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第06話「エルフの仲間と、初めての晩餐会」
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リシアを保護してから、三日が経った。
僕の発酵薬草ポーションが効いたのか、彼女の体調はみるみるうちに回復した。腕の傷もすっかり癒え、今では普通に歩き回れるようになっている。
彼女はとても物静かで、礼儀正しいエルフだった。僕が農作業をしている間は静かにそれを見守り、食事の準備を始めると、手伝えることはないかと尋ねてくる。最初は遠慮していた彼女も、僕が作った料理を食べるたびに、花が綻ぶような笑顔を見せてくれるようになった。
その笑顔を見るのが、僕の新しい楽しみになっていた。
そして四日目の朝。リシアが神妙な顔で僕に切り出した。
「カイ様。お願いがあります」
「どうしたんだい、リシア。改まって」
「私の仲間たちが、まだ森の中にいるのです。みんな、森を蝕む病に苦しみ、飢えています。どうか……どうか、彼らを助けてはいただけないでしょうか」
彼女はそう言うと、その場に膝をつき、深く頭を下げた。
リシアの話によると、彼女たちの一族が住んでいた森は、原因不明の病によって木々が枯れ、動物たちが姿を消してしまったらしい。彼女の仲間たちも、その病に体を蝕まれ、食べるものもなく、森の奥で息を潜めているのだという。
「もちろん、助けるよ。案内してくれ」
僕は少しも迷わずに答えた。困っている人を見捨てるなんて選択肢は、僕の中にはない。それに、僕の畑には有り余るほどの食料がある。
「! ありがとうございます……!」
リシアは顔を上げ、潤んだ瞳で僕を見つめた。
僕たちは早速、森へ向かう準備を始めた。食料として、収穫したばかりのジャガイモやカブを大きな袋に詰め、水筒には浄化した水を満タンに入れる。そして、もちろん発酵薬草ポーションも忘れずに持っていく。
リシアの案内で森の奥深くへと進んでいくと、確かに周囲の様子がおかしいことに気づいた。木々の葉は色あせて落ち、地面には生気が感じられない。まるで、大地そのものが死にかけているかのようだ。
やがて、巨大な木の根元に作られた、簡素な隠れ家のような場所にたどり着いた。
「みんな、私よ! 助けを連れてきたわ!」
リシアが呼びかけると、隠れ家の中から、何人かのエルフたちがおそるおそる姿を現した。全部で十人ほどだろうか。老人から子供までいるが、誰もがリシアと同じように衰弱しきって、顔色が悪い。
彼らは僕の姿を見ると、途端に警戒心を露わにした。
「リシア、その人間は誰だ?」
年長者らしいエルフが、鋭い視線を僕に向ける。
「この方はカイ様。私の命の恩人です。私たちを助けに来てくださいました」
リシアが必死に説明するが、エルフたちの疑念は晴れないようだ。無理もないだろう。人間とエルフは、必ずしも友好な関係にあるとは言えない。
『言葉で説明するより、行動で示した方が早いか』
僕は黙って、持ってきた薬草ポーションを取り出し、一番衰弱が激しい子供に近づいた。母親らしいエルフが悲鳴を上げて子供をかばう。
「大丈夫、害は与えない」
僕は穏やかに言うと、子供の腕にあった、リシアと同じような赤黒い傷にポーションを優しく塗ってやった。そして、水で薄めたものを飲ませる。
エルフたちが固唾をのんで見守る中、みるみるうちに子供の顔色に血の気が戻り、苦しげだった呼吸が楽になっていく。
「……あ……」
母親エルフが、信じられないものを見るような目で僕と自分の子供を交互に見た。
「この通り、僕は君たちの敵じゃない。ここにいる全員分の薬も持ってきた。それから、食料も」
僕はそう言って、ジャガイモが詰まった袋の口を開いて見せた。
エルフたちの間に、どよめきが広がる。彼らが最後にまともな食事をしたのは、一体いつのことだったのだろう。
その日の夕方。僕は拠点に、エルフたち全員を招いた。
彼らの病は、僕のポーションでひとまず症状が治まった。あとは、栄養のあるものを食べて、体力を回復させるだけだ。
僕は腕によりをかけて、初めての晩餐会の準備をした。
メニューは、野菜たっぷりの味噌スープ。薪で焼いた、外はカリカリ、中はもちもちの発酵パン。そして、蒸したジャガイモに、醤油とハーブを混ぜた特製ソースをかけたもの。
「さあ、できたぞ。みんな、遠慮なく食べてくれ」
僕が声をかけると、エルフたちはまだ少し戸惑いながらも、恐る恐る料理に手を伸ばした。
そして、最初の一口を食べた瞬間。
彼らの顔が、一様に驚きで彩られた。
「な……なんだ、この滋味深い汁物は……!」
「このパン……こんなに香ばしくて柔らかいものは、食べたことがない」
「この芋料理……黒い液体が、芋の甘さを引き立てている……!」
あちこちから、感嘆の声が上がる。
一度口をつけ始めると、もう止まらない。彼らは、まるで何かに取り憑かれたかのように、夢中で料理をかきこみ始めた。子供たちはパンを両手に持って、頬袋をいっぱいにしている。さっきまでの警戒心は、どこかへ消え去ってしまったようだ。
その光景を、僕は微笑ましく眺めていた。
料理は、人を笑顔にする力がある。前世で、会社の食堂のおばちゃんが言っていた言葉を、ふと思い出した。
食事が終わる頃には、エルフたちの表情はすっかり和らいでいた。
年長者のエルフが、僕の前に進み出て、深く頭を下げる。
「人間の方……いや、カイ殿。我々の無礼を許してほしい。あなたは我ら一族の恩人だ。このご恩は、決して忘れん」
「気にしないでください。それより、これからどうするんですか? 森はあの状態じゃ、まだ住めないでしょう」
僕が尋ねると、年長者は悲しげに顔を伏せた。
「……行くあてなど、ない。大地に見放された我々は、ただ朽ち果てるのを待つだけだ」
その言葉に、他のエルフたちも暗い表情になる。
それを見ていたリシアが、意を決したように口を開いた。
「カイ様! お願いがあります。どうか、私たちを、ここに住まわせてはいただけないでしょうか」
「リシア……?」
「この土地は、カイ様の力で、生命力に満ち溢れています。私たちエルフは、自然と共に生きる民。この豊かな大地があれば、きっとカイ様のお役に立てるはずです!」
彼女の真剣な瞳が、まっすぐに僕を射抜く。
僕は少し考えた。一人きりの気ままな生活は終わりを告げるだろう。でも、彼女たちの澄んだ瞳を見ていると、悪い気はしなかった。むしろ、胸が温かくなるのを感じた。
「……分かった。畑仕事、手伝ってくれるなら大歓迎だ」
僕がそう答えると、わあっと歓声が上がった。リシアは「ありがとうございます!」と、満面の笑みを向けた。
こうして、僕の領地に、初めての住民が誕生した。
人間一人と、エルフ十一人。
奇妙な共同生活が、この嘆きの荒野で、静かに始まろうとしていた。
僕の発酵薬草ポーションが効いたのか、彼女の体調はみるみるうちに回復した。腕の傷もすっかり癒え、今では普通に歩き回れるようになっている。
彼女はとても物静かで、礼儀正しいエルフだった。僕が農作業をしている間は静かにそれを見守り、食事の準備を始めると、手伝えることはないかと尋ねてくる。最初は遠慮していた彼女も、僕が作った料理を食べるたびに、花が綻ぶような笑顔を見せてくれるようになった。
その笑顔を見るのが、僕の新しい楽しみになっていた。
そして四日目の朝。リシアが神妙な顔で僕に切り出した。
「カイ様。お願いがあります」
「どうしたんだい、リシア。改まって」
「私の仲間たちが、まだ森の中にいるのです。みんな、森を蝕む病に苦しみ、飢えています。どうか……どうか、彼らを助けてはいただけないでしょうか」
彼女はそう言うと、その場に膝をつき、深く頭を下げた。
リシアの話によると、彼女たちの一族が住んでいた森は、原因不明の病によって木々が枯れ、動物たちが姿を消してしまったらしい。彼女の仲間たちも、その病に体を蝕まれ、食べるものもなく、森の奥で息を潜めているのだという。
「もちろん、助けるよ。案内してくれ」
僕は少しも迷わずに答えた。困っている人を見捨てるなんて選択肢は、僕の中にはない。それに、僕の畑には有り余るほどの食料がある。
「! ありがとうございます……!」
リシアは顔を上げ、潤んだ瞳で僕を見つめた。
僕たちは早速、森へ向かう準備を始めた。食料として、収穫したばかりのジャガイモやカブを大きな袋に詰め、水筒には浄化した水を満タンに入れる。そして、もちろん発酵薬草ポーションも忘れずに持っていく。
リシアの案内で森の奥深くへと進んでいくと、確かに周囲の様子がおかしいことに気づいた。木々の葉は色あせて落ち、地面には生気が感じられない。まるで、大地そのものが死にかけているかのようだ。
やがて、巨大な木の根元に作られた、簡素な隠れ家のような場所にたどり着いた。
「みんな、私よ! 助けを連れてきたわ!」
リシアが呼びかけると、隠れ家の中から、何人かのエルフたちがおそるおそる姿を現した。全部で十人ほどだろうか。老人から子供までいるが、誰もがリシアと同じように衰弱しきって、顔色が悪い。
彼らは僕の姿を見ると、途端に警戒心を露わにした。
「リシア、その人間は誰だ?」
年長者らしいエルフが、鋭い視線を僕に向ける。
「この方はカイ様。私の命の恩人です。私たちを助けに来てくださいました」
リシアが必死に説明するが、エルフたちの疑念は晴れないようだ。無理もないだろう。人間とエルフは、必ずしも友好な関係にあるとは言えない。
『言葉で説明するより、行動で示した方が早いか』
僕は黙って、持ってきた薬草ポーションを取り出し、一番衰弱が激しい子供に近づいた。母親らしいエルフが悲鳴を上げて子供をかばう。
「大丈夫、害は与えない」
僕は穏やかに言うと、子供の腕にあった、リシアと同じような赤黒い傷にポーションを優しく塗ってやった。そして、水で薄めたものを飲ませる。
エルフたちが固唾をのんで見守る中、みるみるうちに子供の顔色に血の気が戻り、苦しげだった呼吸が楽になっていく。
「……あ……」
母親エルフが、信じられないものを見るような目で僕と自分の子供を交互に見た。
「この通り、僕は君たちの敵じゃない。ここにいる全員分の薬も持ってきた。それから、食料も」
僕はそう言って、ジャガイモが詰まった袋の口を開いて見せた。
エルフたちの間に、どよめきが広がる。彼らが最後にまともな食事をしたのは、一体いつのことだったのだろう。
その日の夕方。僕は拠点に、エルフたち全員を招いた。
彼らの病は、僕のポーションでひとまず症状が治まった。あとは、栄養のあるものを食べて、体力を回復させるだけだ。
僕は腕によりをかけて、初めての晩餐会の準備をした。
メニューは、野菜たっぷりの味噌スープ。薪で焼いた、外はカリカリ、中はもちもちの発酵パン。そして、蒸したジャガイモに、醤油とハーブを混ぜた特製ソースをかけたもの。
「さあ、できたぞ。みんな、遠慮なく食べてくれ」
僕が声をかけると、エルフたちはまだ少し戸惑いながらも、恐る恐る料理に手を伸ばした。
そして、最初の一口を食べた瞬間。
彼らの顔が、一様に驚きで彩られた。
「な……なんだ、この滋味深い汁物は……!」
「このパン……こんなに香ばしくて柔らかいものは、食べたことがない」
「この芋料理……黒い液体が、芋の甘さを引き立てている……!」
あちこちから、感嘆の声が上がる。
一度口をつけ始めると、もう止まらない。彼らは、まるで何かに取り憑かれたかのように、夢中で料理をかきこみ始めた。子供たちはパンを両手に持って、頬袋をいっぱいにしている。さっきまでの警戒心は、どこかへ消え去ってしまったようだ。
その光景を、僕は微笑ましく眺めていた。
料理は、人を笑顔にする力がある。前世で、会社の食堂のおばちゃんが言っていた言葉を、ふと思い出した。
食事が終わる頃には、エルフたちの表情はすっかり和らいでいた。
年長者のエルフが、僕の前に進み出て、深く頭を下げる。
「人間の方……いや、カイ殿。我々の無礼を許してほしい。あなたは我ら一族の恩人だ。このご恩は、決して忘れん」
「気にしないでください。それより、これからどうするんですか? 森はあの状態じゃ、まだ住めないでしょう」
僕が尋ねると、年長者は悲しげに顔を伏せた。
「……行くあてなど、ない。大地に見放された我々は、ただ朽ち果てるのを待つだけだ」
その言葉に、他のエルフたちも暗い表情になる。
それを見ていたリシアが、意を決したように口を開いた。
「カイ様! お願いがあります。どうか、私たちを、ここに住まわせてはいただけないでしょうか」
「リシア……?」
「この土地は、カイ様の力で、生命力に満ち溢れています。私たちエルフは、自然と共に生きる民。この豊かな大地があれば、きっとカイ様のお役に立てるはずです!」
彼女の真剣な瞳が、まっすぐに僕を射抜く。
僕は少し考えた。一人きりの気ままな生活は終わりを告げるだろう。でも、彼女たちの澄んだ瞳を見ていると、悪い気はしなかった。むしろ、胸が温かくなるのを感じた。
「……分かった。畑仕事、手伝ってくれるなら大歓迎だ」
僕がそう答えると、わあっと歓声が上がった。リシアは「ありがとうございます!」と、満面の笑みを向けた。
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