16 / 16
エピローグ「大地に続く物語」
しおりを挟む
あれから、十年以上の歳月が流れた。
ヴェルデの地は今や大陸中から農業を学びに来る人々が集まる、学術と文化の中心地となっていた。かつての小さな村は、美しく整備された街並みが広がる、誰もが憧れる楽園としてその名を馳せている。
街の中心から少し離れた、小高い丘の上。そこには昔と変わらない、素朴だが温かみのある一軒の家が建っている。家の周りには色とりどりの作物が実る広大な畑と、豊かな香りを放つ薬草園が広がっていた。
家のテラスでは、一人の男性が気持ちよさそうに椅子に座ってまどろんでいた。
カイト。
歳を重ね、少しだけ目尻に優しいしわが増えたが、その穏やかな雰囲気は昔のままだ。
「あなた、またそんなところでうたた寝して。風邪をひきますよ」
優しい声と共に、彼の肩にそっとブランケットがかけられる。声の主はリリアだった。彼女もまたエルフならではの時の流れの中で、変わらぬ美しさを保っている。
「ん……ああ、リリアか。すまない、日差しが気持ちよくて」
カイトが身じろぎすると、彼の足元で丸くなっていた巨大な銀狼フェンが、ゆっくりと顔を上げた。その姿は十年前と少しも変わらず、神々しい威厳を放っている。
「父様、母様! 見て見て! こんなに大きなカボチャが採れたよ!」
畑の方から、元気な子供たちの声が聞こえてくる。銀色の髪を持つ快活な少年と、翠の髪を持つおっとりとした少女が、二人でも抱えきれないほど大きなカボチャを運んできた。彼らはカイトと、彼の妻たちとの間に生まれた子供たちだ。
「まあ、すごいわね! 今夜はパンプキンスープにしましょうか」
そこへ、帳簿を片手にしたミーナが、変わらぬ太陽のような笑顔でやってきた。彼女は今や大陸経済を動かす大商会の会長だが、生活の拠点は今もこのヴェルデに置いている。
「あらあら、皆さんお揃いで。ちょうど王都から、美味しいお菓子が届きましたわよ」
優雅な足取りで現れたのは、セレスティアだった。彼女は王位を兄に譲り、カイトの妻として暮らしながらも、王家の一員として国の発展に助言を与えるなど、頻繁に王都とこの「実家」を往復している。
リリア、ミーナ、セレスティア。
カイトは三人の最愛の妻たちと、そして多くの子供たちに囲まれ、賑やかで穏やかな毎日を送っていた。彼は誰か一人を選ぶのではなく、全員を家族として受け入れる道を選んだ。それは常識外れかもしれないが、彼らにとっては何よりも自然で幸せな形だった。
「みんな、揃ったな。じゃあ、少し早いが夕食の準備でも始めようか」
カイトが立ち上がると、子供たちが歓声を上げて彼の周りに集まった。
食卓には、今日も採れたての野菜を使った愛情のこもった料理が並ぶ。カイトが焼いた香ばしいパン、リリアが作ったハーブサラダ、ミーナが持ってきた珍しい果物、セレスティアが取り寄せた王家御用達の紅茶。
そして、子供たちの楽しそうな笑い声。
カイトは、その光景を目を細めて見つめていた。
前世で彼が失ったもの。家族の温もり、満ち足りた時間、そして自分の手で何かを生み出す喜び。その全てが、今ここにあった。
彼がこの世界でやったことは、ただ一つ。
心を込めて土を耕し種を蒔き、作物を育てた。そして、それを人々と分かち合った。
ただそれだけのことだった。
しかしそのささやかな行いが人々の心に温かい光を灯し、村を育て国を救い、そしてかけがえのない家族という最高の宝物を彼にもたらしてくれた。
夕日が、広大な畑を黄金色に染め上げていく。
カイトと彼の家族が紡ぐ物語は、まだ始まったばかり。
この豊かな大地が全てを受け入れ育んでくれる限り、彼らの幸せな日々の物語は未来永劫続いていくだろう。
それは、剣や魔法が作る伝説ではない。
土と、食と、笑顔が紡ぎ出す、どこまでも温かく優しい奇跡の物語。
大地の恵みに感謝を捧げる、全ての人々への祝福である。
ヴェルデの地は今や大陸中から農業を学びに来る人々が集まる、学術と文化の中心地となっていた。かつての小さな村は、美しく整備された街並みが広がる、誰もが憧れる楽園としてその名を馳せている。
街の中心から少し離れた、小高い丘の上。そこには昔と変わらない、素朴だが温かみのある一軒の家が建っている。家の周りには色とりどりの作物が実る広大な畑と、豊かな香りを放つ薬草園が広がっていた。
家のテラスでは、一人の男性が気持ちよさそうに椅子に座ってまどろんでいた。
カイト。
歳を重ね、少しだけ目尻に優しいしわが増えたが、その穏やかな雰囲気は昔のままだ。
「あなた、またそんなところでうたた寝して。風邪をひきますよ」
優しい声と共に、彼の肩にそっとブランケットがかけられる。声の主はリリアだった。彼女もまたエルフならではの時の流れの中で、変わらぬ美しさを保っている。
「ん……ああ、リリアか。すまない、日差しが気持ちよくて」
カイトが身じろぎすると、彼の足元で丸くなっていた巨大な銀狼フェンが、ゆっくりと顔を上げた。その姿は十年前と少しも変わらず、神々しい威厳を放っている。
「父様、母様! 見て見て! こんなに大きなカボチャが採れたよ!」
畑の方から、元気な子供たちの声が聞こえてくる。銀色の髪を持つ快活な少年と、翠の髪を持つおっとりとした少女が、二人でも抱えきれないほど大きなカボチャを運んできた。彼らはカイトと、彼の妻たちとの間に生まれた子供たちだ。
「まあ、すごいわね! 今夜はパンプキンスープにしましょうか」
そこへ、帳簿を片手にしたミーナが、変わらぬ太陽のような笑顔でやってきた。彼女は今や大陸経済を動かす大商会の会長だが、生活の拠点は今もこのヴェルデに置いている。
「あらあら、皆さんお揃いで。ちょうど王都から、美味しいお菓子が届きましたわよ」
優雅な足取りで現れたのは、セレスティアだった。彼女は王位を兄に譲り、カイトの妻として暮らしながらも、王家の一員として国の発展に助言を与えるなど、頻繁に王都とこの「実家」を往復している。
リリア、ミーナ、セレスティア。
カイトは三人の最愛の妻たちと、そして多くの子供たちに囲まれ、賑やかで穏やかな毎日を送っていた。彼は誰か一人を選ぶのではなく、全員を家族として受け入れる道を選んだ。それは常識外れかもしれないが、彼らにとっては何よりも自然で幸せな形だった。
「みんな、揃ったな。じゃあ、少し早いが夕食の準備でも始めようか」
カイトが立ち上がると、子供たちが歓声を上げて彼の周りに集まった。
食卓には、今日も採れたての野菜を使った愛情のこもった料理が並ぶ。カイトが焼いた香ばしいパン、リリアが作ったハーブサラダ、ミーナが持ってきた珍しい果物、セレスティアが取り寄せた王家御用達の紅茶。
そして、子供たちの楽しそうな笑い声。
カイトは、その光景を目を細めて見つめていた。
前世で彼が失ったもの。家族の温もり、満ち足りた時間、そして自分の手で何かを生み出す喜び。その全てが、今ここにあった。
彼がこの世界でやったことは、ただ一つ。
心を込めて土を耕し種を蒔き、作物を育てた。そして、それを人々と分かち合った。
ただそれだけのことだった。
しかしそのささやかな行いが人々の心に温かい光を灯し、村を育て国を救い、そしてかけがえのない家族という最高の宝物を彼にもたらしてくれた。
夕日が、広大な畑を黄金色に染め上げていく。
カイトと彼の家族が紡ぐ物語は、まだ始まったばかり。
この豊かな大地が全てを受け入れ育んでくれる限り、彼らの幸せな日々の物語は未来永劫続いていくだろう。
それは、剣や魔法が作る伝説ではない。
土と、食と、笑顔が紡ぎ出す、どこまでも温かく優しい奇跡の物語。
大地の恵みに感謝を捧げる、全ての人々への祝福である。
188
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~
御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。
異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。
前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。
神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。
朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。
そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。
究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。
勇者パーティを追放された地味な器用貧乏は、 魔王軍の女騎士とスローライフを送る
ちくわ食べます
ファンタジー
勇者パーティから「地味、英雄譚の汚点」と揶揄され追放された器用貧乏な裏方の僕。
帰る場所もなく死の森を彷徨っていたところ、偶然にも重傷を負った魔王軍四天王で最強の女騎士「黒鉄剣のリューシア」と遭遇する。
敵同士のはずなのに、なぜか彼女を放っておけなくて。治療し、世話をし、一緒に暮らすことになった僕。
これは追放された男と、敗北を重ね居場所を失った女の物語。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~
御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。
十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。
剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。
十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。
紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。
十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。
自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。
その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。
※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。
冒険者パーティから追放された俺、万物創生スキルをもらい、楽園でスローライフを送る
六志麻あさ
ファンタジー
とある出来事をきっかけに仲間から戦力外通告を突きつけられ、パーティを追放された冒険者カイル。
だが、以前に善行を施した神様から『万物創生』のスキルをもらい、人生が一変する。
それは、便利な家具から大規模な土木工事、果てはモンスター退治用のチート武器までなんでも作ることができるスキルだった。
世界から見捨てられた『呪われた村』にたどり着いたカイルは、スキルを使って、美味しい料理や便利な道具、インフラ整備からモンスター撃退などを次々とこなす。
快適な楽園となっていく村で、カイルのスローライフが幕を開ける──。
●表紙画像は、ツギクル様のイラストプレゼント企画で阿倍野ちゃこ先生が描いてくださったヒロインのノエルです。大きな画像は1章4「呪われた村1」の末尾に載せてあります。(c)Tugikuru Corp. ※転載等はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる