『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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全年齢対応・表現マイルドバージョン

第81話 妖怪制作 ~つらら女~

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 次に目を引いたのは、氷漬けの女。
 特に下半分はまるで氷の柱だ。

 「ああ、それだ!」
 考えるまでもなく妖怪の名前が出た。

 『氷柱(つらら)女』。
 雪女と並ぶ冬の妖怪だ。

 当然のように若くて美しい妖怪となっているが、風呂に入らせると氷柱に戻ってしまうという弱点もある。
 どこか近寄りがたいイメージが強い雪女と比べると愛嬌があった。
 ドジっ子属性(カルマの主観)の女性型妖怪でもある。

 雪女は『怖さ』の象徴。
 氷柱女は『切なさ』の象徴。
 そんな風に言えるかもしれない。

 外見的要素に付け加えるモノもない。
 このまま取り込んで、氷の魔力を埋め込むだけで作れる。


 ◇少女Aの意識の狭間◇

「・・・なんで、私だけ?」
 その問いは、誰にも向けられていない。  
 ただ、胸の奥で静かに響いていた。

 仲間たちの声が、遠ざかっていく。  
 笑い声。  
 怒鳴り声。  
 泣き声。  
 全部、もう聞こえない。

 最後には、頼れるリーダーまでもが、力を失くした体を運ばれていった。
 自分だけ取り残されようとしていた。

「みんな、いなくなったのに・・・私だけ、残ったの?」
 それは、誇りでも、勝利でもなかった。  
 それは、『罰のような孤独』だった。

 そして、胸元にふわりと舞い降りた白い虫。  
 雪虫。  
 小さな命。 
  
「・・・あなた、誰?」
 雪虫は答えない。
 ただ、胸元で羽を震わせる。

 それが、彼女の問いに対する『肯定』のように感じられた。
 でも、それが触れた瞬間、彼女の体は凍り始めた。

「・・・あ、あったかい?」

 最初はそう感じた。  
 虫の羽が、胸に触れたとき。  
 それは、誰かが手を添えてくれたような、優しい感触だった。

 でも、すぐに冷たさが広がった。  
 指先が動かない。  
 足元が重い。  
 息が、白くなっていく。

 気付けば、足の感覚がもうなかった。
 目を下に向ければ、蒼いほどに凍った水がある。

「・・・やだ、まだ・・・言ってないのに」

 言いたかったことがあった。  
 謝りたかった。  
 伝えたかった。  
 守りたかった。

 あの時、手を伸ばしてくれた人に。
 あの時、背中を押してくれた人に。

 でも、もう声が出ない。  
 目が、白く覆われていく。

「やだ・・・待って! やだよ、まだ言ってないのに・・・!」
 声にならない叫びが、胸の奥で弾けた。
 でも、氷はその叫びを包み込んで、静かに沈めていく。
 まるで、『言わなくてもいいよ』と囁くように。

「・・・誰か、見ててくれるかな」

 それが、最後の願いだった。  
 誰かが、自分のことを覚えていてくれるように。  
 誰かが、自分の名前を呼んでくれるように。

 雪虫が、胸元で羽を震わせる。  
 それは、彼女の願いを運ぶための小さな使者だった。

 そして、彼女は凍った。  
 白く、静かに。  
 まるで、冬に選ばれた者のように。

 その姿は、誰かの記憶に残るための、最後のかたちだった。

 ◇氷柱女の意識の中◇

「・・・寒い」

 最初に感じたのは、それだけだった。  
 でも、それは空気の冷たさじゃない。  
 心の奥が、じわじわと冷えていく感覚だった。

「泣きたいのに、涙が出ない」

 目は凍っていた。  
 感情が、表面に出る前に凍りついてしまう。  
 悲しみも、怒りも、後悔も、全部、氷の膜に包まれて、動けなくなっていた。

「私・・・誰かに、何かを言いたかったはずなのに」

 言葉が浮かばない。  
 名前が思い出せない。  
 記憶が、氷の中で静かに沈んでいく。

「でも、苦しくない。・・・それが、怖い」

 痛みがない。  
 悲しみも、もう感じない。  
 それは、楽なのかもしれない。  
 でも、それは『自分が自分でなくなる』ということだった。

「このまま、全部凍ってしまえば、きっと楽になる」

 そう思った瞬間、  
 胸の奥で、何かが小さく軋んだ。  
 それは、最後の『人間だった頃』の声だった。

「・・・誰か、見ててくれるかな」

 その声も、すぐに凍った。  
 氷柱女は、静かに目を閉じる。  
 氷の魔力が、彼女の心の輪郭をなぞりながら、ゆっくりと同化していく。

「私は、もう『誰か』じゃなくて、『何か』になる」

 それは、恐怖ではなかった。  
 それは、受け入れた者の静かな決意だった。

 氷柱女は、  
 冷たく、静かに、誰かの記憶に残る『かたち』として完成していく。

   ◇

「はい、完成!」
 小動物っぽい眼鏡女子が立ち上がる。
 いい感じだった。

 氷が、きらりと音を立てた。

「・・・あれ? ここ、どこ?」
 つらら女は、氷の柱の中で、少しだけ首をかしげた。
 それは、冬の静けさに宿る、小さな愛嬌だった。

 でも、その動きに『冷たさ』が混ざっていた。
 まるで、首をかしげることすら、誰かに見せるための『演技』になってしまったように。

「でも、そのちくはぐな感じが、むしろ『らしい』気がする」
 カルマは、つらら女の首かしげを見て、そう呟いた。
 それは、冷酷な支配者の口からこぼれた、ほんの一欠片の『理解』だった。

「・・・わたしって、誰かに見られるために凍ったのかもね」

 唐突な呟き。
 カルマが振り返る。

「何の話だ?」
 眼鏡女子は首をかしげる。

「だって、首かしげてたし。あれって、誰かに『見られてる』って思ってる仕草じゃない?」
 カルマは黙る。
 それは、彼女が『ただの素材』ではないことを示す、予想外の観察だった。
 だけど・・・。

「自分のこと、だよな?」
「あら。自分のことを客観的に見れない人は成長しませんよぉ?」
「・・・確かに」
 なんか、自然に言い負かされて、カルマの目が点になった。
 周囲を囲む他の妖怪たちがまとう空気も軽くなる。

「えっと・・・『カルマ』さん?」
 首を傾げながら聞いてくる。
 たった今、自分で「見られるための仕草」だと言っていたのに。

「あ、ああ。そうだが・・・」
「カルマさんって、優しいですよね」
「・・・どこが?」
「だって、『完成』って言ったあと、ちょっとだけ間があった。あれ、たぶん『この子に名前つけてもいいかな』って考えてた間ですよね」
 カルマは、何も言えなかった。
 それは、自分でも気づいていなかった『感情の揺れ』を言語化された瞬間だった。

 カルマはモンスターを作っているのだ。
 名前を付けるか付けないはただの趣味・・・のようなモノ。
 そのはずだ。
 だけど・・・?

 思わず、動きを止めてしまうカルマ。
 それにも構わず、氷柱女は口を動かす。
 口は凍らなかったらしい。

「これって、死んだ人を使ってるんですよね?」
 自分を見下ろして聞いてくる。

「そうだ」
「じゃあ、『完成』って言うより、『再開』って言った方がいいかも?」
「・・・」
 カルマの目が細くなる。
 それは、冷静な支配者が『言葉の重み』に触れた瞬間だった。

「ふっ・・・ふふっ、はははっ」
 カルマの肩が揺れた。

 氷柱女が首を傾げ。
 他の妖怪たちが、目を見開いた。

 どこか作ったような笑い、どこかが歪んでいる笑い。
 そればかりだったカルマが、自然に笑っているように見えた。

「・・・意思のある妖怪は、全部ネームドにしよう」
 考えてみれば、『七人みさき』にも名前はつけた。
 記号のようなものだったけれど、名前には違いない。

 だったら、もう、全部『名前付き』でいいじゃないか。

「お前の名前は・・・『霜月フラノ』だ」
 霜の月に咲く、誰かの記憶の花。
 そんな意味が、込められていた。

 ・・・ってことにしよう。
 内心でカルマはそう付け足した。

 自覚のないテレがあった。
『名付け』に意味があることを認識した瞬間だったかもしれない。
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