『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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全年齢対応・表現マイルドバージョン

第44話 妖怪制作 ⑥ ~唐笠お化け(渡瀬香子)~

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 傘が落ちている。
 使用者だっただろう少女たちと共に。

 色とりどりの傘。
 鮮やかで、華やかだ。

 可愛らしい水玉やシックなチェック柄、モダンな格子模様とバリエーション豊か。
 さしずめ傘の見本市といったところだ。
 
 手に取ってみるもよし、眺めてそぞろ歩くもよし。
 買い取って身を飾ってもいいだろう。もちろん、雨の日や日差しの強い日には活躍してくれる。
 
 傘の周囲には学生の誇りと、その記憶の残骸が沈殿物のように広がっていた。
 華やかな軽さと、沈殿する重さ。
 対比の開きに目が回りそうだ。

 どちらも、貴重なモノには違いない。
 かつては低価値とされたアイテム。
 かつて、あったはずの尊厳を自ら貶めた存在の、その残骸。
 どちらも等しく、記憶を引き出すための鍵として残されている。


 『妖怪』たちとともに、もはや慣れてきた作業を行う。
 傘はたたんで、制服は専用の処置をしていく。
 どれも、使い道がすでに決まっていた。
 
 最後は、余計な物のなくなった沈殿物――記憶や感情の残骸のようなもの――の分類だ。
『河童』や『雪女』のような上位の『レア妖怪』とするのか。
 名もなき『下位妖怪』にするのか。

 考えながら丁寧に仕分けていく。
 一つ確かなことは、無為に朽ちさせはしないということだ。
 

 「ああ、『レア』がいた」
 沈殿物の中に見知った顔がある。

     ◆48階層の追憶(三笠香子視点)◆

「これ、絶対ふざけてるよね!?」
 怒っているらしいクラスメイトが、何かを投げた。

「なんだったの?」
 さほど興味もなく聞いた。

「ゴミよ。ゴミ!」
 吐き捨てるように言うが、そんなことは聞いてない。

「内容は?」
 もう一度問うた。

 なにかが引っかかる。
 とても重要な気がした。

「『虫傘』ですって。虫除けの傘よ!」
 バカにしてるわ! と地団太を踏んでいる。
 もっといいものが入っていると思ったのに肩透かしだったのだ。

「ふーん」
 気のない風に返す。
 その実、胸がざわめいていた。

 目の前の作業を片付けながら、記憶を掘り返す。
 自分が『見た』のはどの傘だっただろうか、と。

 水玉模様の傘は、いつも笑っていたあの子のもの。
 フワフワした微笑で、無邪気に、傘を通して降る光を見上げていた。
 まだ起きていない時間軸の向こうで。

 チェック柄は、雨の日でも一人で歩いていたあの子のもの。
 一人静かに、チェックの線と色に目を細めていた。
 時の壁の向こう——もう戻れない過去の時間に佇む彼女は、静かだった。
 その先の運命を知るかのように。

 モダンな格子柄は、内気で遠慮がち。
 モダンすぎて似合わない傘を、自分に合わせようと持ち方や差す角度を変えていた。
 最後まで傘を差し続けたのは彼女だったが、最後は一色に塗り染められた傘を見上げて虚ろだった。

 どれも、誰かの『守りたかった日常』だった。
 それが消える時が来る。

 たぶん、このレイド中に。
 だから気になった。

 このレイド中に、わたしのこんな近くに『傘』が来た。
 それはきっと、運命か、呪いの所業だから。

 彼女は『見た』ことがあった。
『傘』を。

 自分の命運を分ける。
 そんな重要アイテムとして。

 ここはダンジョン『カナヤマバグ・ドーム』の9階層にあるセーフティエリアだ。
 ダンジョン内に存在する、モンスターが出ない空間である。

 広さは教室二つ分くらい。
 なので、現在は1年生と、先導役の二年生、と三年生の混合パーティが休憩していた。

 探索中に負った傷をいやし、体力を回復。
 消耗した武器・防具をメンテナンス。
 手に入れた採取物やドロップアイテムなどを整理。

 調薬他の生産に勤しむ。
 そんな光景が随所で見られた。


 そんな中、一人の男子は忙しそうだった。
 汚れたり、壊れたりした装備品。
 使わない! 価値がない!
 そう判断されたアイテム。
 雑多なものが投げつけられ、頭の上に落とされ、無造作に目の前に置いて行かれている。

 なにも、そこまでしなくても。

 そう思いはするが、口にする勇気はない。
 見てみぬふりで『無いこと』にするだけだ。

 だけど。
 それだけは『見て』いた。

 彼の横に和傘がある。
 地面に突き刺さっていた。

『アレ』だ。
 間違いない。

『アレ』は、私の『傘』だ。
 私が持っていなくてはならない『傘』。

 あの傘は、誰かが私に渡してくれるものなのかもしれない。
 でも私は、目を逸らした。
 いま、その傘を拾えば、誰かの痛みを背負う気がしたから。

 あとで、取りに行かなくては。
 なにか、自然に手に入れる方法を考えるのだ。
『いつ』なのかはわからない、――でも確かに訪れるであろう『その時』のために。

 きっと、その時が来たら、私は傘を差すだろう。
 風が吹いても、雨が降っても。
 誰かの痛みを遮るために。
 それが、私の『選択』になるのだ。
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