『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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全年齢対応・表現マイルドバージョン

第23話 沢辺みどりの独白 ~制服と笑顔と、私の名前~

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 本当に人間ではなくなってしまった。
 殺人の共謀に加担した罰なのかな?

 天罰ってやつ?
 復讐で殺されなかっただけ、ありがたいと思うべき?
 開きっぱなしのウィンドウには、いまも魔力を吸われ続けているみんながいる。
 
 そうだね。
 あれよりはマシなんだよね。

 幸運なんだよね。
 自分に言い聞かせて、マスターに付き従う。
 それが、これからの私。
 だって・・・。

「かなりイケてる。可愛いよ!」
 その言葉が、胸の奥に落ちた。

 人間じゃなくなった。
 妖怪になった。
 それでも——いや、だからこそ。

 今の私を、見てくれた。
 今の私を、褒めてくれた。

 制服の袖を、そっと握る。
 これは、もう『人間の服』じゃない。
 妖怪になった私が、着ている『私の服』だ。

 それが、嬉しかった。
 こんな気持ち、忘れてた。

 だから、笑えた。
 だから、足踏みした。

 それは、妖怪になった私の、最初の喜びだった。
 制服を着るって嬉しいことだったんだ・・・。
 ただの『装備品』になってたなぁ。

「ん?」
 制服の袖を握ったまま、ふと、思い出す。

 ——あのとき。
 カルマを、爆弾として使い捨てる計画を聞いたとき。
 私は、何も言わなかった。
 反対もしなかった。

 それが『正しい』と思ってた。
 それが『人間』として『探索者』としての判断だと思ってた。

 でも今、こうして妖怪になって。
  制服を着て。
「可愛いよ」って言われて。
 胸の奥が、あったかくなった。

 あれ?
 どちらが私?

 あのときの、黙って従った『人間の私』?
 それとも今、笑ってしまった『妖怪の私』?

 どちらが正しいの?
 わからない。

 でも、今の私は、少なくとも、カルマに「可愛い」って言ってもらえた。
 それだけは、確かだ。


「ああ、そうか」
 わかった。

 わたしが『可愛い』理由。
 答えは単純。
 すでに出てた。

 だって、『笑えてた』!
『探索者』として活動し始めてから、笑ったことなんてある?
『嗤った』ことはある。
 でも『笑った』ことはない。

 功績を上げて。
 儲かって。
 皆で騒いだあの日。

『笑って見せた』ことはある。
 でも、『笑えてた』ことはない。

 それが、さっきは自然に『笑えて』た。
 意識して作った『笑顔』じゃない。
 『笑った』からできた顔だった。

 だから、『可愛い』って言ってもらえる顔になってたんだ!
 私は『妖怪』の方が『見てもらえる』んだ。

 私は『妖怪』。
 私は『河童』。
 私は『沢辺みどり』。
 
 私はカルマの・・・なんだろ?
 仲間?
 友達?
 それとも・・・もっと特別な何か?

 わかんないけど、『可愛い』って言ってもらえる存在。
 『笑顔』の無かった『仁科悠』はもういらない。
 カルマを、『仲間』を、死地に向かわせることを認めてしまうような、そんな『人間』はいらない。

 わかっちゃった。
 『本当はわかっちゃダメ』なのかもしれないけど。
 カルマが『人間』を拒み否定するのは、この為なのだろう。

 『私』は一歩踏み出した。
 
 「次は誰?」
 『学園祭』をするのなら、もっと人——んーん『妖怪』を増やさなきゃ!
 その子もきっと、笑えるようになる!
 だって、私も、ずっと笑えなかったから。

 胸元で赤いリボンが揺れている。
 動いているのかよくわからないけど、心臓が高鳴っているような気がする。

 この制服が、誰かの涙を笑顔に変える日が来る。
 そう信じてる。
 
『制服』って所属する学校を示すもの。
 学友との連帯感の象徴。
 これから、この制服は私たち『妖怪』の『誇り』になるんだ!

「この制服が、私たちの旗になる」
 そう思った瞬間、ふと気になった。

「でも、もう少しだけ・・・私らしさを入れてもいいのかな?」
 完全に、元の『学校指定制服』なのだ。

『仁科悠』なら、それでいいけど。
『沢辺みどり』には少しだけ、窮屈に思える。

 袖にワンポイントの刺繍とか、リボンの色を少し変えるとか。
 それだけで、もっと『私の制服』になる気がした。

 言ってもいいかな?
 怒られる?

 ちょっとためらった。
 だけど!

『可愛いよ』に勇気をもらう。

「あのね、制服のデザインって変えてもいい?」
 せっかく作ってくれた制服が、無駄になるって言われちゃう?

「でざいん?」
 不思議そうな顔をされた。
 拒否ではないことに、ほっとする。

「・・・あー、そうか」
 腕を組んで、悩まれてしまった。
 悩ませるつもりはなかったのだけど・・・。

「そういうのよくわからないから任せるよ。ただ・・・」
 私の胸元に視線が来た。
 ドキッとする。

「うん。校章のデザインは確かに変えないとだね」
「あ、ああ。うん」
 制服の刺繡を見ていたのか。

 でも、そうだ。
『あの』学校の校章が付いたままはおかしい。

 でも・・・。

「うー。校章の変更は、私もわかんない」
 リボンの色とかを変えるぐらいならできるけど、校章のデザインとかは無理だ。

「これから何体か『妖怪』を作ることになるだろうし、そいつと相談するといいよ」

 困っていると、そう言ってくれた。
 そうだ、これは私『たち』の制服なのだ。

 みんなで着られる。
 みんなが着たい。
 そんな制服でないと!

「うん。そうするね」

 だけど・・・。

「なにかないの? こういうのがいいって要望」
 スカートの丈は短くとか。
 胸元開けてとかありそうなんだけど。
 男の子って、そういうの好きだったりしない?
 偏見かな?

「・・・・・・」
 黙られた。
 あるんだ!

「どういうの? 教えて!」
 思いっきって顔を近づけた。
 近すぎて自分まで赤面しそうだけど、耐える。

「・・・大正ロマン。女学生制服・・・」
「たいしょう?」
 首を傾げた。

 でも。
 わかった!

「袴女子だ!」
 確かに可愛いかも!

 妖怪女子っぽい!
 それ、すごくいい!

「考えてみるね!」
「あ、ああ。うん」

 視線を逸らして、指先で頬を搔いてる。
 なんだろ?
 すごく近くなって感じがする!

 制服を作ろう。
 きっと素敵になれる。

 みんなで作る制服。
 みんなで着る制服。

 それが、迷宮の中で、私たちが『ここにいる』って証になる。
 その制服があれば、私はもう一度、誰かと並んで歩ける気がした。

 仁科悠は、笑えなかった。
 でも、あの子がいたから、今の私がいる。
 この制服を着て、私は『ずっと』笑える自分になる!

 ずっと『愛される』私でいる!
『私』のために!
 『カルマ』のために!

 その誓いが、迷宮の空気を、ほんの少しだけ、柔らかくした。

 それが、旧校舎の空気をほんの少し揺らしていた。
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