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第13話「英雄の選択と未来への種」
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戦争の危機を乗り越え、アルグランド王国には真の平和が訪れた。ガルニア帝国との間にはカイトの仲介のもと、友好的な不可侵条約が結ばれた。帝国はヴェルデ領の高度な農業技術を学ぶために、多くの視察団を派遣するようになった。かつての敵国は、今や食を通じて固い絆で結ばれつつあった。
カイトの功績は、もはや計り知れないものとなっていた。国王アルフォンスは彼に公爵の地位と、宰相への就任を打診した。王国史上最高の栄誉だった。誰もがカイトはその申し出を受け、この国の頂点に立つものだと信じて疑わなかった。
しかし王宮に呼び出されたカイトの答えは、皆の予想を裏切るものだった。
「陛下。そのお話、大変光栄に存じます。ですが、お受けすることはできません」
彼の言葉に、玉座の間は水を打ったように静まり返った。
国王が、驚きを隠せない様子で問いかける。
「……なぜだ、カイト伯。お前ならば、この国をさらに豊かに導けるはずだ。何が不満だというのだ」
カイトは穏やかな、しかし揺るぎない眼差しで国王を見つめ、静かに語り始めた。
「俺は、政治家ではありません。ただの、土を愛する農民です。俺の幸せは玉座の間ではなく、広大な畑の中にあります。俺の力は人々の上に立つことではなく、人々の腹と心を満たすことにあると信じています」
彼は、ゆっくりと続けた。
「俺は、伯爵の地位も返上したいと思っています。ただのカイトとしてヴェルデの地で、これからも仲間たちと共に作物を作り続けていきたい。それが、俺にできるこの国への一番の貢献だと思うのです」
彼のあまりにも謙虚な、そして誠実な願いに、その場にいた誰もが言葉を失った。富も名声も権力も、彼は何も望まない。ただ、愛する大地と共に生きることだけを望んでいる。
その時、ずっと黙って話を聞いていたセレスティアが、一歩前に進み出た。彼女の瞳は、決意の光に満ちていた。
「父上。では、私からも一つお願いがございます」
彼女は、その場で深々と頭を下げた。
「私、セレスティア・フォン・アルグランドは王女の位を返上し、カイト様の元へ嫁ぐことをお許しください!」
「な……!?」
今度こそ、玉座の間は蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。王女が、一介の(元)貴族に嫁ぐなど前代未聞のことだった。
当のカイトが、一番驚いて目を白黒させている。
「セレスティア!? いったい何を……!」
セレスティアはカイトに向き直ると、頬を赤らめながらもまっすぐな瞳で彼を見つめた。
「私は、ずっと見てきました。あなたが誰かのために、見返りを求めずただひたすらに尽くす姿を。私はそんなあなたの生き方を、誰よりも近くで支えたいのです。王女としてではなく、ただ一人の女性としてあなたの隣にいたいのです」
彼女の、魂からの告白だった。
その真剣な想いを受けて、カイトの心も大きく揺さぶられた。思えば彼女はいつも彼のことを信じ、支えてくれた。彼女の存在が、どれほど大きな力になっていたことか。
そしてカイトの脳裏には、いつも傍らで彼を支えてくれた二人の女性の顔も浮かんでいた。森で出会った心優しきエルフのリリア。太陽のように明るい笑顔で、彼の夢を支えてくれた獣人のミーナ。彼女たちもまた、彼にとってかけがえのない大切な存在だった。
カイトは深く息を吸い込むと、国王と、そしてセレスティアに向かって決意を込めて言った。
「……セレスティア。君の気持ちは、とても嬉しい。だけど俺には、君と同じように大切にしたい人たちがいる。リリアもミーナも、俺にとっては家族同然の、かけがえのない仲間なんだ」
それは彼なりの誠実な答えだった。一人の女性だけを選ぶことはできない。だが、皆を等しく生涯をかけて大切にしたい。
普通なら不敬罪に問われかねない発言。しかしセレスティアは少しも怒るそぶりを見せず、むしろ嬉しそうに微笑んだ。
「はい、存じております。リリアさんもミーナさんも、本当に素敵な方たちですもの。……でしたら、みんなで一緒に幸せになりませんか?」
そのあまりにも大胆な提案に、カイトは今度こそ言葉を失った。
国王アルフォンスは、最初こそ呆気に取られていたがやがて天を仰いで、腹の底から豪快に笑い出した。
「はっはっは! まったく、お前たちは……! 常識というものを、ことごとく打ち破ってくれるわ!」
彼はしばらく笑い続けた後、威厳のある声で言った。
「よかろう! 全て許す! カイト、お前は爵位を返上し、ただの民として生きるがよい。だがヴェルデの地は、未来永劫お前とその仲間たちのものだ。誰にも干渉はさせん」
そして彼はセレスティアに向かって、優しい父親の顔で言った。
「セレスティア。お前の人生だ。お前の好きなように生きなさい。……だが、たまには顔を見せに帰ってくるのだぞ」
「はい、父上……! ありがとうございます!」
こうして伝説の英雄は、全ての地位を捨て愛する仲間たちと共に、再び一人の農民へと戻った。
ヴェルデの地に戻ったカイトを、リリアとミーナが少し呆れたような、でもとても嬉しそうな顔で迎えた。
三人の姫君に囲まれた彼の新たな生活は、きっと今まで以上に賑やかで、幸せなものになるだろう。
カイトは、青く澄み渡った空の下、どこまでも広がる緑の大地を見渡した。彼の物語はここで一つの終わりを告げた。しかし彼らが未来へと蒔いた幸せの種は、これからも芽吹き育ち、多くの人々を笑顔にしていくに違いない。
彼の愛したこの大地が、豊かであり続ける限り。
カイトの功績は、もはや計り知れないものとなっていた。国王アルフォンスは彼に公爵の地位と、宰相への就任を打診した。王国史上最高の栄誉だった。誰もがカイトはその申し出を受け、この国の頂点に立つものだと信じて疑わなかった。
しかし王宮に呼び出されたカイトの答えは、皆の予想を裏切るものだった。
「陛下。そのお話、大変光栄に存じます。ですが、お受けすることはできません」
彼の言葉に、玉座の間は水を打ったように静まり返った。
国王が、驚きを隠せない様子で問いかける。
「……なぜだ、カイト伯。お前ならば、この国をさらに豊かに導けるはずだ。何が不満だというのだ」
カイトは穏やかな、しかし揺るぎない眼差しで国王を見つめ、静かに語り始めた。
「俺は、政治家ではありません。ただの、土を愛する農民です。俺の幸せは玉座の間ではなく、広大な畑の中にあります。俺の力は人々の上に立つことではなく、人々の腹と心を満たすことにあると信じています」
彼は、ゆっくりと続けた。
「俺は、伯爵の地位も返上したいと思っています。ただのカイトとしてヴェルデの地で、これからも仲間たちと共に作物を作り続けていきたい。それが、俺にできるこの国への一番の貢献だと思うのです」
彼のあまりにも謙虚な、そして誠実な願いに、その場にいた誰もが言葉を失った。富も名声も権力も、彼は何も望まない。ただ、愛する大地と共に生きることだけを望んでいる。
その時、ずっと黙って話を聞いていたセレスティアが、一歩前に進み出た。彼女の瞳は、決意の光に満ちていた。
「父上。では、私からも一つお願いがございます」
彼女は、その場で深々と頭を下げた。
「私、セレスティア・フォン・アルグランドは王女の位を返上し、カイト様の元へ嫁ぐことをお許しください!」
「な……!?」
今度こそ、玉座の間は蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。王女が、一介の(元)貴族に嫁ぐなど前代未聞のことだった。
当のカイトが、一番驚いて目を白黒させている。
「セレスティア!? いったい何を……!」
セレスティアはカイトに向き直ると、頬を赤らめながらもまっすぐな瞳で彼を見つめた。
「私は、ずっと見てきました。あなたが誰かのために、見返りを求めずただひたすらに尽くす姿を。私はそんなあなたの生き方を、誰よりも近くで支えたいのです。王女としてではなく、ただ一人の女性としてあなたの隣にいたいのです」
彼女の、魂からの告白だった。
その真剣な想いを受けて、カイトの心も大きく揺さぶられた。思えば彼女はいつも彼のことを信じ、支えてくれた。彼女の存在が、どれほど大きな力になっていたことか。
そしてカイトの脳裏には、いつも傍らで彼を支えてくれた二人の女性の顔も浮かんでいた。森で出会った心優しきエルフのリリア。太陽のように明るい笑顔で、彼の夢を支えてくれた獣人のミーナ。彼女たちもまた、彼にとってかけがえのない大切な存在だった。
カイトは深く息を吸い込むと、国王と、そしてセレスティアに向かって決意を込めて言った。
「……セレスティア。君の気持ちは、とても嬉しい。だけど俺には、君と同じように大切にしたい人たちがいる。リリアもミーナも、俺にとっては家族同然の、かけがえのない仲間なんだ」
それは彼なりの誠実な答えだった。一人の女性だけを選ぶことはできない。だが、皆を等しく生涯をかけて大切にしたい。
普通なら不敬罪に問われかねない発言。しかしセレスティアは少しも怒るそぶりを見せず、むしろ嬉しそうに微笑んだ。
「はい、存じております。リリアさんもミーナさんも、本当に素敵な方たちですもの。……でしたら、みんなで一緒に幸せになりませんか?」
そのあまりにも大胆な提案に、カイトは今度こそ言葉を失った。
国王アルフォンスは、最初こそ呆気に取られていたがやがて天を仰いで、腹の底から豪快に笑い出した。
「はっはっは! まったく、お前たちは……! 常識というものを、ことごとく打ち破ってくれるわ!」
彼はしばらく笑い続けた後、威厳のある声で言った。
「よかろう! 全て許す! カイト、お前は爵位を返上し、ただの民として生きるがよい。だがヴェルデの地は、未来永劫お前とその仲間たちのものだ。誰にも干渉はさせん」
そして彼はセレスティアに向かって、優しい父親の顔で言った。
「セレスティア。お前の人生だ。お前の好きなように生きなさい。……だが、たまには顔を見せに帰ってくるのだぞ」
「はい、父上……! ありがとうございます!」
こうして伝説の英雄は、全ての地位を捨て愛する仲間たちと共に、再び一人の農民へと戻った。
ヴェルデの地に戻ったカイトを、リリアとミーナが少し呆れたような、でもとても嬉しそうな顔で迎えた。
三人の姫君に囲まれた彼の新たな生活は、きっと今まで以上に賑やかで、幸せなものになるだろう。
カイトは、青く澄み渡った空の下、どこまでも広がる緑の大地を見渡した。彼の物語はここで一つの終わりを告げた。しかし彼らが未来へと蒔いた幸せの種は、これからも芽吹き育ち、多くの人々を笑顔にしていくに違いない。
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