「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました

黒崎隼人

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第3話「灰の中から立ち上がる、若き領主の誓い」

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 古代遺跡の発見は、私とノースガルドの運命を大きく変えた。

 古文書を読み解くことで、私は失われた古代魔法の知識を次々と吸収していった。それは現代の魔法体系とは全く異なる、自然の理や星の運行に直接働きかける強力な魔法だった。

 最初は、小さな奇跡から始めた。古文書に記された知識を使い、痩せた土地を肥沃な土壌へと変える。枯れた井戸からは、清らかな水が再び湧き出した。領民たちはそれを「領主様の奇跡」と呼び、私への信頼は日に日に絶対的なものへと変わっていった。

 もはや、私を「追放された元皇太子妃」として見る者はいなかった。皆、私を「アリシア様」と呼び、未来を託すべき指導者として慕ってくれる。その想いが、私の力になった。

 だが、ノースガルドの脅威はそれだけではない。夜な夜な領地を襲う魔物の存在だ。

 ある晩、これまでで最も大きなオークの群れが村のすぐ近くまで迫ってきた。男たちが武器を手に奮闘するが、その数は圧倒的に不利だった。

「ギルバート、皆を館の中に!」

「お嬢様!危険です!」

 制止するギルバートの声を背に、私は単身、魔物の前に立った。心臓が激しく鼓動する。怖い。だが、私がやらなければ誰がこの人たちを守るというのか。

 私は古文書で学んだ魔法陣を、杖の先で地面に描く。体中の魔力が、その紋様に吸い込まれていくのを感じた。

「古き星々の御名において命ずる。我が敵を穿て――星屑の槍(スターダスト・ジャベリン)!」

 詠唱と共に魔法陣から眩い光が放たれ、無数の光の槍となってオークの群れに降り注いだ。断末魔の叫びを上げ、魔物たちは次々と地に倒れ伏していく。その光景に、領民たちはもちろん、私自身が一番驚いていた。

 これが、古代魔法の力。これが、私の本当の力。

 この日を境に、私は本格的に魔物討伐に乗り出した。最初は苦戦した剣術も、魔法で身体能力を強化することで並の騎士以上に扱えるようになった。私はもはや、守られるだけの公爵令嬢ではない。自らの民を守るため、戦う辺境領主アリシア・ヴァンデルークなのだ。

 私の評判は、ノースガルドを訪れるわずかな商人たちの口を通して、少しずつ外の世界へと伝わり始めていた。

「北の荒れ地が、緑豊かな土地に変わったらしい」

「若く美しい女領主が、一人で魔物の群れを壊滅させたそうだ」

 そんな噂は、当然のようにレヴァント皇国の皇帝となったクロードの耳にも届いていた。

 彼は、密偵が持ち帰った報告書を読み愕然としていた。報告書には、アリシアが領民に慕われ、見事に領地を復興させている様子が詳細に記されていた。そして、彼女が「不思議な力」を使っているという記述。

(まさか…あれほどの才覚を、私は見抜けなかったというのか…)

 クロードは苦々しく唇を噛んだ。

 その頃、彼の帝国はセシリアの扇動によって引き起こされた隣国との戦争で、泥沼にはまり込んでいた。セシリアは「聖女の奇跡」で兵士の士気を高めると豪語したが、戦況は一向に好転しない。それどころか、彼女の無謀な神託のせいで多くの兵が命を落としていた。

 貴族たちの間からも、セシリアへの不満が噴出し始めている。クロードは、ようやく彼女の危険な本質に気づき始めていた。彼女は聖女などではない。国を内側から蝕む、甘い毒だ。

(この状況を打開するには、何か起爆剤が必要だ…)

 その時、クロードの脳裏にノースガルドの「奇跡の女領主」の噂が蘇った。アリシア・ヴァンデルーク。彼女が持つという「不思議な力」。それを利用すれば、この戦況を覆せるかもしれない。

(…私が行くしかない)

 皇帝が密かに辺境を訪れるなど、前代未聞のことだった。だが、クロードに迷いはなかった。アリシアに会わなければならない。たとえ、彼女にどれだけ罵られようとも。

「アリシアを、再び私の手駒として利用する」

 彼は自らにそう言い聞かせた。アリシアへの未練や後悔などではない。すべては、帝国のため。冷徹な皇帝として、非情な判断を下すのだ、と。

 だが、その心の奥底に別の感情が渦巻いていることに、彼はまだ気づいていなかった。かつて己が捨てた妻に、もう一度会いたいと願う、一人の男の心が。

 クロードはセシリアの目を欺き、ごく少数の供だけを連れて、ノースガルドへ向けて密かに出発した。

 彼を待ち受けるのが、過去の過ちを清算するための厳しい現実だとも知らずに。
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