出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人

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番外編1「ルプスと秘密のおやつ」

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 クゥン……。
 ボクの名前はルプス。ご主人様であるカイ様につけてもらった、とってもカッコいい名前だ。
 グラン爺が言うには、ボクは伝説の聖獣『銀狼(フェンリル)』なんだって。自分ではよく分からないけど、時々すっごく大きくなれるし、悪い魔物を一瞬でやっつけられるから、たぶんそうなのだと思う。

 でも、ボクは普段はこの小さな姿の方が好きだ。
 だって、この姿だとご主人様がたくさんもふもふしてくれるから。
 ご主人様の大きくて優しい手で頭を撫でられるのが、ボクは世界で一番好きだ。

 そんなご主人様が、最近とっても幸せそうな顔をしている。
 セレスティア様と結婚したからだ。
 セレスティア様はすごく優しくて美人で、ご主人様と同じくらいボクを可愛がってくれる。
 それに、時々こっそり美味しいおやつをくれるから、ボクは大好きだ。

 今日もご主人様とセレスティア様は、二人で仲良く畑仕事に出かけている。
 ボクはお留守番。
 ログハウスの前で日向ぼっこをしながらうとうとしていた。

 くんくん。
 ふと、鼻をかすめた甘くて香ばしい匂い。
 ボクはぱちりと目を開けた。
 この匂いは知っている。セレスティア様が昨日焼いていた、クッキーの匂いだ!
 確か、戸棚の一番上の段に隠していたはず。

『……ちょっとだけなら、バレないかな』

 ボクはそろりと立ち上がった。
 そして小さな体でログハウスのドアを器用に開け、中に忍び込む。
 しめしめ。誰もいない。

 ボクはくんくんと匂いを頼りにキッチンの戸棚へと向かった。
 見上げるほど高い戸棚。
 一番上の段には、どうやっても届きそうにない。

『うーん……』

 ボクは少し考え、にやりと口角を上げた。
 こういう時のために、ボクにはとっておきの技があるのだ。

 ボクはその場で少しだけ力を込めた。
 するとボクの体はむくむくと大きくなり、中型犬くらいのサイズになる。
 これならジャンプすれば届くはずだ。

「よし!」

 ボクは小さく気合を入れると、床を力強く蹴った。
 ふわりと体が宙に浮き、前足で戸棚の扉をカチャリと開けることに成功した。
 中にはビンに詰められた美味しそうなクッキーがたくさん入っている!

 ボクはビンを器用に口でくわえると、無事に床へと着地した。
 そして元の小さな姿に戻る。
 完璧なミッションだった。

 さあ、お待ちかねのおやつの時間だ。
 ボクはビンの蓋を前足でくるくると回して開け、クッキーを一枚取り出した。
 サクサクとした食感。
 バターの豊かな香りと優しい甘さが口いっぱいに広がる。

「……おいしい!」

 思わず声に出てしまった。
 ボクは夢中になってクッキーを一枚、また一枚と食べていく。
 ああ、幸せだ。

 ボクがクッキーの味に酔いしれていると、ふと背後から視線を感じた。
 まさか。
 ご主人様たちがもう帰ってきた?

 ボクはおそるおそる振り返った。
 そこにいたのはご主人様たちではなかった。
 一体のカボチャだった。

 いや、ただのカボチャではない。
 ご主人様が作った野菜兵(ベジタブル・ソルジャー)のカボチャ兵さんだ。
 彼はいつからそこにいたのか、ツルの腕を組み、じっとボクのことを見つめていた。
 そのくり抜かれた目から感情は読み取れない。
 でも、なんだか怒っているような気がした。

『や、やばい……!』

 ボクは完全に油断していた。
 まさか野菜兵に見張られているとは。

 カボチャ兵さんはゆっくりとボクに近づいてくる。
 そして無言のままツルの腕で、キッチンに置いてあった小さな黒板とチョークを器用に掴んだ。
 そして黒板に何かを書き始めた。
 キュッ、キュッ、というチョークの音がやけに大きく聞こえる。

 書き終えたカボチャ兵さんは、その黒板をボクの目の前に突きつけてきた。
 そこには、こう書かれていた。

『オヤツハ、イチニチ、イチマイマデ』

 ……ご主人様とセレスティア様が決めたルールだった。
 ボクは、そのルールを破ってしまったのだ。
 ビンのクッキーは、もう半分くらいに減っている。

 ボクはカボチャ兵さんの無言の圧力に耐え切れず、その場にぺたりと座り込んだ。
 そして、食べかけのクッキーをそっと床に置く。

『ごめんなさい……』

 ボクが心の中で謝ると、カボチャ兵さんはこくりと頷いた。
 そしてクッキーのビンと黒板を元の場所に戻すと、また部屋の隅でじっと動かなくなった。

 ボクはしょんぼりしながらログハウスの外に出た。
 ああ、なんてことだ。
 しばらくはおやつ抜きかもしれない。

 ボクが玄関の前で落ち込んでいると、畑仕事から帰ってきたご主人様が、ボクの頭を撫でてくれた。

「どうした、ルプス。元気ないな?」

 ご主人様の優しい声に、ボクは思わず涙が出そうになった。

「クゥン……」

 ボクはご主人様の足元にすり寄った。

 ごめんなさい、ご主人様。
 ボクは悪い子です。
 でも、どうか嫌いにならないでください。

 ボクは心の中で何度も何度も謝った。
 ご主人様はそんなボクの気持ちを分かってくれているのか、何も言わず、ただ優しくボクを抱きしめてくれた。

 やっぱり、ボクはご主人様が世界で一番大好きだ。
 これからは、もうつまみ食いはやめよう。
 そう固く心に誓ったルプスなのでした。

 ……まあ、三日後にはまたカボチャ兵さんに怒られることになるのだけれど。
 それは、また別のお話。
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