『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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全年齢対応・表現マイルドバージョン

第56話 崩れる戦場(鈴谷涼香視点)

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 涼香は、叫んでいた。 
 喉が裂けるほどに。
 腕が千切れるほどに、大剣を振っていた。

「立て! まだやれる! お前ら、死ぬなよ!!」

『扇動者』のスキルが発動していた。
 仲間たちは、怒りに燃え、恐怖を忘れ、ただ前へと突き進んでいた。
 それが、彼女の『願い』だった。

 諦めるな!
 立ち尽くすな!
 運命に、死に、抗え!

 ──でも、どこかでわかっていた。
 これは、限界を超えた『延命』だと。
 勝ち目なんて、もうない。
 それでも、誰か一人でも生き延びてくれたら、それでいい。

 キアゲハが現れたとき、涼香は一瞬、息を呑んだ。
 あれは、勝てない。
 そう思った。
 でも、止まれなかった。

 魔法が飛ぶ。
 敵の能力など考えてもいない。
 当然だ。
 思考力を奪った。

 恐れることなく飛び掛かっている。
 下から石を投げている者までいた。
 戦う以外の死も感情も奪われているからだ。

 誰に?
 私に。
 鈴谷涼香に!

「アレって、物理攻撃しないよな?」 
 キアゲハを見て、勝てないと感じた理由に思い至り、呟いた。

「マズい!」
 叫んでも止まらない。

 魔職たちによる、体中の魔力をかき集めての最後の最大火力。
 敵を見れば全力で立ち向かうしかない者たちの、当然の行動。

 魔法の光が空を覆ったとき、涼香は叫んだ。
「下がれ──っ!!」
 でも、誰も聞いていなかった。
 いや、聞こえていなかった。
 彼女が『扇動』したからだ。

 自分たちの『最大火力』が返された。
 逃げ場はない。
 抵抗も意味をなさない。
 涼香は脱力した。

 自分の力で、仲間を殺した。
 その事実が、胸を貫いた。
 焼き尽くされる光の中で、涼香の意識は光に呑まれていった。


 焼けた空気が、肺を焼く。
 視界は、赤と黒のまだら模様。
 耳鳴りの中で、誰かの断末魔が遠くに聞こえた気がした。


 熱と光。
 魔力と物質。
 ぶつかり合った力の残滓がたゆっている。

 涼香は、立ち上がった。
 身体が勝手に動いた。
 もう、何も守れない。
 誰も残っていない。
 それでも──

「まだ、終われるかよ・・・」

 声は、かすれていた。
 叫びというには弱すぎて、呟きというには、あまりに痛々しかった。

『終わり』を認めたくなかった。
『自分の力が、仲間の命を奪った』。
 その事実が、胸を貫いた。

 筋肉は、まだ熱を持っていた。
 でも、心はもう、どこにも向かっていなかった。

 棒立ちのまま、涼香は空を見上げた。
 そこに、影が差す。

『メガネウロ』。
 あの、奇妙な飛行モンスターが、彼女を回収しに来た。

 逃げることも、抗うこともできなかった。
 いや──する理由が、もうなかった。

 涼香は、ただ運ばれていく。
 焼け焦げた戦場を、仲間たちの亡骸を、何もかもを見下ろしながら。

「・・・ごめん」

 誰に向けた言葉かも、わからなかった。
 カルマかもしれない。
 仲間たちかもしれない。
 あるいは、自分自身かもしれない。

 その一言を最後に、涼香の意識は、静かに、深く、沈んでいった。

     ◆再生◆

 暗い。
 でも、怖くはない。
 音もない。
 でも、静かすぎるわけでもない。

 涼香は、浮かんでいた。
 何かに縛られている気がした。
 でも、それが何かはわからない。

 身体は、もうない。
 痛みも、重さも、熱もない。
 ・・・でも、『感情』だけが、まだそこにあった。

「・・・終わったんじゃなかったの?」
 誰に聞くでもなく、呟いた。

 戦場は焼けた。
 仲間は死んだ。
 自分も、死んだはずだった。

 なのに、まだ『ここ』にいる。
 夢なのか。
 現実なのか。
 それすら、もうわからない。

 でも、確かに『自分』はここにいる。
 何もできないまま、ただ、存在している。

「・・・あたし、何してたんだっけ」
 問いかけは、誰にも届かない。
 でも、自分自身には、刺さった。

 守るために、強くなった。
 怒られるために、前に出た。
 誰かの盾になることが、あたしの役割だった。

 でも── 最後は、誰も守れなかった。
「・・・ごめん」
 また、その言葉が浮かぶ。
 でも、今度は少し違った。

『生き返るかもしれない』という可能性が、どこかにある。
 それが、涼香の魂を『ここ』に縛っている。

 彼女はそれを知らない。
 でも、『終わりを許されない感覚』だけが、確かにそこにあった。

「・・・まだ、終わらせてもらえないのか」
 その言葉に、誰かが答えることはない。

 でも、涼香の魂は、ダンジョンの深層に『留め置かれていた』。
 それは、蘇生魔術やアイテムによる『保険』のようなもの。
 誰かが彼女を呼び戻す可能性がある限り、魂は完全には消えない。

 涼香自身はその仕組みを知らない。
 ただ、『終われない感覚』だけが、静かに、深く、染み渡っていた。
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