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第5話:王宮夜会と最初の接触
政治、経済、軍事。あらゆる分野でトンデモない伝説(全て勘違い)を打ち立ててしまった私は、父の命令で、半ば強制的に王都へと連れ戻された。そして、逃れる間もなく、王宮で開かれる夜会への参加を命じられた。
「嫌よ、絶対に行きたくないわ。どうせまた面倒なことになるもの」
「こら、イザベラ。お前はヴァレンシュタイン公爵家の令嬢なのだぞ。それに、今のお前は国の英雄だ。顔を出さないわけにはいかんだろう」
父に諭され、私は渋々、重い腰を上げた。
きらびやかなシャンデリアが輝く大広間。優雅な音楽と、着飾った貴族たちの談笑の声。しかし、私にとっては処刑場も同然だ。
「いいこと、イザベラ。今日の目標は『壁の花』。誰とも話さず、何も食べず、ただそこに存在するだけの置物になるのよ」
私は自分にそう言い聞かせ、会場の隅にある柱の陰に陣取った。ここなら誰にも気づかれまい。
しかし、その目論見は開始五分で崩れ去った。
「まあ、あの方がイザベラ様……」
「なんと落ち着いていらっしゃる。少しの隙も見せないわ」
「下手に動かず、会場全体を観察しておられるのだ。さすがは稀代の策略家……」
遠巻きに聞こえてくるヒソヒソ話に、私は眩暈がしそうだった。何もしないで立っているだけで、なぜそんな深読みをされるのか。もういっそ、あくびでもしてやろうか。
そんな私の心労を知ってか知らずか、ついに最悪の人物たちがこちらへやってきた。
一人は、この国の王太子であり、私の婚約者であるアルフォンス殿下。金色の髪に青い瞳、神が作ったとしか思えない美貌を持つ、まさに王子様然とした青年だ。
そして、その隣には、控えめに寄り添う一人の少女。ふわふわの亜麻色の髪に、澄んだ翠の瞳。ゲームのヒロイン、聖なる力を持つ平民のエマだ。
来た。来たわよ、破滅フラグの擬人化たちが!
原作では、ここでイザベラがエマに嫌味を言い、アルフォンスに諌められることで、二人の絆が深まるイベントが発生するはずだ。
「イザベラ・フォン・ヴァレンシュタイン」
アルフォンス皇太子が、私をまっすぐに見つめてくる。その青い瞳には、以前の軽蔑の色はない。代わりに宿っているのは、強い好奇心と……少しばかりの警戒心。
「殿下、ごきげんよう」
私は淑女のカーテシーを完璧に決める。ここでボロを出せば、面倒なことになるのは分かっている。とにかく、当たり障りなく、会話を早く切り上げるのだ。
「君の噂は聞いている。マーガレット侯爵の件、見事な手腕だったそうだね」
「……お褒めに預かり光栄ですわ」
ほら、やっぱりその話だ。私は何もしていないのに。
すると、アルフォンスの隣にいたエマが、おずおずと一歩前に出た。
「あ、あの、イザベラ様! 『魔法の冷蔵庫』、素晴らしい発明です! 私のいた孤児院でも、あれのおかげで夏でも食べ物が悪くならなくなって、みんな助かっています!」
純粋な尊敬の眼差し。キラキラした瞳が眩しい。原作では私にいじめられて泣いていた少女はどこへやら、すっかり私の信者一号のようになってしまっている。
「……そう。それは良かったわね」
どう返事をしていいか分からず、素っ気なく答えるのが精一杯だった。これが原作のイザベラなら、「平民の分際で馴れ馴れしい」とでも言うところだろう。
私の短い返事を聞いたアルフォンスは、なぜか「ふむ」と顎に手を当てて考え込んでいる。
(何を考えているのよ、この王子……)
すると、アルフォンスは何かを納得したように頷き、私に言った。
「君が、ただの傲慢な令嬢ではないことは分かってきた。イザベラ、君は一体何を考えている? 君の目的は何だ?」
目的?
私の目的は、あなたとの婚約を破棄して、一日三食昼寝付きのニート生活を送ることですけど?
もちろん、そんな本音を言えるはずもなく、私はただ曖昧に微笑むだけ。
「さあ、何のことでしょう?」
ミステリアスな女を演じておけば、勝手に深読みしてくれるだろうという魂胆だ。
私のその態度が、アルフォンスには別の意味に映ったらしい。彼は挑戦的な笑みを浮かべた。
「面白い。君という人間、私が必ず解き明かしてみせる」
やめてください。解き明かさないでください。私の頭の中はダラダラすることしか考えていませんから!
こうして、破滅フラグであるはずの王太子とヒロインとの最初の接触は、私の意図とは全く違う形で終わった。
アルフォンス皇太子は私に強い興味を抱き、ヒロインのエマは私に心酔している。
……あれ? これ、どうやったら婚約破棄できるの?
私はただ、穏便にフェードアウトしたいだけなのに。
事態は、ますます私の望まない方向へと転がり始めていた。
「嫌よ、絶対に行きたくないわ。どうせまた面倒なことになるもの」
「こら、イザベラ。お前はヴァレンシュタイン公爵家の令嬢なのだぞ。それに、今のお前は国の英雄だ。顔を出さないわけにはいかんだろう」
父に諭され、私は渋々、重い腰を上げた。
きらびやかなシャンデリアが輝く大広間。優雅な音楽と、着飾った貴族たちの談笑の声。しかし、私にとっては処刑場も同然だ。
「いいこと、イザベラ。今日の目標は『壁の花』。誰とも話さず、何も食べず、ただそこに存在するだけの置物になるのよ」
私は自分にそう言い聞かせ、会場の隅にある柱の陰に陣取った。ここなら誰にも気づかれまい。
しかし、その目論見は開始五分で崩れ去った。
「まあ、あの方がイザベラ様……」
「なんと落ち着いていらっしゃる。少しの隙も見せないわ」
「下手に動かず、会場全体を観察しておられるのだ。さすがは稀代の策略家……」
遠巻きに聞こえてくるヒソヒソ話に、私は眩暈がしそうだった。何もしないで立っているだけで、なぜそんな深読みをされるのか。もういっそ、あくびでもしてやろうか。
そんな私の心労を知ってか知らずか、ついに最悪の人物たちがこちらへやってきた。
一人は、この国の王太子であり、私の婚約者であるアルフォンス殿下。金色の髪に青い瞳、神が作ったとしか思えない美貌を持つ、まさに王子様然とした青年だ。
そして、その隣には、控えめに寄り添う一人の少女。ふわふわの亜麻色の髪に、澄んだ翠の瞳。ゲームのヒロイン、聖なる力を持つ平民のエマだ。
来た。来たわよ、破滅フラグの擬人化たちが!
原作では、ここでイザベラがエマに嫌味を言い、アルフォンスに諌められることで、二人の絆が深まるイベントが発生するはずだ。
「イザベラ・フォン・ヴァレンシュタイン」
アルフォンス皇太子が、私をまっすぐに見つめてくる。その青い瞳には、以前の軽蔑の色はない。代わりに宿っているのは、強い好奇心と……少しばかりの警戒心。
「殿下、ごきげんよう」
私は淑女のカーテシーを完璧に決める。ここでボロを出せば、面倒なことになるのは分かっている。とにかく、当たり障りなく、会話を早く切り上げるのだ。
「君の噂は聞いている。マーガレット侯爵の件、見事な手腕だったそうだね」
「……お褒めに預かり光栄ですわ」
ほら、やっぱりその話だ。私は何もしていないのに。
すると、アルフォンスの隣にいたエマが、おずおずと一歩前に出た。
「あ、あの、イザベラ様! 『魔法の冷蔵庫』、素晴らしい発明です! 私のいた孤児院でも、あれのおかげで夏でも食べ物が悪くならなくなって、みんな助かっています!」
純粋な尊敬の眼差し。キラキラした瞳が眩しい。原作では私にいじめられて泣いていた少女はどこへやら、すっかり私の信者一号のようになってしまっている。
「……そう。それは良かったわね」
どう返事をしていいか分からず、素っ気なく答えるのが精一杯だった。これが原作のイザベラなら、「平民の分際で馴れ馴れしい」とでも言うところだろう。
私の短い返事を聞いたアルフォンスは、なぜか「ふむ」と顎に手を当てて考え込んでいる。
(何を考えているのよ、この王子……)
すると、アルフォンスは何かを納得したように頷き、私に言った。
「君が、ただの傲慢な令嬢ではないことは分かってきた。イザベラ、君は一体何を考えている? 君の目的は何だ?」
目的?
私の目的は、あなたとの婚約を破棄して、一日三食昼寝付きのニート生活を送ることですけど?
もちろん、そんな本音を言えるはずもなく、私はただ曖昧に微笑むだけ。
「さあ、何のことでしょう?」
ミステリアスな女を演じておけば、勝手に深読みしてくれるだろうという魂胆だ。
私のその態度が、アルフォンスには別の意味に映ったらしい。彼は挑戦的な笑みを浮かべた。
「面白い。君という人間、私が必ず解き明かしてみせる」
やめてください。解き明かさないでください。私の頭の中はダラダラすることしか考えていませんから!
こうして、破滅フラグであるはずの王太子とヒロインとの最初の接触は、私の意図とは全く違う形で終わった。
アルフォンス皇太子は私に強い興味を抱き、ヒロインのエマは私に心酔している。
……あれ? これ、どうやったら婚約破棄できるの?
私はただ、穏便にフェードアウトしたいだけなのに。
事態は、ますます私の望まない方向へと転がり始めていた。
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