6 / 16
第05話「最初の依頼は魔物退治じゃなくて、用水路作りでした」
しおりを挟む
冒険者たちが加わって数日。
農園の開発は急ピッチで進んでいたが、一つだけ深刻な問題が発生した。
水不足だ。
【土壌改良】で土の状態は完璧にできるが、水そのものを生み出すことはできない。
これまでは地下水を魔法で汲み上げていたが、畑が広がったことでそれでは追いつかなくなってきたのだ。
「近くに川はあるんだけどな……」
地図を広げたシルヴィアが、険しい顔で一点を指差した。
ここから数キロ離れた場所に大きな川が流れている。
だが、そこからここまで水を引くには、岩盤地帯をくり抜いて水路を作る必要がある。
「普通の工法なら数年はかかります。魔法を使っても、マナの消費が激しすぎて……」
「よし、僕が行こう」
僕は立ち上がった。
僕の【土壌改良】は、土の性質を変えることができる。
岩盤を柔らかい土に変えてしまえば、掘り進めるのは簡単だ。
「ゴードン、みんなを集めてくれ。『大人の泥遊び』の時間だ」
***
現場に到着した僕たちは、巨大な岩山を前にしていた。
ここを貫通させれば、川の水を農園まで一直線に引くことができる。
「旦那、いくらなんでもこの岩山は無理だ。ドワーフの削岩機がいるぜ」
ゴードンが呆れたように言うが、僕はニヤリと笑った。
「見ててくれ。フェン、手伝ってくれるか?」
「わふっ!」
僕は岩山の斜面に手を当てた。
イメージするのは、硬い岩の分子結合を解き、サラサラの砂に変えること。
「【土壌改良】・液状化」
ズズズ……ッ!
地鳴りと共に、岩山の一部が泥のように崩れ落ちた。
さらに魔力を注ぎ込み、トンネル状の空洞を形成していく。
崩れないように、壁面だけをセラミックのように硬化させるイメージも同時に送る。
「なっ……!?」
「岩が、溶けていくぞ!?」
冒険者たちが腰を抜かす中、僕はどんどん道を切り開いていく。
そして、後ろからはフェンが巨大化し、その大きな前足と爪で、掘り出された土砂をかき出していく。
まさに人海戦術ならぬ、人狼戦術だ。
作業開始からわずか半日。
僕たちは岩山を貫通し、川のほとりにたどり着いた。
「道が……できちまった」
ゴードンが乾いた笑いを漏らす。
あとは、このトンネルに水を流すだけだ。
「よし、開通式だ!」
僕が最後の土手を取り払うと、川の水が怒涛の勢いで新しい水路へと流れ込んだ。
水はゴウゴウと音を立ててトンネルを抜け、乾いた荒野へと注がれていく。
農園に到着した水は、シルヴィアが設計した細かい水路を通って、全ての畑に行き渡った。
乾いた大地が水を吸い込み、作物が嬉しそうに葉を揺らす。
キラキラと輝く水面は、荒野に命の血管が通ったことを証明していた。
「ばんざーい! ノア様ばんざーい!」
「これで水浴びができるぞ!」
「今日から毎日トマト祭りだ!」
歓声が上がる中、シルヴィアが感極まったように涙を拭っていた。
「治水工事……国家事業レベルのことを、たった半日で……。やはり貴方様は、この地を統べる王となるべき方です」
「いやいや、ただの農作業の一環だから」
僕は笑って否定したが、この水路開通によって、農園の生産力はさらに爆発的に向上することになる。
そして、川から流れ着いた「あるもの」が、新たな騒動を巻き起こすことになるのだが、それはまだ先の話だ。
その夜の宴会は、最高に盛り上がった。
採れたての枝豆と冷えたビール(のような麦ジュース)で乾杯し、僕たちは労働の喜びを分かち合った。
これこそが、僕が求めていたスローライフだ。
……まあ、フェンが酔っ払って(トマトの食べすぎで)遠吠えをし、その衝撃波で遠くの雲を吹き飛ばしたことは、見なかったことにしよう。
農園の開発は急ピッチで進んでいたが、一つだけ深刻な問題が発生した。
水不足だ。
【土壌改良】で土の状態は完璧にできるが、水そのものを生み出すことはできない。
これまでは地下水を魔法で汲み上げていたが、畑が広がったことでそれでは追いつかなくなってきたのだ。
「近くに川はあるんだけどな……」
地図を広げたシルヴィアが、険しい顔で一点を指差した。
ここから数キロ離れた場所に大きな川が流れている。
だが、そこからここまで水を引くには、岩盤地帯をくり抜いて水路を作る必要がある。
「普通の工法なら数年はかかります。魔法を使っても、マナの消費が激しすぎて……」
「よし、僕が行こう」
僕は立ち上がった。
僕の【土壌改良】は、土の性質を変えることができる。
岩盤を柔らかい土に変えてしまえば、掘り進めるのは簡単だ。
「ゴードン、みんなを集めてくれ。『大人の泥遊び』の時間だ」
***
現場に到着した僕たちは、巨大な岩山を前にしていた。
ここを貫通させれば、川の水を農園まで一直線に引くことができる。
「旦那、いくらなんでもこの岩山は無理だ。ドワーフの削岩機がいるぜ」
ゴードンが呆れたように言うが、僕はニヤリと笑った。
「見ててくれ。フェン、手伝ってくれるか?」
「わふっ!」
僕は岩山の斜面に手を当てた。
イメージするのは、硬い岩の分子結合を解き、サラサラの砂に変えること。
「【土壌改良】・液状化」
ズズズ……ッ!
地鳴りと共に、岩山の一部が泥のように崩れ落ちた。
さらに魔力を注ぎ込み、トンネル状の空洞を形成していく。
崩れないように、壁面だけをセラミックのように硬化させるイメージも同時に送る。
「なっ……!?」
「岩が、溶けていくぞ!?」
冒険者たちが腰を抜かす中、僕はどんどん道を切り開いていく。
そして、後ろからはフェンが巨大化し、その大きな前足と爪で、掘り出された土砂をかき出していく。
まさに人海戦術ならぬ、人狼戦術だ。
作業開始からわずか半日。
僕たちは岩山を貫通し、川のほとりにたどり着いた。
「道が……できちまった」
ゴードンが乾いた笑いを漏らす。
あとは、このトンネルに水を流すだけだ。
「よし、開通式だ!」
僕が最後の土手を取り払うと、川の水が怒涛の勢いで新しい水路へと流れ込んだ。
水はゴウゴウと音を立ててトンネルを抜け、乾いた荒野へと注がれていく。
農園に到着した水は、シルヴィアが設計した細かい水路を通って、全ての畑に行き渡った。
乾いた大地が水を吸い込み、作物が嬉しそうに葉を揺らす。
キラキラと輝く水面は、荒野に命の血管が通ったことを証明していた。
「ばんざーい! ノア様ばんざーい!」
「これで水浴びができるぞ!」
「今日から毎日トマト祭りだ!」
歓声が上がる中、シルヴィアが感極まったように涙を拭っていた。
「治水工事……国家事業レベルのことを、たった半日で……。やはり貴方様は、この地を統べる王となるべき方です」
「いやいや、ただの農作業の一環だから」
僕は笑って否定したが、この水路開通によって、農園の生産力はさらに爆発的に向上することになる。
そして、川から流れ着いた「あるもの」が、新たな騒動を巻き起こすことになるのだが、それはまだ先の話だ。
その夜の宴会は、最高に盛り上がった。
採れたての枝豆と冷えたビール(のような麦ジュース)で乾杯し、僕たちは労働の喜びを分かち合った。
これこそが、僕が求めていたスローライフだ。
……まあ、フェンが酔っ払って(トマトの食べすぎで)遠吠えをし、その衝撃波で遠くの雲を吹き飛ばしたことは、見なかったことにしよう。
141
あなたにおすすめの小説
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
「洗い場のシミ落とし」と追放された元宮廷魔術師。辺境で洗濯屋を開いたら、聖なる浄化の力に目覚め、呪いも穢れも洗い流して成り上がる
黒崎隼人
ファンタジー
「銀閃」と謳われたエリート魔術師、アルク・レンフィールド。彼は五年前、国家の最重要儀式で犯した一つの失敗により、全てを失った。誇りを砕かれ、「洗い場のシミ落とし」と嘲笑された彼は、王都を追われ辺境の村でひっそりと洗濯屋を営む。
過去の「恥」に心を閉ざし、ひまわり畑を眺めるだけの日々。そんな彼の前に現れたのは、体に呪いの痣を持つ少女ヒマリ。彼女の「恥」に触れた時、アルクの中に眠る失われたはずの力が目覚める。それは、あらゆる汚れ、呪い、穢れさえも洗い流す奇跡の力――「聖濯術」。
これは、一度は全てを失った男が、一枚の洗濯物から人々の心に染みついた悲しみを洗い流し、自らの「恥」をも乗り越えていく、ささやかで温かい再生の物語。ひまわりの咲く丘で、世界で一番優しい洗濯が、今始まる。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした
由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。
無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。
再び招かれたのは、かつて母を追放した国。
礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。
これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる