『冷酷な悪役令嬢』と婚約破棄されましたが、追放先の辺境で領地経営を始めたら、いつの間にか伝説の女領主になっていました。

黒崎隼人

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第五章:偽りの聖女、暴かれる裏の顔

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 ルシアンという強力なパートナーを得て、領地の未来に明るい兆しが見え始めたある日。王都で取引を終えて戻ってきた彼の口から、思いがけない情報がもたらされた。
「クラリス様、妙な噂を耳にしました。王太子妃となられた聖女ミレーユ様が、貧しい人々を救うという名目で、王都の民から多額の寄付金を集めているそうです」
「寄付金? それ自体は、聖女として当然の行いではありませんか?」
 私の問いに、ルシアンは首を横に振った。
「ええ。ですが、その金の流れがどうにも不透明なのです。寄付をした者には聖女様の特別な“祝福”が与えられるとされ、半ば強制的に集められているという話も……。しかも、集められた金が、実際に貧民救済に使われている形跡がない」
 その話を聞いた瞬間、私の脳裏に、アルベルト殿下の隣でか弱く微笑んでいたミレーユの顔が浮かんだ。あの女なら、やりかねない。聖女という立場を利用して、民を欺き、私腹を肥やすことなど、朝飯前だろう。
 そしてその悪行は、いずれ王家の評判を地に堕とし、ひいては国を揺るがす事態になりかねない。それは、私が生まれ育ったこの国にとって、決して看過できないことだった。
「……許せませんわね」
 私の低い声に、ルシアンが心配そうにこちらを見る。
「ルシアン、あなたに頼みたいことがあります。あなたの持つ情報網を使って、その寄付金の実態と、金の流れを徹底的に調べていただけませんか? 費用は私が持ちます」
「承知いたしました。ですが、クラリス様、これは危険な賭けです。相手は王太子妃。下手をすれば、反逆罪に問われかねません」
「分かっています。だからこそ、動かぬ証拠が必要なのです」
 私は王都にいるエルヴェール家所縁の者たちにも密かに連絡を取り、信頼できる密偵を数名、ミレーユの周辺に潜り込ませた。彼らはルシアンの情報網と連携し、聖女の化けの皮を一枚一枚剥がしていく。
 数週間後、もたらされた報告は、私の予想を遥かに超えるものだった。
 ミレーユは「聖女の救済院」と称する施設を設立していたが、それは名ばかりで、実際に救われた者はごくわずか。集められた寄付金のほとんどは、彼女が買い漁る宝石やドレス、そして彼女の一族の贅沢な暮らしのために消えていた。
 さらに、彼女の“祝福”も偽りだった。軽い病や気の迷いを、さも奇跡の力で癒したかのように見せかけ、信者を増やしていたのだ。彼女に心酔するアルベルト殿下は、その不正に全く気づいていない。いや、気づこうとしていないのかもしれない。
「これが、国母となるはずの女の正体……」
 私は報告書を握りしめ、静かな怒りに身を震わせた。私を追放した彼らが、国を蝕む元凶となっている。この事実を白日の下に晒し、彼らの罪を償わせなければならない。
 だが、焦りは禁物だ。今の私には、王太子妃と真っ向から対立するだけの力はない。まずは、このエルヴェール領を盤石にすること。民の信頼を勝ち取り、誰にも揺るがすことのできない地盤を築き上げること。
 その上で、集めた証拠という名の刃を、最も効果的な瞬間に振るうのだ。
(ミレーユ、あなたの見せかけの楽園は、もうすぐ終わりを迎えるわ)
 私は遠い王都の空を見上げ、静かにその時を待つことを決意した。私の戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。
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