過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました

黒崎隼人

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番外編「もふもふが見つめる食卓」

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 僕の名前はフェン。この森で生まれ、ずっとこの森と共に生きてきた聖なる狼だ。

 普段は、この小さな姿でいることが多い。こっちのほうが主様の足元で昼寝をするのにちょうどいいからだ。

 僕の主様、カイトはちょっと変わった人間だ。

 初めて会った時、僕は深い傷を負って死にかけていた。人間たちは僕ら森の生き物から奪うことしかしない。だから彼が森の木を切っているのを見た時、最後の力を振り絞って彼を排除しようと思ったんだ。

 でも、彼は違った。僕が傷ついていることに気づくと、恐ろしいはずの僕を憐れみ不思議な力を持ったカブを差し出してくれた。あのカブの味は、今でも忘れられない。乾いた身体に、命の水が染み渡るようだった。あの瞬間に、僕は決めたんだ。この優しい人間の傍らで、彼を守って生きていこうって。

 主様の周りには、いつも美味しい匂いとたくさんの笑顔がある。

 主様は、まるで魔法使いみたいだ。彼が手をかけると死んでいた大地が息を吹き返し、色とりどりの作物が実る。その作物は、どれもこれも太陽と大地の力がぎゅっと詰まった、最高の味がする。

 今日も、主様の家の食卓は賑やかだ。

「カイト、この新しいハーブを使ったドレッシング、試してみて。トマトの甘みを引き立てると思うの」

 そう言うのは、エルフのリリア。最初は森を荒らす人間だって主様を警戒していたけど、今ではすっかり主様に心を許している。彼女が作る薬や料理は、森の知恵と優しさが詰まった味がする。

「ちょっとリリア! そのドレッシング、うちの商会で商品化しない!? 絶対売れるよ!」

 元気な声で割り込んでくるのは、獣人のミーナ。彼女は主様の作るものの価値を、一番最初に世界に広めてくれた。彼女が来ると、いつも新しい風とわくわくする話が舞い込んでくる。

「まあ、ミーナさん。相変わらず商魂たくましいのですね。でも、その発想は素晴らしいです」

 お淑やかに笑うのは、この国のお姫様、セレスティア。彼女は王様の一番大切な娘なのに、よくこの小さな家にやってきては楽しそうに畑仕事を手伝っている。彼女がいると、食卓がぱっと華やかになるんだ。

 主様は、そんな三人に囲まれて本当に幸せそうに笑っている。

「みんな、ありがとう。うん、このドレッシングすごく美味しいよ。リリアは天才だな」

「もう、カイトったら……」

「ずるい! カイト、私のことも褒めてよー!」

「カイトさんの淹れるお茶は、世界一ですわ」

 きゃっきゃと騒がしい食卓。僕はそのテーブルの下で、主様の足に身体を預けながらその光景を眺めているのが大好きだ。時々、主様がこっそりテーブルの下に、お肉のかけらをくれるのも知っている。

 主様は、すごい人だ。聖獣の僕を助け、飢饉から国を救い、戦争まで止めてしまった。みんなは彼を「英雄」と呼ぶ。

 でも僕にとっての主様は、ただの、優しいカイトだ。

 僕が怪我をすれば、心配そうに抱きしめてくれる。
 僕が遊んでほしくて尻尾を振れば、どんなに忙しくても時間を忘れてボール投げをしてくれる。
 そして僕の毛並みを撫でるその手は、いつも土の匂いがしてとても温かい。

 主様は、よく言う。

「美味しいものを、好きなみんなと一緒に食べる。それが一番の幸せだ」って。

 本当に、その通りだと思う。

 今日の夕飯は、主様が作った新作のシチューらしい。たくさんの野菜とお肉が、コトコトと煮込まれている。いい匂いだ。

 リリアとセレスティアが、テーブルにパンとサラダを並べている。ミーナは、どこかからか持ってきた珍しい果実酒の栓を開けている。

 ああ、なんて幸せな時間なんだろう。

 この食卓が、この笑顔が、この温かい時間が、ずっと、ずっと続けばいい。

 そのためなら、僕はこの大きな身体で、この鋭い牙で、なんだってするつもりだ。

 主様が、僕の名を呼ぶ。

「フェン、ご飯だぞ」

 僕は、わん! と一声元気よく鳴いて、主様の足元へと駆け寄った。

 僕の幸せもまた、この賑やかな食卓の中に確かにあるのだから。
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