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全年齢対応・表現マイルドバージョン
第40話 最前線攻略者たち⑤ ~静かな崩壊、大広間にて~
しおりを挟む残り二班となった後詰は64階層中央、『大広間』にいた。
当初『中ボス』がいるものと思われていたが、モンスターはいない。
謎の空間となっている。
本来は『サブマスター』が陣取るための部屋なのだが、63階層に追いやられていたことで無主の部屋となっているというのが真相。
だが、彼らには知る機会もない。
後詰の役目は、主力の速やかな移動を支援するための環境づくりだ。
周囲のモンスターを粗方駆逐し終えた彼らは、ここで休憩がてら『待機』に入っている。
主力が戻るまですることがないのだ。
目的を果たしての凱旋であるにしても。
不意のトラブルによる撤退であっても。
「他の奴ら遅くね?」
「チャットも既読つかねーな」
「なにしてんのかしら?」
「ミスってんじゃねーだろうな?」
「全員? さすがにそれはないでしょうよ」
「それもそうか」
最後の予想が一番現状に近いのだが、あり得ないと一蹴された。
昨日でさえも無傷でできていたことだ。
一度は攻略した階層である。
属性の変化があるとはいえ、不覚をとるだろうか?
一人や二人ならともかく、4パーティ全てとなると考えにくかった。
「Eは宝探しに夢中、Fはお昼寝かもな」
「それだ!」
「あとの奴らも似たようなものか」
「どっかで、お金になる素材の採取でもしているんでしょ。意地汚いんだから!」
サイテー!
鼻息を荒くするが、裏返せば「その手があったか」と悔しさが滲んでいる。
「金になる採取ポイントか。そういや近くにもあったな」
「ウソ! どこ?!」
男子Aがこぼした言葉に、悔しそうにしていた女子Aが食いついた。
「ほら、あそこだよ。部屋中糸まみれの」
「は? あの部屋って奥に宝箱あるだけでしょ?!」
それも微妙な性能のアイテムが出る宝箱だ。
発見当初には、糸だらけの部屋がスパイ映画のワンシーンを想起させて期待されたが、まるっきりの『ハズレ』宝箱だったのだ。
一応、何人かで何度も開けてみもした。
『レア』があるかもしれないと思ったからだ。
なのに出るものは変わらず。
『ハズレ』と断定された。
「あんなもん、高くなんて売れないっての!」
ふざけてるのか! 女子Aの目が怒りでつり上がった。
「宝箱のことじゃねーよ」
落ち着けと宥めるように腕を振る。
「周りの糸が実は『レア』だったって話!」
「糸?」
あの邪魔ものが?
女子Aは不審そうだ。
「極上のナノファイバーなんだと。科宮研(科学的迷宮研究所の略)からの最新報告だそうだ。『コレ』より上質なものが作れるんだとよ」
『コレ』と襟をつまんで見せる。
学校指定の学生服のことだ。
全世界共通、最上位と言われている素材で作られているとされるダンジョン装備である。
「マジ?」
「おおマジ」
「くっ、宝箱はブラフってわけ?」
「そういうことだろ。底意地が悪いよな。ま、ダンジョンなんだから、当然と言えば当然なんだが」
男子Aが肩をすくめた。
「回収してくる!」
シュタ!
片手をあげ宣言する女子A。
「ショウガナイワネ、ツキアウワ」
「あ、アタシも!」
「オレモ」
「オレモ」
便乗する者たち。
「あんたたちだけで行かせるのは不安すぎるわね」
手を上げた者たちを見回して、腕を組むB班リーダー。
「ついて行ってやれ」
あとは任せた!
思い切り押し付けるA班リーダー。
「お目付け役も一緒かぁ」
不満そうに口を尖らせるA子だが、拒否して止められても困るのだろう。
いそいそと準備を始めた。
食料などの嵩張る荷物を残して、身軽になって出かけようということだ。
「ささっと行って、とっとと帰るんだからね?!」
「・・・はーい!」
敵はもう駆逐してある。
その確信から、彼女らの言動は軽い。
お目付け役とされたB班リーダーであってすらも。
◇
「静かになったな」
「女どもはみんな行っちまったからな」
6人と6人。
人数はちょうど半々となっているが、採取に女子が全員参加していた。
女リーダーが付けられた理由でもあり、彼女が不安だといった理由でもある。
「モンスターが湧くにも、本隊が戻って来るにも、時間あるんだろ?」
「ああ。なにかヘマして逃げてくるとかしないならな。ま、昨日攻略したばかりなんだし、ヘマもないだろ」
「なら、俺はひと眠りさせてもらうぜ」
大きく欠伸をして、言ってのける。
男どももまた、行動が軽率になっていた。
『大広間』の暗がりに、尻尾を失くした『沈黙の刃』。
オオサソリが潜んでいるとも知らずに。
『天井』には『静かな破壊者』。
オオメクジも這っているのだが、これにも気づかずに。
時を置かず、寝ると宣言した男がイビキをかき始め、しばらくして沈黙した。
深い、深すぎる眠りについたことに気付いた者はいなかった。
同じころ、別の男も沈黙していた。
頭上から、狙い定めて落下してきた『何か』の衝撃で気を失っていたからだ。
大ナメクジがゆっくりと這いより、ヌメヌメした体で口と鼻をふさぐ。
6人中2人が、音もなく闇に溶けていった。
「モンスターだ!」
音はしなかったが、隠蔽できていたわけでもない。
ナメクジが発見された。
「ちっ、上層のとはいえ、ボスのお出ましか?」
広い空間を一瞥し、男子Aが皮肉気な笑みを浮かべた。
違和感のありすぎる構造ではあった。
長い時間かけて、何度も調べたのもそのためだ。
「なにもない」という結論だったが、やはり『無意味』ではなかったのだと、そう理解したのである。
完全に誤解だ。
だが、彼には『真実』なんてどうでもよかった。
目の前に、一人で倒すにはあまりある敵がいる。
理由なんて、それこそ無意味だ。
たった一人で、『フロアボス』と対峙しているのだから。
仲間の援護もなく。
「だけどな。勝てないにしても、時間稼ぎぐらいはできるんだぜ!」
逃げるという案は浮かんだ瞬間に却下した。
このナメクジの移動速度が、見た目の割に速いことは有名だった。
的確な判断だと言っていいだろう。
「『真空牙』!」
短槍に風を纏わせての遠距離攻撃。
距離を置いての先制という意味とともに、周囲にいる仲間への警告と援護要請だ。
ほんの少し持ちこたえていれば、五人は援護に来てくれる。
キツイが、戦えないこともない。
そう考えた。
6人中2人が既に亡くなっているなど、思いもしなかったのだ。
「無事か!」
「待たせた!」
ほどなく、二人が駆けつけてきた。
「囲め! 遠距離から削っていこう!」
まともに戦っては不利。
可能な限り距離を置いて、間合いの外から耐力を削る。
そんな作戦だ。
「「おお!」」
二人が呼応し、戦いが始まった。
この時、もう一人。
A班リーダーが駆けつけようとしていたが、闇に潜んだサソリと戯れていて、参加できなかった。
結果を言えば、ナメクジは倒れた。
弾力のある体組織のおかげで打撃と魔法には強いが、この体には斬撃が有効だった。
三方から囲んで斬撃を叩き込めば、ボスといえどハメられる。
切り刻んで灰にした。
ただ、被害は深刻だった。
主要な攻撃手段である『粘液噴射』によって腐食性の粘液をまき散らされて、装備が使い物にならなくなるほど損傷した。
地面を滑るように高速移動する『体当たりスライド』での体当たりで、ダメージを蓄積された。見た目以上に重く、衝撃力も強いのだ。
追い詰めたところで使われる『分裂突撃』。自分の体を小さく分裂させての、包囲攻撃にも少なからぬ被害を受けている。
「ちっくしょうが!」
男子Aが、地面を叩きつけた。
救援に来てくれた仲間二人は、体を休めている。
肺も、心臓も、動かさずに。
「リーダーはなにしてやがる!?」
ナメクジ相手なら、最も頼れるはずだった人物の不参加に憤っていた。
ボロボロの体を引きずって、リーダーを探し回る。
「リー・・・ダー?」
リーダーは見つかった。
なぜか、体が複数に分かれていたけれど。
その一片が、折れた剣を握り締めたままサソリと向き合っている。
そばには、尻尾だけでなく、ハサミの片方をも失った『オオサソリ』がいた。
残ったハサミで、今もリーダーの分割に勤しんでいる。
切れ味鋭い斬撃が自慢のリーダーだったが、サソリの甲殻には歯が立たなかったようだ。
サソリの甲殻は、斬るより叩く方が効く。
『斬る』ことに特化したリーダーには、相性最悪の敵だったことだろう。
「ちく・・・しょう・・・が!」
槍を構え、跳び上がる。
サソリの背中に乗って突き刺した。
狙い違わず、胴体の真ん中を貫いている。
サソリの心臓が、モンスターの『核』があるポイントだった。
サソリもまた、灰になる。
しっかりと仇を討って見せたのだ。
ただ、彼の体もまた、休みを欲していた。
彼は、自分の血の上に座り込んだ。
槍を握ったまま、まるで祈るように目を閉じていた。
そして、二度と立つことはなかった。
彼の槍は、祈りのように突き刺さった。
誰かのためではなく、自分の誇りのために。
後詰は残り1班、6人となった。
糸の部屋へ向かう彼女たちは、まだ知らなかった。
その糸が、何を織り上げるのかを。
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