無能な悪役令嬢は静かに暮らしたいだけなのに、超有能な側近たちの勘違いで救国の聖女になってしまいました

黒崎隼人

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第6話:領地改革は意図せずして

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 王都の喧騒から逃れるため、私は再び領地に引きこもることにした。今度こそ、誰にも邪魔されず、静かに過ごすのだ。
 ヴァレンシュタイン領は広大で、王都から遠く離れている。ここにいれば、皇太子もヒロインもやってこないだろう。

「ああ、やっぱり領地は落ち着くわ……」
 私は自室のバルコニーで椅子に身を預け、大きく伸びをした。目の前には青々とした麦畑が広がっている。
「毎日、美味しいものを食べて、のんびり昼寝をして暮らしたい……。それが私のたった一つの願いなのに」
 しみじみと呟いた、私の偽らざる本心。
 しかし、その独り言は、背後に控えていた三人の忠臣たちには、全く違う意味で届いていた。

 筆頭執事コンラート。
(『領民を飢えさせず、安寧を与える』……なんと慈悲深いお言葉か。これこそ、為政者の鑑。つまり、食料の安定供給と治安維持を徹底せよ、というご命令に違いない)

 専属メイドのリリア。
(『美味しいものを食べ、寝て暮らす』……生活水準の向上! それはすなわち、インフラの整備! そうだわ、上下水道を整備し、生活用の魔導具を普及させれば、領民の暮らしはもっと豊かになるはず! お嬢様は、私にその未来を示してくださっているのね!)

 騎士団長ダリウス。
(『安心して昼寝ができる暮らし』……それは、外敵の脅威がない平和な領地のことだ! 賊や魔物を一掃し、国境の警備を完璧にこなせという、お嬢様からの厳命だ!)

 三人はアイコンタクトを交わすと、深く頷き合った。そして、私の知らぬ間に、恐るべき速度で行動を開始した。

 コンラートは、まず領内の食糧事情を徹底的に調査。余剰作物を適切な価格で買い上げ、不足している地域へ迅速に輸送する流通システムを構築した。これにより、領内から飢えに苦しむ者がいなくなった。さらに、彼の元部下(暗殺組織のメンバー)たちを治安維持部隊として再編成し、領内の犯罪を撲滅した。

 リリアは、次々と生活を豊かにする魔導具を開発。自動で水を汲み上げるポンプ、火を使わずに調理ができる魔導コンロ、夜道を明るく照らす魔導灯など。それらの発明品は、ヴァレンシュタイン商会を通じて安価で領民に提供され、人々の生活は劇的に改善された。

 ダリウスは、騎士団を率いて領内を徹底的に巡回。山賊のアジトを叩き潰し、森に潜む魔物を狩り尽くした。国境には新たな砦を築き、その鉄壁の守りは「ヴァレンシュタインの壁」と呼ばれ、隣国からも恐れられるほどだった。

 私はといえば、そんなことが起きているとは露知らず、毎日「今日は何のお菓子を食べようか」「昼寝に最適な場所はどこかしら」と考えながら、自堕落な日々を送っていただけ。

 しかし、数ヶ月も経つと、さすがの私でも領地の変化に気づかざるを得なかった。
 街は活気に溢れ、人々の顔は明るい。道は綺麗に整備され、夜でも街灯が輝いている。何より、食事が以前より格段に美味しくなっていた。

「最近、なんだか領地がすごく発展してないかしら?」
 私がお茶を飲みながらコンラートに尋ねると、彼は恭しく微笑んだ。
「全ては、お嬢様のお導きのおかげでございます」
「私、何もしてないわよ?」
「ご謙遜を。『毎日美味しいものを食べて寝て暮らしたい』。あのお言葉こそが、我々が進むべき道を示してくださったのです。お嬢様の深遠なるお考えには、いつも驚かされてばかりです」

 もはや、何を言っても無駄だ。
 この人たちは、私のダラけたいという欲望すら、民を思う高尚な精神の表れだと信じて疑わないのだ。

 結果として、ヴァレンシュタイン領は、王国一豊かで安全な土地へと変貌を遂げた。税収は上がり、人口は増え、その評判は王都にも轟いた。
 そして、この「奇跡の領地改革」の立役者として、私の名はさらに神格化されていくのだった。

 どうしてこうなるの?
 私は本当に、本当に、ただダラダラしたいだけなのに!
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