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第7章:王都の影と、村の盾
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便利屋クラリスの評判は、行商人などを通じて、辺境の村ロッカを越えて少しずつ広まり始めていた。それは、良いことばかりではなかった。風の噂は、やがて私を追放した王都にまで届いてしまったのだ。
「あのクラリス・アルトレインが、辺境で面白おかしく暮らしているだと? 許しがたい」
そう考えた者がいた。私の父、アルトレイン公爵の地位を奪い、その後釜に座った新公爵。彼は、私の母亡き後、父の後妻となった義母の実家、バルトルト家の人間だった。かつて私を陥れるためにリリア嬢と裏で手を組んでいた、陰謀の黒幕の一人だ。
私が生きていること、それもただ生きているだけでなく、辺境で人々に慕われているという事実が、彼らにとっては面白くなかった。自分たちの地位を脅かす火種は、小さいうちに消しておくに限る。
ある晩、私たちの廃屋兼事務所に、サラが血相を変えて飛び込んできた。
「クラリス、大変よ! 村の入り口に見慣れない男たちがいるわ! どう見ても堅気じゃない!」
サラの情報収集能力は、今や村一番だ。彼女が言うなら間違いない。ガイアがすぐさま戸口に立ち、警戒態勢に入る。
私は窓の隙間からそっと外を窺った。月明かりの下、黒ずくめの男たちが三人、明らかに私たちの家を窺っている。腰に下げた剣は、ならず者のものではない。訓練された者の動きだ。おそらくは、バルトルト家が差し向けた刺客だろう。
「どうする、クラリスさん。俺が前に出る」
「待って、ガイア。相手はプロよ。無策で突っ込むのは危険すぎるわ」
どうしたものか、と思案していると、家の扉が静かにノックされた。
開けるべきか、否か。緊張が走る。
ノックはもう一度。そして、小さな声が聞こえた。
「クラリスさん、いるかい? 村長のワシだ」
村長の声? なぜ今? ガイアが慎重に扉を少しだけ開けると、そこには村長と、数人の屈強な村人たちが、鍬や棍棒を手に立っていた。
「しっ、静かにな。あんたを狙ってる連中がいるんだろ。分かってる」
村長は、私たちを手招きした。
「何が何だか分からんが、あんたはもうこの村の人間だ。よそ者に好き勝手させるわけにはいかん。さあ、こっちへ」
村長たちに導かれ、私たちは家の裏口からこっそりと抜け出した。外に出ると、村のあちこちの家の窓から、村人たちがこちらの様子を窺っているのが見えた。彼らは、皆、私たちの味方だった。
私たちは、村長の家に匿われた。そこで、事の次第を聞かされる。
昼間、村にやってきた見慣れない男たちが、便利屋の場所をしつこく聞いて回っていたらしい。そのただならぬ雰囲気を察した村人たちが、すぐに村長へ知らせ、村全体で警戒網を敷いてくれていたのだ。
「あいつら、あんたが罪人だとか何とか言ってたが、知ったことか。俺たちが知ってるクラリスは、壊れた橋を直し、病人の手当てをし、子供に勉強を教えてくれる、ただの働き者の便利屋だ」
村の猟師が、誇らしげにそう言った。別の農夫も頷く。
「そうだそうだ。あんたに世話になってない者なんざ、この村にゃいねえ。あんたを守るのは、当たり前のことだ」
私は、言葉を失った。胸の奥から、熱いものがこみ上げてくる。
王都では、私は悪役令嬢として晒し者にされ、誰一人として信じてくれなかった。家族でさえ、私を見捨てた。
なのに、この辺境の村では。出会ってまだ数ヶ月しか経っていないこの村の人々が、私を「仲間だ」と言って、命がけで守ろうとしてくれている。
「……私、守られてる?」
思わず呟くと、隣にいたサラが、ふんと鼻を鳴らした。
「当たり前でしょ。あんたが今まで、この村のためにどれだけ尽くしてきたと思ってるのよ。これは、あんたが積み重ねてきた『信頼』っていう報酬よ。感謝して受け取りなさい」
毒舌の中に、温かい響きがあった。ガイアも、黙って力強く頷いている。
その夜、刺客たちは諦めて引き下がったようだった。村人たちが一丸となって私たちを匿い、村の至る所に罠を仕掛けたり、夜通し見張りを立てたりしたため、彼らも下手に手出しができなかったのだろう。
夜が明け、村に静けさが戻った。
私は、村人たち一人一人に頭を下げて回った。
「皆さん、本当にありがとうございました」
「何を言うか。水臭いぞ、便利屋」
「困った時はお互い様だろ」
皆、照れくさそうに笑いながら、私の肩を叩いてくれた。
この時、私は初めて、心からの「居場所」を見つけたと感じた。アルトレイン公爵家でも、王宮でもなく、この貧しい辺境の村こそが、私の還る場所なのだと。
王都からの刺客は、私を消し去るためにやってきた。だが皮肉にも、彼らの襲撃は、私と村人たちとの絆を、より一層強く結びつける結果となった。
便利屋クラリスは、もはや一人ではない。ロッカ村という、最強の盾を得たのだ。
「あのクラリス・アルトレインが、辺境で面白おかしく暮らしているだと? 許しがたい」
そう考えた者がいた。私の父、アルトレイン公爵の地位を奪い、その後釜に座った新公爵。彼は、私の母亡き後、父の後妻となった義母の実家、バルトルト家の人間だった。かつて私を陥れるためにリリア嬢と裏で手を組んでいた、陰謀の黒幕の一人だ。
私が生きていること、それもただ生きているだけでなく、辺境で人々に慕われているという事実が、彼らにとっては面白くなかった。自分たちの地位を脅かす火種は、小さいうちに消しておくに限る。
ある晩、私たちの廃屋兼事務所に、サラが血相を変えて飛び込んできた。
「クラリス、大変よ! 村の入り口に見慣れない男たちがいるわ! どう見ても堅気じゃない!」
サラの情報収集能力は、今や村一番だ。彼女が言うなら間違いない。ガイアがすぐさま戸口に立ち、警戒態勢に入る。
私は窓の隙間からそっと外を窺った。月明かりの下、黒ずくめの男たちが三人、明らかに私たちの家を窺っている。腰に下げた剣は、ならず者のものではない。訓練された者の動きだ。おそらくは、バルトルト家が差し向けた刺客だろう。
「どうする、クラリスさん。俺が前に出る」
「待って、ガイア。相手はプロよ。無策で突っ込むのは危険すぎるわ」
どうしたものか、と思案していると、家の扉が静かにノックされた。
開けるべきか、否か。緊張が走る。
ノックはもう一度。そして、小さな声が聞こえた。
「クラリスさん、いるかい? 村長のワシだ」
村長の声? なぜ今? ガイアが慎重に扉を少しだけ開けると、そこには村長と、数人の屈強な村人たちが、鍬や棍棒を手に立っていた。
「しっ、静かにな。あんたを狙ってる連中がいるんだろ。分かってる」
村長は、私たちを手招きした。
「何が何だか分からんが、あんたはもうこの村の人間だ。よそ者に好き勝手させるわけにはいかん。さあ、こっちへ」
村長たちに導かれ、私たちは家の裏口からこっそりと抜け出した。外に出ると、村のあちこちの家の窓から、村人たちがこちらの様子を窺っているのが見えた。彼らは、皆、私たちの味方だった。
私たちは、村長の家に匿われた。そこで、事の次第を聞かされる。
昼間、村にやってきた見慣れない男たちが、便利屋の場所をしつこく聞いて回っていたらしい。そのただならぬ雰囲気を察した村人たちが、すぐに村長へ知らせ、村全体で警戒網を敷いてくれていたのだ。
「あいつら、あんたが罪人だとか何とか言ってたが、知ったことか。俺たちが知ってるクラリスは、壊れた橋を直し、病人の手当てをし、子供に勉強を教えてくれる、ただの働き者の便利屋だ」
村の猟師が、誇らしげにそう言った。別の農夫も頷く。
「そうだそうだ。あんたに世話になってない者なんざ、この村にゃいねえ。あんたを守るのは、当たり前のことだ」
私は、言葉を失った。胸の奥から、熱いものがこみ上げてくる。
王都では、私は悪役令嬢として晒し者にされ、誰一人として信じてくれなかった。家族でさえ、私を見捨てた。
なのに、この辺境の村では。出会ってまだ数ヶ月しか経っていないこの村の人々が、私を「仲間だ」と言って、命がけで守ろうとしてくれている。
「……私、守られてる?」
思わず呟くと、隣にいたサラが、ふんと鼻を鳴らした。
「当たり前でしょ。あんたが今まで、この村のためにどれだけ尽くしてきたと思ってるのよ。これは、あんたが積み重ねてきた『信頼』っていう報酬よ。感謝して受け取りなさい」
毒舌の中に、温かい響きがあった。ガイアも、黙って力強く頷いている。
その夜、刺客たちは諦めて引き下がったようだった。村人たちが一丸となって私たちを匿い、村の至る所に罠を仕掛けたり、夜通し見張りを立てたりしたため、彼らも下手に手出しができなかったのだろう。
夜が明け、村に静けさが戻った。
私は、村人たち一人一人に頭を下げて回った。
「皆さん、本当にありがとうございました」
「何を言うか。水臭いぞ、便利屋」
「困った時はお互い様だろ」
皆、照れくさそうに笑いながら、私の肩を叩いてくれた。
この時、私は初めて、心からの「居場所」を見つけたと感じた。アルトレイン公爵家でも、王宮でもなく、この貧しい辺境の村こそが、私の還る場所なのだと。
王都からの刺客は、私を消し去るためにやってきた。だが皮肉にも、彼らの襲撃は、私と村人たちとの絆を、より一層強く結びつける結果となった。
便利屋クラリスは、もはや一人ではない。ロッカ村という、最強の盾を得たのだ。
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