『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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全年齢対応・表現マイルドバージョン

第57話 鬼は、笑う ~昨日の私、今日の私~

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 暗闇の中で、何かが揺れた。
 涼香の魂が、静かに震えた。

「涼香──」
 声がした。
 聞き慣れた声。
 でも、ここに届くはずのない声だ。

 カルマだった。
 あの、何も知らずにいた後輩。
 あたしが、苛立ち、モヤモヤしながらも、放っておけなかった奴。

「オレのダンジョンのモンスターになれ」
 その言葉が、涼香の中に響いた。
 命令のように。
 祈りのように。
 呪いのように。

「・・・は?」
 涼香は、思わず呟いた。
 でも、声は出ていない。
 魂だけが、震えていた。

 カルマがそんなことを言うはずがない。
 でも、このダンジョンが、そう『言わせている』。
 もしくは、『伝えている』?
 
 涼香の魂は、まだ『留め置かれている』。
 蘇生の可能性があるから。
 でも今、別の可能性が提示された。

『妖怪になる』という選択。
 それは、死者として終わることを拒む道。
 人間としての復活を諦める道。

 人間としての涼香は、もう終わった。
 でも、『妖怪』としてなら、まだ続けられる。

「・・・ふざけんなよ」
 怒りでも、拒絶でもない。
 ただ、『生きることの意味』を問うような声だった。

 カルマの声が、もう一度響いた気がした。
「お前は、まだ終わってない」。
 それが、ダンジョンの『システム』の声なのか、涼香自身の願いなのか、もう、わからなかった。

 でも──涼香の魂は、揺れていた。
 そして、その『なにか』は戻ってくる。


 その言葉は、声ではなかった。
 でも、確かに『聞こえた』。

「お前の罪は、死んだからって消える程度のものなのか」
 涼香の魂が、震えた。
 焼け焦げた記憶が、蘇る。

 カルマを『爆弾』として使った。
 仲間たちを『道具』として消費した。
 自分もその一部だった。

「・・・死んだから、終わりじゃないの?」
 呟いたその言葉が、あまりに弱かった。
『逃げ』のように聞こえた。

 涼香は、死を受け入れた。
 それが、償いだと思っていた。
 でも──、それは『逃げ』だったのかもしれない。

 カルマは、何も知らずにいた。
 その顔を、涼香は苛立ちとともに見ていた。
 でも今、その顔の裏にあった『無知と信頼』が、胸を刺す。

「あたしが、殺したんだよな・・・」
 誰も止めなかった。
 誰も責めなかった。
 でも、涼香だけは、自分を赦せなかった。

 死んだからって、終わりじゃない。
 命一つで、償えるような罪じゃない。
 それが、魂に刻まれた『答え』だった。

 涼香は、震えながら思った。

「・・・なら、どうすればいいの?」
 その問いに、答えはなかった。
 ただ、『妖怪になる』という選択肢だけが、静かに浮かんでいた。

 暗闇の中で、記憶が揺れた。
 焼け焦げた戦場。
 叫び。
 怒り。
 そして──『扇動者』の発動。

 仲間の目が、狂気に染まった。
 涼香は、叫んだ。
「私は鬼になる!」

 その言葉が、今になって胸に突き刺さる。

「・・・あたし、あのとき、もう人間じゃなかったんだ」
 守るために、壊した。
 生かすために、殺した。
 その選択をした時点で、『人間』という枠から外れていた。

 だから、今『妖怪になれ』と言われても、驚きはなかった。
 むしろ、当然の流れのように感じた。

 でも──「じゃあ、あたしは何のために妖怪になるの?」

 問いが、魂の奥から湧き上がる。
 償いのため?
 復讐のため?
 それとも、誰かを守るため?

「もう、守る相手なんていないじゃん・・・」
 涼香は、ひとりだった。
 仲間は死んだ。
 カルマは、遠い。
 自分は、もう人間じゃない。

「じゃあ、あたしは、何のために生きるの?」
 その問いに、答えはなかった。

「考えてもわからないな」
 自嘲の笑みを浮かべたい気持ちになる。

 私はもともと考えるのは苦手なんだ。
 走り出してから考えるタイプ。
 なら・・・。

「いいよ。モンスターでも、妖怪でも、なってやるさ。あとのことは、あとで考える」
 それは逃避ではない。
 存在をかけた選択。

 どこまでも真っ直ぐな少女の。
 生きる道。

   ◇

「『鬼』完成!」
 雄々しく立った『鈴谷涼香』改め、妖怪となった『童子丸らうら』。——『童子丸』は『未熟でも真っ直ぐな魂』を意味し、『らうら』は『炎の揺らぎ』を表す古語由来——を眺める。

 筋肉質で赤銅色の肌。
 頼れる赤鬼さんだ。

「・・・・・・」
 戦場の残滓がまだ肌に残っている。

 筋肉は動く。
 でも、心がまだ追いついていない気がした。
 らうらは、赤銅の肌に魔力の余熱を纏いながら、静かに歩き出し・・・た?


 ドンッ!

 肩がぶつかった。
 反射的に。
 無意識に。

 そこに、カルマがいたから。
 爆発して死んだはずなのに。
 消えたはずなのに。
 そう思って気付く。

 あの声は、やはりカルマだったのだと。
 顔が見えた瞬間、ついぶつけに行った肩を見る。
 それは、涼香だった頃の『癖』だった。

 カルマは、よろけながら目を丸くした。
 らうらも、思わず目を丸くして見つめ返した。

「・・・あっ」
 らうらが呟く。
 カルマが、ぽかんとした顔で見つめる。

 そして──。
 ふたりは、同時に笑った。

「なんだよ、今の」
 カルマが肩をさすりながら言う。

「・・・知らん。勝手に動いた」
 らうらが、照れくさそうに目をそらす。

 その笑いは、『人間だった頃の記憶』と、『今の自分』が重なった瞬間の、奇跡。
 その笑いは、涼香だった頃の『癖』と、らうらとしての『始まり』が重なった瞬間だった。


『妖怪』たちが、新たな仲間の誕生に目を細めた。
 どこか、『自分に似ている』と。
 カルマが『レア』と呼ぶ『人間』の種類が見えてきた気がした。
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