出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人

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第6話「寂れた村の救世主」

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 テル村との交流が始まってから、一ヶ月が経った。
 俺は週に一度、収穫した野菜を山ほど積んだ荷車を引いて村を訪れるのが日課になっていた。荷車はもちろん『絶対農域』スキルで土から作り出したものだ。我ながらこのスキルの応用力には驚かされる。

 俺の野菜のおかげでテル村は劇的な変化を遂げていた。
 以前の暗く活気のない雰囲気は完全に消え去り、今では村のどこからでも人々の明るい笑い声が聞こえてくる。

「カイさん、いつもありがとうよ!」
「あんたのおかげで、うちのじいちゃんの膝の痛みがすっかり良くなったんだ」
「このニンジン、うちの子が大好きなのよ!」

 村を歩けば誰もが笑顔で俺に話しかけてくれる。
『辺境の聖者様』なんて大げさな呼び方はさすがにやめてもらったが、代わりに『カイさん』と親しみを込めて呼ばれるようになっていた。

 俺の野菜は村人たちの健康を改善しただけではなかった。
 栄養満点の野菜を食べたことで村人たちは活力を取り戻し、以前はろくに作物が育たなかった自分たちの畑をもう一度懸命に耕し始めたのだ。
 俺は自分のスキルで作った特製の『栄養満点堆肥』を彼らに提供した。もちろんこれも土から作り出したものだ。

 すると驚くべきことに、テル村の痩せた土地でも少しずつだが質の良い作物が育つようになってきた。
 村人たちの顔には自信と希望が満ちあふれている。

「すごいぜ、カイさん! あんたの堆肥を使ったら、こんなに立派なカブができた!」

 村の若者トムが、見事なカブを手に誇らしげに報告してくれた。

「よかったじゃないか、トム。みんなで頑張った成果だな」

 俺は自分のことのように嬉しかった。
 俺が与えたのはほんの少しのきっかけに過ぎない。村をここまで変えたのは紛れもなく、村人たち自身の努力だ。

 この日も俺は野菜を売り終え、村長さんの家でお茶をご馳走になっていた。
 村長はしわの刻まれた顔をほころばせ、深々と頭を下げた。

「カイ殿。本当に、なんとお礼を言ったらよいか……。あなた様は、このテル村の救世主です」

「やめてくださいよ、村長。俺はただ自分が作った野菜を売っているだけですから」

「ご謙遜を。あなた様がいなければ、この村は今頃飢えと病で滅んでいたでしょう。このご恩は、村人一同決して忘れませぬ」

 そう言って村長は一つの袋を俺に差し出した。
 中には銀貨が数枚入っている。

「これは村からの心ばかりの感謝のしるしです。どうか、お受け取りください」

「いけませんよ、こんな大金! 俺はちゃんと野菜の代金はもらってますから」

 俺が固辞すると、村長は困ったように笑った。

「そうおっしゃらずに。あなた様のおかげで村は豊かになり、こうして蓄えもできました。これは未来への投資でもあるのです。これからも、あなた様とこの村が良い関係でいられるように、と」

 村長の真摯な瞳に俺はそれ以上断ることができなかった。
 ありがたく銀貨を受け取る。これで王都に行けば、もっと色々なものが買えるだろう。

 村からの帰り道、ルプスが俺の足元を嬉しそうに駆け回っている。
 荷車は空になり、代わりに村人たちからもらった手作りのパンや干し肉でいっぱいになっていた。

『なんだか、悪くないな』

 一人きりのスローライフを望んでいたはずなのに、人との繋がりというのも存外、心地よいものだ。
 誰かに感謝され、必要とされる喜び。
 前世でも今世の前半でも、決して味わうことのできなかった温かい感情が胸の中に満ちていく。

 そんなことを考えながら、俺は自分の領域へと戻ってきた。
 カモフラージュのために植えた木々が見事な森を形成し、外からは中の様子をうかがい知ることはできない。完璧な隠れ家だ。

「さーて、明日からのためにまた畑を耕しますか!」

 俺が意気揚々とクワを手に取った、その時だった。

「グルルゥ……!」

 ルプスが鋭い警戒音を発した。
 その視線は領域の入り口、テル村へと続く道の方へ向けられている。

「どうした、ルプス? また魔物か?」

 だがルプスの様子は、いつもの魔物に対するものとは少し違った。
 警戒はしているが、敵意というよりは戸惑いに近い感情が伝わってくる。

 俺もそちらに意識を集中させる。
 すると森の向こうから、複数の人間がこちらに近づいてくる気配がした。
 それもただの村人ではない。統率の取れた足音。金属が擦れる音。
 おそらく鎧を身に着けた兵士のような集団だ。

『なんで、こんな場所に兵士が?』

 俺の心臓がドクンと嫌な音を立てた。
 テル村の誰かが俺の秘密を漏らした? いや、あの村人たちがそんなことをするはずがない。

 では、一体誰が?

 俺は咄嗟に身を隠し、息を殺して様子をうかがう。
 やがて森の茂みから、数人の人影が現れた。

 先頭を歩くのは、白銀の鎧に身を包んだ凛とした雰囲気の女性。腰には立派な剣を携え、その立ち姿からは相当な手練れであることがうかがえる。
 その後ろには同じく武装した兵士が数名と、神官のようなローブをまとった人物が続いている。

 その一団は俺の領域の前で足を止めた。
 不毛の荒野に突如として現れた豊かな森。彼らが驚き、訝しむのも無理はない。

「ここか……。『奇跡の野菜』を生み出すという賢者が住む場所は」

 白銀の鎧の女性が、低いしかしよく通る声でつぶやいた。

『奇跡の野菜……賢者……?』

 どうやら彼らの目的は俺らしい。
 テル村で売っていた野菜の噂が、こんなところにまで届いてしまったというのか。
 しかも話がとんでもなく大きくなっている。俺はただの農民であって、賢者なんかじゃない。

 これは非常にまずい状況だ。
 貴族や騎士といった連中と関わるのは絶対に避けたかった。追放された身としては目立たず、ひっそりと暮らしていきたいのだ。

 俺がどうするべきか悩んでいると、女性はこちらに向かって声を張り上げた。

「そこにいるのは分かっている! 我らはクロービス王国騎士団! 怪しい者ではない! 賢者殿に是非ともお会いしたい!」

 その声には有無を言わせぬ威厳がこもっていた。
 逃げることはできそうにない。

 俺は覚悟を決め、ルプスに「待て」と合図を送ると、ゆっくりと木々の間から姿を現した。

「……俺に、何か用でしょうか」

 俺の姿を認めると、騎士たちは一瞬驚いたような顔をした。
 彼らが想像していた『賢者』と、俺のような若い農民の姿があまりにもかけ離れていたのだろう。

 白銀の鎧の女性はすぐに冷静さを取り戻し、俺をまっすぐに見据えた。
 その瞳は全てを見透かすような、鋭い輝きを放っている。

「貴殿がこの地の賢者殿か。私は、王国騎士団第三部隊隊長を務める、エリアナ・フォン・ヴァーミリオンと申す」

 エリアナと名乗った女性は、優雅に一礼した。
 その丁寧な物腰とは裏腹に、彼女から発せられるプレッシャーは尋常じゃない。

「賢者だなんて人違いです。俺はカイ。ただのしがない農民ですよ」

「謙遜は不要。テル村の者たちから全て聞いている。貴殿の作る作物が人々を病から救い、大地を蘇らせた奇跡を」

 エリアナの言葉に俺は内心で舌打ちした。
 村人たちに悪気はなかったのだろう。純粋な感謝の気持ちから俺のことを話してしまったに違いない。
 だがその結果がこれだ。

「それで、王国騎士団の方々が俺に一体どんなご用件で?」

 俺がぶっきらぼうに尋ねると、エリアナは真剣な表情で衝撃的な言葉を口にした。

「単刀直入に言う。我らが主君、クロービス国王の王女リリアーナ様が、原因不明の病に倒れられた。あらゆる治癒魔法も、高名な薬師の薬も効果がない」

 エリアナは続けた。その声には切実な響きがこもっていた。

「我らは藁にもすがる思いで、あらゆる情報を集めた。そしてテル村で起きている奇跡の噂にたどり着いたのだ。賢者カイ殿、どうか貴殿の力で王女様をお救いいただきたい!」

 そう言ってエリアナは、その場に膝をつき深く頭を下げた。
 その後ろで他の騎士たちも一斉に同じようにひざまずく。

 王女を、救ってほしい。
 あまりにもスケールの大きな話だった。

 俺はただ静かにスローライフを送りたいだけなのに。
 どうしてこんなことになってしまったんだ。

 俺の足元でルプスが「クゥン」と不安そうな声を上げた。
 俺はそのもふもふの頭を撫でながら、目の前で頭を下げる騎士たちをただ呆然と見つめることしかできなかった。
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