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第10章:依頼帳は、地図になる
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アラン殿下撃退の一件、そして土砂崩れからの奇跡的な復興劇は、ロッカ村の小さな枠を飛び越えて、燎原の火のように広まっていった。
「辺境の村に、どんな依頼も解決するすご腕の便利屋がいるらしい」
「元公爵令嬢で、王太子の求婚を蹴ったんだと」
「ドラゴンの知り合いまでいるって話だぜ」
尾ひれはひれがついて、私の噂は一種の英雄譚のように語られるようになった。その結果、ロッカ村には新たな訪問者が絶えなくなった。
しかし、彼らは王太子のように私を連れ戻しに来るのではない。目を輝かせ、希望に満ちた若者たちだった。
「あのっ! 弟子にしてください!」
最初にそう言って私の前に現れたのは、隣町の鍛冶屋の息子だった。彼は、私の噂を聞き、便利屋という仕事に未来を感じたのだという。
それを皮切りに、次から次へと「便利屋志望」の若者たちが、ロッカ村にやってくるようになった。行き場のない元兵士、家を飛び出してきた商人の娘、冒険者崩れの青年。皆、何かしらのスキルを持っているが、それをどう活かせばいいか分からず、燻っていた者たちだ。
彼らは皆、口を揃えて言う。
「誰かの役に立ちたいんです!」
「自分の力で生きていきたいんです!」
私は、最初こそ戸惑ったが、彼らの真剣な目を見て、断ることができなかった。
「弟子は取りません。でも、仲間としてなら歓迎しますわ」
私は彼らを受け入れ、「便利屋クラリス」のノウハウを教えることにした。それは、単なる技術指導ではない。私が最も重視したのは、「依頼の受け方」と「信頼の築き方」だった。
そのために、私は自分が使っていた「クラリス式依頼帳」を、教材として使うことにした。
「いいですか。依頼帳は、ただの記録ではありません。これは、人々と繋がるための『地図』であり、信頼を育てるための『畑』なのです」
私は若者たちを前に、講義を始めた。
「依頼主の名前、依頼内容、報酬。それだけを記録するのは素人です。大事なのは、その依頼の背景にある『物語』を書き留めること。なぜ、この人はこの依頼をしたのか。何を解決したかったのか。そして、依頼が終わった後、その人はどうなったのか」
私は、ティム少年のニワトリの世話の依頼を例に出した。
「『ニワトリの世話』と書くだけでなく、『両親が出稼ぎで不在。寂しがるティム君を励ますため』と書き加える。報酬は『卵半分と、ティム君の笑顔』。こうすることで、次の依頼に繋がるヒントが見えてきます」
私の話に、若者たちは熱心に耳を傾け、必死にメモを取っている。
私は彼らに、それぞれの出身地や得意なことに合わせて、ロッカ村の外で便利屋の支部を開くことを提案した。
鍛冶屋の息子には、農具の修理や開発を専門とする「鍛冶便利屋」を。
商人の娘には、行商を兼ねて情報収集や物資の調達を行う「交易便利屋」を。
元兵士には、キャラバンの護衛や害獣駆除を請け負う「警備便利屋」を。
それぞれの個性を活かした便利屋ネットワークを、この辺境から広げていく。それが私の新たな目標になった。
この活動を体系化するため、私たちは「便利屋連盟」という組織を立ち上げた。本部はロッカ村。私が連盟長となり、ガイアが新人育成の教官、サラが全体の経理と渉外を担当する。
そして、連盟の加盟員には、統一規格の「クラリス式依頼帳」が配布された。それは、単なる手帳ではない。表紙には、槌とペンと薬草を組み合わせた便利屋連盟の紋章が刻印され、中には依頼記録のフォーマットだけでなく、基本的なロープの結び方や応急処置の方法、簡単な交渉術の心得までが記されている。サラが毒舌たっぷりに書き上げた「仕事の心得」のページは、特に評判が良かった。
「クラリス式依頼帳」は、瞬く間に若者たちの間で広まっていった。依頼帳を持つことは、便利屋連盟の一員であることの証。彼らは各地で依頼をこなし、その記録を定期的にロッカ本部に報告する。その情報は、連盟全体で共有され、新たな依頼の解決に役立てられた。
ロッカ村の依頼帳は、いつしかこの国全体の地図のように、情報で埋め尽くされていった。
「東の港町で、船の修理工が不足しているらしい」
「北の鉱山で、新しい鉱脈が見つかったそうだ」
「南の農村で、原因不明の病気が流行っている」
それは、王宮の情報網よりも早く、正確な、生きた情報だった。
私たちは、もはやただの村の便利屋ではなかった。国中に根を張る、巨大な情報組織であり、実働部隊となっていた。
私の小さな思いつきから始まった便利屋稼業が、今、この国の形を少しずつ変えようとしていた。
「辺境の村に、どんな依頼も解決するすご腕の便利屋がいるらしい」
「元公爵令嬢で、王太子の求婚を蹴ったんだと」
「ドラゴンの知り合いまでいるって話だぜ」
尾ひれはひれがついて、私の噂は一種の英雄譚のように語られるようになった。その結果、ロッカ村には新たな訪問者が絶えなくなった。
しかし、彼らは王太子のように私を連れ戻しに来るのではない。目を輝かせ、希望に満ちた若者たちだった。
「あのっ! 弟子にしてください!」
最初にそう言って私の前に現れたのは、隣町の鍛冶屋の息子だった。彼は、私の噂を聞き、便利屋という仕事に未来を感じたのだという。
それを皮切りに、次から次へと「便利屋志望」の若者たちが、ロッカ村にやってくるようになった。行き場のない元兵士、家を飛び出してきた商人の娘、冒険者崩れの青年。皆、何かしらのスキルを持っているが、それをどう活かせばいいか分からず、燻っていた者たちだ。
彼らは皆、口を揃えて言う。
「誰かの役に立ちたいんです!」
「自分の力で生きていきたいんです!」
私は、最初こそ戸惑ったが、彼らの真剣な目を見て、断ることができなかった。
「弟子は取りません。でも、仲間としてなら歓迎しますわ」
私は彼らを受け入れ、「便利屋クラリス」のノウハウを教えることにした。それは、単なる技術指導ではない。私が最も重視したのは、「依頼の受け方」と「信頼の築き方」だった。
そのために、私は自分が使っていた「クラリス式依頼帳」を、教材として使うことにした。
「いいですか。依頼帳は、ただの記録ではありません。これは、人々と繋がるための『地図』であり、信頼を育てるための『畑』なのです」
私は若者たちを前に、講義を始めた。
「依頼主の名前、依頼内容、報酬。それだけを記録するのは素人です。大事なのは、その依頼の背景にある『物語』を書き留めること。なぜ、この人はこの依頼をしたのか。何を解決したかったのか。そして、依頼が終わった後、その人はどうなったのか」
私は、ティム少年のニワトリの世話の依頼を例に出した。
「『ニワトリの世話』と書くだけでなく、『両親が出稼ぎで不在。寂しがるティム君を励ますため』と書き加える。報酬は『卵半分と、ティム君の笑顔』。こうすることで、次の依頼に繋がるヒントが見えてきます」
私の話に、若者たちは熱心に耳を傾け、必死にメモを取っている。
私は彼らに、それぞれの出身地や得意なことに合わせて、ロッカ村の外で便利屋の支部を開くことを提案した。
鍛冶屋の息子には、農具の修理や開発を専門とする「鍛冶便利屋」を。
商人の娘には、行商を兼ねて情報収集や物資の調達を行う「交易便利屋」を。
元兵士には、キャラバンの護衛や害獣駆除を請け負う「警備便利屋」を。
それぞれの個性を活かした便利屋ネットワークを、この辺境から広げていく。それが私の新たな目標になった。
この活動を体系化するため、私たちは「便利屋連盟」という組織を立ち上げた。本部はロッカ村。私が連盟長となり、ガイアが新人育成の教官、サラが全体の経理と渉外を担当する。
そして、連盟の加盟員には、統一規格の「クラリス式依頼帳」が配布された。それは、単なる手帳ではない。表紙には、槌とペンと薬草を組み合わせた便利屋連盟の紋章が刻印され、中には依頼記録のフォーマットだけでなく、基本的なロープの結び方や応急処置の方法、簡単な交渉術の心得までが記されている。サラが毒舌たっぷりに書き上げた「仕事の心得」のページは、特に評判が良かった。
「クラリス式依頼帳」は、瞬く間に若者たちの間で広まっていった。依頼帳を持つことは、便利屋連盟の一員であることの証。彼らは各地で依頼をこなし、その記録を定期的にロッカ本部に報告する。その情報は、連盟全体で共有され、新たな依頼の解決に役立てられた。
ロッカ村の依頼帳は、いつしかこの国全体の地図のように、情報で埋め尽くされていった。
「東の港町で、船の修理工が不足しているらしい」
「北の鉱山で、新しい鉱脈が見つかったそうだ」
「南の農村で、原因不明の病気が流行っている」
それは、王宮の情報網よりも早く、正確な、生きた情報だった。
私たちは、もはやただの村の便利屋ではなかった。国中に根を張る、巨大な情報組織であり、実働部隊となっていた。
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