無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!

黒崎隼人

文字の大きさ
10 / 14

第9話「神の壁と伝説の農具」

しおりを挟む
 エデンの城門前。俺と勇者パーティーは、広大な平原を挟んで対峙していた。アルスは聖剣を構え、その全身から闘気が溢れ出している。他のメンバーも、いつでも攻撃できるよう臨戦態勢に入っていた。
「リアム、最後のチャンスだ。今すぐ降伏し、俺たちと共に来い。そうすれば、命だけは助けてやってもいい」
 アルスは、未だに自分が優位な立場にいると信じきっている。その傲慢さが、心底哀れに思えた。
「ずいぶんと偉そうだな、勇者様。だが、お前たちのその自信が、どこまで続くか見ものだ」
「ほざけ!」
 アルスが地を蹴った。その速さは、まさに勇者の名に恥じない、目で追うのがやっとの神速。振り下ろされる聖剣は、大地さえも両断するほどの威力を秘めているだろう。
 だが、俺は一歩も動かない。ただ、背後にある巨大な城壁に、そっと手を触れるだけだ。
【鑑定】
 ウィンドウが展開される。
 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
【名称】エデンの城壁
【種別】建造物
【情報】ドラゴンの鱗より硬い石材で造られた頑丈な壁。並の攻撃では傷一つ付かない。
 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
『まだまだ、こんなものじゃ足りないな』
 俺は、ウィンドウの情報を一瞬で書き換えていく。
【名称】を「難攻不落の神の壁」に。
【情報】を「古代の神々が築いたとされる伝説の城壁。あらゆる物理攻撃、魔法攻撃を完全に無効化し、攻撃者にそのダメージを百倍にして反射する絶対的な防御障壁を持つ」と。
 書き換えが完了した、まさにその瞬間。
 ズガァァァン!!
 アルスの聖剣が、城壁に叩きつけられた。凄まじい轟音が響き渡り、衝撃波が周囲の空気を震わせる。
 しかし。
 城壁には、傷一つ、ひび割れ一つついていなかった。それどころか、聖剣が触れた一点から、まばゆい光の波が迸った。
「なっ…!?」
 アルスが驚愕の声を上げる間もなく、その光の波――彼自身の攻撃エネルギーが百倍になって増幅された反射ダメージ――が、彼の体を真正面から捉えた。
「ぐわああああああああっ!!」
 勇者アルスは、まるで巨大なハンマーで殴り飛ばされたかのように、凄まじい勢いで後方へ吹き飛ばされた。地面を何度もバウンドし、土煙を上げながら転がって、ようやく止まった時には、彼のまとっていた黄金の鎧は無残に砕け散り、口からは血を流して気を失っていた。
「アルス様!?」
「うそ…勇者の一撃が…反射された…?」
 パーティーのメンバーたちは、目の前で起きた信じがたい光景に、言葉を失って立ち尽くしている。
「さて。大将が寝たところで、次は君たちの番だ」
 俺は、気絶したアルスには目もくれず、残りのメンバーへと視線を移した。彼らは恐怖に顔を引きつらせ、じりじりと後ずさる。
「ひ、ひぃぃ…! ば、化け物め!」
 戦士が震える声で叫びながら、巨大な戦斧(バトルアックス)を俺に向かって投げつけてきた。だが、その斧も城壁に到達する前に、見えない障壁に阻まれてカランと地面に落ちる。
「そんな攻撃が、この『神の壁』に通用するとでも?」
 俺が冷たく言い放つと、彼らの顔から完全に戦意が消え失せた。もはや、勝てる相手ではないと、本能が理解したのだろう。
「だが、逃がすつもりはない。お前たちには、ここでたっぷりと絶望を味わってもらう」
 俺は、懐から一本のクワを取り出した。それは、エデンの民が畑を耕すために使っている、ごく普通の農具だ。
 俺はそのクワを【鑑定】する。
 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
【名称】ただのクワ
 ↓
【名称】雷神の裁きの槌
【情報】雷神トールが持つとされる伝説の神槌。振れば天を裂く雷を呼び、大地を揺るがす。投げれば、敵を滅するまで自動で追尾する。
 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
 書き換えを終えたクワを、俺はパーティーに向かって軽く放り投げた。
 ゴオオオオオッ!!
 クワは、雷鳴と共に紫電をまとった恐るべき破壊兵器へと変貌し、猛烈な勢いで彼らに襲いかかった。
「うわあああ!」
「ぎゃあああ!」
 魔法使いが放つ防御魔法は紙のように引き裂かれ、戦士の盾はビスケットのように砕け散る。雷神の槌と化したクワは、まるで意思を持っているかのように縦横無尽に飛び回り、一人、また一人とパーティーメンバーを打ちのめしていく。
 阿鼻叫喚の地獄絵図。それはもはや、戦闘ですらなかった。一方的な、圧倒的な制圧だった。
「さて。これで終わりだ」
 俺がそう言うと、雷神の槌と化していたクワはピタリと動きを止め、俺の手元へと静かに戻ってきた。元の、何の変哲もない農具の姿に戻っている。
 平原には、倒れ伏した勇者パーティーの残骸だけが転がっていた。気を失ったアルス、鎧を砕かれ呻く戦士、魔力を使い果たしぐったりとした魔法使い…。
 唯一、五体満足で立っていたのはセリアだけだった。だが、彼女は腰を抜かし、その場にへたり込んだまま、恐怖にわなわなと震えている。その美しい顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになり、聖女の威厳など欠片もなかった。
「た…助けて…」
 か細い声で命乞いをする彼女に、俺はゆっくりと歩み寄った。そして、その目の前でしゃがみこみ、冷え切った視線を向ける。
「助けて、か。奇遇だな。かつて、俺もお前たちにそう願ったことがある」
「……!」
「俺がお前たちに切り捨てられたあの日。ダンジョンで、王都で、俺は必死に助けを求めた。だが、お前たちはどうした? 俺を嘲笑い、罵り、無一文で叩き出した。そうだったよな、セリア?」
 俺の言葉一つ一つが、彼女の罪悪感を抉っていく。セリアは首を横に振ることしかできない。
「俺は、お前を決して許せない。アルスたちもだ。だが、お前たちを殺しはしない。それは、このエデンの土を汚すことになるからな」
 俺は立ち上がり、彼女を、そして倒れている元仲間たちを見下ろした。
「生きて、自分たちが犯した過ちの代償を払い続けろ。俺から全てを奪ったお前たちは、これから全てを失うことになる。名誉も、地位も、未来も。その絶望を抱えたまま、惨めに生きていくんだ。それが、俺からお前たちへの、最大限の復讐だ」
 俺はそれだけ言うと、彼らに背を向け、エデンの城門の中へと戻っていった。
 背後でセリアの絶叫が聞こえたが、もう振り返ることはなかった。
 分厚い城門が、ゴゴゴと音を立てて閉じていく。
 それは、俺の過去との完全な決別を意味していた。そして、これから始まる、彼らの長い長い、終わりのない後悔の物語の幕開けでもあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

追放された宮廷薬師、科学の力で不毛の地を救い、聡明な第二王子に溺愛される

希羽
ファンタジー
王国の土地が「灰色枯病」に蝕まれる中、若干25歳で宮廷薬師長に就任したばかりの天才リンは、その原因が「神の祟り」ではなく「土壌疲弊」であるという科学的真実を突き止める。しかし、錬金術による安易な「奇跡」にすがりたい国王と、彼女を妬む者たちの陰謀によって、リンは国を侮辱した反逆者の濡れ衣を着せられ、最も不毛な土地「灰の地」へ追放されてしまう。 ​すべてを奪われた彼女に残されたのは、膨大な科学知識だけだった。絶望の地で、リンは化学、物理学、植物学を駆使して生存基盤を確立し、やがて同じく見捨てられた者たちと共に、豊かな共同体「聖域」をゼロから築き上げていく。 ​その様子を影から見守り、心を痛めていたのは、第二王子アルジェント。宮廷で唯一リンの価値を理解しながらも、彼女の追放を止められなかった無力な王子だった。

元悪役令嬢、偽聖女に婚約破棄され追放されたけど、前世の農業知識で辺境から成り上がって新しい国の母になりました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢ロゼリアは、王太子から「悪役令嬢」の汚名を着せられ、大勢の貴族の前で婚約を破棄される。だが彼女は動じない。前世の記憶を持つ彼女は、法的に完璧な「離婚届」を叩きつけ、自ら自由を選ぶ! 追放された先は、人々が希望を失った「灰色の谷」。しかし、そこは彼女にとって、前世の農業知識を活かせる最高の「研究室」だった。 土を耕し、水路を拓き、新たな作物を育てる彼女の姿に、心を閉ざしていた村人たちも、ぶっきらぼうな謎の青年カイも、次第に心を動かされていく。 やがて「辺境の女神」と呼ばれるようになった彼女の奇跡は、一つの領地を、そして傾きかけた王国全体の運命をも揺るがすことに。 これは、一人の気高き令嬢が、逆境を乗り越え、最高の仲間たちと新しい国を築き、かけがえのない愛を見つけるまでの、壮大な逆転成り上がりストーリー!

悪役令嬢は廃墟農園で異世界婚活中!~離婚したら最強農業スキルで貴族たちが求婚してきますが、元夫が邪魔で困ってます~

黒崎隼人
ファンタジー
「君との婚約を破棄し、離婚を宣言する!」 皇太子である夫から突きつけられた突然の別れ。 悪役令嬢の濡れ衣を着せられ追放された先は、誰も寄りつかない最果ての荒れ地だった。 ――最高の農業パラダイスじゃない! 前世の知識を活かし、リネットの農業革命が今、始まる! 美味しい作物で村を潤し、国を救い、気づけば各国の貴族から求婚の嵐!? なのに、なぜか私を捨てたはずの元夫が、いつも邪魔ばかりしてくるんですけど! 「離婚から始まる、最高に輝く人生!」 農業スキル全開で国を救い、不器用な元夫を振り回す、痛快!逆転ラブコメディ!

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

聖獣使い唯一の末裔である私は追放されたので、命の恩人の牧場に尽力します。~お願いですから帰ってきてください?はて?~

雪丸
恋愛
【あらすじ】 聖獣使い唯一の末裔としてキルベキア王国に従事していた主人公”アメリア・オルコット”は、聖獣に関する重大な事実を黙っていた裏切り者として国外追放と婚約破棄を言い渡された。 追放されたアメリアは、キルベキア王国と隣の大国ラルヴァクナ王国の間にある森を彷徨い、一度は死を覚悟した。 そんな中、ブランディという牧場経営者一家に拾われ、人の温かさに触れて、彼らのために尽力することを心の底から誓う。 「もう恋愛はいいや。私はブランディ牧場に骨を埋めるって決めたんだ。」 「羊もふもふ!猫吸いうはうは!楽しい!楽しい!」 「え?この国の王子なんて聞いてないです…。」 命の恩人の牧場に尽力すると決めた、アメリアの第二の人生の行く末はいかに? ◇◇◇ 小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 カクヨムにて先行公開中(敬称略)

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...