追放された悪役令嬢は、辺境の谷で魔法農業始めました~気づけば作物が育ちすぎ、国までできてしまったので、今更後悔されても知りません~

黒崎隼人

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番外編3:女王を支える二つの柱

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 レオン・ハートにとって、騎士の誓いとは絶対だった。国を守り、民を守り、正義を貫く。しかし、彼が仕えたアルカディア王国は、腐敗しきっていた。私利私欲に走る貴族、真実から目をそらす王家。彼の正義は、ただの「堅物」として煙たがられるだけだった。騎士団長という地位を投げ捨てた時、彼は深い無力感に苛まれていた。
 セシリア・ローズにとって、知識とは力だった。王宮の書庫に眠る膨大な書物は、彼女に歴史の真実と、政治の裏側を教えてくれた。しかし、その知識を行使する場はなく、彼女はただ、歴史が過ちを繰り返していくのを、静かに見つめることしかできなかった。
 そんな二人の燻りを晴らしてくれたのが、リーゼリットという一人の女性だった。
 彼女が追放された時、二人はそれぞれの場所で、それが「偽りの断罪」であることを見抜いていた。だからこそ、彼女からの密書が届いた時、迷いはなかった。我々が本当に仕えるべき主君は、この人しかいない、と。
「緑の谷」で再会したリーゼリットは、彼らの想像を遥かに超える人物へと成長していた。彼女は、逆境を力に変え、民を導くカリスマ性と、大地を愛する深い慈愛を併せ持っていた。レオンは、彼女の中に、自分が追い求めていた真の「王」の姿を見た。セシリアは、彼女の行動力と柔軟な発想に、歴史を変える「英雄」の資質を感じた。
 新国家「テラ・ノヴァ」が建国され、レオンは軍事総司令官、セシリアは宰相となった。二人は、水を得た魚のように、それぞれの能力を存分に発揮した。
 レオンは、鉄壁の防衛網を築き上げた。それは、単に力で敵をねじ伏せるのではなく、知略と地形を最大限に活かし、味方の損害を最小限に抑える、民を守るための軍隊だった。彼の訓練は厳しかったが、その根底には常に「命を無駄にするな」という強い信念があり、兵士たちは彼を心から信頼した。
 セシリアは、国家の骨格を作り上げた。法律、経済、外交。彼女が描く国家のビジョンは、常に公正で、合理的で、そして何より、国民の幸福を第一に考えていた。王国の貴族たちが私腹を肥やすために政治を利用していたのとは、全く対極の、クリーンで力強い国家運営だった。
 二人は、多忙な日々の中で、互いを意識するようになっていた。
 レオンは、夜遅くまで執務に打ち込むセシリアの姿に、彼女の知性と、国への献身的な愛を感じ取っていた。彼は、不器用ながらも、彼女のために夜食を届けたり、体調を気遣ったりした。
 セシリアは、訓練場で兵士たちを指導するレオンの姿に、彼の揺るぎない正義感と、その奥にある優しさを見出していた。彼女は、彼の無骨な言葉の中に隠された、深い思いやりを理解していた。
 二人の関係は、リーゼリットとカイルのように情熱的なものではなかったかもしれない。だが、同じ理想を見つめ、互いの能力を深く尊敬し合う、静かで、しかし強固な絆で結ばれていた。
 戦争が終わり、平和が訪れた後。ある夜、月明かりの差す執務室で、レオンがセシリアに問いかけた。
「セシリア殿。これからの人生、国のためだけでなく……私と共に、歩んではくれまいか」
 それは、彼らしい、実直で飾らない言葉だった。
 セシリアは、少し驚いたように目を見開いた後、ふわりと、花が綻ぶように微笑んだ。
「ええ、喜んで。レオン様。あなたという、最も信頼できるパートナーと共に歩めるなら、これ以上の幸せはありませんわ」
 女王リーゼリットを支える、軍事と内政という二つの柱は、私生活においても、互いを支え合う、かけがえのない存在となったのだった。
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