16 / 21
第15章:暴走する光と王子の涙
しおりを挟む
戦況が完全に覆り、自軍が崩壊していく様を目の当たりにしたリリアーナの心は、焦燥と、リーゼリットへの激しい憎悪で満たされていた。可憐な少女の仮面は剥がれ落ち、その瞳にはどす黒い狂気が宿っていた。
「こうなったら……こうなったら、全て、破壊してくれるわ!」
彼女は懐から、禍々しい紫色の魔石を取り出した。それは、所有者の生命力を吸い上げて、爆発的な魔力に変換するという禁断のアイテム、「闇の心臓」だった。
「エドワード様、あなたの力、全て私に捧げなさい!」
リリアーナは、そう叫ぶと、エドワードの体に手を触れた。エドワードが驚く間もなく、彼の魔力と生命力が、ごっそりとリリアーナへと吸い上げられていく。
「リ、リリア……!? 何を……ぐあああっ!」
エドワードはその場に崩れ落ちた。リリアーナは、彼の犠牲によって得た膨大な魔力を、「闇の心臓」へと注ぎ込む。魔石は不気味な脈動を始め、リリアーナの体から、戦場全体を覆い尽くすほどの暗黒のオーラが立ち上った。
「全て消えなさい! リーゼリットも、テラ・ノヴァも、この国の兵士たちも、みんな、みんな!」
彼女が放ったのは、もはや魔法ではなかった。敵も味方も無差別に飲み込み、全てを無に帰す、純粋な破壊の奔流だ。
「まずい! 全軍、退避!」
レオンが叫ぶが、闇の広がりはあまりにも速い。このままでは、両軍ともに壊滅的な被害を受けるだろう。
「リーゼリット!」
カイルが叫ぶ。リーゼリットは、静かに頷いた。彼女には、こうなることが分かっていた。リリアーナが光の魔法使いを名乗りながら、その根底にあるのが自己中心的な欲望と破壊衝動であることを見抜いていたからだ。
「カイル、私に力を貸して。セシリア、レオン、残った兵士たちの保護をお願い!」
リーゼリットは、再び祭壇に立った。彼女が今から使おうとしているのは、古の遺跡で授かった、最も高度な古代魔法。生命の光を凝縮し、あらゆる邪悪を浄化する「聖域創造(サンクチュアリ)」だ。
「闇あるところに、光あれ。絶望あるところに、希望あれ」
リーゼリットの体から、今度は黄金色ではなく、どこまでも透き通った、純白の光が放たれた。それは、リリアーナの禍々しい闇とは対極の、温かく、慈愛に満ちた光だった。カイルは、リーゼリットの背中にそっと手を当て、自らの魔力を全て彼女に託した。
純白の光は、巨大なドームとなって戦場全体を覆い尽くす。リリアーナが放った破壊の奔流は、その光のドームに触れた瞬間、雪が朝日に溶けるように、静かに消滅していった。
「そん……な……馬鹿な……私の力が……」
全ての力を失ったリリアーナは、その場にへたり込んだ。彼女の顔は、生命力を吸い取られた老婆のように皺だらけになり、その醜い本性を完全に露わにしていた。
戦いは、終わった。
リーゼリットの光に救われた王国軍の兵士たちは、武器を捨て、その場にひざまずいた。彼らは、自分たちの王が、そして信じていた聖女が、何をしたのかをはっきりと見ていた。
そして、エドワード王子は、リーゼリットの前に引きずり出された。彼は、リリアーナに力を吸い取られ、衰弱しきっていたが、その瞳には、初めて真実の色が映っていた。
彼は、リリアーナの暴走と、リーゼリットが放った奇跡の光を見て、全てを理解したのだ。自分がどれほど愚かで、取り返しのつかない過ちを犯したのかを。
「……リーゼ……リット……」
か細い声で、彼は元婚約者の名を呼んだ。
「すまなかった……。私が、私が間違っていた……。君を、追放しさえしなければ……。頼む、どうか、この国を……民を、見捨てないでくれ……」
それは、王子のプライドを捨てた、一人の男としての、心からの謝罪と懇願だった。その瞳からは、後悔の涙がとめどなく溢れていた。
リーゼリットは、そんなエドワードの姿を、静かに、そして少しだけ悲しそうな目で見つめていた。復讐心は、もうどこにもなかった。ただ、一つの時代が終わり、新たな時代が始まろうとしているのを、静かに感じていただけだった。
「こうなったら……こうなったら、全て、破壊してくれるわ!」
彼女は懐から、禍々しい紫色の魔石を取り出した。それは、所有者の生命力を吸い上げて、爆発的な魔力に変換するという禁断のアイテム、「闇の心臓」だった。
「エドワード様、あなたの力、全て私に捧げなさい!」
リリアーナは、そう叫ぶと、エドワードの体に手を触れた。エドワードが驚く間もなく、彼の魔力と生命力が、ごっそりとリリアーナへと吸い上げられていく。
「リ、リリア……!? 何を……ぐあああっ!」
エドワードはその場に崩れ落ちた。リリアーナは、彼の犠牲によって得た膨大な魔力を、「闇の心臓」へと注ぎ込む。魔石は不気味な脈動を始め、リリアーナの体から、戦場全体を覆い尽くすほどの暗黒のオーラが立ち上った。
「全て消えなさい! リーゼリットも、テラ・ノヴァも、この国の兵士たちも、みんな、みんな!」
彼女が放ったのは、もはや魔法ではなかった。敵も味方も無差別に飲み込み、全てを無に帰す、純粋な破壊の奔流だ。
「まずい! 全軍、退避!」
レオンが叫ぶが、闇の広がりはあまりにも速い。このままでは、両軍ともに壊滅的な被害を受けるだろう。
「リーゼリット!」
カイルが叫ぶ。リーゼリットは、静かに頷いた。彼女には、こうなることが分かっていた。リリアーナが光の魔法使いを名乗りながら、その根底にあるのが自己中心的な欲望と破壊衝動であることを見抜いていたからだ。
「カイル、私に力を貸して。セシリア、レオン、残った兵士たちの保護をお願い!」
リーゼリットは、再び祭壇に立った。彼女が今から使おうとしているのは、古の遺跡で授かった、最も高度な古代魔法。生命の光を凝縮し、あらゆる邪悪を浄化する「聖域創造(サンクチュアリ)」だ。
「闇あるところに、光あれ。絶望あるところに、希望あれ」
リーゼリットの体から、今度は黄金色ではなく、どこまでも透き通った、純白の光が放たれた。それは、リリアーナの禍々しい闇とは対極の、温かく、慈愛に満ちた光だった。カイルは、リーゼリットの背中にそっと手を当て、自らの魔力を全て彼女に託した。
純白の光は、巨大なドームとなって戦場全体を覆い尽くす。リリアーナが放った破壊の奔流は、その光のドームに触れた瞬間、雪が朝日に溶けるように、静かに消滅していった。
「そん……な……馬鹿な……私の力が……」
全ての力を失ったリリアーナは、その場にへたり込んだ。彼女の顔は、生命力を吸い取られた老婆のように皺だらけになり、その醜い本性を完全に露わにしていた。
戦いは、終わった。
リーゼリットの光に救われた王国軍の兵士たちは、武器を捨て、その場にひざまずいた。彼らは、自分たちの王が、そして信じていた聖女が、何をしたのかをはっきりと見ていた。
そして、エドワード王子は、リーゼリットの前に引きずり出された。彼は、リリアーナに力を吸い取られ、衰弱しきっていたが、その瞳には、初めて真実の色が映っていた。
彼は、リリアーナの暴走と、リーゼリットが放った奇跡の光を見て、全てを理解したのだ。自分がどれほど愚かで、取り返しのつかない過ちを犯したのかを。
「……リーゼ……リット……」
か細い声で、彼は元婚約者の名を呼んだ。
「すまなかった……。私が、私が間違っていた……。君を、追放しさえしなければ……。頼む、どうか、この国を……民を、見捨てないでくれ……」
それは、王子のプライドを捨てた、一人の男としての、心からの謝罪と懇願だった。その瞳からは、後悔の涙がとめどなく溢れていた。
リーゼリットは、そんなエドワードの姿を、静かに、そして少しだけ悲しそうな目で見つめていた。復讐心は、もうどこにもなかった。ただ、一つの時代が終わり、新たな時代が始まろうとしているのを、静かに感じていただけだった。
114
あなたにおすすめの小説
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました
藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、
騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。
だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、
騎士団の解体と婚約破棄。
理由はただ一つ――
「武力を持つ者は危険だから」。
平和ボケした王子は、
非力で可愛い令嬢を侍らせ、
彼女を“国の火種”として国外追放する。
しかし王国が攻められなかった本当の理由は、
騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。
追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、
軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。
――そして一週間後。
守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。
これは、
「守る力」を理解しなかった国の末路と、
追放された騎士団長令嬢のその後の物語。
お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます
咲月ねむと
恋愛
王宮で侍女として働く私、アリシアは、前世の記憶を持つ転生者。清掃員だった前世の知識を活かし、お掃除に情熱を燃やす日々を送っていた。その情熱はいつしか「浄化」というユニークスキルにまで開花!…したことに本人は全く気づいていない。
そんなある日、婚約者である第二王子から「お前の周りだけ綺麗すぎて不気味だ!俺の完璧な美貌が霞む!」という理不尽な理由で婚約破棄され、瘴気が漂うという辺境の地へ追放されてしまう。
しかし、アリシアはへこたれない。「これで思う存分お掃除ができる!」と目を輝かせ、意気揚々と辺境へ。そこで出会ったのは、「氷の騎士」と恐れられるほど冷徹で、実は極度の綺麗好きである辺境伯カイだった。
アリシアがただただ夢中で掃除をすると、瘴気に汚染された土地は浄化され、作物も豊かに実り始める。呪われた森は聖域に変わり、魔物さえも彼女に懐いてしまう。本人はただ掃除をしているだけなのに、周囲からは「伝説の浄化の聖女様」と崇められていく。
一方、カイはアリシアの完璧な仕事ぶり(浄化スキル)に心酔。「君の磨き上げた床は宝石よりも美しい。君こそ私の女神だ」と、猛烈なアタックを開始。アリシアは「お掃除道具をたくさんくれるなんて、なんて良いご主人様!」と、これまた盛大に勘違い。
これは、お掃除大好き侍女が、無自覚な浄化スキルで辺境をピカピカに改革し、綺麗好きなハイスペックヒーローに溺愛される、勘違いから始まる心温まる異世界ラブコメディ。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……
王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。
大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!
向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。
とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。
こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。
土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど!
一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした
きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。
顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。
しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——
『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』
放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」
王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。
しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!?
「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!)
怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる