『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
93 / 327
全年齢対応・表現マイルドバージョン

第91話 歌劇への招待 ~それは演目~

しおりを挟む
  
 
 生徒たちは走る。
 足音が響く。
 魔力が揺れる。
 誰かが振り返り、誰かが前を見据える。
 
「こっちだ! 通路が開けてる!」
「援護する! 魔法、展開!」
 
 若さと瞬発力。
 それは、今この瞬間にしか発揮できない『生きる力』だった。
 
 一方、教師たちも動く。
 かつて探索者だった者たち。
 だが、今は教壇に立つ者。
 十年のブランクは、体にも心にも重くのしかかっていた。
 
「止めろ! 逃がすな!」
「魔術障壁、展開・・・っ、くそ、遅れた!」
 
 経験はある。
 だが、体が追いつかない。
 魔力の流れが鈍い。
 足がもつれる。
 判断が一瞬、遅れる。
 
 それでも、彼らは動く。
 守るためではない。
 逃げるためでもない。
 ただ、自分たちの『立場』を守るために。
 
    ◇

 予想はしてた。
 だけど・・・。

「躊躇なしか」
 カルマは首を振った。
 まさか、いきなり殺しにかかるとは!

 懐柔策や脅しの展開は予想していた。
 だけど、いきなり暗殺に出るというのは意外だった。

「困ったな」
 まったく困っていない顔で、カルマは呟いた。

       ◇

 生徒たちは、命を守るために戦う。
 教師たちは、過去を守るために戦う。
 
 数は拮抗していた。
 質も、互いに一長一短。
 だからこそ、戦場は混沌とした。
 
 魔法が飛ぶ。
 剣が交わる。
 叫びが響く。 
 誰かが倒れ、誰かが立ち上がる。
 
 その中で、少年は前に出る。
 少女の背中を追ったその足で、今度は仲間の盾となる。
 
「来いよ、先生。俺たち、もう『生徒』じゃないんだ」
 
 その言葉に、教師の一人が足を止めた。
 迷いが、戦場に生まれた。

 そう。戦場だ。
 モンスター相手ではない。

 迷宮が静かに息を潜める。
 今、幕が上がるのは——人と人の、命を懸けた舞台。 

 ◇舞台演目① 『師弟の終焉』◇
 
 少年の握る剣は、赤い軌跡を残していた。
 彼にとって、絶対に生かしておけない『暗殺者』と、その横で毒に蝕まれ動けずにいた者とを彼女もいる『あちら側』へ送っていたからだ。

 戦いは秒でケリがついた。
 動いたのは教師のほうだ。

 迷いが、そうさせていた。
 これ以上は動けなくなる。
 その実感が、早めの決着を望ませた。

 心を閉ざし、そこにある『存在』をかつて戦った『モンスター』だと思い込む。
 そして、一撃で仕留めるとの決意のもとに踏み込んだ。

 狙い違わず、教師の持つ剣は少年の体に届く。
 それは少年から見ても同じことだった。

 少年にはもう、守るものがなかった。
 自身の命ですら、守る価値を見失っていたのだ。
 だから、少年は『避ける』という選択肢を忘れていた。
 覚えていたのは、剣を『突く』という攻撃の動作だけ。

 教師の剣が、少年の意思を切り落とした時、少年の意思の残り香が体を動かした。
 それは、命の核には届かずとも、命には届く傷を教師に負わせるものとなった。

 鉄の匂いが、空気を染めた。

 教師は一歩、後退した。 
 胸元から溢れる赤が、制服の白をじわじわと侵食していく。
 少年の剣は、確かに彼の肉を裂いていた。

 だが、それは『意思』ではなく、『残り香』の仕業だった。
 それは、彼の体に染みついた訓練の記憶。その残滓。
 意識が消えても、体はその願いをなぞるように動いていた。
 それは、誰かを守りたいと願った日々の、最後の灯火だった。

「・・・やるじゃないか」

 教師は、そう呟いた。 
 その声には、怒りも、驚きもなかった。
 ただ、どこか懐かしさのようなものが滲んでいた。

 少年は、何も言わなかった。
 目は開いていたが、そこに『見る』という行為はなかった。
 彼の瞳は、ただ空を映していた。

 誰もいない空。
 誰にも見られない空。

 教師は、剣を手放した。
 その音が、迷宮の床に響いた瞬間、少年の体もまた、力を失って崩れ落ちた。

 沈黙が、二人の間に降り積もる。
 それは雪のようであり、灰のようでもあった。
 静かに降り積もる『終わり』の象徴。



「・・・やるじゃないか」
 教師の声は、まるで遠い記憶をなぞるようだった。

 その一言が、少年の耳に届いたかどうかはわからない。
 けれど、教師の瞳は、確かに『過去』を見ていた。

 かつて、同じように剣を握り、同じように対峙したことがあった。
 その姿が、今目の前で血に濡れている少年と重なったのだ。
 剣を得手とする者同士の訓練風景。

「・・・あの頃のお前なら、避けていたな」
 無様に転げまわって避けていた姿を思い出す。
 戦う覚悟が欠落した姿・・・。

「いや・・・『人を守る』ってそういうことだったか」
 教師は、自嘲気味に笑った。
『命を懸ける』、そんな当たり前のことを遠い過去に置き去りにしてきた者の笑みだ。
 それは、敗北の笑みではなく、記憶の中に沈んでいく者の笑みだった。

 少年は、微かに唇を動かした。
 声にはならなかったが、その動きは、確かに『何か』を伝えようとしていた。

 教師は、その意味を読み取ろうとした。
 だが、迷宮の風が吹き抜け、言葉をさらっていった。

 そして、壁に刻まれた文字が、静かに浮かび上がる。

『演目:師弟の終幕』

 迷宮は、すべてを見ていた。
 そして、次の幕を準備していた。

     ◇

「今どきは、あまり注目を浴びない演目だけどね」
 カルマは肩をすくめていた。

「『負うた子に教えられ』か? 生徒に教えられてたら世話ないよ」
 命がけの戦闘と、訓練の区別がつき切れていなかった教師への、ダメ出しだった。

「いや・・・最後まで『教師』だったってことか?」
 戦士として対峙していたのではなく、『先生』として向き合っていたからこそなのかもしれない。

「・・・」
 カルマは首を振った。
 正解は当人たちにもわかりはしないだろう。

「・・・次は、少しドロドロしそうかな? 愛憎が絡み合う。大人でダークな『演出』になりそうだ」
 チャンネルを変える気軽さで、カルマはカメラ――『メガネウロ』——を切り替えた。

 濃い色になりそうな舞台。
 軽い口調ながら、カルマの目は真剣だった。

 映し出されたのは、赤と黒が交錯する部屋。
 そこにいるのは、かつて『愛』を語った者たち——そして今、『憎しみ』に沈む者たち。

 退避と追跡行の脱落者=生徒2  教師3
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...