『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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全年齢対応・表現マイルドバージョン

第27話 妖怪制作② ~テケテケ~

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 新たに出て来る『素材』の回収を冷静沈着な『雪女』しらゆきにお願いして、現状の素材再生をカルマは進めていく。
 この階層にはレイドに出た『探索者』の半数以上が『ある』。
 どんどん進めていける。



「次は『テケテケ』を作ります!」
 もみじとしらゆきを左右に従えて宣言した。

 なにせ「そのために用意しました!」と言わんばかりの素材があるんですもの。
 作らないわけにいかないじゃないか!

 なんのことか?
 しらゆきちゃんが人間だったときの彼氏を略奪した女のことだ。
 騙されていただけかもしれないが、いまとなってはどちらだろうが関係ない。

 ウエストのくびれた部分で輪切りにされていた子である。
 傷口をすぐに凍らされたことで即死せず、ヒーラーを探して這いずった根性女子だ。

 この執念。
 実に妖怪向きの逸材である。

 「足すモノとかないしな。すぐ作れる」
 胴体の半ばから下がない以外は『人間』だからな。

 創作の漫画だとハサミを持っていたりカマを持っていたりするけど。
 手で這うのにハサミを持ったら動きにくいだろう。

 「まぁ、モンスターとしては攻撃手段がないってのは問題だけど」
 腕で這いずって、見たモノを恐怖させて追い掛け回すのがテケテケなのだ。

 だが、そこは『スキル』とかで何とかなるだろう。
 正直作ってみたいだけだったりするし。

 「生前の意識を確認してみよう」
 ポチッとな。

 『システム』内のデータを呼び起こす。
 死ぬ寸前の記憶だ。

 ウィンドウが起動して、映像が浮かび上がる。
 
 『痛い、痛い!』
 魂なのだろうか?
 へその上あたりからぶつ切りされた女の子が、宙に浮いた状態で訴えてくる。

 よく見ると左手も手首から先が無くなっていた。
 腹部と左手の傷口を氷なのかエクトプラズマなのか、青いものがモワモワと覆っている。

 『助けて、助けて、タスケテ、タスケテ、テケ、テケ』
 テケテケの名前の由来だとされる言葉が紡がれた。

 「そうだね。助けてあげるよ」
 体を回収、データ化したのちに『妖怪』属性のモンスターとして再構築。
 それだけで、『テケテケ』は完成した。

      ◆園山裕子視点(テケテケの前)◆

 もう、足の痛みはない。
 もう、叫ばなくていい。

 血まみれの手も、泡のような下半身も、 誰かに見られても、もう恥ずかしくない。
 だって、もう人間じゃないから。

 彼女は知っていた。
 この姿になったのは、怒りのせいだって。
 嫉妬のせいだって。

 友梨ちゃんの、あの冷たい視線。
 彼を奪った罰。

 そして、わかる。
 『アイツ』に『死』を強制した罪。

 生きて帰れなかったのは、その報い。
 変な風に復活させられるのは、その代償。

 だとしても・・・ここまでされなきゃいけないことだった?
 死を強制する筋書きを描いたのは学校の教師たちだ。
 
 そう聞いている。
 少なくとも、『私』ではない。
 なのに・・・。

 でも、それでも。
 今は静かだ。
 自分の鼓動も呼吸音さえ聞こえない。
 この静けさは、彼女にとって救いだった。

 誰も追いかけてこない廊下。
 誰も叫ばない夜。
 泡の中に溶けていく痛み。

 彼女は、そっと目を閉じた。
 そして、微笑んだ。

 死の恐怖から解放され。
 痛みからも解放された。
 とても安らかだ。
 
 『私』は今、地面に仰向けで横たわっている。
 そう言っていいのだろうか?

 へその上から下が無くなった身体だ。
 驚くほど小さい。

 でも。
 腕で這うことになるのに、胸が邪魔ね。
 もう少し大きくなってほしいって思ってたはずなのに。
 今はなくなってほしい。
 
 どうせ体が半分になったんだ。
 これも切ってしまえばいいのに。
 でも、それはもういい。

「ここなら、もう苦しまなくていいのね」
 これが、『妖怪』としての最初の言葉だった。

 「そうだね。苦しむ必要はないね」
 『マスター』が頷いた。
 
 腹から下がないのは仕様になった。
 痛みなんてないはずだ。
 『妖怪』には苦痛も悲しみも学校もないのだから、と。

 そう言って笑いかけてくる。
 横には『彼女』もいて、ガラス玉のような目を向けてきていた。

 そして・・・そして?
 
 ありえないことに寒気がした。
 『彼女』の腰にある・・・ううん。
 『いる』、あの虫は何?

 白いふわふわな、ストラップみたいな『アレ』は何?!

 怖気が走る。
 コワい!

 その虫が、フワリと飛んだ。
 ゆっくりと、下りてきて・・・地面に投げ出されているモノにとまった。


『ソレ』が、ふわりと舞い降りたその瞬間。
 気が付いた。
『アレ』は『彼』なのだと。

 あの足。
 私の足を褒めてくれていた。

 陽の光を跳ね返す、しなやかな筋肉。
 走るたびに空気を裂く、誇りある形。

 そんな風に褒められたから、笑って見せつけていた。
 あの足。

 彼の視線が、どれほど熱を持っていたか。
 わたしは覚えている。

 でも今は違う。
 血に濡れ、動かないその足。
 まるで『供物』のように横たわっている足。
 そこで、『彼』は翅を休めている。

「食べてしまいたい」
 そんな言葉が、不意に思い出された。

 あれは、比喩ではなかった。
 本気だったんだ。

 彼の体は雪に包またように美しい。
 でも、心は飢えていたのだ。

 わたしの命の残り香。
 生きていた証。

 彼は抗い得ず吸い寄せられている。
 その足を、わたしを、自分のモノにしようとしている。

 雪虫は、そっと足に口づけた。
 それは、愛でも、哀れみでもない。
 ただの、渇望だった。

 あれは、わたしの足。
 誰よりも速く走れた。
 誰よりも高く跳べた。
 誰よりも、彼に見せたかった。

 なのに。
 今、あの虫が、わたしの足に顔を埋めている。

 音がする。

 しゃくしゃくと、柔らかい肉を噛む音。

 わたしは、彼がかつて言った言葉を、そっと思い出していた。
「君の足、風みたいだね」。
 その言葉が、 今、しゃくしゃくと消えていく。

 わたしは叫べない。
『人間』ではないから。

『アレ』と同じ。
 化け物だから。

 でも、心が叫んでる。
「やめて」って。

「それは、わたしの誇り、わたしの生きた証よ」って。
 でも、彼は止まらない。

 雪虫は、わたしの足を喰らう。
 まるで『愛してる』って言ってるみたいな顔で。

 そばで、『雪女』が何も言わず。
 ただ静かにその光景を見つめていた。
『食べるほどに求められる』ことに、嫉妬めいた気持ちがあったのかもしれない。


 気持ち悪い。
 そして、哀しい。

 わたしの足が、誰かの欲望で消えていく。
 生きていた証が消えていくような感覚。

 あれは、わたしの足。
 間違いない。
 膝の傷も、ふくらはぎの筋肉の形も、全部覚えてる。

 走るたびに風を切って、彼に褒められた。
 心が崩れていく音がする。

 わたしは、『妖怪』になった。
 足は『人間』のまま葬られるのね。
 食べられることで・・・。

「テケテケの完成です!」
『ダンジョンマスター』がそう告げた。

 その言葉が、 私の耳に届いたとき、
 一瞬だけ、 心が叫んだ。

『違う』って。
 でも、 声は出なかった。
 その声は、雪の下に沈んでいった。
 もう、 人間じゃないから。

 私の名は『テケテケ』となった。

 ——と思ったんだけど・・・?

「んー・・・『園下ひろ』、かな?」
 名前を貰えた。

『園下ひろ』。
『園』はもともとの名前からかな?

 で、『下』はなんとなくわかるかな?

『ひろ』は何だろう?
 空間が『広く』空いているから?

 わからない。
 でも優しい響き。

 私は『園下ひろ』になった。
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