『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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全年齢対応・表現マイルドバージョン

第18話 63階層の死闘 後編 ~空からの断罪~

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 モンスターのレベル帯は変わったが、やる事は変わらない。
 40階層までのモンスターを送り出して『人間』たちを攻め立てるのだ。

 40階層までの主体となるモンスターは『トノサマバッタ』、『オニヤンマ』、『コクワガタ』、『カミキリムシ』となる。
 『トノサマバッタ』などはまんま『オンブバッタ』の上位互換だ。

 基本ステータスが上昇していることで、個別の破壊力が高くなる。
 これは、どのモンスターにも当てはまるものだ。
 戦闘力が一段高くなった。

 「階層が変わった?」
 と、偵察用『トンボ』が百合根先輩の呟きを拾った。

 「間違いないわね」
 戦闘中のモンスターを観察して、大きく頷いている。

 「みんな! 敵は40階層より下の雑魚よ! 落ち着いて対応して!」
 間違ってはいない。

 深層まで一人の犠牲もなく来れたのだ。
 冷静に戦えば勝てない相手ではない。

 「理由はわからないけど、弱い奴らから順にじゃないと出せないんだわ。この戦い、勝てるわよ!」
 仲間を鼓舞する女指揮官。
 絵になるほど美しい。
 
 しかも、指摘が的確だ。
 百合根先輩に、モンスターのレベル帯に気付れた。

 踏ん張りどころ!
 そう気を張った横顔が凛々しすぎる。

 ・・・中身はともかく。
 
  ◇抗戦(百合根友梨視点)◇

「階層が変わった?」
 口にした瞬間、違和感が確信に変わる。
 魔法の反応速度、モンスターの動き、攻撃の重さ——すべてが、今までと違う。
 これは、間違いない。

「みんな! 敵は40階層より下の雑魚よ!」
 声が響いた瞬間、仲間たちの動きが整う。

 冷静に見てみれば、ここへ来るまでに相手してきたモンスターだ。
 冷静になりさえすれば、対処法もわかっている。

 問題なく動けていた。
 その様子に、胸の奥が静かに熱を帯びる。

 ——見えてる。
 ——理解できてる。
 ——導けている。

 これが、私の役割。
 これが、私の戦場。
 主力からは外れてしまったけれど、『ココ』も重要な役割には違いない。
 果たし切って見せる!

「勝てるわよ!」
 その言葉に、迷いはなかった。
 敵の強さも、仲間の不安も、全部見えている。
 だから、勝てる。
 私がいる限り。


 一瞬だけ、視線が逸れた。
 見るつもりなんてなかった。
 でも、目に入ってしまった。

 ——彼が、誰かと抱き合っていた。
 その誰かは、私じゃなかった。

 声が出なかった。
 心が、音もなく沈んだ。
 ほんの一瞬。

 その隙を、空が裂いた。
 鋭い影が降りてくる。
 魔法が間に合わない。
 鋭さを持った影が、肩を切り裂いた。

 ——しまった。
 どうして、あんなものを見てしまった?
 どうして、あの瞬間に心を揺らした?

 自分が許せない。

 戦場で、指揮官であるはずの私が。
 感情に流されて人間になってしまった。

 でも、もういい。
 感情なんて、いらない。
 熱なんて、邪魔だ。

 私は、冷たくなる。
 そうすれば、誰にも揺らされない。

 心が、音もなく沈んだ。
 それは、名前を呼べなかった痛みだった。

 ああ、でも、それも——もう意味はない。
 空が遠い。
 地面が遠い。

 そして、戦場が遠くなる。


 ◇カルマ視点◇

 百合根先輩の檄を受けて、反撃が始まった。
 手を付けていなかった使い捨て魔法道具による、物量戦にシフトしてきたのだ。
 それでも、こちらだって戦力は上がっている。

 『トノサマバッタ』の跳躍は地面にクレーターを刻み、  
『コクワガタ』は硬質な体で突進し、挟撃による拘束を仕掛ける。  
『カミキリムシ』は属性魔法を撥ね返し、魔職を翻弄する。

 それでも、本来ならばそう苦戦するものでもなかっただろう。
 百合根先輩が指摘した通りだ。
 『人間』たちがちゃんと連携できていれば、『コクワガタ』には魔職が、『カミキリムシ』には近接職が。
 それぞれに相手どればいいだけのこと。

 だが、その連携は音を立てて崩れ始めている。

 「って、百合根先輩いないじゃん?!」
 指揮所に姿がない。  
 探すと、空から急降下した『オニヤンマ』に捕らえられていた。

 魔法をものともせず、鋭い顎が肩を切り裂いている。  
 爪と顎で拘束され、逃れるのは困難だ。

 空間の広さと高さが災いしていた。 
 指揮所は、空からの攻撃に対して無防備なのだ。  
 まるで、生贄のように晒されていた。

 「もう立て直せないだろう」
 
 誰かが叫んだ。
 でも、声は届かない。
 あの教室でも、誰かの声は、ずっと届かなかった。

 魔法が放たれた。
 けれど、狙いは定まらない。
 旧校舎では、なにを目指すべきか何も見えていなかった。

 剣が振るわれた。
 けれど、連携はもうない。
 あの教室に携える手は存在していなかった。

 モンスターが跳ねる。
 地面が割れる。
 でも、誰も見ていない。
 旧校舎の戸脇駆馬と同様に。

 指示がない。
 だから、誰も動けない。

 それでも、戦いは続いている。
 虫型モンスターは確かに倒され続けていた。
 同時に、『人間側』の損耗も激しい。

 一人、一人、また一人。
 名前が消えていく。

 風が吹いた。
 冷たい。
 静かだ。

 そして、戦場は止まった。
 激闘の夏が過ぎ、冬が始まろうとしている。


 もはや、63階層の戦い。  
 その帰趨は、決した。
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