『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
66 / 327
全年齢対応・表現マイルドバージョン

第65話 疑惑から、分断へ②

しおりを挟む
 

「埒が明かない。なら、直接聞こう」
 リーダーの声は低く、しかし揺るぎなかった。

「このままじゃ隊が崩れる。お前たちの言葉が、隊列を裂いてるんだ。ここで止めないと、レイドは失敗。何もかもが意味をなくすことになる」
 女小隊長Aも一葉も、言葉を止める。
 その場に、緊張が走る。

 呼び出されたのは――『先駆けB班』の班長。
 泥にまみれた装備のまま、彼女は姿を現した。
 その顔には疲労と、わずかな警戒が浮かんでいた。

「質問するわ」
 一葉が、静かに口を開いた。
 その声は冷たく、鋭い。
 まるで水面に落ちる氷の刃。

「あなたたちは、A班が『全滅したかもしれない』と言っていたわね」
「ええ、そうです」
「でも、あなたたちがその『噂』を流した可能性は?」
 班長の目が揺れる。

「それは・・・違います。状況的に正しいと思われる判断です。正規の報告でしかA班のことは上げていませんから『噂』と言われるのは心外です」
「じゃあ、誰が?」
「それは・・・わかりません」

「わからない? それでよく『誤解を解きに来た』なんて言えたわね」
 一葉の言葉が、じわじわと彼女を追い詰めていく。


「・・・やめた」
 その声は、静かだった。
 でも、誰よりも重く響いた。

 先駆けB班の班長は、俯いたまま、ゆっくり顔を上げた。
 その瞳には、疲労と諦め、そして――深い絶望が宿っていた。

「もういいわ。私はレイドを降りる」
 場が静まり返る。
 誰もが言葉を失った。

「とてもじゃないけど、命を預けられない。疑念が渦巻いて、誰が敵で誰が味方かもわからない。こんな状態で、最奥に挑むなんて――自殺行為よ」
 その言葉に、誰も反論できなかった。
 一葉も、女小隊長Aも、リーダーですら。

 班長は、ゆっくりと視線を巡らせた。
 その目は、鋭く、冷たく、そして――痛々しいほどに傷ついていた。

「あなたも」
 一葉に向けて。

「あなたも」
 A隊長に向けて。 

「そして、あなたも」
 リーダーに向けて。

「誰も、信じられない」
 その言葉は、まるで水面に落ちた重石。
 静かに、でも確実に、隊の空気を沈めていく。

 班長は、何も言わずに背を向けた。
 足音だけが、静かに響く。
 その背中には、戦う意志も、怒りもなかった。
 ただ、疲れ切った探索者の姿があった。

 扉が閉まる音が、遠く響いた。
 その瞬間、レイドの空気が――確かに、変わった。

「俺たちは、進む」
 レイドリーダーの声が、静かに響いた。
 その言葉は、決意というよりも――疲れの中で絞り出された覚悟だった。



 B班の班長が隊に戻ると、メンバーに事の次第を説明した。
 待機していたメンバーたちは顔を見合わせ、そして次々に頷いた。

「俺も降りる」
「もう限界だ」
「ここに残るよ」

 誰も声を荒げない。
 怒りも、抗議もない。
 ただ、静かに、同調していく。

 B班は、ここに留まることを選んだ。
 それは敗北ではなく、限界の認知だった。

 レイドリーダーは、彼らの背中を見つめながら、ゆっくりと振り返る。
 そして、本隊のメンバーたちに向けて、はっきりと口にした。

「さっさと目的を果たして、地上へ戻ろう。みんな疲れているから、こうなるんだ」
 その言葉に、一葉が静かに頷いた。
 女小隊長Aも、何も言わずに視線を落とした。

 64階層の最奥。
 そこに待つ目的物。
 それを手に入れれば、すべてが終わる――はずだった。

 でも、誰もがわかっていた。
 この遠征は、ただの探索じゃない。
 信頼の崩壊と、感情の濁流を乗り越える旅だった。

 レイドリーダーの背中に、疲れが滲んでいた。
 それでも、彼女は歩き出す。
 濁った水を踏み越えて、最奥へ向かって。

   ◇

「・・・せいぜい、痛い目に遭うがいいわ」
 誰にも聞かれないように、吐き捨てるように呟いた。
 レイド本隊が遠ざかっていく背中を見送りながら、B班リーダーは拳を握りしめる。

「信じられるものなんて、最初からなかったんだ――ッ!?」
 そのときだった。
 背後に、気配。

「・・・誰だ?」
 振り返る。
 そこに立っていたのは――死んだはずの人物だった。

「やあ、久しぶり」
 その声は、あまりにも自然で、あまりにも明るかった。
 まるで、何事もなかったかのように。

 だが、その瞳。
 闇色に染まった瞳が、すべてを否定していた。

「・・・お前、死んだはず・・・」
「うん、死んだよ」
 にこやかに、まるで冗談のように言う。

 その笑顔が、異様だった。
 温度がない。
 感情がない。
 ただ、形だけの『笑顔』。

「でもね、君たちが『見捨てた』おかげで、こうして戻ってこれたんだ」
「・・・何を言って・・・」
「だから、礼を言いに来たんだよ。『痛い目』って、どんなのがいいと思う? 君が望むなら、特別に見せてあげるよ」
 その瞬間、空気が変わった。

 冷たい。
 重い。
 まるで、深海に引きずり込まれるような圧。

 B班リーダーは、言葉を失った。
 目の前の『それ』は、もう人ではなかった。
 かつての仲間の姿をしているだけの、何かだった。

「さあ、始めようか。君の『痛み』から」
 笑顔のまま、影が一歩、近づいた。

   ◇

「さあ、始めようか。君の『痛み』から」
 その言葉に、空気が凍った。
 笑顔のまま近づく『影』に、B班リーダーは身を強張らせる。
 だが――

「なんてね」
 その声は、あまりにも軽かった。
 まるで、冗談のように。
 だが、頬に触れた指先は、冷たくて――生々しかった。

『影』は一歩、距離を置いた。
 そして、静かに言った。

「今回のレイドは明らかな失敗だ。企画した大人たちには、責任を取ってもらう。地上に戻ったら、学校ごと訴えよう」
 その言葉に、B班メンバーたちは息を呑んだ。

 驚愕。
 混乱。
 そして――納得。

「・・・確かに、限界だった」
「誰も守ってくれなかった」
「命を預けるには、あまりにも危うかった」

 一人、また一人と頷いていく。
 その表情には、怒りよりも疲れが滲んでいた。
 でも、その疲れの奥に――静かな炎が灯っていた。

「証言は揃ってる」
『影』が言う。

「記録もある。通信履歴も、映像も、全部残ってる」
「・・・本当に、訴えるのか?」
 B班リーダーが問う。
『影』は、にこりと笑った。

「もちろん。これは『復讐』じゃない。『清算』だよ」
 その言葉に、誰も反論しなかった。

    ◇

「命を奪うだけが復讐ではないさ。あ、命『も』貰うけどね。ふふっ」
 63階層の『拠点』に戻ったカルマが、誰に言うでもなく呟いた。

 死ねばそれで許される時代は終わった。
 未来永劫、不名誉を背負うがいい!

 歴史が彼らを記憶する。
 歴史が彼らを断罪し続ける。
 それが、本当の復讐だ。

「それにしても、みんな『役者』だね」
 それぞれが、自分で自分に役を割り振って演じていた。

 彼ら、彼女らは気付くべきだった。
『自分たち以外』の敵意がある可能性を。

 そうしていれば、団結できた。
 絆を強められた。
 少なくとも失うことはなかったはずだ。
 カルマに言いように踊らされることはなかったはずだ。

 なのに、結果として戦力を分断した。
 266人を数えたレイド遂行人員は、今や本隊24人だけとなったのだ。

    ◇

 「で、ついに来たわけだ」

 『時』が来ていた。

 「新たな劇場、仕掛け満載の舞台、多様な舞台装置。新時代の幕開けだ!」
 主力の分断に勤しんでいる間に、悠や友梨先輩が頑張ってくれて、『マナポイント』が溜まっていたので、『ダンジョンポイント』に変換。
 レベルアップした。

『『ダンジョンレベル』が70となりました。レベル70までのモンスターを作成可能です。このレベル帯のモンスターの配置位置を変更できます。また、新たに65階層から70階層までを作成可能となります』
「おお。追加できるんだ?」

『可能です。『ダンジョンポイント』を消費しての作成が可能です』
「あー、ポイントかぁ」
 と、カルマは苦笑した。

「いくら?」
『一階層に50000ポイントです』

 少な!
 レベル上げと比べるとすごい少ない。
 高レベルモンスター並みと言っていい。

 「それなら気楽に作れるな」
 レベルを上げるのに百万ポイント越えだったからな。

 『ソウルポイント』もいらない。
 『マナポイント』は常時増加中。
 気楽に作っていけそうだ。

 『テーマ』は『学園祭』、『属性』は『妖怪』。ダンジョンの内装は『学校』。
 
「感情が転がる廊下、記憶の保存された教室、在りもしない思い出の欠片たち。廃坑になった木造校舎で行ってみよう!」
 とりあえず、5階層分を丸々学校にしてしまおうじゃないか。
 
「在りし日の激情、忘れ去ったはずの記憶、紡がれなかった思い出。掘り起こし、暴いて、生み出そう」
 カルマはノリノリで設計に入るのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...