異世界召喚 ~依頼されたのは魔王討伐ではなく……~

オフィス景

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64 魔族との激闘

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「それじゃあ、いつも通りいってみますか」

 リョウさんは大きく息を吸い込んだ。

「来いや、おらあああぁっ!」

 同時に魔族に向かって駆け出す。

 が、魔族は全く威圧に惑わされてはいなかった。俺は真正面から突っ込んでいく形になってしまう。

「やべっ」

 無造作に振られた右腕は、かろうじて剣で受けることができた。が、その威力までは吸収しきれず、大きく後ろへ飛ばされた。

「くうっ」

 何とか足から着地はしたものの、体勢が整う前に魔族が迫る。

 振りかぶった拳が炎を帯びる。

「うおっ!?」

 身を投げ出して拳をかわす。あんなの食らったら、治癒魔法かけてもらう前に死んじまいそうだ。

 紙一重のかわし方ができないと、反撃のきっかけが掴めない。

「コータロー!」

 シルヴィアの心配そうな声が聞こえたが、それに答えている余裕はなかった。

 向こうは向こうで、こっちの動きが激しすぎて援護のタイミングを掴めずにいるようだ。

 図らずも俺と魔族のタイマンになってしまっていた。

 今のところスピードだけはほんの少しだけ上回れているので致命的な事態にはなっていないが、このままではじり貧だ。

 にしても、魔族の体力ってのは底無しか。あれだけ激しく動きまわっても、まったく動きが衰えない。

 こうなると、頼りはシルヴィアの治癒魔法しかない。体力の回復をしてもらって、魔族が隙を見せるまでついていく。気が遠くなりそうだが、できなきゃ死ぬのだから、やるしかない。

 気のせいか、魔族からは愉しげな気配が伝わってくる。

 こっちは一発だってもらうわけにはいかないから、とにかく必死だ。

 ふと魔族が動きを止めた。大口を開けて俺に向かって何かを叫ぶが、魔族の言葉なんて理解できるはずがない。伝わったのは魔族がこの闘いを心から楽しんでいるということだけだ。

 ふざけんな。こっちはこれっぽっちも楽しかねえよ。

 ここから魔族の動きは一段ギアが上がった。

 全力じゃなかったんかよ!?

 本気でゆとりがなくなった。30センチでかわせていたところが10センチになった。

 炎を帯びた拳相手に10センチは、かわせているとは言いがたい。炎に炙られ火傷を負い、少しでも見切りを誤れば裂傷を負い、じわじわダメージが積もっていく。

 シルヴィアが治癒魔法を飛ばしてくれるが、終わりが見えない中で使い過ぎるわけにもいかず、どうしても後手にまわることになる。

 途切れない攻撃を必死に捌くが、いい加減心が折れそうになる。

 くそったれ、この体力バカが……

 愚痴を口にしそうになった瞬間、空振りした魔族の身体がほんのわずか流れた。

「!」

 考えるより先に身体が動いた。

 右手の剣が魔族の左肩に届いた。血飛沫が舞う。

 …何だよ、魔族でも血は赤いのかよ……

 頭の片隅でそんなことを思いながらも、身体は魔族相手に攻勢に転じていた。

 バランスを崩した魔族の懐に飛び込む。

 絶妙のタイミングで治癒魔法がかかった。

 さすがだぜ、シルヴィア!

「うおおおおっ!!」

 双剣を操り、魔族に剣撃を浴びせる。俺が非力なせいで、一発で与えられるダメージは少ないが、それを手数でカバーする勢いで双剣を振るう。

 ここで仕留められなかったら勝ち筋はなくなる。

 闘いが始まってどれくらい経ったのか、時間の感覚は既にない。ただの戦闘マシンに徹して、剣を振るい続ける。

 異変が起きたのは、シルヴィアが十何度目かの治癒魔法を飛ばした時だった。

「!?」

 回復はせず、逆に目眩を覚え、俺は片膝を着いた。

「くっ……」

 強烈な脱力感に苛まれ、横倒れにならずにいるのが精一杯だった。

 何が起きたのかまったくわからなかったが、闘いの中でこれは致命的な隙だ。チリっとした感覚とともに死の予感が冷たく背を撫でる。

 だが、魔族からの反撃はなかった。

 見れば、魔族も膝を着いている。俺の剣もそれなりに通じていたようだ。

「コータロー!」

 シルヴィアが駆け寄ってくる。

 カズサさんたちは弱った魔族にとどめを刺すべく動きだす。

 だがーー

「危ねえっ!」

 嫌な予感に、思わず声をあげていた。

 声に反応したカズサさんたちがその場に急停止した瞬間、魔族の身体が爆発的に膨れ上がったように見えた。

「伏せろっ!」

 シルヴィアを抱え込んで身を伏せた。

 直後、爆風が頭上を駆け抜けた。

 爆風が治まった後、魔族の姿は跡形もなくなっていた。

「逃げられたわね」

 カズサさんが悔しそうに言った。

「でも、魔族を撃退したんだぜ。すげえよ、コータロー」

「本当にね。もう終わりかと思ったわ」

「最後のは何だったんだ?」

「俺にも何が何だか……」

 言った瞬間、さっきの数倍の目眩を感じた。

「…あれ……?」

「コータロー!?」

 シルヴィアの声を最後に、意識はプツンと途切れた。
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