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第15章:暴走する光と王子の涙
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戦況が完全に覆り、自軍が崩壊していく様を目の当たりにしたリリアーナの心は、焦燥と、リーゼリットへの激しい憎悪で満たされていた。可憐な少女の仮面は剥がれ落ち、その瞳にはどす黒い狂気が宿っていた。
「こうなったら……こうなったら、全て、破壊してくれるわ!」
彼女は懐から、禍々しい紫色の魔石を取り出した。それは、所有者の生命力を吸い上げて、爆発的な魔力に変換するという禁断のアイテム、「闇の心臓」だった。
「エドワード様、あなたの力、全て私に捧げなさい!」
リリアーナは、そう叫ぶと、エドワードの体に手を触れた。エドワードが驚く間もなく、彼の魔力と生命力が、ごっそりとリリアーナへと吸い上げられていく。
「リ、リリア……!? 何を……ぐあああっ!」
エドワードはその場に崩れ落ちた。リリアーナは、彼の犠牲によって得た膨大な魔力を、「闇の心臓」へと注ぎ込む。魔石は不気味な脈動を始め、リリアーナの体から、戦場全体を覆い尽くすほどの暗黒のオーラが立ち上った。
「全て消えなさい! リーゼリットも、テラ・ノヴァも、この国の兵士たちも、みんな、みんな!」
彼女が放ったのは、もはや魔法ではなかった。敵も味方も無差別に飲み込み、全てを無に帰す、純粋な破壊の奔流だ。
「まずい! 全軍、退避!」
レオンが叫ぶが、闇の広がりはあまりにも速い。このままでは、両軍ともに壊滅的な被害を受けるだろう。
「リーゼリット!」
カイルが叫ぶ。リーゼリットは、静かに頷いた。彼女には、こうなることが分かっていた。リリアーナが光の魔法使いを名乗りながら、その根底にあるのが自己中心的な欲望と破壊衝動であることを見抜いていたからだ。
「カイル、私に力を貸して。セシリア、レオン、残った兵士たちの保護をお願い!」
リーゼリットは、再び祭壇に立った。彼女が今から使おうとしているのは、古の遺跡で授かった、最も高度な古代魔法。生命の光を凝縮し、あらゆる邪悪を浄化する「聖域創造(サンクチュアリ)」だ。
「闇あるところに、光あれ。絶望あるところに、希望あれ」
リーゼリットの体から、今度は黄金色ではなく、どこまでも透き通った、純白の光が放たれた。それは、リリアーナの禍々しい闇とは対極の、温かく、慈愛に満ちた光だった。カイルは、リーゼリットの背中にそっと手を当て、自らの魔力を全て彼女に託した。
純白の光は、巨大なドームとなって戦場全体を覆い尽くす。リリアーナが放った破壊の奔流は、その光のドームに触れた瞬間、雪が朝日に溶けるように、静かに消滅していった。
「そん……な……馬鹿な……私の力が……」
全ての力を失ったリリアーナは、その場にへたり込んだ。彼女の顔は、生命力を吸い取られた老婆のように皺だらけになり、その醜い本性を完全に露わにしていた。
戦いは、終わった。
リーゼリットの光に救われた王国軍の兵士たちは、武器を捨て、その場にひざまずいた。彼らは、自分たちの王が、そして信じていた聖女が、何をしたのかをはっきりと見ていた。
そして、エドワード王子は、リーゼリットの前に引きずり出された。彼は、リリアーナに力を吸い取られ、衰弱しきっていたが、その瞳には、初めて真実の色が映っていた。
彼は、リリアーナの暴走と、リーゼリットが放った奇跡の光を見て、全てを理解したのだ。自分がどれほど愚かで、取り返しのつかない過ちを犯したのかを。
「……リーゼ……リット……」
か細い声で、彼は元婚約者の名を呼んだ。
「すまなかった……。私が、私が間違っていた……。君を、追放しさえしなければ……。頼む、どうか、この国を……民を、見捨てないでくれ……」
それは、王子のプライドを捨てた、一人の男としての、心からの謝罪と懇願だった。その瞳からは、後悔の涙がとめどなく溢れていた。
リーゼリットは、そんなエドワードの姿を、静かに、そして少しだけ悲しそうな目で見つめていた。復讐心は、もうどこにもなかった。ただ、一つの時代が終わり、新たな時代が始まろうとしているのを、静かに感じていただけだった。
「こうなったら……こうなったら、全て、破壊してくれるわ!」
彼女は懐から、禍々しい紫色の魔石を取り出した。それは、所有者の生命力を吸い上げて、爆発的な魔力に変換するという禁断のアイテム、「闇の心臓」だった。
「エドワード様、あなたの力、全て私に捧げなさい!」
リリアーナは、そう叫ぶと、エドワードの体に手を触れた。エドワードが驚く間もなく、彼の魔力と生命力が、ごっそりとリリアーナへと吸い上げられていく。
「リ、リリア……!? 何を……ぐあああっ!」
エドワードはその場に崩れ落ちた。リリアーナは、彼の犠牲によって得た膨大な魔力を、「闇の心臓」へと注ぎ込む。魔石は不気味な脈動を始め、リリアーナの体から、戦場全体を覆い尽くすほどの暗黒のオーラが立ち上った。
「全て消えなさい! リーゼリットも、テラ・ノヴァも、この国の兵士たちも、みんな、みんな!」
彼女が放ったのは、もはや魔法ではなかった。敵も味方も無差別に飲み込み、全てを無に帰す、純粋な破壊の奔流だ。
「まずい! 全軍、退避!」
レオンが叫ぶが、闇の広がりはあまりにも速い。このままでは、両軍ともに壊滅的な被害を受けるだろう。
「リーゼリット!」
カイルが叫ぶ。リーゼリットは、静かに頷いた。彼女には、こうなることが分かっていた。リリアーナが光の魔法使いを名乗りながら、その根底にあるのが自己中心的な欲望と破壊衝動であることを見抜いていたからだ。
「カイル、私に力を貸して。セシリア、レオン、残った兵士たちの保護をお願い!」
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「闇あるところに、光あれ。絶望あるところに、希望あれ」
リーゼリットの体から、今度は黄金色ではなく、どこまでも透き通った、純白の光が放たれた。それは、リリアーナの禍々しい闇とは対極の、温かく、慈愛に満ちた光だった。カイルは、リーゼリットの背中にそっと手を当て、自らの魔力を全て彼女に託した。
純白の光は、巨大なドームとなって戦場全体を覆い尽くす。リリアーナが放った破壊の奔流は、その光のドームに触れた瞬間、雪が朝日に溶けるように、静かに消滅していった。
「そん……な……馬鹿な……私の力が……」
全ての力を失ったリリアーナは、その場にへたり込んだ。彼女の顔は、生命力を吸い取られた老婆のように皺だらけになり、その醜い本性を完全に露わにしていた。
戦いは、終わった。
リーゼリットの光に救われた王国軍の兵士たちは、武器を捨て、その場にひざまずいた。彼らは、自分たちの王が、そして信じていた聖女が、何をしたのかをはっきりと見ていた。
そして、エドワード王子は、リーゼリットの前に引きずり出された。彼は、リリアーナに力を吸い取られ、衰弱しきっていたが、その瞳には、初めて真実の色が映っていた。
彼は、リリアーナの暴走と、リーゼリットが放った奇跡の光を見て、全てを理解したのだ。自分がどれほど愚かで、取り返しのつかない過ちを犯したのかを。
「……リーゼ……リット……」
か細い声で、彼は元婚約者の名を呼んだ。
「すまなかった……。私が、私が間違っていた……。君を、追放しさえしなければ……。頼む、どうか、この国を……民を、見捨てないでくれ……」
それは、王子のプライドを捨てた、一人の男としての、心からの謝罪と懇願だった。その瞳からは、後悔の涙がとめどなく溢れていた。
リーゼリットは、そんなエドワードの姿を、静かに、そして少しだけ悲しそうな目で見つめていた。復讐心は、もうどこにもなかった。ただ、一つの時代が終わり、新たな時代が始まろうとしているのを、静かに感じていただけだった。
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