追放された悪役令嬢は、辺境の谷で魔法農業始めました~気づけば作物が育ちすぎ、国までできてしまったので、今更後悔されても知りません~

黒崎隼人

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第16章:二つの国の夜明け

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 戦争は、「テラ・ノヴァ」の完全な勝利で幕を閉じた。しかし、リーゼリットの心に、勝者としての高ぶりはなかった。彼女が見据えていたのは、戦いの後、二つの国をどう導いていくかという、遥かに困難な道筋だった。
 リリアーナは、その罪状――国家反逆罪、王族に対する殺人未遂、そして禁断魔法の使用――により捕らえられ、アルカディア王国の法の下で、正当な裁きを受けることになった。彼女は最後まで自らの正当性を叫び続けたが、その声に耳を貸す者は、もはや誰もいなかった。
 エドワード王子は、自ら王位継承権の放棄を宣言した。そして、衰弱した国王に代わり、両国の和平交渉の席に、アルカディア王国側の代表としてついた。彼の態度は、以前の傲慢さが嘘のように、真摯で謙虚なものだった。
「テラ・ノヴァ女王、リーゼリット殿。この度の戦における、我が国の非礼を、心より謝罪する。どのような賠償にも応じるつもりだ」
 和平交渉の場で、エドワードは深く頭を下げた。
 しかし、リーゼリットは静かに首を振った。
「賠償は必要ありません。私が望むのは、お金や領土ではなく、未来です」
 彼女は、驚くエドワードに向かって、自らの構想を語った。
「テラ・ノヴァとアルカディア王国は、新たな友好条約を結び、互いの主権を尊重し、対等なパートナーとして、共に発展の道を歩むのです。私たちの持つ農業技術と、あなた方の持つ工業技術を交換し、文化交流を深め、二度とこのような悲劇を繰り返さない、恒久的な平和を築きましょう」
 それは、敗戦国に対する要求としては、あまりにも寛大で、未来志向な提案だった。エドワードは、リーゼリットの器の大きさに、改めて打ちのめされた。彼女は、もはや自分が知っている公爵令嬢ではなく、大陸の未来を見据える、偉大な女王となっていた。
「……ありがたい。その提案、謹んでお受けする」
 エドワードは、涙をこらえながら答えた。
 こうして、二つの国の間に、新たな歴史の幕が開かれた。
 テラ・ノヴァでは、リーゼリットの指導の下、戦後復興が急ピッチで進められた。レオンとセシリアは、それぞれ軍事と内政の責任者として、新国家の安定に尽力した。ジョージ爺さんとエルザは、アルカディア王国から派遣されてきた農業研修生たちに、テラ・ノヴァの進んだ農業技術を惜しみなく教えた。
 そして、カイルは、常にリーゼリットの傍らにいた。女王としての公務に追われる彼女を、公私にわたって支え続けた。
 ある晴れた日、復興が進む街を見下ろす丘の上で、リーゼリットはカイルと二人きりで立っていた。
「全てが、夢のようだわ。私がこの谷に来た日には、こんな未来、想像もできなかった」
「お前が、それを現実に変えたんだ」
 カイルは、リーゼリットの肩を優しく抱き寄せた。
「俺は、お前が女王として成し遂げたことを、誇りに思う。だが、それ以上に、リーゼ、お前という一人の女性を、愛している」
 それは、彼が初めて口にした、はっきりとした愛の言葉だった。
 リーゼリットは、驚きに目を見開いた後、幸せそうに微笑んで、カイルの胸に顔をうずめた。
「私もよ、カイル。私も、あなたを愛してる。私の、たった一人のヒーロー」
 二人は、どちらからともなく唇を重ねた。それは、幾多の困難を共に乗り越えてきた二人の、魂の結びつきを確かめるような、優しく、そして深い口づけだった。
 後日、テラ・ノヴァの初代女王リーゼリットは、国民の誰もが敬愛する英雄、カイル・ウッドを夫として、王配に迎えることを発表した。その知らせに、国中が祝福の歓声に包まれた。
 追放された悪役令嬢は、絶望の淵から立ち上がり、荒れ地を楽園に変え、仲間たちと共に国を築き、そして、かけがえのない愛を手に入れた。彼女の物語は、まだ始まったばかり。テラ・ノヴァとアルカディア王国、二つの国の夜明けは、希望の光に満ち溢れていた。
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