「言ってない」
焼くからふっくらするんだろうが。ただ、固めて乾燥させただけかよ。
「オウミ、ちょっとこれは」
「うむ、想像以上だったノだ」
うどん粉がそのまま出てきたり、パンに塩さえも入ってなかったり。ということは?
生魚がそのまま出てくるということは?
モロヘイヤを茹でずにそのまま出すということは?
「これ、自分たちは貧しいですよアピール?」
「違うわっっ!! ここは首都であるぞ。そんなことがあるわけ……あるわけ……ない……わぁぁぁぁぁぁぁん」
はい、タケチャン落ちた。
「ここの維持費のための予算はいくらぐらいだ?」
「……それはその」
「もうぶっちゃけちゃえよ。この食卓を見たら誰でも分かる。思えばあの迎賓室? だっておかしなことだらけだった。なんで中古で薄汚れたちゃぶ台が置いてあるのか。俺たちを出迎えたタケチャンがなんで押し入れなんかに入っていたのか。ここに入るときの扉の建て付けがあそこまで悪い理由も、全部同じだろ?」
「…………」
「オオクニ。もう無理して取り繕おうとするな」
「そうですよ!! 私なんかもう3年もお給料もらってないんですからね! だから真冬にこんな薄物1枚しか着られないんですよ! これだって最後の1枚ですからね。エロを狙ったフリしてますけどそうじゃないんですよ! 暖かい食べ物なんてもう何年も口にしてわぁぁぁぁぁぁん」
「オウミ、ちょっとタケウチに戻ってなんでもいいから暖かい食べ物をもらってきてくれ。それからもしあったらポテチとかユウご飯も頼む」
「わ、分かったノだ。さすがの我も、ちょっと可哀想になってきたノだ。すぐ行ってくる」
「オオクニ、さっき人件費で9割と言ったな」
「あ、ああ。それには間違いはない」
「支出が108億で、その9割が人件費。97億か。で、収入が92億だったな。それだけで赤字か」
「計算が速いな。その通りだ」
「その9割の人件費には、ここで働く人たちの分は入っていないのか」
「……入ってない。もう金を貸してくれるところもなくてな。ここの者たちには苦労をかけている」
「もう一度聞くが、ここの維持費のための予算はいくらぐらいだ?」
「ほとんど、ない」
「それでよく俺を男爵にしようなどと思ったものだな」
「お主なら儲け話を持ってきてくれるかなって」
「かな、じゃねぇよ。まったくもう。どうやってここの年収を増やすか……待てよ? いままでスルーしていたが、神に支払うのはいいとして、なんで人間にまで払っているんだ?」
「我が生まれるよりもっと前のことだが、神々も人間に助けられた時代があったのだ。そのものたちに、お礼の意味で爵位というものを与えたのだ」
「そんな昔からのことだったのか」
「そうして手足のように使っていたのだが、使ったときにはお金を渡すという習慣になっていた。その頃は裕福だったしな」
「そりゃタダ働きってわけにはいかんわな」
「それがいつしかやつらの権利となり、それがまた世襲してゆくという蟻地獄?」
「まるで、先代の大盤振る舞いの後始末をさせられている御店の跡取り息子のような」
「いつしかその費用が収入を上回るようになったのだ。いまココ」
「人間になんか金を払う必要なんかあるのか?」
「支払わなければ、収入の道も閉ざされることになるだろうな」
「集金しているのが人間で、そして貴族ということか?」
「そういうことだ」
神々への支払いを止めると国が割れる。それは戦乱を意味する。エースなんかは小躍りするかもしれないが、俺はそんなはた迷惑なことはゴメンだ。
かと言って人間側(貴族)への支払いを止めると、今度は集金機構に穴が開く。
「貴族は納税の義務がないって言ってたっけ?」
「ああ、ない。それは貴族の特権だ」
「ちょっと特権が強すぎ……あれ? 俺、タケウチにいたときに、税金を誤魔化そうとしている貴族を見たような気がするんだが」
「それは副業をやっているやつのことであろう。会社を興したり取り引きしたりして、利益がでればそれには税金がかかる。しかし納税を誤魔化そうとは不穏なことだな」
「不穏で済ましちゃダメだろう。そういう不正はどうやって見分けてるんだ?」
「見分ける? なにを?」
「えっと。ここの制度が良く分からんが、その税金は所得税だよな? 消費税なんかなかったよな?」
「所得に対する税金だ。なんだ消費税って?」
「いや、なければいい。忘れてくれ。その所得ってのは申告制か?」
「申告というか、貢ぎ物を持ってくるだけだが」
「は?」
「毎年年末になると、各国の収入に応じて貢ぎ物を持ってくるのが慣例でな」
「それが正しいというのはどうやって判断している?」
「持ってくるのだから正しいのであろう?」
また性善説かよ。この国、インチキし放題じゃねぇか。ここでもミノウのあの紙が必要なようだ。
「それは確実に誤魔化されているな」
「そんなことはない! みな、我の国民たちなのであるぞ」
「人間ってのは、誤魔化す生き物なのだよ」
「そんなことはな……そう言われると心辺りがあるような」
あるんかい!
「今年は不作でコメが獲れませんでした、と言っていたやつの肌つやの良かったこと。洪水で被害が多数出たと言ったやつの着ているものの豪華だったこと。それから」
「思い出話はいい。これからのことを考えよう。とりあえず、不正なことができないものを渡すから、それを使ってくれ」
「そ、そん、そんなものがあるのか?」
「ああ、ある。オウミが帰ってきたら手配する。それをすぐ配布して今年の貢ぎ物に間に合わせよう。もうじきだよな」
「それは助かる。そんな方法があったとは」
「それで不正は防げるだろう。だが、それだけじゃダメだ。根本的にこの制度はいつか破綻する」
「どうしてだ?」
「いまの領地は、いずれ誰かに盗られるからだよ」
「そんなことは私が許さない!」
「だからいままでさんざん盗られてきたんだろ?」
「うぐぐぅぅぅぅ」
「タケチャンは戦えば強いのだろうけど、戦う前に盗られたものはなんともならない。違うか?」
「その通りだ。なにか良い手はあるか?」
「その前に聞きたいのだが、領地管理はどうやっている?」
「その地方にいる貴族にまかせている」
「つまりは人がやっているわけだな」
「そこに魔王が現れたら、人で太刀打ちできるのか?」
「ま、魔王なんてそうそう出現するものではないのだ」
「すでに7人も出ているのだろ? その領地の貴族ってみな魔王に懐柔されちゃったんじゃないのか?」
「いろいろな奇跡のような条件が重ならないと魔王は発生しないが」
「だが、長い年月の間にはそういう奇跡のようなことが起こる。それがいままでに7回起こった。じゃぁこれからはどうだ? もう起こらないのか?」
「そ、そ、それは。それだ」
「はっきりしないやつだな。起こるに決まっているだろ。それこそ時間の問題だ。それでアズマを盗られたらここは終わりだぞ」
「それだけは阻止せねばなりますまい!」
「その意気込みは良く分かったが、それで具体的にはどうするつもりだ?」
「それは……その。なんとかしようかなって」
「ノープランかよ! そんなことでなんとかなるわけないだろ。ここは先に手を打つべきだ」
「その具体的にとは、どうすればいいのだ?」
「遷都だよ!」
あれ? 前章と同じヒキ?
「オオクニがそれを言うな!」
遷都しろと、言ったとたんにこれだ。まったくどこまで引きずるのだ岸部露伴。
「いや、引きずっているのは彼じゃないと思うノだ」
「タケチャンマンはどうして断るんだ?」
「ここは私たちの聖地だ。引っ越しなど考えられるものか。タケチャンマン言うな」
「じゃあ、タケチャン。お前には赤字削減のためにどんなアイデアがあるんだ?」
「短くしろとも言ってない! そ、それは、だな。なるべく質素な暮らしをして、その食事も控えめに」
「そんな程度のことも、いままでしていなかったのか?」
「していたわ! バカにするでない!」
「それでは赤字は減らなかった。そうだろ?」
「うが、ごご」
「オオクニはどうなんだ、遷都する気はあるのか」
「タケノウ……タケチャンもいきなりだから驚いたんだ。そこまでのことをするとなると、時間が必要だ。少し考えさせてくれ」
「オオクニ様。せめてスクネでお願いします」
「それで、遷都をするとどうなるのだ? 遷都にも莫大な金がかかるぞ?」
「遷都先はアズマだ。まずは大都市・アズマを確保しておく。ここままではまたどこかの魔王に盗られるぞ」
「そんなけしからんこと! させるものですか!!」
「いままでされ放題されてきたんだろ? このオウミに盗られるっていったいどんだけボンクラなんだよ」
「それ、我への悪口なノか?」
「ややこしくなるから出てくんな」
「しかし遷都など。そんなことできるはずがない。我らはここで生まれて育ったのだ」
「うむ。私もさすがに遷都というのは行き過ぎだと考える」
「……そうか。首長までがそういうのなら仕方がないな」
「すまんが、もう少し穏やかな解決策を考えてくれ」
「アズマは、俺がもらう」
「「はぁぁぁ?!」」
「オウミ、さっそく国盗りだ。お前も手伝え」
「分かったノだ。そういうのは大好きなノだ」
「ミノウもできる範囲で手伝わせる。カンキチも呼ぼう」
「なんかワクワクなノだ。久しぶりに大暴れできるノだ」
「魔王が3人いたら、国のひとつやふたつなんとでもなるだろ。その上こちらにはトヨタ侯爵・エースまでいるんだ。政治的なことはやつにまかせればいい。そうだろ? レンチョン」
「私の呼び名はそれでもう固まったんですか?! それはまあ、あの方ならやるでしょうね。ミノオウハルとの交換条件ぐらいはつけるかもしれませんが」
「ちょちょちょっ、ちょっと待って、ねぇ待って。待ってってば待ってよ。そんなに急がなくても良いではないか。まあご飯でも食べていってよーん?」
よーんじゃねぇよ。タケチャン、自分のキャラが崩壊しているぞ。
「あら、私はもともとこういうキャぎゃぁぁぁぁっ」
「キモいから止めろ!」
「痛たたたた、だからって髪をまとめて10本も抜かなくても。あ、ご飯ができたっす」
もうお前のキャラぼろぼろだぞ。武神はどこいった?
「話の途中だが、準備ができたので昼にしよう。さぁ召し上がれ」
「えっと、召し上がれと言われても。これって?」
「我は、我はいいノだ。いまはお腹がいっぱいぐるぅぅぅぅ」
「オウミ、腹が減っているなら遠慮するな。今日は好きなだけ食べていいんだぞ」
「いやいや、この音はそうではなくてだな。遠慮はしないノだ。しないノだがユウが食べるノだ」
「いやいやいや。俺は朝食べてききゅるぅぅぅぅ」
「朝は食べ損なったではないか。我に遠慮はいらないノだ。食べるノだ」
「おふたりとも? 遠慮はいりません。どうぞ召し上がれ。我が国特産のうどん……の粉と生……魚の生モロヘイヤ和えです」
「「食えるかぁぁぁぁ!!!」」
「庶民の口には合いませんかね?」
「どの口にも合わねぇよ! なんでうどん粉だよ! うどんにしろうどんに。粉のままで出すな! 魚もせめて焼け。モロヘイヤも茹でてからにしろ。生のままで和えてどうする!」
「あらあら。高級食品に食べ慣れていない人たちは気の毒に。私たちなんか毎日これを、おぇっ。食べていますよ?」
「いま、おえって、言わなかった?」
「言ってません」
「明らかにえづいていたノだ」
しかもおかずはその1品のみである。そして主食は。
「あの、これはいったい?」
「それはな、パンという食べ物だ。庶民にはまだ普及しておるまい」
うん、普及はしていない。俺がホッカイ国で作ろうとしていたぐらいだから。ここにパンという文化があったのは驚きだが、それよりも。
「こんこん」
「痛っ。なにをするノだ。そんな固いもので我を叩くではないノだ」
「す、すまん、ちょっと硬さを計ろうかと思って」
「わざわざ我の頭でするでないノだ!」
「オオクニ。この黒っぽい石ころがパンというものか?」
「「その通り!」」
いや、そこで自慢気にハモられても。
「これ、ライ麦粉と水を混ぜて、乾燥させただけじゃね?」
「え?」
「なんだ知っておるのか。さすがカミカクシだな」
「小麦は使わないのか?」
「そんな高い……庶民の食材など使えるはずがないだろ」
「高いって言いかけた?」
「言ってない」
ライ麦は小麦に比べるとグルテンの量が遙かに少ない。だからパンにするとどうしても固くなってしまうのだ。そのために、俺のいた世界では、あまり好まれるパンではなかった。ダイエットに夢中な女性は除くが。
「塩はどうして入れない?」
「そんな高い……庶民の食べるようなもの、使えるはずがないであろう」
「また高いって言わなかった?」
「言ってない」
パンというのは、生地に塩を入れることによってグルテンを引き締めて腰のある生地になるのだ。そうすれば、焼いたときにパンらしい弾力が生まれるのだ。
うどんだって塩を入れるだろうに。こいつらがそれを知らないはずがないのだが。
ちなみに酵母はなしでもパンは焼ける。ピザで良くあるクリスピー生地なんかはその典型だ。
しかしそれは応用の利かない生地にしかならない。中になにかを入れたり(クリームとか餡とか)、サンドイッチにしたりということができない。だからホッカイ国では酵母を使ったのだ。もちろん俺の好みである。
しかし、塩なしではそれさえも無理だ。
「窯で焼いた?」
「そんな高い……庶民の使う設備など使えるはずがなかろう」
「いま、高いって言ったな?」
「言ってない」
焼くからふっくらするんだろうが。ただ、固めて乾燥させただけかよ。
「オウミ、ちょっとこれは」
「うむ、想像以上だったノだ」
うどん粉がそのまま出てきたり、パンに塩さえも入ってなかったり。ということは?
生魚がそのまま出てくるということは?
モロヘイヤを茹でずにそのまま出すということは?
「これ、自分たちは貧しいですよアピール?」
「違うわっっ!! ここは首都であるぞ。そんなことがあるわけ……あるわけ……ない……わぁぁぁぁぁぁぁん」
はい、タケチャン落ちた。
「ここの維持費のための予算はいくらぐらいだ?」
「……それはその」
「もうぶっちゃけちゃえよ。この食卓を見たら誰でも分かる。思えばあの迎賓室? だっておかしなことだらけだった。なんで中古で薄汚れたちゃぶ台が置いてあるのか。俺たちを出迎えたタケチャンがなんで押し入れなんかに入っていたのか。ここに入るときの扉の建て付けがあそこまで悪い理由も、全部同じだろ?」
「…………」
「オオクニ。もう無理して取り繕おうとするな」
「そうですよ!! 私なんかもう3年もお給料もらってないんですからね! だから真冬にこんな薄物1枚しか着られないんですよ! これだって最後の1枚ですからね。エロを狙ったフリしてますけどそうじゃないんですよ! 暖かい食べ物なんてもう何年も口にしてわぁぁぁぁぁぁん」
「オウミ、ちょっとタケウチに戻ってなんでもいいから暖かい食べ物をもらってきてくれ。それからもしあったらポテチとかユウご飯も頼む」
「わ、分かったノだ。さすがの我も、ちょっと可哀想になってきたノだ。すぐ行ってくる」
「オオクニ、さっき人件費で9割と言ったな」
「あ、ああ。それには間違いはない」
「支出が108億で、その9割が人件費。97億か。で、収入が92億だったな。それだけで赤字か」
「計算が速いな。その通りだ」
「その9割の人件費には、ここで働く人たちの分は入っていないのか」
「……入ってない。もう金を貸してくれるところもなくてな。ここの者たちには苦労をかけている」
「もう一度聞くが、ここの維持費のための予算はいくらぐらいだ?」
「ほとんど、ない」
「それでよく俺を男爵にしようなどと思ったものだな」
「お主なら儲け話を持ってきてくれるかなって」
「かな、じゃねぇよ。まったくもう。どうやってここの年収を増やすか……待てよ? いままでスルーしていたが、神に支払うのはいいとして、なんで人間にまで払っているんだ?」
「我が生まれるよりもっと前のことだが、神々も人間に助けられた時代があったのだ。そのものたちに、お礼の意味で爵位というものを与えたのだ」
「そんな昔からのことだったのか」
「そうして手足のように使っていたのだが、使ったときにはお金を渡すという習慣になっていた。その頃は裕福だったしな」
「そりゃタダ働きってわけにはいかんわな」
「それがいつしかやつらの権利となり、それがまた世襲してゆくという蟻地獄?」
「まるで、先代の大盤振る舞いの後始末をさせられている御店の跡取り息子のような」
「いつしかその費用が収入を上回るようになったのだ。いまココ」
「人間になんか金を払う必要なんかあるのか?」
「支払わなければ、収入の道も閉ざされることになるだろうな」
「集金しているのが人間で、そして貴族ということか?」
「そういうことだ」
神々への支払いを止めると国が割れる。それは戦乱を意味する。エースなんかは小躍りするかもしれないが、俺はそんなはた迷惑なことはゴメンだ。
かと言って人間側(貴族)への支払いを止めると、今度は集金機構に穴が開く。
「貴族は納税の義務がないって言ってたっけ?」
「ああ、ない。それは貴族の特権だ」
「ちょっと特権が強すぎ……あれ? 俺、タケウチにいたときに、税金を誤魔化そうとしている貴族を見たような気がするんだが」
「それは副業をやっているやつのことであろう。会社を興したり取り引きしたりして、利益がでればそれには税金がかかる。しかし納税を誤魔化そうとは不穏なことだな」
「不穏で済ましちゃダメだろう。そういう不正はどうやって見分けてるんだ?」
「見分ける? なにを?」
「えっと。ここの制度が良く分からんが、その税金は所得税だよな? 消費税なんかなかったよな?」
「所得に対する税金だ。なんだ消費税って?」
「いや、なければいい。忘れてくれ。その所得ってのは申告制か?」
「申告というか、貢ぎ物を持ってくるだけだが」
「は?」
「毎年年末になると、各国の収入に応じて貢ぎ物を持ってくるのが慣例でな」
「それが正しいというのはどうやって判断している?」
「持ってくるのだから正しいのであろう?」
また性善説かよ。この国、インチキし放題じゃねぇか。ここでもミノウのあの紙が必要なようだ。
「それは確実に誤魔化されているな」
「そんなことはない! みな、我の国民たちなのであるぞ」
「人間ってのは、誤魔化す生き物なのだよ」
「そんなことはな……そう言われると心辺りがあるような」
あるんかい!
「今年は不作でコメが獲れませんでした、と言っていたやつの肌つやの良かったこと。洪水で被害が多数出たと言ったやつの着ているものの豪華だったこと。それから」
「思い出話はいい。これからのことを考えよう。とりあえず、不正なことができないものを渡すから、それを使ってくれ」
「そ、そん、そんなものがあるのか?」
「ああ、ある。オウミが帰ってきたら手配する。それをすぐ配布して今年の貢ぎ物に間に合わせよう。もうじきだよな」
「それは助かる。そんな方法があったとは」
「それで不正は防げるだろう。だが、それだけじゃダメだ。根本的にこの制度はいつか破綻する」
「どうしてだ?」
「いまの領地は、いずれ誰かに盗られるからだよ」
「そんなことは私が許さない!」
「だからいままでさんざん盗られてきたんだろ?」
「うぐぐぅぅぅぅ」
「タケチャンは戦えば強いのだろうけど、戦う前に盗られたものはなんともならない。違うか?」
「その通りだ。なにか良い手はあるか?」
「その前に聞きたいのだが、領地管理はどうやっている?」
「その地方にいる貴族にまかせている」
「つまりは人がやっているわけだな」
「そこに魔王が現れたら、人で太刀打ちできるのか?」
「ま、魔王なんてそうそう出現するものではないのだ」
「すでに7人も出ているのだろ? その領地の貴族ってみな魔王に懐柔されちゃったんじゃないのか?」
「いろいろな奇跡のような条件が重ならないと魔王は発生しないが」
「だが、長い年月の間にはそういう奇跡のようなことが起こる。それがいままでに7回起こった。じゃぁこれからはどうだ? もう起こらないのか?」
「そ、そ、それは。それだ」
「はっきりしないやつだな。起こるに決まっているだろ。それこそ時間の問題だ。それでアズマを盗られたらここは終わりだぞ」
「それだけは阻止せねばなりますまい!」
「その意気込みは良く分かったが、それで具体的にはどうするつもりだ?」
「それは……その。なんとかしようかなって」
「ノープランかよ! そんなことでなんとかなるわけないだろ。ここは先に手を打つべきだ」
「その具体的にとは、どうすればいいのだ?」
「遷都だよ!」
あれ? 前章と同じヒキ?
1
あなたにおすすめの小説
毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。
馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。
元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。
バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。
だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。
アイドル時代のファンかも知れない。
突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。
主人公の時田香澄は殺されてしまう。
気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。
自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。
ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。
魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。
武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!
Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。
裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、
剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。
与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。
兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。
「ならば、この世界そのものを買い叩く」
漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。
冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力――
すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。
弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。
交渉は戦争、戦争は経営。
数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。
やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、
世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。
これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。
奪うのではない。支配するのでもない。
価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける――
救済か、支配か。正義か、合理か。
その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。
異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。
「この世界には、村があり、町があり、国家がある。
――全部まとめて、俺が買い叩く」
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
正しい聖女さまのつくりかた
みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。
同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。
一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」
そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた!
果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。
聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
一流冒険者トウマの道草旅譚
黒蓬
ファンタジー
主人公のトウマは世界の各地を旅しながら、旅先で依頼をこなす冒険者。
しかし、彼には旅先で気になるものを見つけると寄らずにはいられない道草癖があった。
そんな寄り道優先の自由気ままなトウマの旅は、今日も新たな出会いと波乱を連れてくる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる