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第11章:王都からのSOS
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便利屋連盟が発足してから一年が過ぎた冬のこと。王都から、一通の公式な依頼書がロッカ村本部に届いた。差出人は、王太子アラン殿下ではなく、宰相の名で記されていた。
依頼内容は、衝撃的なものだった。
『王都の一部区画にて、原因不明の魔力凍結現象が発生。都市機能が麻痺状態に陥っている。王宮魔術師団の力をもってしても、解決の糸口が見えず。よって、便利屋連盟に、この事態の収拾を正式に依頼する』
「魔力凍結……ですって?」
サラが眉をひそめる。それは、魔力が完全にその場から消失し、あらゆる魔法が使えなくなるという、極めて稀な現象だ。魔法に大きく依存している王都にとって、それは死活問題だった。暖房用の魔道具も、調理用の魔力コンロも、明かりも、すべてが使えなくなる。
「王宮が私たちを頼るなんて、よっぽどのことね」
「ああ。だが、これは罠かもしれん」
ガイアが警戒を強める。私を陥れた義母の一派が、まだ王都には残っているはずだ。
しかし、依頼書に添えられていた現状報告は、そんな悠長なことを言っていられないほど深刻だった。凍結は貧民街を中心に発生し、多くの人々が寒さと飢えに苦しんでいるという。
「……罠かもしれない。でも、困っている人たちがいるのは事実よ」
私は、決断した。
「この依頼、受けましょう。便利屋連盟の総力を挙げて、王都を救います」
私は連盟に所属するメンバーの中から、選りすぐりのエキスパートを招集した。
建築と土木に詳しい元大工のチーム。
薬草と医療に精通した元薬師のチーム。
物資の調達と輸送を得意とする元商人のチーム。
そして、私たちロッカ本部の三人。総勢五十名からなる「王都復旧チーム」を結成し、私たちは追放されて以来、初めて王都へと向かった。
王都の様子は、一変していた。私たちが担当する区画は、まるでゴーストタウンのように静まり返り、人々は家の隅で毛布にくるまり、寒さに震えていた。空気は重く、魔法の気配が一切感じられない。
王宮から派遣された役人や騎士たちは、魔法が使えない状況に右往左往するばかりで、何もできずにいた。
「ようこそ、クラリス殿。お待ちしておりました」
やつれた顔の宰相が、私たちを出迎えた。彼は、かつて私の能力を正当に評価してくれていた数少ない貴族の一人だった。
「状況は?」
「最悪です。このままでは、凍死者が出てもおかしくない」
「わかりました。まず、三つのことを同時に進めます。暖の確保、食料の供給、そして、原因の調査です」
私は、即座に指示を飛ばした。
建築チームは、魔法を使わない昔ながらの方法で、簡易的なかまどと煙突を各家に設置していく。燃料は、ガイアのチームが王都近郊の森から切り出してきた薪だ。
医療チームは、凍傷や風邪の患者を手当てするために、地区の集会所に臨時診療所を開設する。
商業チームは、連盟のネットワークを駆使して、王都の外から大量の食料や毛布を運び込み、炊き出しを開始した。温かいスープが、凍えた人々の心と体を温めていく。
私たちのチームは、魔法に頼らない、人の手による地道な作業で、着実に凍りついた街に温もりを取り戻していった。その手際の良さと組織力に、王宮の役人たちはただただ目を見張るばかりだった。
一方で、私とサラ、そして数名の調査班は、魔力凍結の原因究明にあたっていた。
「クラリス、見つけたわ。この地区の地下水路、どうやらおかしいわよ」
サラの報告を受け、私たちは地下水路へと向かった。そこには、古代語で書かれた巨大な魔法陣が、黒い光を放ちながら描かれていた。
「これは……魔力吸収の魔法陣……!」
誰かが意図的に、この地区の魔力を吸い取り、どこかへ転送しているのだ。
「犯人は、十中八九、あんたの義母の一派でしょうね。王宮を混乱させ、現体制を転覆させるのが狙いよ」
「ええ。でも、こんな大掛かりな魔法陣、どうやって解除すれば……」
私が考え込んでいると、背後から静かな声がした。
「手伝おうか、クラリス」
振り返ると、そこに立っていたのは、いつの間に現れたのか、銀髪の青年――リュミエールだった。
「リュミエール! なぜここに?」
「君の依頼帳は、我ら竜の一族にも繋がっている。君が王都で難儀していると聞いてな。これしきの古代魔法、我が力を使えば容易い」
リュミエールは魔法陣の中心に立つと、その手をかざした。彼の体から、黄金色の膨大な魔力が溢れ出し、黒い魔法陣を飲み込んでいく。やがて、魔法陣は甲高い音を立てて砕け散り、霧散した。
途端に、冷え切っていた空気に、ふわりと魔法の力が戻ってくるのがわかった。街の魔道具に、再び明かりが灯り始める。
「王族が動けなくても、私たちが動けば済む話ですわ」
私が宰相にそう告げた時、彼は深く、深く頭を下げた。
「完敗です、クラリス殿。いや、連盟長殿。この国は、あなた方のような力こそを必要としていたのかもしれない」
数日後、王都の一角は、見事に元の機能を取り戻していた。それどころか、私たちの手でインフラが整備されたことで、以前よりも住みやすい街になったと評判になった。
王宮は、この功績に対し、便利屋連盟に破格の報酬と、公式な活動許可を与えることを約束した。
義母の一派は、この事件をきっかけに一網打尽にされ、王宮から完全に追放された。
私たちは、王都に勝利の証を打ち立て、英雄として、再び辺境の地へと帰還した。王都での華やかな暮らしに未練はなかった。私たちの居場所は、やはりロッカ村なのだから。
依頼内容は、衝撃的なものだった。
『王都の一部区画にて、原因不明の魔力凍結現象が発生。都市機能が麻痺状態に陥っている。王宮魔術師団の力をもってしても、解決の糸口が見えず。よって、便利屋連盟に、この事態の収拾を正式に依頼する』
「魔力凍結……ですって?」
サラが眉をひそめる。それは、魔力が完全にその場から消失し、あらゆる魔法が使えなくなるという、極めて稀な現象だ。魔法に大きく依存している王都にとって、それは死活問題だった。暖房用の魔道具も、調理用の魔力コンロも、明かりも、すべてが使えなくなる。
「王宮が私たちを頼るなんて、よっぽどのことね」
「ああ。だが、これは罠かもしれん」
ガイアが警戒を強める。私を陥れた義母の一派が、まだ王都には残っているはずだ。
しかし、依頼書に添えられていた現状報告は、そんな悠長なことを言っていられないほど深刻だった。凍結は貧民街を中心に発生し、多くの人々が寒さと飢えに苦しんでいるという。
「……罠かもしれない。でも、困っている人たちがいるのは事実よ」
私は、決断した。
「この依頼、受けましょう。便利屋連盟の総力を挙げて、王都を救います」
私は連盟に所属するメンバーの中から、選りすぐりのエキスパートを招集した。
建築と土木に詳しい元大工のチーム。
薬草と医療に精通した元薬師のチーム。
物資の調達と輸送を得意とする元商人のチーム。
そして、私たちロッカ本部の三人。総勢五十名からなる「王都復旧チーム」を結成し、私たちは追放されて以来、初めて王都へと向かった。
王都の様子は、一変していた。私たちが担当する区画は、まるでゴーストタウンのように静まり返り、人々は家の隅で毛布にくるまり、寒さに震えていた。空気は重く、魔法の気配が一切感じられない。
王宮から派遣された役人や騎士たちは、魔法が使えない状況に右往左往するばかりで、何もできずにいた。
「ようこそ、クラリス殿。お待ちしておりました」
やつれた顔の宰相が、私たちを出迎えた。彼は、かつて私の能力を正当に評価してくれていた数少ない貴族の一人だった。
「状況は?」
「最悪です。このままでは、凍死者が出てもおかしくない」
「わかりました。まず、三つのことを同時に進めます。暖の確保、食料の供給、そして、原因の調査です」
私は、即座に指示を飛ばした。
建築チームは、魔法を使わない昔ながらの方法で、簡易的なかまどと煙突を各家に設置していく。燃料は、ガイアのチームが王都近郊の森から切り出してきた薪だ。
医療チームは、凍傷や風邪の患者を手当てするために、地区の集会所に臨時診療所を開設する。
商業チームは、連盟のネットワークを駆使して、王都の外から大量の食料や毛布を運び込み、炊き出しを開始した。温かいスープが、凍えた人々の心と体を温めていく。
私たちのチームは、魔法に頼らない、人の手による地道な作業で、着実に凍りついた街に温もりを取り戻していった。その手際の良さと組織力に、王宮の役人たちはただただ目を見張るばかりだった。
一方で、私とサラ、そして数名の調査班は、魔力凍結の原因究明にあたっていた。
「クラリス、見つけたわ。この地区の地下水路、どうやらおかしいわよ」
サラの報告を受け、私たちは地下水路へと向かった。そこには、古代語で書かれた巨大な魔法陣が、黒い光を放ちながら描かれていた。
「これは……魔力吸収の魔法陣……!」
誰かが意図的に、この地区の魔力を吸い取り、どこかへ転送しているのだ。
「犯人は、十中八九、あんたの義母の一派でしょうね。王宮を混乱させ、現体制を転覆させるのが狙いよ」
「ええ。でも、こんな大掛かりな魔法陣、どうやって解除すれば……」
私が考え込んでいると、背後から静かな声がした。
「手伝おうか、クラリス」
振り返ると、そこに立っていたのは、いつの間に現れたのか、銀髪の青年――リュミエールだった。
「リュミエール! なぜここに?」
「君の依頼帳は、我ら竜の一族にも繋がっている。君が王都で難儀していると聞いてな。これしきの古代魔法、我が力を使えば容易い」
リュミエールは魔法陣の中心に立つと、その手をかざした。彼の体から、黄金色の膨大な魔力が溢れ出し、黒い魔法陣を飲み込んでいく。やがて、魔法陣は甲高い音を立てて砕け散り、霧散した。
途端に、冷え切っていた空気に、ふわりと魔法の力が戻ってくるのがわかった。街の魔道具に、再び明かりが灯り始める。
「王族が動けなくても、私たちが動けば済む話ですわ」
私が宰相にそう告げた時、彼は深く、深く頭を下げた。
「完敗です、クラリス殿。いや、連盟長殿。この国は、あなた方のような力こそを必要としていたのかもしれない」
数日後、王都の一角は、見事に元の機能を取り戻していた。それどころか、私たちの手でインフラが整備されたことで、以前よりも住みやすい街になったと評判になった。
王宮は、この功績に対し、便利屋連盟に破格の報酬と、公式な活動許可を与えることを約束した。
義母の一派は、この事件をきっかけに一網打尽にされ、王宮から完全に追放された。
私たちは、王都に勝利の証を打ち立て、英雄として、再び辺境の地へと帰還した。王都での華やかな暮らしに未練はなかった。私たちの居場所は、やはりロッカ村なのだから。
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