無自覚チートで無双する気はなかったのに、小石を投げたら山が崩れ、クシャミをしたら魔王が滅びた。俺はただ、平穏に暮らしたいだけなんです!

黒崎隼人

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第1章:未知の力と「気のせいかな?」で済ます男

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 森の中を、俺はあてもなく歩いていた。スーツ姿で森を徘徊する男。我ながら不審者以外の何物でもない。だが、仕方ないのだ。右も左もわからないのだから。
「しかし、本当に体が軽いな」
 少し速足で歩くだけで、景色が面白いように後ろへ飛んでいく。なんだか楽しくなってきて、俺は地面に転がっていた手頃な大きさの小石を拾い上げた。子どもの頃みたいに、遠くの木に当てられるか試してみよう。そんな軽い気持ちだった。
「えいっ」
 ひゅん、と腕を振る。自分でも驚くほど滑らかに腕がしなり、小石が弾丸のような速さで飛んでいった。
 次の瞬間。
 ドッゴォォォォン!!
 凄まじい轟音と共に、数十メートル先にあった大岩が木っ端微塵に砕け散った。
「…………え?」
 口をあんぐりと開けたまま、俺は目の前の光景を信じられずにいた。あの岩、どう見ても乗用車くらいの大きさはあったぞ。それが、俺の投げた小石一つで?
「……いやいや、まさかな」
 俺はぶんぶんと首を振った。
「たぶん、あの岩、もともと脆かったんだろう。うん、そうに違いない。風化してて、たまたま俺の小石が当たったタイミングで崩れたんだ。すごい偶然だな」
 自分にそう言い聞かせ、俺は無理やり納得することにした。自分の力が異常だなんて、そんな非現実的なことがあるわけない。
 しばらく歩くと、目の前に少し開けた場所が見えてきた。そこには、数人の屈強な男女が、剣や杖を構えて何かと対峙している。
「ん?何かの撮影かな?」
 興味本位でそっと木の陰から覗いてみると、彼らが囲んでいるのは、緑色の肌をした、背の低い生き物の群れだった。尖った耳に、醜悪な顔。手には粗末な棍棒や錆びたナイフを持っている。
「うわ、ゴブリン……?って、本物かよ!」
 ゲームや小説でしか見たことのないモンスターの姿に、俺の背筋は凍りついた。ここは本当に、俺の知っている世界じゃないらしい。
 冒険者らしき人々は、ゴブリンの群れを相手に苦戦しているようだった。一人の女性が足を斬られ、体勢を崩す。
「危ない!」
 そう思った瞬間、俺の体は勝手に動いていた。困っている人を見過ごせないのは、サラリーマン時代からの性分だ。
「うわっ!」
 助けようと駆け出しただけなのに、地面を蹴った足が、俺の体をとんでもない高さまで押し上げた。気づけば、俺は木々のてっぺんを軽々と飛び越え、冒険者たちとゴブリンの群れのど真ん中に着地していた。
 ズシャァァァン!
 着地の衝撃で地面がクレーターのように凹み、周囲のゴブリンたちが衝撃波で木の葉のように吹き飛ばされる。
「「「「「え?」」」」」
 冒険者たちと、かろうじて立っていたゴブリンたちの呆気にとられた声が重なった。
「あ、あれ?すみません、ちょっと着地に失敗しまして……」
 俺は頭をかきながら、気まずそうに言った。ただ、ちょっとジャンプしただけなのに、どうしてこうなった?
「グギィィィ!」
 我に返った一体のゴブリンが、棍棒を振りかざして俺に殴りかかってきた。
「うおっと!」
 俺は咄嗟に体を捻ってそれを避けようとした。ただ、避けただけだ。それなのに、俺の体をかすめたゴブリンは、まるで巨大な何かに弾き飛ばされたかのように、きりもみ回転しながら森の奥へと消えていった。
「……え?」
 何が起きたのか分からない。
 残りのゴブリンたちが、今度は恐怖の表情を浮かべて俺に襲いかかってくる。数の暴力だ。まずい。
「ちょ、来ないでくれ!」
 俺はパニックになりながら、押し寄せるゴブリンたちを手で払いのけるように、めちゃくちゃに腕を振った。ただ、虫を追い払うような、そんな仕草。
 ボゴッ!ドガッ!ベキッ!
 鈍い音が連続して響き渡り、気づけば俺の周りにいたゴブリンは一体残らず、無残な肉塊となって地面に転がっていた。
 しーん、と静まり返る森。
 俺は自分の手を見つめる。この手で、今、何をした?
「た、たまたま……だよな?こいつら、見かけによらずすごく弱かったのかな?」
 俺が必死に自己弁護の言葉を探していると、後ろから震える声が聞こえてきた。
「あ、あの……」
 振り返ると、最初に助けようとした冒険者たちが、信じられないものを見るような目で俺を見つめていた。一人の男がゴクリと唾を飲み込み、震える声で言った。
「貴方は……一体、何者なんですか……?今の、一撃は……まるで神話の英雄のようでした……」
「はあ?英雄?」
 俺は思わず首を傾げた。
「いやいや、そんな大げさな。たまたまですよ、たまたま。こいつらが弱かっただけですって。それじゃ、俺、急いでるんで」
 混乱した頭のまま、俺はその場を逃げるように立ち去った。残された冒険者たちが、俺の後ろ姿を拝むように見送っていたことなど、知る由もなかった。
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