14 / 14
エピローグ「春風に揺れる約束」
しおりを挟む
あれから、季節は一巡りした。
ナギの村には、また春が巡ってきている。
雪解け水が小川を走り、森の木々が一斉に芽吹く季節。
私たちは今日も変わらず、この丘の上の店で暮らしている。
王都からの干渉は一切なくなった。噂によると、アレク王子は廃嫡され、辺境へ送られたらしいが、真偽は定かではないし、興味もない。
私たちにとっては、今日の夕飯のメニューの方がよほど重要だからだ。
「エリナ、裏の畑のキャベツが食べ頃だぞ」
「本当ですか? じゃあ、今夜はロールキャベツにしましょうか」
「悪くない」
ゼフィルが泥だらけの長靴で店に入ってくる。
すっかり農作業も板につき、今では立派な農夫兼店員兼私のパートナーだ。
そして、私の左手の薬指には、彼が不器用ながらも一生懸命彫ってくれた、木の指輪が収まっている。
宝石なんてついていないけれど、森の守り木の枝で作られた、世界でたった一つの宝物。
「どうかしたか?」
私が指輪を見つめて微笑んでいると、ゼフィルが不思議そうに顔を覗き込んできた。
「ううん、なんでもないです。ただ、幸せだなって」
「……そうか。俺もだ」
彼は短く答えて、私の頭をポンと撫でた。
その手は大きくて、温かくて、安心の塊だ。
ポポが「ごちそうはまだか」とばかりに足元で騒ぎ出す。
「はいはい、今作るから。ゼフィルさん、手伝ってくださいね」
「ああ、任せろ。キャベツの芯抜きなら誰にも負けん」
そんな小さな自慢をしながら、彼はキッチンへと向かう。
窓を開けると、春の風が店の中を吹き抜けていった。
かつて「無能」と呼ばれた聖女と、「処刑人」と呼ばれた騎士。
ここにあるのは、そんな肩書きのない、ただの二人と一匹の、愛おしい日常。
これからもきっと、色々なことがあるだろう。
でも、大丈夫。
この温かい手と、この場所がある限り、私たちはどこまでも生きていける。
春の陽だまりの中で、私はもう一度、この幸せを噛み締めた。
ナギの村には、また春が巡ってきている。
雪解け水が小川を走り、森の木々が一斉に芽吹く季節。
私たちは今日も変わらず、この丘の上の店で暮らしている。
王都からの干渉は一切なくなった。噂によると、アレク王子は廃嫡され、辺境へ送られたらしいが、真偽は定かではないし、興味もない。
私たちにとっては、今日の夕飯のメニューの方がよほど重要だからだ。
「エリナ、裏の畑のキャベツが食べ頃だぞ」
「本当ですか? じゃあ、今夜はロールキャベツにしましょうか」
「悪くない」
ゼフィルが泥だらけの長靴で店に入ってくる。
すっかり農作業も板につき、今では立派な農夫兼店員兼私のパートナーだ。
そして、私の左手の薬指には、彼が不器用ながらも一生懸命彫ってくれた、木の指輪が収まっている。
宝石なんてついていないけれど、森の守り木の枝で作られた、世界でたった一つの宝物。
「どうかしたか?」
私が指輪を見つめて微笑んでいると、ゼフィルが不思議そうに顔を覗き込んできた。
「ううん、なんでもないです。ただ、幸せだなって」
「……そうか。俺もだ」
彼は短く答えて、私の頭をポンと撫でた。
その手は大きくて、温かくて、安心の塊だ。
ポポが「ごちそうはまだか」とばかりに足元で騒ぎ出す。
「はいはい、今作るから。ゼフィルさん、手伝ってくださいね」
「ああ、任せろ。キャベツの芯抜きなら誰にも負けん」
そんな小さな自慢をしながら、彼はキッチンへと向かう。
窓を開けると、春の風が店の中を吹き抜けていった。
かつて「無能」と呼ばれた聖女と、「処刑人」と呼ばれた騎士。
ここにあるのは、そんな肩書きのない、ただの二人と一匹の、愛おしい日常。
これからもきっと、色々なことがあるだろう。
でも、大丈夫。
この温かい手と、この場所がある限り、私たちはどこまでも生きていける。
春の陽だまりの中で、私はもう一度、この幸せを噛み締めた。
187
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~
夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力!
絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。
最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り!
追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?
追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!
六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。
家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能!
「ここなら、自由に生きられるかもしれない」
活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。
「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」
罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~
上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」
触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。
しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。
「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。
だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。
一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。
伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった
本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である
※※小説家になろうでも連載中※※
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。
木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。
それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。
誰にも信じてもらえず、罵倒される。
そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。
実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。
彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。
故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。
彼はミレイナを快く受け入れてくれた。
こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。
そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。
しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。
むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。
侯爵様に婚約破棄されたのですが、どうやら私と王太子が幼馴染だったことは知らなかったようですね?
ルイス
恋愛
オルカスト王国の伯爵令嬢であるレオーネは、侯爵閣下であるビクティムに婚約破棄を言い渡された。
信頼していたビクティムに裏切られたレオーネは悲しみに暮れる……。
しかも、破棄理由が他国の王女との婚約だから猶更だ。
だが、ビクティムは知らなかった……レオーネは自国の第一王子殿下と幼馴染の関係にあることを。
レオーネの幼馴染であるフューリ王太子殿下は、彼女の婚約破棄を知り怒りに打ち震えた。
「さて……レオーネを悲しませた罪、どのように償ってもらおうか」
ビクティム侯爵閣下はとてつもない虎の尾を踏んでしまっていたのだった……。
婚約破棄されたので、元婚約者の兄(無愛想な公爵様)と結婚します
ニャーゴ
恋愛
伯爵令嬢のエレナは、社交界で完璧な令嬢と評されるも、婚約者である王太子が突然**「君とは結婚できない。真実の愛を見つけた」**と婚約破棄を告げる。
王太子の隣には、彼の新しい恋人として庶民出身の美少女が。
「うわ、テンプレ展開すぎない?」とエレナは内心で呆れるが、王家の意向には逆らえず破談を受け入れるしかない。
しかしその直後、王太子の兄である公爵アルベルトが「俺と結婚しろ」と突如求婚。
無愛想で冷徹と噂されるアルベルトだったが、実はエレナにずっと想いを寄せていた。
婚約破棄されたことで彼女を手に入れるチャンスが巡ってきたとばかりに、強引に結婚へ持ち込もうとする。
「なんでこんな展開になるの!?』と戸惑うエレナだが、意外にもアルベルトは不器用ながらも優しく、次第に惹かれていく——
だが、その矢先、王太子が突然「やっぱり君が良かった」と復縁を申し出てきて……!?
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる