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全年齢対応・表現マイルドバージョン
第66話 主力の到達 ~ようこそ、三途の川中学校へ~
しおりを挟む苦闘しつつも、主力が64階層へと戻ってきた。
昨日よりも装備の損耗が激しいようだ。
なにより、人数が減っている。
「すごい」
誰かが呟いた。
昨日来たときには『山の中の開けた空間』。
そんな雰囲気だったが、今や無機質な灰色の空間があるだけとなっている。
しかも、その空間がはっきりと歪んでいた。
床にはクレーターができている。
四方の壁、天井も同じように窪んでいるようだ。
カルマを消し飛ばした爆発によって、えぐられた跡であることは明らかだった。
ダンジョンの内部構造が変わるほどの爆発。
威力の大きさがうかがえた。
「ははは、こいつはすげぇや。これほどかよ」
「木っ端微塵だぜ。助かりようがねぇ! アイツも『ダンジョンマスター』もな!」
ここに来るまで、もしやカルマの自爆はダメージを与えていないのではないかと考えもしたが、そうではなかったとテンションが上がっていく。
『ダンジョンマスター』は確実に仕留めてあるのだと。
それでも警戒はしつつ進む姿に、『今日』の苦闘ぶりが垣間見えた。
辺りに目を走らせながら進む彼らの目に、ついに『ソレ』が映る。
「ドロップアイテムよ!」
溶けたコンクリートのような床、すり鉢状のクレーター。
その中心に。
『ダンジョンマスター』の威容を残す『甲虫の角』。
これを指さして、一葉が声を上げる。
「待て!」
急いで回収しようとする仲間を止め、一人の男が前へ出た。
「『鑑定』」
確実に見定めようと、スキルが使われた。
「間違いねぇ。ダンジョンマスターの討伐アイテムだ!」
「うぉぉぉぉ」
「やったぁぁぁ」
歓声が上がった。
世界初の快挙達成の瞬間である。
あとは、あれを持ち帰るだけで英雄になれるのだ。
我先にと雪崩を打って突進していく。
「ぎゃあ!」
先頭を走っていた戦士が仰け反った。
地中から土の槍が突き出して、腹を貫通している。
「な! まだ敵がいるのか?!」
慌てて足を止め、戦闘態勢をとる。
その瞬間――空気が変わった。
静かすぎる。
音が消えたような感覚。
誰かが、息を呑んだ。
「・・・いる」
一葉が呟いた。
クレーターの縁に、影が立っていた。
人間のような輪郭。
だが、なにかが異様だった。
歪んだ制服のような布をまとい、顔は・・・仮面だった。
白く、無表情で、目の部分だけが黒く塗り潰されている。
その仮面の人影が、ドロップアイテムを抱え上げた。
舞台役者のような芝居がかった礼をして、身を翻す。
奥へと消えていった。
「人間みたいだったわ」
女子が青褪めて呟く。
しかも胸元の赤いリボン。
自分たちと同じ制服に見えた。
しかも女性。
仕草や動きに既視感はある。
だけど、確定するにはおぼろげに過ぎた。
ただただ、自分と同じ制服——かもしれない——ことに不安が募る。
「な、なんだ? あれ?!」
呆然と立ち尽くす主力たち。
「『サブマスター』だとさ」
静かに告げたのは『鑑定』を使う男だ。
「サブマスだ?! んなもんいたのか!?」
「だから、モンスターもおかしくなっていたのね?」
「支配者が変わったからってことか?!」
属性変更など、謎だったことを説明可能な話だ。
そういうことだったのかと騒ぎだす。
間違いなのだが、彼らには知りようもない。
「ここは一度引くべきじゃない?」
それでも冷静な者はいる。
仕切り直そうと提案がされた。
「ダメだ。このまま進む!」
リーダーはそれを却下した。
「なんでよ?!」
「昨日までは犠牲0だった。今日はどうだ? 明日、もう一度ここに来るのに何人死なせるつもりだ?」
「そ、それは、でも!」
「見たところサブマスは強さってより頭がいいタイプだ。時間をやればやるほど新しい罠を用意して待ち構えられる。今、追いかければ、ワンチャンある! どっちを選ぶかって話だ」
ここで引けば最悪、何もかもが水の泡。
『ダンジョンマスター』を討伐はしたが、討伐部位の持ち帰りは失敗したという報告をするだけになる。
全校あげての大掛かりなレイドまでやって、犠牲も出してだ。
ここは、多少のリスクを押してでも、追跡して、これっきりのチャンスにかけるべき!
それがリーダーの判断。
「・・・わかった。だけど、私は命をかけてまで名誉って女じゃないの。危険だと思ったら逃げるわよ?」
「好きにしろ」
主力は再び前進を開始した。
「チッ! 増えてやがる」
サブマスを追った先、下へと降りる通路があった。
65階層へと続くものだろうことは疑いない。
「どうせ数階だろ! 追い詰めんぞ!」
終わりは見えている。
見えているはずだ!
通路を駆け下りた。
◇
「な、なによ? これ?」
通路を抜けると、そこは・・・。
「校門?」
学校の入り口と思しき場所だった。
これまで通りの土の通路から『広間』に出る。
その広間には奥へ繋がる通路があるのだが、左右に石柱が立っていて・・・。
『三□川中学校』と記されていた。
「三川中学校?」
「よく見なさい! 『三』と『川』の間に隙間があって・・・薄れててよく見えないけど。たぶん・・・『ず?』があるわ」
「・・・なら、『みかわ』ではなく『さんずがわ』中学校、か?」
「・・・それ、まさか。『三途の川』なんじゃ?」
「・・・・・・」
「と、とにかく進むぞ!」
校門を抜けて、通路を進む。
再び開けた場所に出た。
そこは・・・。
「昇降口?」
靴箱がずらりと並んでいる様は、まさに学校の昇降口だ。
「写真で見たことあるわね。古臭い木造校舎だわ、コレ」
「ああ。廃校なら見たことある。今はレストランになっていたな。確かに雰囲気は似てる」
「田舎臭くてきらーい」
「コンクリートってのも味気ないと思うけど」
口々にそんなことを言いつつも、ゆっくりと踏み込んでいく。
木の廊下が続いていた。
歩くたび、ギシギシと軋む音が、妙にリアルだ。
「この雰囲気って、アレに似てない?」
「アレってなによ?」
「お化け屋敷『学校の怪談』」
あー、確かに。
全員が頷く。
「管理者がサブマスになって、『属性』が変わったんじゃねぇか?」
「それだ!」
納得して、探索が始まった。
昭和初期かと言いたくなるような。
モノクロの写真でしか知らない校舎の中を、本隊の残りは24人が歩いていく。
人のいる気配がない木造の校舎。
いたるところに『学園祭』の準備でもしているのかという飾り付けがされていた。
昇降口に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
古びた木の匂い。
湿気を含んだ埃の香りが、鼻の奥をくすぐる。
床は艶のない板張りで、踏むたびにギシギシと軋む音が響く。
左右の壁には、年季の入った下駄箱がずらりと並んでいた。
木製の扉はところどころ歪み、塗装は剥げ、角が丸くなっている。
誰かが落書きしたような跡もあるが、文字はすでに読めない。
天井は低く、梁がむき出しになっている。
その梁には、古い釘や紙片が残っていて、かつて何かが掲げられていたことを思わせる。
窓は曇りガラス。
外の光がぼんやりと差し込むだけで、空間全体が灰色に沈んでいる。
傘立てには、誰のものとも知れない傘が数本、無造作に突っ込まれていた。
靴箱には、サイズも形もバラバラな靴が並んでいる。
まるで、誰かが今もここに通っているかのように。
だが、気配はない。
静かすぎる。
音が吸い込まれていくような、異様な静寂が支配していた。
「逆に、キモチワルイ!」
「ただでさえ、木造ってコワいのに!」
女子からブーイングが飛んでいた。
舞台は昇降口。
お出迎えするのは傘と靴。
ありふれた、でも見慣れないものが襲い掛かる。
その時、靴箱の奥で、一足の靴が、ゆっくりと向きを変えた。
まるで、誰かが履こうとしているかのように。
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