追放令嬢と【神の農地】スキル持ちの俺、辺境の痩せ地を世界一の穀倉地帯に変えたら、いつの間にか建国してました。

黒崎隼人

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第8話:悪役令嬢の凱旋、偽聖女の断罪

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 アキト村の輸送隊が王都に到着した日、王都は異様な熱気に包まれていた。
 飢えに苦しんでいた民衆が、どこからともなく道に溢れ出し、セレスティーナの名前を連呼していた。
「セレスティーナ様!」「救国の聖女、万歳!」
 その歓迎は、王の凱旋パレードすら霞むほどの、熱狂的なものだった。民衆は、自分たちを見捨てた王家ではなく、自分たちを救ってくれた辺境の若き領主に、心からの感謝と敬愛を捧げたのだ。

 セレスティーナは、馬上でその光景を静かに見つめていた。その表情は穏やかだったが、紫色の瞳の奥には、万感の思いが渦巻いているのが俺にはわかった。

 王宮に到着すると、国王自らが玉座から下りて彼女を出迎えた。その顔はやつれ、威厳のかけらもなかった。
 そして、王宮の大広間では、セレスティーナの要求通り、聖女リリアと王太子アルフォンスを裁くための公開裁判が開かれようとしていた。
 かつて、セレスティーナ自身が「悪役令嬢」として断罪された、因縁の場所。しかし今、被告席に立っているのは、立場が逆転した二人だった。壮大な「ざまぁ」劇の幕が、静かに上がった。

 裁判長を務めるのは、国王自身だった。
 まず、アキト村を訪れた視察団の老伯爵が証言台に立ち、セレスティーナが築き上げた豊かな領地の様子と、彼女の優れた為政者としての手腕を朗々と語った。
 次に、良識派の貴族たちが次々と、聖女リリアの贅沢三昧な暮らしぶりや、彼女の祈祷の後に土地が荒廃していった事実を証拠と共に提出した。禁術に関する古い文献も提示され、彼女の「奇跡」が、国を滅ぼす禁断の力であったことが白日の下に晒された。

 王太子アルフォンスも、国政を顧みずリリアにうつつを抜かし、飢饉対策を怠ったとして、厳しく糾弾された。

「そ、そんな……嘘よ!全部、セレスティーナが仕組んだ罠よ!」
 リリアは、ヒステリックに叫んだ。だが、その言葉を信じる者は、もはやどこにもいない。
 追い詰められたリリアは、最後の望みを託し、隣に立つ王太子にすがりついた。
「アルフォンス様!助けて!私は、あなたのために……」

 しかし、アルフォンスは彼女の手を冷たく振り払った。
「黙れ、この悪女め!全てお前が私をそそのかしたせいだ!私が騙された被害者なのだ!」
 彼は、全ての罪をリリア一人になすりつけ、自分だけ助かろうとしたのだ。
 そのあまりに醜く、見苦しい責任の押し付け合いに、裁判所に集まった満座は、軽蔑のため息と共に白けきっていた。かつて二人が見せた「美しい愛」は、メッキが剥がれれば、ただの利害関係でしかなかったのだ。

 セレスティーティーナは、その茶番を、ただ無言で、静かに見つめていた。
 彼女の心に、もはや二人に対する憎しみはなかった。あるのは、憐れみと、一つの時代の終わりを見届けるかのような、静かな感慨だけだった。

 やがて、国王が判決を言い渡した。
「聖女リリアよ。汝の聖女の称号と、その魔力を永久に剥奪する。今後は一平民として、その罪を償いながら生きるがよい」
 魔力の源泉を断たれたリリアは、その場で泣き崩れた。
「王太子アルフォンス。汝の王位継承権を剥奪の上、北の監視塔への永久幽閉を命ずる。二度と、王都の土を踏むことは許されん」
 アルフォンスは、全てを失った絶望に、その場にへたり込んだ。

 罪は裁かれ、正義は示された。
 裁判が終わると、国王はセレスティーナの前に進み出た。そして、全臣下が見守る前で、深々と頭を下げたのだ。

「セレスティーナ・フォン・ヴァインベルク嬢。これまでの我々の非礼、心から詫びる。そして、この国を救ってくれたこと、深く感謝する」
 それは、王家のプライドが完全に砕け散った瞬間だった。

 民衆の歓呼が、王宮の外から地鳴りのように響いてくる。
 セレスティーナは、その歓声に応えるように、バルコニーへと歩き出した。俺も、彼女の隣に立つ。眼下には、彼女を称える無数の民衆の姿があった。
 彼女は、俺の手を固く、固く握った。その手は、少しだけ震えていた。

「終わったのね、アキト」
「いえ。始まったんです、セレスティーナ様」
 俺たちの、新しい国が。

 その日の夕刻、国王は約束通り、王国全土に向けて布告を出した。
 アキト村を中心とする辺境一帯の領地を、セレスティーナ・フォン・ヴァインベルクを初代君主とする、王国から完全に独立した「主権国家」とすることを、正式に宣言する、と。

 かつての「悪役令嬢」が、自らの手で、自らの国を勝ち取った瞬間だった。
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