過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました

黒崎隼人

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エピローグ「大地に続く物語」

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 あれから、十年以上の歳月が流れた。

 ヴェルデの地は今や大陸中から農業を学びに来る人々が集まる、学術と文化の中心地となっていた。かつての小さな村は、美しく整備された街並みが広がる、誰もが憧れる楽園としてその名を馳せている。

 街の中心から少し離れた、小高い丘の上。そこには昔と変わらない、素朴だが温かみのある一軒の家が建っている。家の周りには色とりどりの作物が実る広大な畑と、豊かな香りを放つ薬草園が広がっていた。

 家のテラスでは、一人の男性が気持ちよさそうに椅子に座ってまどろんでいた。

 カイト。
 歳を重ね、少しだけ目尻に優しいしわが増えたが、その穏やかな雰囲気は昔のままだ。

「あなた、またそんなところでうたた寝して。風邪をひきますよ」

 優しい声と共に、彼の肩にそっとブランケットがかけられる。声の主はリリアだった。彼女もまたエルフならではの時の流れの中で、変わらぬ美しさを保っている。

「ん……ああ、リリアか。すまない、日差しが気持ちよくて」

 カイトが身じろぎすると、彼の足元で丸くなっていた巨大な銀狼フェンが、ゆっくりと顔を上げた。その姿は十年前と少しも変わらず、神々しい威厳を放っている。

「父様、母様! 見て見て! こんなに大きなカボチャが採れたよ!」

 畑の方から、元気な子供たちの声が聞こえてくる。銀色の髪を持つ快活な少年と、翠の髪を持つおっとりとした少女が、二人でも抱えきれないほど大きなカボチャを運んできた。彼らはカイトと、彼の妻たちとの間に生まれた子供たちだ。

「まあ、すごいわね! 今夜はパンプキンスープにしましょうか」

 そこへ、帳簿を片手にしたミーナが、変わらぬ太陽のような笑顔でやってきた。彼女は今や大陸経済を動かす大商会の会長だが、生活の拠点は今もこのヴェルデに置いている。

「あらあら、皆さんお揃いで。ちょうど王都から、美味しいお菓子が届きましたわよ」

 優雅な足取りで現れたのは、セレスティアだった。彼女は王位を兄に譲り、カイトの妻として暮らしながらも、王家の一員として国の発展に助言を与えるなど、頻繁に王都とこの「実家」を往復している。

 リリア、ミーナ、セレスティア。
 カイトは三人の最愛の妻たちと、そして多くの子供たちに囲まれ、賑やかで穏やかな毎日を送っていた。彼は誰か一人を選ぶのではなく、全員を家族として受け入れる道を選んだ。それは常識外れかもしれないが、彼らにとっては何よりも自然で幸せな形だった。

「みんな、揃ったな。じゃあ、少し早いが夕食の準備でも始めようか」

 カイトが立ち上がると、子供たちが歓声を上げて彼の周りに集まった。

 食卓には、今日も採れたての野菜を使った愛情のこもった料理が並ぶ。カイトが焼いた香ばしいパン、リリアが作ったハーブサラダ、ミーナが持ってきた珍しい果物、セレスティアが取り寄せた王家御用達の紅茶。

 そして、子供たちの楽しそうな笑い声。

 カイトは、その光景を目を細めて見つめていた。

 前世で彼が失ったもの。家族の温もり、満ち足りた時間、そして自分の手で何かを生み出す喜び。その全てが、今ここにあった。

 彼がこの世界でやったことは、ただ一つ。
 心を込めて土を耕し種を蒔き、作物を育てた。そして、それを人々と分かち合った。

 ただそれだけのことだった。

 しかしそのささやかな行いが人々の心に温かい光を灯し、村を育て国を救い、そしてかけがえのない家族という最高の宝物を彼にもたらしてくれた。

 夕日が、広大な畑を黄金色に染め上げていく。

 カイトと彼の家族が紡ぐ物語は、まだ始まったばかり。
 この豊かな大地が全てを受け入れ育んでくれる限り、彼らの幸せな日々の物語は未来永劫続いていくだろう。

 それは、剣や魔法が作る伝説ではない。
 土と、食と、笑顔が紡ぎ出す、どこまでも温かく優しい奇跡の物語。
 大地の恵みに感謝を捧げる、全ての人々への祝福である。
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