『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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第84話 最後の10人 ③ ~毒の広がるとき~

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 「くッ、クソガァァァァ!」
 自失の数秒ののち、リーダーが吠えた。
 輝く大剣を掲げて振り回す。

「砕け散れぇぇ!」
 光る剣撃が天井を薙いだ。
 氷柱が砕けて降り注ぐ。

 氷片を避け、全員が逃げ惑った。
 粉々になっている分、負傷するリスクは少ない。
 だが、痛いものは痛い。

「うっわ、ムチャするねー」
 ちゃっかりと、折りたたみ傘で身を守るフラノが、呆れている。
 だけど・・・。
 口が半月型に歪んだ。

 「その状態じゃ、走れないよね?」
 床が大小無数の氷片で覆われている。
 著しく動きを制限されるのを避けられない。

「バラバラだし」
 降ってくる氷塊を避けようと動いた彼らは、隊列も何もなく、個々で立っていた。
 互いを守りあえる範囲を外れた者が多かった。
 控えめに言って、隙だらけだ。

 そこへ。
 氷片が舞う中、色褪せた制服の一団が静かに現れる。
 フラノの芝居がかった仕草で、迎え入れられた。

「『素材』を採取します」

 その声と同時に、空気が変わった。
 一影が前に出る。
 足元の氷を踏みしめ、迷いなく道を切り拓く。
 彼女の足運びで氷片が左右に退き、細い道を形成していく。
 ナイフが光を反射し、敵の視線を奪う。

 ターゲットとなったのは、一人の女子。
 濡れた肩を抱くようにして身を縮ませていた。

 目を見開いて、視線がナイフに釘付けになっている。
 仲間の退場、氷片を受けた痛み、そこへ突然の襲撃者。
 思考が停止している。

 そんな彼女に。

 二影が囁く。
 声なき声が敵の心に入り込み、恐怖と混乱を助長する。

 杖を握る手が、目に見えて震えた。
 目が曇り、意識が内面に向いたのがわかる。

 三影が盾となり、敵の反撃を受け止める。
 氷片が砕ける音に紛れて、彼女の腕が軋む。

 四影が滑るように動き、敵の背後に回る。
 刃が一閃、血が舞う。

 五影が囮となり、敵の注意を引きつける。
 笑みを浮かべながら、氷の上を舞うように跳ねる。

 六影が傷を癒す。
『素材』に手を添え、光が灯る。
 無駄な傷は残さない。

 そして、七影候補かを審問する。
 実体のない影が、相手の輪郭を覆い隠した。
 数秒の間。

「いやぁぁぁぁぁ!」

 拒絶の叫びが響いた。
 魂が拒んだその瞬間、影への道は断たれる。

「採取、失敗」
 一影のナイフが静かに一閃。
 横に薙がれた。
 命が、音もなく終わる。

 床に転がる重いもの。
 氷の上を転がる音が、静寂を切り裂いた。

 転がったものは、六つの影が拾い、支えて運び出す。
 仲間に入らずとも、『素材』には違いない。

 残り、七人。

     ◇七人みさきの初仕事◇

 戦場を風のように吹き抜けたのは『七人みさき』。
『素材』回収を旨とする妖怪だ。
 彼女たちは戦場を離脱しながら、自分たちの初仕事を振り返る。

 一影:「道は拓けた。素材も採れた。・・・でも、あの叫びは、耳に残るね」
 冷静だけど、ほんの少しだけ、足取りが重い。

 二影:「迷わせた。それで動けなくなった。・・・それって、壊したってこと?」
 囁きは敵だけじゃなく、自分の心にも響いている。

 三影:「守った。仲間は無事。でも、守れなかったものもある」
 盾の重みが、少しだけ胸に残る。

 四影:「斬った。それが私の役割。・・・でも、綺麗に動けてたかな?」
 刃の軌道を思い返しながら、少しだけ自問する。

 五影:「目立った! 注目された! ・・・でも、見られたくない顔もあったかも」
 笑ってるけど、ちょっとだけ目が泳いでる。

 六影:「癒した。痛みは和らいだ。・・・でも、心の痛みは、どうすればいい?」
 手のひらに残る温もりが、答えを探してる。

 七影:「・・・」
 ぼんやりとした影は何も言わない。
 ただ、そこに存在していた。


 場所:70階層・校長室(仮)/素材保管エリア。


 帰還後の会話。

 素材が並べられた机を囲んで、六人が座る。
 机の上には、氷片にまみれた武器の破片、魔力の残滓、そして・・・命の痕跡。

 一影:「道の確保は問題なし。敵の配置も予測通り。素材の質は・・・まあまあかな」
 淡々と報告しつつ、ナイフの手入れをしている。

 二影:「精神干渉は成功。でも、あの子・・・ちょっと耐性高かったかも」
 指先で氷片をつまみながら、ぼそり。

 三影:「守りきれたけど、四影の斬撃に合わせるタイミング、もう少し詰めたい」
 盾の表面に残った傷を見つめてる。

 四影:「え、私? ちゃんと斬ったよ? ・・・でも、ちょっと派手すぎた?」
 剣を肩に担ぎながら、ちょっと照れくさそう。

 五影:「見せ場は完璧だったでしょ? でも、氷の床はほんとに滑る~!」
 手の中にある『モノ』の髪をくしけずりながら、笑ってる。

 六影:「癒しは間に合ったけど・・・素材の『痛み』が、ちょっと重かった」
 手のひらを見つめながら、静かに呟く。

 七影:空席の椅子が一つ。
 誰かがそこに座る日を、みんなが少しだけ待っている。

      ◇戦場再び◇

「うんうん! いい調子だね! 順調に邪魔者が消えていくよ!」
 フラノが突然拍手した。

「さすがはリーダーさん。段取りが見事だね! 素晴らしいね!」
 リーダーを褒めちぎる。

「待望の凱旋。幼馴染も手に入れて、全部ひとり占め。万々歳だね!」

 ザワリ。
 空気が揺れた。

「『目的物』を独占しようとしている者がいる」。
 いつの間にか脇へ追いやられていた疑惑が急浮上してくる。

 もしも、リーダーが一人で生き残る悲劇の主人公を狙っていたら?
 婚約を迫っていたサブリーダーを亡き者にして、一葉を手に入れようと企んでいたら?
 仲間が次々に死んでいく現状に説明がつかないか?

「ま、まさか・・・」
 一人が言葉にした途端、全員に緊張が走った。

 考えてみれば、昨日はあんなにうまくいっていた。
 それが今日は、ボロボロだ。

 なぜか?
 誰かが、そうなるよう仕組んだから・・・ではないか?
 疑心暗鬼の波が止まらない。

「こらこら、フラノ。それは早すぎ!」
 ヤレヤレ。
 そんな雰囲気で人影が現れる。

「う・・・ウソ」
 一葉が亡霊でも見たような顔をして、リーダーにしがみついた。

「やぁ! 昨日ぶり!」
 現れたのは『カルマ』だ。

「な、なん・・・で?」
 一葉が問いを投げる。

「やだなぁ。もちろん、『もらっていたエリクサー』で蘇生したんだよ『予定通りに』ね」
 ウィンクまでして見せるカルマ。

「あとは、こいつらを亡き者にすれば、何もかも総取りできるね。まったく、欲の深い人たちだ。リーダーのフィクサーっぷりには脱帽だよ」
 君たちの企みだよね? と、カルマは微笑んだ。

「て、テメェー!」
 剣士が斬りかかった。リーダーに。
 その体には、ほのかに暖かな魔法が残っていた。

 予想外。
 それに尽きるだろう。

 カルマの登場で、精神的な混乱に陥っていたリーダーは反応が遅れた。
 遅れていながら、『聖騎士』のスキルはしっかりと仕事をした。

『逆襲者』。
 自分への攻撃に対する反撃を、自動で行うスキルだ。
 本人が負傷ほか、何らかの理由で反応が遅れた場合に発動するパッシブスキル。
 その意味では正しく機能した。
 便利なものではある。

 ただ、このスキルにフレンドファイアを回避する機能がないことを、リーダー自身も知らなかった。
 モンスター相手に一・二度しか発動したことがなかったのだ。
 味方に斬りかかられた経験もなかった。

 仲間が『混乱』の状態異常になることがあっても、一葉がたちどころに解除する。
 知る機会がなかった。
 だから、それは必然だった。

 魔法使いの少女が残した最後の魔法は、剣士を守れなかった。
 むしろ、あの魔法は『呪い』だったかもしれない。
 この魔法がなければ、理性をなくして仲間に斬りかかることなどなかっただろうから。

 制服が床に落ちた。
 命の色が広がっていく。

 残り、6人。
 そして・・・。

「なにやってんだ?! おまえ!」
 槍使いが詰め寄った。

 混乱から自失へと移行しているリーダーに。
 同じことが起き、制服が重なった。

 残り、5人。
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