161 / 336
第161話 神と仏の戦い
しおりを挟む
「だが、断る!」
「言うと思ったノだ」
「こんなチャンス、なかなかないからな」
「それが私にはそれが分からない。爵位をもらうことを嫌がる理由はいったいなんだ? たいした義理もなく、利益だけを存分に得られるのだぞ?」
「貴族になるってことは、その上――つまりはあんたたちに――仕えるということだろ? しかも男爵なんて一番下っ端じゃないか。人の顔色をうかがって生きるなんてまっぴらなんだよ」
「顔色をうかがう必要はないと思うが」
「オオクニは生まれながらにその地位にいるから気づいていないんだよ。お前さんの部下が、いつもその顔色をうかがっていることに」
「そういうものか」
「そういうものだ。そして、俺はそういうことするやつも、させるやつも大嫌いなんだよ。ましてや自分がその仲間に入るなど、身の毛がよだつほど嫌いだ」
「つまりは一匹狼でいたいと」
「まあ、そう思ってもらってかまわない」
「ふぅ。その程度のことで、年俸1,000万を棒に振る人間がいるとはなぁ。驚いたぞ。寄らば大樹の陰ではないのか」
「俺にとっては『その程度のこと』じゃないからさ。身の毛がよだつなんてこと、お前さんは感じたことないだろ?」
「それは、まあその通りだ」
「さらに言えば、たかが1,000千万で俺を買えると思うな。俺が立ち上げた事業は、この3ヶ月ほどで年商3億を越える規模になっている。来年はさらに一桁上のレベルになるだろう。その1%を報酬でもらったとしたら俺の年収は億に達する可能性さえある。しかもそれは毎年必ず増えて行く。貴族の手当など数のうちに入らない」
「今はほぼ無収入なノだけどな」
「やかましいよ」
「驚いたな。そこまで計算しているものなのか」
「計算? そりゃ、俺の特技はカイゼンだからな。事実を把握するのには計算は不可欠だ。この話にはやたらと数字が出てくるだろ? 他の小説にはない珍しい特徴のはずだ」
「ちょくちょく間違っているノだが、それは?」
「それもやかましいよごめんなさい!」
元のユウにソロバン4段並の実力があったのが幸いしている。これだけは転生時にもらったチート能力といっていいかもしれない。
「ふむ。そこはトヨタ家の申請書の通りだな。お主のそこを見込んで頼みがあるのだ」
「条件次第では引き受けるが、どんな問題があるんだ?」
「うむ、お主に回りくどい話は無駄だと思うので率直に言おう」
「ああ、そうしてくれ」
「金が欲しい」
神がかよ!!!
思わず突っ込んでしまった。意外といえばこんな意外な申し出はない。貧困を絵に描いたようなホッカイ国でも、そんなことを言うやつはいなかった。
エルフの連中もカンキチもマツも生活に苦労はしていたし、仲間に餓死者が出ることさえあった。しかしそれでも金が欲しいとは言ったことがなかった。
そういうことは言わない(口にするのは無粋だ)という文化が、このニホン国にもあるのだと思っていた。それなのに、こいつは率直すぎるだろ。
「ちょっと待てよ。それって話がおかしくないか?」
「どこがおかしい?」
「俺に1,000千万出そうって国が、なんで金がなくて困ってるんだ?」
「最初から話すと、我が国の財政は赤字続きでな。累積赤字が140億を越えている。そして増える一方なのだ」
「ふむ。その原因は分かっているのか?」
「おっと、金額には驚かないのだな」
「国のレベルから考えて、そのぐらいの数字はたいした金額じゃないと思ったからだ。この国に群(くに)は200はあるんじゃないか? ミノ国は大きいほうだろうが、カンサイやアズマはもっと大きいだろう。俺の研究所のあるチュウノウ市だけでも税収は2億ぐらいはあるはずだ。そこから推定するとニホン国の税収はざっと100億はないとおかしいことになる。その国が、単年ではなく累積の赤字なら140億ぐらいはあり得る数字だ」
「ど、どこでそれを知った? これは国家機密に属する内容なのだぞ!?」
「だから推定って言っただろ? フェルミ推定って言うんだ。与えられた数字だけを元にもっと大きな数字を推定する手法だ。で、正確にはどのくらいある?」
「それだけ分かっているなら言ってもよかろう。去年度は92億だ。今年はもう少し下がる見込みだ」
「ということは、支出は100億以上あるということだな?」
「去年は108億だった。それをなんとかして減らしたい。そのためにお主を1,000万で雇えるなら、高くはないとそう思ったのだ。トヨタ家には日頃世話になっていることもあるしな」
「ええ、うちは毎年、2,000千万の献金をしていますからね」
レンチョンが威張っている。しかし、1企業で2,000千万は確かにすごい。申請しただけでほいほい爵位がもらえるわけだ。
「それで赤字の原因はなんなんだ?」
「原因ははっきりしている。収入より支出のほうが多いからだ」
「そんなもん当たり前だっての!! そうじゃなくて、支出の内訳だ。人件費はどのくらいで……他にどんな支出があるんだ? 神様ってどんな費用がかかるんだ?」
「人件費が9割だ」
「使い過ぎだろ!! リストラしろ、リストラ。どこの世界に人件費が9割も占める国があるよ。アホも大概にしろよ」
「そ、そう、そういうものなのか。我らははるか昔からずっとそれでやってきたのだ。やはり異常なのか、これは」
「異常なんてもんじゃない。それはもう組織として成り立っていないレベルだ」
「そうだったのか。では、どうすればいい?」
「人件費……神でも人件費でいいのかな? まあ、いいや。人件費を削るなら話は簡単だ」
「ほぉ。どうすればいい?」
「首にすればいい。まずは半分に減らせ。さしあたってそこでうちの魔王とケンカしているやつなんか、いらなくね?」
「そんなことできるかぁぁ!!」
「うぉぉ、驚いた。オオクニはそんなことで大声を出すキャラなのか」
「あの者はこの国で騒乱が起こったときに、国を救った英雄なのだ。そんなことできるはずがない。仮にも武神だぞ」
「そうなのか。ところで、その人件費のかかる神? ってのはどれだけいるんだ?」
「国中に800万いると言われている」
「やおよろずかよ! それは聞いた俺がバカだったけど! しかし、その言われているってなんだよ。そんな適当な把握でどうする」
「増える一方でな。もう把握しきれなくなっているのだ」
増やすなよなぁ。
「どうして神が増えるんだ?」
「増やしているのは人間だ。最初のうちは、高い山だとか大きな奇岩だとかだったので、そのぐらいはいいかと認めていた」
「認める?」
「我が承認すると、神として祭られるようになる。そしてそれが我が国の支出となるのだ」
「最近なった神っていったい?」
「最近はとくに増えていてな。ついこの間は、メガネをかけた女の子が神になった」
は?
「その前は巨乳。そして貧乳。ツインテール。そして幼女とか」
「待て待て、それはただの身体的特徴だろ? どうして神になるんだよ」
「そういう宗派ができたからだ。メガネっ娘教、貧乳教、ツインテ教……」
「分かった。もういい。そういえばいたな、そんな連中が」
「まだあるぞ。珍しいところではあぷろーどをした者も神になったし、はっきんぐとかいう者も神になった。けいじばんというところは神の製造装置かなにかのようで、やたら発生するのだ。若い女性といかがわしいことをする者まで神だ。もういい加減にして欲しい」
「いい加減にしろ、と言いたいのはこっちだ。なんで俺のいた世界とそんなとこだけ混ざってんだよ。ってか、なんでもかんでも神認定やめろ」
「そういうわけで、どんどん増えて行くのだよ?」
「のだよ? じゃねぇよ! その神はただの下心があるだけの親切なふりした悪徳野郎じゃないか。そんなものを」
「神なんてもともとそういうものなノだ」
「その通り」
あれ? おかしいは俺のほう? 間違っているの俺なの?
「人を救いもするが、祟りも起こす。それが神だ。巨乳教でもてはやされるのは巨乳な子だけで、そうじゃない子には災いでしかない。また、もてはやされて嬉しいかというとそういうわけでもない」
「そ、それは、そうだけど」
「神待ちしている子にとって、一晩泊まらせてくれる人は救いの神であろうが、そのためにヤられるというお賽銭を払うことになる。それは後に災いをもたらすこともあるだろう?」
「……」
「あぷろーどする者は」
「もう分かった。その理屈が正しいのは理解した」
俺が文句をつけられるところはなかったこんちくしお。神だって理屈で成り立っているのだな。
「まあ、新しい神は消えるのも早いのだがな」
「その新しくできた神にいちいち給料? を支給するのか?」
「ああそうだ。支給額はどれだけの人の信仰を集めたかによる」
「ふむふむ。それで9割が飛んで行くわけか。残りの1割は?」
「この宮殿の維持費に充てていたのだが、それもままなならぬのが現状だ」
「そいつらを、首にしたらどうなる?」
「この国が割れる、であろうな」
「割れて、なんの問題がある?」
「おい、お前! さっきから聞いていれば、我が主に対してその言葉使いも話しぶりも失礼極まりない。成敗してくれる!」
あらら。もうケンカが終わってしまったか。じゃ、オウミ、続きをやってくれ。
「ほい、ノだ このこのこのこのぼけなす」
「なんだ、まだやんのかばしばしがしばし」
「あぁぁもう!! せっかく髪型直したのにぃ、やめて!」
オウミをけしかける度に、なぜかユウコのヘアースタイルが乱れて行くという定期。
「国が割れたら? たら。たら……。なにが問題だろ?」
「オオクニの支配地が減るだけなんじゃ?」
「ふむ。あるいはそうかも知れぬ。そもそもこんな境遇に陥ったのも、そこにいる魔王が君臨するようになったからだしな。そこはもうすでに我が領地とは言えない」
「オウミ、なんかしたのか?」
「知らないノだぽかすかぽこぽこ」
「とぼけるなばちばちばち、お前が主の領地を盗ったからであろう!」
「盗られて困るのなら金庫でにも入れておくノだぽかぺこぽこ」
「盗人猛々しいとはお前のようなばちべちびしびし」
「オウミが盗ったのか?」
「ああ、知らないうちに魔王なんてものがその地に君臨していたのだ。その分、我が国の収入が減った」
「魔王に領地を盗られる神っていったい……」
「現在、魔王は7人確認されている。ニオノウミのオウミ。ミノのミノウ。エチのイズナ。イセのイセ。カンサイのマイド。ヤマトのヤマト。それにホッカイのカンキチだ」
「アズマにはいないのか?」
「幸いアズマにはまだいない。あそこは今となっては我が国最後の収入源だ」
あそこ?
「ところで、ここってアズマじゃなかったのか? 首都って聞いていたので俺はてっきり」
「なにを言うか。首都というのはこの国の根本である。イズモに決まっているであろう」
あら、そう。島根かよ。そんな決まっているって言われてもなぁ。こちらの常識を俺はまだ知らないんだから。
寒冷で雪が多くて痩せた土地。そんなとこが首都? 確かに神々の集まる場所ではあるけど。
「アズマまで盗られたら我らは確実に破産だ。この国をいくつにも割った暴動が起きるだろう。500年ほど前のように」
「500年前?」
「その前後100年は騒乱の時代だったのだ。大陸からやってきた仏と我ら神々との戦いだ」
「そ、それは強力な敵だったろうな」
仏教の伝来は、ここでは500年前ということか。
「まあ、我らは800万いるからな。負けはしなかったがな」
「勝ったのか?」
「吸収合併したのだ」
だんだん分かってきたぞ。
「それ、吸収されたのお前らのほうだよな?」
「ななななな、なんでそれを!?」
「その狼狽ぶりが正解だと言っているようだが」
「お主はなんでも見通しか。そうだ。やつらは人間の支配層を味方につけて、わずか1,000人たらずでこの国すべての支配をもくろんだ。我らはゲリラ戦で抵抗したのだが」
「だが?」
「徐々に裏切るものが出てきてな」
「あらら」
「結局、我らはやつらの下部組織と化したのだ」
「ご愁傷様です」
「我なんぞ大黒天の化身とされてしまった」
「大黒天は仏教でいうなら天部だな。仏像では一番の下っ端だ」
「良く知っているな、その通りだ。うまく立ち回った天照大神などは大日如来の化身になっているというのに」
「ははは、それは密教の最高仏だ。ずいぶんと差がついたものだ」
「そのくせ、領地のイセをあっさり魔王に奪われやがって、今ではうちの居候だ」
「役に立たないやっちゃなぁ」
天照大神がここの居候? あとで紹介してもらおう。きっとエロエロうふふな格好で出てくるに違いない。あのタケチャンマンでさえもアレだもんな。わくわく。
「身分が低い代わりに、私はこの国の支配権をもらったのだ。それがこの体たらくでな。もう立場もプライドもあったものではないのだ。鬱だ死のう」
「イキロ」
神が死ぬとか言うな。てか、どうやって死ぬ気だよ。
「というわけでな、金が欲しいのだ」
「それで最初に戻ったわけか」
ここまで落ちぶれたのなら、一般企業ならまずやることは人員削減である。身の丈に似合った人数にすることだ。そして赤字事業からの撤退……。神が撤退ってできるんですかね?
人間である俺が踏み込める領域ではないような気がする。
となると? やれることは限られてくる。ってか、それしかない。
「支出の削減はなにかしているか?」
「ここ数年は支給額を増やさないようにしている」
「それでも物価は上がって行くのだから、生活は苦しくなるだろうな……生活?」
「なぁ、神ってのはご飯食べるん?」
「当たり前だ。殺す気か!」
あら、そ。魔王でも食べるんだからそりゃそうか。
「それじゃあ、とりあえずやってもらいたいことがある」
「というと?」
「遷都だ」
「「「はぁぁぁぁぁぁ??!!?!?!?」」」
「言うと思ったノだ」
「こんなチャンス、なかなかないからな」
「それが私にはそれが分からない。爵位をもらうことを嫌がる理由はいったいなんだ? たいした義理もなく、利益だけを存分に得られるのだぞ?」
「貴族になるってことは、その上――つまりはあんたたちに――仕えるということだろ? しかも男爵なんて一番下っ端じゃないか。人の顔色をうかがって生きるなんてまっぴらなんだよ」
「顔色をうかがう必要はないと思うが」
「オオクニは生まれながらにその地位にいるから気づいていないんだよ。お前さんの部下が、いつもその顔色をうかがっていることに」
「そういうものか」
「そういうものだ。そして、俺はそういうことするやつも、させるやつも大嫌いなんだよ。ましてや自分がその仲間に入るなど、身の毛がよだつほど嫌いだ」
「つまりは一匹狼でいたいと」
「まあ、そう思ってもらってかまわない」
「ふぅ。その程度のことで、年俸1,000万を棒に振る人間がいるとはなぁ。驚いたぞ。寄らば大樹の陰ではないのか」
「俺にとっては『その程度のこと』じゃないからさ。身の毛がよだつなんてこと、お前さんは感じたことないだろ?」
「それは、まあその通りだ」
「さらに言えば、たかが1,000千万で俺を買えると思うな。俺が立ち上げた事業は、この3ヶ月ほどで年商3億を越える規模になっている。来年はさらに一桁上のレベルになるだろう。その1%を報酬でもらったとしたら俺の年収は億に達する可能性さえある。しかもそれは毎年必ず増えて行く。貴族の手当など数のうちに入らない」
「今はほぼ無収入なノだけどな」
「やかましいよ」
「驚いたな。そこまで計算しているものなのか」
「計算? そりゃ、俺の特技はカイゼンだからな。事実を把握するのには計算は不可欠だ。この話にはやたらと数字が出てくるだろ? 他の小説にはない珍しい特徴のはずだ」
「ちょくちょく間違っているノだが、それは?」
「それもやかましいよごめんなさい!」
元のユウにソロバン4段並の実力があったのが幸いしている。これだけは転生時にもらったチート能力といっていいかもしれない。
「ふむ。そこはトヨタ家の申請書の通りだな。お主のそこを見込んで頼みがあるのだ」
「条件次第では引き受けるが、どんな問題があるんだ?」
「うむ、お主に回りくどい話は無駄だと思うので率直に言おう」
「ああ、そうしてくれ」
「金が欲しい」
神がかよ!!!
思わず突っ込んでしまった。意外といえばこんな意外な申し出はない。貧困を絵に描いたようなホッカイ国でも、そんなことを言うやつはいなかった。
エルフの連中もカンキチもマツも生活に苦労はしていたし、仲間に餓死者が出ることさえあった。しかしそれでも金が欲しいとは言ったことがなかった。
そういうことは言わない(口にするのは無粋だ)という文化が、このニホン国にもあるのだと思っていた。それなのに、こいつは率直すぎるだろ。
「ちょっと待てよ。それって話がおかしくないか?」
「どこがおかしい?」
「俺に1,000千万出そうって国が、なんで金がなくて困ってるんだ?」
「最初から話すと、我が国の財政は赤字続きでな。累積赤字が140億を越えている。そして増える一方なのだ」
「ふむ。その原因は分かっているのか?」
「おっと、金額には驚かないのだな」
「国のレベルから考えて、そのぐらいの数字はたいした金額じゃないと思ったからだ。この国に群(くに)は200はあるんじゃないか? ミノ国は大きいほうだろうが、カンサイやアズマはもっと大きいだろう。俺の研究所のあるチュウノウ市だけでも税収は2億ぐらいはあるはずだ。そこから推定するとニホン国の税収はざっと100億はないとおかしいことになる。その国が、単年ではなく累積の赤字なら140億ぐらいはあり得る数字だ」
「ど、どこでそれを知った? これは国家機密に属する内容なのだぞ!?」
「だから推定って言っただろ? フェルミ推定って言うんだ。与えられた数字だけを元にもっと大きな数字を推定する手法だ。で、正確にはどのくらいある?」
「それだけ分かっているなら言ってもよかろう。去年度は92億だ。今年はもう少し下がる見込みだ」
「ということは、支出は100億以上あるということだな?」
「去年は108億だった。それをなんとかして減らしたい。そのためにお主を1,000万で雇えるなら、高くはないとそう思ったのだ。トヨタ家には日頃世話になっていることもあるしな」
「ええ、うちは毎年、2,000千万の献金をしていますからね」
レンチョンが威張っている。しかし、1企業で2,000千万は確かにすごい。申請しただけでほいほい爵位がもらえるわけだ。
「それで赤字の原因はなんなんだ?」
「原因ははっきりしている。収入より支出のほうが多いからだ」
「そんなもん当たり前だっての!! そうじゃなくて、支出の内訳だ。人件費はどのくらいで……他にどんな支出があるんだ? 神様ってどんな費用がかかるんだ?」
「人件費が9割だ」
「使い過ぎだろ!! リストラしろ、リストラ。どこの世界に人件費が9割も占める国があるよ。アホも大概にしろよ」
「そ、そう、そういうものなのか。我らははるか昔からずっとそれでやってきたのだ。やはり異常なのか、これは」
「異常なんてもんじゃない。それはもう組織として成り立っていないレベルだ」
「そうだったのか。では、どうすればいい?」
「人件費……神でも人件費でいいのかな? まあ、いいや。人件費を削るなら話は簡単だ」
「ほぉ。どうすればいい?」
「首にすればいい。まずは半分に減らせ。さしあたってそこでうちの魔王とケンカしているやつなんか、いらなくね?」
「そんなことできるかぁぁ!!」
「うぉぉ、驚いた。オオクニはそんなことで大声を出すキャラなのか」
「あの者はこの国で騒乱が起こったときに、国を救った英雄なのだ。そんなことできるはずがない。仮にも武神だぞ」
「そうなのか。ところで、その人件費のかかる神? ってのはどれだけいるんだ?」
「国中に800万いると言われている」
「やおよろずかよ! それは聞いた俺がバカだったけど! しかし、その言われているってなんだよ。そんな適当な把握でどうする」
「増える一方でな。もう把握しきれなくなっているのだ」
増やすなよなぁ。
「どうして神が増えるんだ?」
「増やしているのは人間だ。最初のうちは、高い山だとか大きな奇岩だとかだったので、そのぐらいはいいかと認めていた」
「認める?」
「我が承認すると、神として祭られるようになる。そしてそれが我が国の支出となるのだ」
「最近なった神っていったい?」
「最近はとくに増えていてな。ついこの間は、メガネをかけた女の子が神になった」
は?
「その前は巨乳。そして貧乳。ツインテール。そして幼女とか」
「待て待て、それはただの身体的特徴だろ? どうして神になるんだよ」
「そういう宗派ができたからだ。メガネっ娘教、貧乳教、ツインテ教……」
「分かった。もういい。そういえばいたな、そんな連中が」
「まだあるぞ。珍しいところではあぷろーどをした者も神になったし、はっきんぐとかいう者も神になった。けいじばんというところは神の製造装置かなにかのようで、やたら発生するのだ。若い女性といかがわしいことをする者まで神だ。もういい加減にして欲しい」
「いい加減にしろ、と言いたいのはこっちだ。なんで俺のいた世界とそんなとこだけ混ざってんだよ。ってか、なんでもかんでも神認定やめろ」
「そういうわけで、どんどん増えて行くのだよ?」
「のだよ? じゃねぇよ! その神はただの下心があるだけの親切なふりした悪徳野郎じゃないか。そんなものを」
「神なんてもともとそういうものなノだ」
「その通り」
あれ? おかしいは俺のほう? 間違っているの俺なの?
「人を救いもするが、祟りも起こす。それが神だ。巨乳教でもてはやされるのは巨乳な子だけで、そうじゃない子には災いでしかない。また、もてはやされて嬉しいかというとそういうわけでもない」
「そ、それは、そうだけど」
「神待ちしている子にとって、一晩泊まらせてくれる人は救いの神であろうが、そのためにヤられるというお賽銭を払うことになる。それは後に災いをもたらすこともあるだろう?」
「……」
「あぷろーどする者は」
「もう分かった。その理屈が正しいのは理解した」
俺が文句をつけられるところはなかったこんちくしお。神だって理屈で成り立っているのだな。
「まあ、新しい神は消えるのも早いのだがな」
「その新しくできた神にいちいち給料? を支給するのか?」
「ああそうだ。支給額はどれだけの人の信仰を集めたかによる」
「ふむふむ。それで9割が飛んで行くわけか。残りの1割は?」
「この宮殿の維持費に充てていたのだが、それもままなならぬのが現状だ」
「そいつらを、首にしたらどうなる?」
「この国が割れる、であろうな」
「割れて、なんの問題がある?」
「おい、お前! さっきから聞いていれば、我が主に対してその言葉使いも話しぶりも失礼極まりない。成敗してくれる!」
あらら。もうケンカが終わってしまったか。じゃ、オウミ、続きをやってくれ。
「ほい、ノだ このこのこのこのぼけなす」
「なんだ、まだやんのかばしばしがしばし」
「あぁぁもう!! せっかく髪型直したのにぃ、やめて!」
オウミをけしかける度に、なぜかユウコのヘアースタイルが乱れて行くという定期。
「国が割れたら? たら。たら……。なにが問題だろ?」
「オオクニの支配地が減るだけなんじゃ?」
「ふむ。あるいはそうかも知れぬ。そもそもこんな境遇に陥ったのも、そこにいる魔王が君臨するようになったからだしな。そこはもうすでに我が領地とは言えない」
「オウミ、なんかしたのか?」
「知らないノだぽかすかぽこぽこ」
「とぼけるなばちばちばち、お前が主の領地を盗ったからであろう!」
「盗られて困るのなら金庫でにも入れておくノだぽかぺこぽこ」
「盗人猛々しいとはお前のようなばちべちびしびし」
「オウミが盗ったのか?」
「ああ、知らないうちに魔王なんてものがその地に君臨していたのだ。その分、我が国の収入が減った」
「魔王に領地を盗られる神っていったい……」
「現在、魔王は7人確認されている。ニオノウミのオウミ。ミノのミノウ。エチのイズナ。イセのイセ。カンサイのマイド。ヤマトのヤマト。それにホッカイのカンキチだ」
「アズマにはいないのか?」
「幸いアズマにはまだいない。あそこは今となっては我が国最後の収入源だ」
あそこ?
「ところで、ここってアズマじゃなかったのか? 首都って聞いていたので俺はてっきり」
「なにを言うか。首都というのはこの国の根本である。イズモに決まっているであろう」
あら、そう。島根かよ。そんな決まっているって言われてもなぁ。こちらの常識を俺はまだ知らないんだから。
寒冷で雪が多くて痩せた土地。そんなとこが首都? 確かに神々の集まる場所ではあるけど。
「アズマまで盗られたら我らは確実に破産だ。この国をいくつにも割った暴動が起きるだろう。500年ほど前のように」
「500年前?」
「その前後100年は騒乱の時代だったのだ。大陸からやってきた仏と我ら神々との戦いだ」
「そ、それは強力な敵だったろうな」
仏教の伝来は、ここでは500年前ということか。
「まあ、我らは800万いるからな。負けはしなかったがな」
「勝ったのか?」
「吸収合併したのだ」
だんだん分かってきたぞ。
「それ、吸収されたのお前らのほうだよな?」
「ななななな、なんでそれを!?」
「その狼狽ぶりが正解だと言っているようだが」
「お主はなんでも見通しか。そうだ。やつらは人間の支配層を味方につけて、わずか1,000人たらずでこの国すべての支配をもくろんだ。我らはゲリラ戦で抵抗したのだが」
「だが?」
「徐々に裏切るものが出てきてな」
「あらら」
「結局、我らはやつらの下部組織と化したのだ」
「ご愁傷様です」
「我なんぞ大黒天の化身とされてしまった」
「大黒天は仏教でいうなら天部だな。仏像では一番の下っ端だ」
「良く知っているな、その通りだ。うまく立ち回った天照大神などは大日如来の化身になっているというのに」
「ははは、それは密教の最高仏だ。ずいぶんと差がついたものだ」
「そのくせ、領地のイセをあっさり魔王に奪われやがって、今ではうちの居候だ」
「役に立たないやっちゃなぁ」
天照大神がここの居候? あとで紹介してもらおう。きっとエロエロうふふな格好で出てくるに違いない。あのタケチャンマンでさえもアレだもんな。わくわく。
「身分が低い代わりに、私はこの国の支配権をもらったのだ。それがこの体たらくでな。もう立場もプライドもあったものではないのだ。鬱だ死のう」
「イキロ」
神が死ぬとか言うな。てか、どうやって死ぬ気だよ。
「というわけでな、金が欲しいのだ」
「それで最初に戻ったわけか」
ここまで落ちぶれたのなら、一般企業ならまずやることは人員削減である。身の丈に似合った人数にすることだ。そして赤字事業からの撤退……。神が撤退ってできるんですかね?
人間である俺が踏み込める領域ではないような気がする。
となると? やれることは限られてくる。ってか、それしかない。
「支出の削減はなにかしているか?」
「ここ数年は支給額を増やさないようにしている」
「それでも物価は上がって行くのだから、生活は苦しくなるだろうな……生活?」
「なぁ、神ってのはご飯食べるん?」
「当たり前だ。殺す気か!」
あら、そ。魔王でも食べるんだからそりゃそうか。
「それじゃあ、とりあえずやってもらいたいことがある」
「というと?」
「遷都だ」
「「「はぁぁぁぁぁぁ??!!?!?!?」」」
1
あなたにおすすめの小説
武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!
Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。
裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、
剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。
与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。
兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。
「ならば、この世界そのものを買い叩く」
漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。
冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力――
すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。
弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。
交渉は戦争、戦争は経営。
数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。
やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、
世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。
これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。
奪うのではない。支配するのでもない。
価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける――
救済か、支配か。正義か、合理か。
その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。
異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。
「この世界には、村があり、町があり、国家がある。
――全部まとめて、俺が買い叩く」
毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。
馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。
元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。
バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。
だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。
アイドル時代のファンかも知れない。
突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。
主人公の時田香澄は殺されてしまう。
気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。
自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。
ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。
魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。
鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~
今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。
大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。
目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。
これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。
※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる