婚約破棄&濡れ衣で追放された聖女ですが、辺境で育成スキルの真価を発揮!無骨で不器用な最強騎士様からの溺愛が止まりません!

黒崎隼人

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第11話「辺境の特産品と芽吹く富」

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 王都からの使者を追い返した一件は、辺境の地に住む人々の結束をより一層強固なものにした。彼らは自分たちの手で聖女を守り、この豊かな土地を守り抜いたという自信と誇りを胸に抱いた。
 しかしガイオンもエルナも、これで終わりだとは思っていなかった。
「王都の連中は、一度目をつけた獲物をそう簡単には諦めない。いずれ、もっと強硬な手段で出てくるだろう」
 詰め所で、ガイオンは厳しい表情でそう言った。
「対抗するには力が必要だ。軍事力だけではない。王都が無視できないほどの……経済的な力もだ」
 彼の言葉に、エルナははっとした。確かに今の辺境は食料こそ豊かになったが、それ以外はまだ貧しいままだった。王都の貴族たちから見れば、力ずくで奪い取れる対象としか思われていないだろう。
「わたくしの力で何かお役に立てることはないでしょうか?」
 エルナが尋ねると、ガイオンは地図に視線を落とした。
「君の作る薬や作物は間違いなく一級品だ。これらを正式な交易品として他国に売ることができれば莫大な富を生むだろう。だがそのためには安定した販路と、王都の干渉を退けるだけの後ろ盾が必要になる」
「後ろ盾……」
「ああ。例えばこの国の隣にある山脈の向こう……職人気質のドワーフたちが住む独立国家や、南の森林地帯を治めるエルフの王国。彼らと友好な関係を築き直接交易を行うことができれば、王都も迂闊には手出しできなくなる」
 それは壮大な計画だった。しかし実現できれば、辺境は名実ともに王都から自立することができる。
『やってみる価値は、ある』
 エルナは決意を固めた。
 まずは交易の目玉となる特産品作りから始まった。エルナはレーナ老婆の知識を借りながら、さらに高品質な薬草の栽培に乗り出した。特にドワーフたちが悩まされているという、鉱山での粉塵による呼吸器系の病に効く薬草や、エルフたちが好むという精神を落ち着かせる効果のある香草などを重点的に育てた。
 また作物に関してもただ食料として生産するだけでなく、付加価値をつけることを考えた。寒冷な気候を利用して糖度の高い果物を育て、それらを使って長期保存が可能なジャムや果実酒を開発した。村の女性たちはエルナに教わりながら、楽しそうに加工品の開発に取り組んだ。
 ガイオンはガイオンで、ドワーフやエルフとの交渉ルートを確立するために奔走した。彼は以前から個人的な信頼関係でドワーフの商人とは付き合いがあった。その商人を介して、ドワーフの王に謁見する機会を取り付けたのだ。
 交渉の席に、ガイオンはエルナが作った薬を持参した。ドワーフの王は最初こそ人間であるガイオンを警戒していたが、その薬が長年自分たちを苦しめてきた病に驚くほどの効果を発揮することを知ると、態度を一変させた。
「素晴らしい! これこそ我らが必要としていたものだ! 騎士殿、ぜひその薬を我らに売ってほしい。見返りは望むものを何でもやろう。我が国の誇る最高の武具でも、豊富な鉱物資源でも!」
 交渉は大成功だった。ドワーフたちは辺境の薬を独占的に買い付ける代わりに、辺境の地を自分たちの友好都市として認め、その独立を支持することを約束してくれたのだ。
 エルフとの交渉も、エルナが作った香草や、辺境の自然を破壊しない彼女の農業への姿勢が評価され、スムーズに進んだ。
 こうして辺境の地は、王都を介さずに、二つの強力な国家との間に独自の交易路を確立した。
 エルナが生み出す特産品は、飛ぶように売れた。ドワーフの国からは高品質な鉄や工芸品が、エルフの国からは美しい織物や魔法の道具がもたらされ、辺境の村は急速に豊かになっていく。
 貧しい村は、活気あふれる交易都市へと、その姿を大きく変えようとしていた。それはエルナとガイオン、そして辺境の民が力を合わせて掴み取った、輝かしい未来への第一歩だった。
 もう王都の顔色をうかがう必要はない。自分たちの力で、自分たちの未来を切り拓いていくのだ。エルナの胸には、かつてないほどの希望と自信が満ち溢れていた。
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