無自覚チートで無双する気はなかったのに、小石を投げたら山が崩れ、クシャミをしたら魔王が滅びた。俺はただ、平穏に暮らしたいだけなんです!

黒崎隼人

文字の大きさ
2 / 15

プロローグ:平凡な日常と、あまりにも唐突な終わり

しおりを挟む
 ブー、ブー、とポケットの中でスマートフォンが震える。鬱陶しい振動に眉を寄せながら、俺、相田勇樹(あいだゆうき)、32歳独身サラリーマンは、ため息混じりにそれを取り出した。上司からの残業を促すメッセージ。今日のノルマはとっくに達成しているというのに。
「はぁ……帰るか」
 誰に言うでもなく呟き、俺は無人のオフィスに一人、PCのシャットダウンボタンを押した。窓の外はとっぷりと暮れ、ビルの明かりがコンクリートジャングルを照らしている。毎日毎日、同じことの繰り返し。特に夢中になる趣味もなく、恋人もいない。ただ会社とアパートを往復するだけの、色のない日々。それが俺の日常だった。

 会社のビルを出て、駅へと向かう。いつもと同じ道、いつもと同じ景色。横断歩道で信号待ちをしていると、ふと、このままどこか遠くへ行ってしまいたい、なんてらしくないことを考えた。そんなことを思ったのが、運の尽きだったのかもしれない。
 信号が青に変わる。ぼんやりとした頭で一歩踏み出した、その瞬間。
 キィィィィッ!
 鼓膜を突き破るようなブレーキ音。視界の端で、巨大なヘッドライトが迫ってくるのが見えた。スマホをいじりながら猛スピードで交差点に突っ込んできたトラック。ああ、これがいわゆる「ながら運転」ってやつか。他人事のようにそう思った。
 衝撃は、なかった。
 ただ、視界がぐるりと回転し、宙を舞っているような奇妙な浮遊感があった。遠ざかっていくアスファルト。人々の悲鳴が、どこか遠くで聞こえる。
(あ、俺、死ぬのか)
 不思議と恐怖はなかった。むしろ、これでようやく、あの単調な毎日から解放されるのか、と安堵したくらいだ。薄れていく意識の中で、最後に思ったのは「来世があるなら、もう少し刺激的な人生がいいな」なんて、あまりにも都合のいい願い事だった。
 それが、俺の最初の人生の、あまりにも唐突な終わりだった。

 次に意識が浮上したとき、俺の体を包んでいたのは、アスファルトの硬さではなく、ふかふかとした土と草の感触だった。鼻孔をくすぐる、濃い緑の匂い。小鳥のさえずりが耳に届く。
「……ん?」
 重い瞼をゆっくりとこじ開ける。目に飛び込んできたのは、見たこともないような巨木が鬱蒼と生い茂る、広大な森の景色だった。コンクリートジャングルはどこにもない。代わりに、空を覆い尽くさんばかりの葉の隙間から、柔らかな木漏れ日が降り注いでいた。
「……どこだ、ここ?」
 上半身を起こし、周囲を見渡す。服装は会社に着ていったスーツのままだが、不思議と汚れてはいない。体に痛みもない。むしろ、驚くほどに体が軽い。長年のデスクワークで凝り固まっていた肩や腰が、嘘のようにすっきりしている。
「トラックに轢かれたはずだよな……?夢か?」
 自分の頬をつねってみる。ちゃんと痛い。これは現実だ。
 状況が全く理解できない。もしかして、誰かが俺をここまで運んできたのか?いや、こんな森の奥深くまで?何のために?
 混乱する頭で立ち上がると、その軽さに再び驚いた。まるで自分の体が羽にでもなったような感覚だ。
「なんか、すごく……体調がいいな」
 とりあえず、ここがどこなのか確かめなければ。俺は状況を把握するため、きょろきょろと周囲を見渡しながら、一歩を踏み出した。
 この時の俺は、まだ知る由もなかった。この軽い一歩が、この世界そのものを揺るがす、とんでもない伝説の始まりになるということを。そして、その原因である俺自身が、最後までその事実に気づかないままでいるということも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

【完結】勇者に折られた魔王のツノは、幼児の庇護者になりました

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
旧タイトル:膨大な魔力と知識ありのチートだけど、転生先がツノはないよね? 異世界転生、胸躍らせる夢の展開のはず。しかし目の前で繰り広げられる勇者vs魔王の激戦に、僕は飽きていた。だって王の頭上で、魔力を供給するだけのツノが僕だ。魔王が強いからツノがあるのではなく、ツノである僕がいるから彼が最強だった。 ずっと動けない。声は誰にも聞こえない。膨大な魔力も知識チートも披露できぬまま、魔王の頭上で朽ちるのか。諦めかけていた。 勇者の聖剣が僕を折るまでは……!  動けなかったツノは、折れたことで新たな仲間と出会う。チート無双はできないが、ツノなりに幸せを掴めるのか!? いつか自力で動ける日を夢見て、僕は彼と手を組んだ。 ※基本ほのぼの、時々残酷表現あり(予告なし) 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2021/11/17 完結

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

水神飛鳥の異世界茶会記 ~戦闘力ゼロの茶道家が、神業の【陶芸】と至高の【和菓子】で、野蛮な異世界を「癒やし」で侵略するようです~

月神世一
ファンタジー
「剣を下ろし、靴を脱いでください。……茶が入りましたよ」 ​ 猫を助けて死んだ茶道家・水神飛鳥(23歳)。 彼が転生したのは、魔法と闘気が支配する弱肉強食のファンタジー世界だった。 ​チート能力? 攻撃魔法? いいえ、彼が手にしたのは「茶道具一式」と「陶芸セット」が出せるスキルだけ。 ​「私がすべき事は、戦うことではありません。一服の茶を出し、心を整えることです」 ​ゴブリン相手に正座で茶を勧め、 戦場のど真ん中に「結界(茶室)」を展開して空気を変え、 牢屋にぶち込まれれば、そこを「隠れ家カフェ」にリフォームして看守を餌付けする。 ​そんな彼の振る舞う、異世界には存在しない「極上の甘味(カステラ・羊羹)」と、魔法よりも美しい「茶器」に、武闘派の獣人女王も、強欲な大商人も、次第に心を(胃袋を)掴まれていき……? ​「野暮な振る舞いは許しません」 ​これは、ブレない茶道家が、殺伐とした異世界を「おもてなし」で平和に変えていく、一期一会の物語。

モンド家の、香麗なギフトは『ルゥ』でした。~家族一緒にこの異世界で美味しいスローライフを送ります~

みちのあかり
ファンタジー
10歳で『ルゥ』というギフトを得た僕。 どんなギフトかわからないまま、義理の兄たちとダンジョンに潜ったけど、役立たずと言われ取り残されてしまった。 一人きりで動くこともできない僕を助けてくれたのは一匹のフェンリルだった。僕のギルト『ルゥ』で出来たスープは、フェンリルの古傷を直すほどのとんでもないギフトだった。 その頃、母も僕のせいで離婚をされた。僕のギフトを理解できない義兄たちの報告のせいだった。 これは、母と僕と妹が、そこから幸せになるまでの、大切な人々との出会いのファンタジーです。 カクヨムにもサブタイ違いで載せています。

処理中です...