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第10話「豊穣の英雄と伯爵位」
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ヴェルデから送り出された大量の食料は、飢饉に苦しむアルト地方の民にとってまさに天の恵みだった。餓死寸前だった人々の手に、栄養価の高いパンや滋養に満ちた野菜スープが行き渡る。
カイトの作る作物は、ただ腹を満たすだけではなかった。その作物に含まれる豊かな生命力が、飢えと病で弱りきっていた人々の身体を内側から癒し、気力を取り戻させていった。死の淵をさまよっていた子供たちが元気を取り戻し、絶望に沈んでいた村々に笑顔が戻っていく。
アルト地方の隅々にまで食料が行き渡り、飢饉が完全に終息するのにそう時間はかからなかった。
この知らせは、瞬く間に王都を駆け巡った。誰もが不可能だと思っていた国家的な危機を、たった一人の男と彼が治める小さな町が救ってしまったのだ。
カイトの名は「豊穣の英雄」として、王国の誰もが知るところとなった。吟遊詩人たちは彼の功績を称える歌を作り、その歌は酒場や広場で多くの人々に口ずさまれた。
そして、カイトは再び王城へと召喚された。
今回は、以前とは比較にならないほどの歓迎ムードだった。城の廊下ですれ違う貴族たちは皆カイトに敬意のこもったお辞儀をし、兵士たちは彼に最敬礼を送った。
玉座の間に通されたカイトを、国王アルフォンスと王女セレスティアが満面の笑みで迎えた。
「よくぞ参った、カイト。いや、もはや男爵と呼ぶのはふさわしくあるまい」
国王は玉座から立ち上がると、カイトの前に進み出た。
「カイトよ。そなたは、この王国を滅亡の危機から救った。その功績は万金の褒美をもってしても足りぬほどである。よって、ここにそなたを伯爵位に叙することを宣言する!」
伯爵。それは一介の平民からの成り上がりとしては、異例中の異例、前代未聞の大出世だった。周囲の大臣たちからも、驚きの声と共に称賛の拍手が巻き起こる。
「カイト伯爵。領地は、現在のヴェルデに加えその周辺一帯の豊かな土地を与えることとする。今後はその類まれなる農業の才を、王国全体のために役立ててほしい」
「は……! 身に余る光栄です、陛下」
カイトは深く頭を下げた。自分が貴族になることなど、想像もしていなかった。だがこれでヴェルデの仲間たちと領地の民の暮らしをより安泰にできるのなら、その地位を受け入れる意味はあるだろう。
叙爵の儀式が終わった後、セレスティアがカイトのもとに駆け寄ってきた。その頬は興奮で上気し、青い瞳は喜びで輝いている。
「やりましたね、カイトさん! いいえ、カイト伯爵様!」
「やめてくれよ、セレスティア。今まで通り、カイトでいい」
カイトが苦笑すると、セレスティアはくすくすと笑った。
「ふふ、ごめんなさい。でも、本当に嬉しいのです。あなたがこの国にいてくれて、本当によかった」
彼女の心からの言葉に、カイトの胸も温かくなった。
その夜、カイトの伯爵叙任を祝う盛大な祝宴が王宮で開かれた。
豪華な料理が並び、美しい音楽が奏でられる。多くの貴族たちが、次々とカイトのもとへ挨拶に訪れた。誰もが「豊穣の英雄」との繋がりを持とうと必死だった。
人混みにもまれ、少し疲れたカイトがバルコニーに出て夜風に当たっていると、そこへセレスティアがやってきた。
「お疲れですか、カイトさん」
「ああ、少しだけね。こういう華やかな場所は、どうも慣れなくて」
二人は並んで、王都の美しい夜景を眺めた。無数の灯りが、まるで地上の星々のようにきらめいている。
「カイトさん」
セレスティアが、真剣な声でカイトの名を呼んだ。
「あなたは、これからどうしたいですか? 伯爵となり、大きな力と名声を手に入れました。望めば、もっと高い地位にだって上れるでしょう」
彼女の問いに、カイトは少し黙って夜景を見つめた後、穏やかに答えた。
「俺のやりたいことは、何も変わらないよ。ヴェルデで仲間たちと一緒に畑を耕して、美味しいものを作ってみんなで笑って暮らす。領地が広がったのなら、今度はもっとたくさんの人たちを同じように笑顔にしたい。ただ、それだけだ」
彼の答えは、初めて会った時から何一つ変わっていなかった。富や名声を得ても、彼の本質は素朴で心優しい、一人の農業を愛する青年のままだった。
セレスティアは、その変わらない姿に安堵と、そして今まで感じたことのない強い想いを抱いていることに気づいた。
「素敵です……。カイトさん、あなたらしい答えですね」
彼女は、うっとりとした表情でカイトを見つめた。
「もし、よろしければ……私も、時々あなたの領地へ行ってもよろしいでしょうか。あなたの作る畑と、そこにいる人々の笑顔をもっと見ていたいのです」
「もちろん、大歓迎だ」
カイトの快諾に、セレスティアは花が咲くような笑顔を見せた。
英雄となったカイトの周りには、新たな仲間と、そして彼を慕う人々の輪がますます大きく広がっていく。しかし彼の前には、また新たな、そしてより大きな試練が待ち受けていることを、この時の彼はまだ知らなかった。
カイトの作る作物は、ただ腹を満たすだけではなかった。その作物に含まれる豊かな生命力が、飢えと病で弱りきっていた人々の身体を内側から癒し、気力を取り戻させていった。死の淵をさまよっていた子供たちが元気を取り戻し、絶望に沈んでいた村々に笑顔が戻っていく。
アルト地方の隅々にまで食料が行き渡り、飢饉が完全に終息するのにそう時間はかからなかった。
この知らせは、瞬く間に王都を駆け巡った。誰もが不可能だと思っていた国家的な危機を、たった一人の男と彼が治める小さな町が救ってしまったのだ。
カイトの名は「豊穣の英雄」として、王国の誰もが知るところとなった。吟遊詩人たちは彼の功績を称える歌を作り、その歌は酒場や広場で多くの人々に口ずさまれた。
そして、カイトは再び王城へと召喚された。
今回は、以前とは比較にならないほどの歓迎ムードだった。城の廊下ですれ違う貴族たちは皆カイトに敬意のこもったお辞儀をし、兵士たちは彼に最敬礼を送った。
玉座の間に通されたカイトを、国王アルフォンスと王女セレスティアが満面の笑みで迎えた。
「よくぞ参った、カイト。いや、もはや男爵と呼ぶのはふさわしくあるまい」
国王は玉座から立ち上がると、カイトの前に進み出た。
「カイトよ。そなたは、この王国を滅亡の危機から救った。その功績は万金の褒美をもってしても足りぬほどである。よって、ここにそなたを伯爵位に叙することを宣言する!」
伯爵。それは一介の平民からの成り上がりとしては、異例中の異例、前代未聞の大出世だった。周囲の大臣たちからも、驚きの声と共に称賛の拍手が巻き起こる。
「カイト伯爵。領地は、現在のヴェルデに加えその周辺一帯の豊かな土地を与えることとする。今後はその類まれなる農業の才を、王国全体のために役立ててほしい」
「は……! 身に余る光栄です、陛下」
カイトは深く頭を下げた。自分が貴族になることなど、想像もしていなかった。だがこれでヴェルデの仲間たちと領地の民の暮らしをより安泰にできるのなら、その地位を受け入れる意味はあるだろう。
叙爵の儀式が終わった後、セレスティアがカイトのもとに駆け寄ってきた。その頬は興奮で上気し、青い瞳は喜びで輝いている。
「やりましたね、カイトさん! いいえ、カイト伯爵様!」
「やめてくれよ、セレスティア。今まで通り、カイトでいい」
カイトが苦笑すると、セレスティアはくすくすと笑った。
「ふふ、ごめんなさい。でも、本当に嬉しいのです。あなたがこの国にいてくれて、本当によかった」
彼女の心からの言葉に、カイトの胸も温かくなった。
その夜、カイトの伯爵叙任を祝う盛大な祝宴が王宮で開かれた。
豪華な料理が並び、美しい音楽が奏でられる。多くの貴族たちが、次々とカイトのもとへ挨拶に訪れた。誰もが「豊穣の英雄」との繋がりを持とうと必死だった。
人混みにもまれ、少し疲れたカイトがバルコニーに出て夜風に当たっていると、そこへセレスティアがやってきた。
「お疲れですか、カイトさん」
「ああ、少しだけね。こういう華やかな場所は、どうも慣れなくて」
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「カイトさん」
セレスティアが、真剣な声でカイトの名を呼んだ。
「あなたは、これからどうしたいですか? 伯爵となり、大きな力と名声を手に入れました。望めば、もっと高い地位にだって上れるでしょう」
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「もちろん、大歓迎だ」
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