64 / 327
全年齢対応・表現マイルドバージョン
第63話 揺れる隊列(女小隊長A視点)
しおりを挟む「サブリーダー、どうしたんですか? さっきまで普通だったのに」
「連絡も取れないんですけど・・・まさか、何かあったんですか?」
レイドメンバーたちの声が、次々と飛び交う。
不安と疑念が混ざった空気が、じわじわと広がっていく。
リーダーは、静かに息を吐いた。
そして、表情を崩さずに答えた。
「体調不良だ。少し前から無理してたみたいでな。今は休養を取らせてる。連絡は控えてくれ」
一瞬、沈黙が落ちた。
誰もが納得しきれない顔をしていた。
でも、リーダーの言葉には揺るぎがなかった。
「えっ・・・でも、そんな急に?」
「急に倒れることもある。レイドの準備で負担も大きかったからな。ポーションを乱用していたようだ。度を超すと効かなくなる、今は、そんな状態なんだ。回復を優先するべきだ」
その言葉に、メンバーたちはしぶしぶ頷いた。
誰もが疑問を抱えながらも、リーダーの言葉に逆らうことはできなかった。
リーダーは、内心で苦い思いを噛みしめていた。
本当の理由は言えない。
言えば、チームが崩れる。
だから、守るしかなかった。
秩序を。
信頼を。
そして、一葉を。
「体調不良、ね・・・」
女小隊長Aは、誰にも聞こえないように呟いた。
サブリーダーが突然姿を消した。
リーダーは冷静に「休養中」と言った。
でも、何かが違う。
空気が、異様に張り詰めている。
そして、彼女の端末には一通の個人チャットが届いていた。
送信者は・・・サブリーダー。
『一葉に気をつけて。彼女は罪を隠すためにリーダーにすり寄っている。あなたの隊にも影響が出るかもしれない。これは警告よ。』
その文面を見た瞬間、女小隊長Aの中で何かが繋がった。
最近噂されている『先駆けA班』による目的物独占疑惑。
その動きと、サブリーダーの失踪。
そして、一葉の涙と接近。
「内輪もめ、か・・・」
彼女は、あえて何人かのメンバーにそれとなく話を振った。
「先駆けA班の全滅って本当かしら?」
「サブリーダーが抜けたのって、もしかして内部の争いだったりして」
言葉は曖昧に。
でも、種は確実に撒かれていく。
疑念は、静かに浸透していく。
女小隊長Aは、冷静だった。
感情ではなく、秩序のために動いているつもりだった。
でも、その目には一葉への警戒が、確かに宿っていた。
「先駆けB班、今どこまで進んでる?」
女小隊長Aは、端末越しに連絡を取った。
表向きは進行状況の確認。
でも、本当の目的は・・・情報の裏取り。
「A班が実は健在って噂。どう思う?」
全滅したかもしれない。
その情報を送ってきたのは『先駆けB班』リーダーの彼女だったはずだが。
B班の隊長は、少し沈黙してから答えた。
「・・・妙な点は多いわ。一番おかしいのはスマホの通信状況よ。全滅しているなら『通信不能』になるはず。なのに、既読にはならないものの受信はしてるっぽい。ひとつ残らずね」
「ダンジョンのどこかに放置されているスマホが壊されもせず存在しているわけね。全部」
「そういうこと」
その言葉に、女小隊長Aの胸がざわついた。
サブリーダーからの警告が、脳裏に浮かぶ。
『一葉に気をつけて。彼女は罪を隠すためにリーダーにすり寄っている。』
もしも、リーダーよりも前から『A班』と通じていたら?
その時だった。
端末に新たな通知が届いた。
受けたのはB班との連絡に立ち会ってくれた小隊長B。
そっと画面を見せてくれた。
送信者は・・・一葉。
『女小隊長Aが、B班と裏で連絡を取ってます。何か探ってるみたいです。各自、気を付けて』
その文面に、女小隊長Aは目を細めた。
一葉が、こちらの動きに気づいている。
そして、幹部たちに、リーダーに、告げ口をしている。
「・・・いきなりサブリーダー気取りね」
幹部たちの連絡用チャット。
本来、一葉には権限がない
サブリーダーの警告が、急に現実味を帯びてきた。
罪を隠す者は、情報の流れに敏感だ。
そして、疑念を潰すために先手を打つ。
女小隊長Aは、静かに端末を閉じた。
疑念は、もう『可能性』ではない。
『兆し』になっていた。
女小隊長Aは端末を閉じたあと、静かに別のルートを開いた。
それは、隊列の秩序を守るための、最初の『監視』だった。
◇
通路の奥から、足音が響いた。
それは規則的で、迷いのない音。
先駆けB班が、突然の帰還を果たしたのだ。
「えっ、B班? 先行しているはずじゃ・・・」
誰かが呟く。
その声には驚きと、わずかな警戒が混ざっていた。
彼らの姿は、傷だらけだった。
装備は泥にまみれ、顔には疲労の色が濃い。
でも、その目は鋭く、何かを訴えていた。
「誤解を解きに来た」
班長が静かに言った。
その声は、怒りではなく、確信に満ちていた。
掲示板では、A班が目的物を独占しているという噂が広がっていた。
だが、それはB班の報告が間違いだと言うのも同然だった。
個人チャットにも、匿名の警告が届いていた。
「A班に関連して、何かが裏で動いている」と。
それがB班ではないかとの声が上がっていたのだ。
「我々が黙っていたら、真実が歪められる」
班長の言葉に、周囲がざわつく。
B班は、抗議のために帰還した。
目的はただ一つ、『自分たちが暗躍している』という濡れ衣を晴らすこと。
すでに各掲示板、個人チャットでは存在しないA班を隠れ蓑に、B班が独自に動いているとの噂が支配的になっていた。
理由として、どこの隊よりも『目的物』に近いことが挙げられている。
今回の探索は、昨日倒せたはずの『ダンジョンマスター』が落としたであろうドロップアイテムの回収、それだけだ。
『ダンジョンマスター』はいない。
ドロップアイテムはまさに落ちているだけ。
B班でも、取りに行けると言われれば否定は難しいのだ。
これを否定する唯一の方法。
それが、この『帰還』だった。
誰よりも『目的物に近い』ことが疑念になるのなら。
戻ればいい。
本隊に任せてしまえば疑惑は払拭される
それが、先駆けB班リーダーの考えだった。
レイドの計画そのものを無視するような大きな決断だったが、チャット内での論争と誹謗は、そうせざるを得ないほど熱く燃え上がっていた。
疑心暗鬼という闇から逃れるにはやむを得ない決断だった。
この決断に至らせたチャットと掲示板内の会話ログ。
その全てが、カルマの編集室で作られたものだとは知る由もなかったのだ
だが、その行動がまた新たな波紋を生む。
誰が本当に裏で糸を引いているのか。
A班か、B班か、それとも・・・もっと深い闇に潜む者か。
人心は揺れる。
信頼は崩れかけている。
そして、真実はまだ、闇の中。
もともと『真実』などないという『事実』には、誰も気付けない。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる