元商社マンの俺、異世界と日本を行き来できるチートをゲットしたので、のんびり貿易商でも始めます~現代の便利グッズは異世界では最強でした~

黒崎隼人

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第4章:招かれざる客と秘密の価値

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 ミリス村が豊かになったという噂は、風に乗ってあっという間に近隣の町や村へと広がっていった。
 痩せ地だったはずのミリス村の収穫量が上がり、村人たちの顔色も良く、見たこともない便利な道具を使っているらしい――そんな噂が、ある男の耳に入った。
 男の名は、ボルコス。隣町で手広く商売を営む、恰幅のいい商人だ。
 ある晴れた日、ボルコスは数人の屈強な護衛を連れて、ミリス村にやってきた。彼は俺の店(という名の空き家)を見るなり、目を丸くした。
「こ、これは……なんと素晴らしい品々だ! この光る石(LEDライト)! この火の出る棒(ライター)! 見たこともない!」
 ボルコスは商品を手に取り、目を輝かせている。商人の勘が、これらの品に途轍もない価値があることを告げているのだろう。
「ようこそ、旅の方。何かお探しかな?」
 俺が声をかけると、ボルコスは値踏みするような目で俺を上から下まで眺めた。
「あんたが、この店の主か。俺はボルコス。この辺りを取り仕切る商人の一人だ。単刀直入に聞こう。これらの品、どこで仕入れている?」
 来たか。予想していた質問だ。
「企業秘密、というやつですよ」
 俺がにべもなく答えると、ボルコスの眉がピクリと動いた。
「ほう。この俺に、隠し事か。いいだろう。ならば、この商品を全て言い値で買い取ろう。そして、あんたを俺の商会に迎え入れてやる。悪い話ではないだろう?」
 典型的な、力で物事を解決しようとするタイプだ。元いた会社にも、こういう上司はたくさんいた。
「お断りします。俺は一人でやるのが好きなんでね」
「なんだと……?」
 ボルコスの顔が怒りで赤く染まる。護衛たちが、じりっと一歩前に出た。村人たちが、不安そうな顔でこちらを見ている。
 ここで引き下がるわけにはいかない。一度でも舐められたら、この先、際限なく搾取されるだけだ。
「ボルコスさんとやら。あんたがこの辺りの有力者なのは分かった。だが、俺の扱う商品は、あんたが今まで見てきたどんなものとも違う。そうだろ?」
 俺はそう言うと、次元倉庫からキンキンに冷えた缶ビールを取り出し、プルタブを開けた。プシュッ、という小気味いい音と共に、白い泡が溢れる。
 ボルコスたちは、何が起きたか分からず目を白黒させている。
 俺はそれを煽り、喉を鳴らして飲み干した。
「くぅーっ! やっぱ仕事の後はこれだな!」
「な、なんだそれは!? 泡の出る酒だと!? しかも、氷のように冷たい……魔法か!?」
「魔法みたいなもんだ。俺には、こういう品をいくらでも用意できる。あんたが知らない方法で、な」
 俺のハッタリは、効果てきめんだった。ボルコスは俺の正体が測りかねず、섣불리手を出せないでいる。彼は商人だ。リスクとリターンを天秤にかける。未知の力を持つ俺と敵対するのは、リスクが高すぎると判断したのだろう。
「……分かった。今日のところは引き下がろう。だが、覚えておけ。このフィルメアの地で、俺に逆らって商売が続けられると思うなよ」
 捨て台詞を残し、ボルコスは悔しげに村を去っていった。
 彼らが去った後、ギルマスさんが心配そうに駆け寄ってきた。
「悠斗殿、大丈夫でしたか? ボルコスは強欲で、逆らう者には何を仕掛けてくるか……」
「大丈夫ですよ。ああいうタイプには、毅然とした態度が一番効きますから」
 俺は笑って見せたが、内心では情報管理の重要性を痛感していた。
「仕入れルート=秘匿事項」。これを徹底しなければならない。俺の力が【往還の門】にあると知られれば、どうなるか分からない。利用しようとする者、奪おうとする者、あらゆる権力者が俺を狙うだろう。
 一方で、村人の中には俺を「神の使い」と本気で信じ、崇拝する者も出始めていた。これもまた、面倒な事態を招きかねない。
 俺は一介の商人に過ぎない。神でもなければ、魔法使いでもない。ただ、少しだけ便利なスキルを持っているだけだ。
「もっと大きな拠点がいるな……」
 ミリス村は良い場所だが、小さすぎる。いずれボルコスのような連中が、実力行使に出てこないとも限らない。もっと大きな街に出て、法的な守りや、信頼できる仲間を手に入れる必要がある。
 俺は、都市部への進出を決意した。目指すは、この地方の中心都市「フィルメア」。新たなステージへの挑戦が、今、始まろうとしていた。
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