『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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全年齢対応・表現マイルドバージョン

第102話 『ダンジョン設計』 ~学園祭の舞台づくり~

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 迷宮は、ただの殺戮装置ではない。
 それは『記憶』をなぞる舞台であり、『感情』を吸い上げる装置。
 カルマはそう考えた。

 だからこそ、彼が設計したのは、木造校舎を模したダンジョンだった。
 ギシギシと鳴る床板、煤けた黒板、誰もいない教室。
 そこに詰まっているのは、かつて誰にも見られなかった『日常』の残響。

 構造:三年制・九階層+イベント階層
 迷宮は1年につき3階層、計9階層で3年間の学校生活をなぞる構成。
 さらに、10階層目には『イベントフロア』を設け、入学式や卒業式、文化祭などの『行事』を演出する。

 この構造は段階的に繰り返される。

 入学式から始まって、卒業式まで。
 学校行事をなぞっていく。

「入学式では『生徒手帳』の配布と『校歌斉唱』でもさせようかな」
「生徒手帳?」
 悠が首を傾げる。

「中身はスタンプラリー帳。各階層にあるイベントをクリアしていく感じにしようと思ってる」
「・・・ずいぶん、楽しそうなダンジョンね?」
 確かめるように友梨が問いかけた。

「オレも別に『探索者』すべて・・・まして『人間』すべてを憎んでいるわけじゃないからな。死者の出ないダンジョンでもいいと思っているよ」
 ・・・死者が出ないとは言わないけどね。

「入学式は、歓迎の儀式だ。 生徒手帳を渡し、校歌を歌ってもらう。 それだけでいい。 彼らが『生徒』になるには、それで十分だろ」
 うんうんと楽しそうに頷いて、カルマが手にしたノートに何かを書き付けていく。

「次は定番の身体測定だ。スタンプラリー帳の1ページ目、身長、体重、視力、握力、心拍数を図っていく。ただし、どれも魔力吸収機能付きにしよう」
 攻撃性を感じるようなものではなく、ごく微量でいい。
『マナポイント』を稼がせてもらう。

【身長:棺桶型測定器。夢の高さに届かない。
 体重:心の重さ。言葉の沈殿。
 視力:見たくなかったものが見える。
 握力:掴めなかった手。
 心拍数:名前を呼ばれた瞬間の鼓動。

 ※全項目、魔力吸収機能付き。微量で十分。
 ※測定結果は『評価』形式。数値は不要。】


「そうしたら・・・『新入生歓迎会』だな。楽しんでもらえるよう、ミニゲームを・・・。『たたいて・かぶって・ジャンケンポン』なんて、盛り上がるんじゃないかな?」
「わかりやすいうえに、無駄に盛り上がるのよね。あれ」
 頭を抱えて、薫が頷く。
 お嬢様なのに、ムキになっていたなぁと、カルマは思い出した。

【ゲーム形式:「たたいて・かぶって・ジャンケンポン」
 ・魔力反応:叩く瞬間に魔力が放出される(無意識)。
 ・防御側は魔法障壁を展開(反射的)。
 ・勝敗に応じてスタンプラリー帳に『勝敗』が記録される。
 ・目的:勝ち負けの判定がのちに賞品の選択などに影響してくる。
 ・副作用:魔力供出(微量)、叩かれるときのわずかな恐怖(ソウルポイント』


「続いては定番行事の『運動会』だ。お客さんたちには大いに競い合っていただこう。勝ち負けをしっかり記録することで、『これには意味がある』とわからせる」
「・・・どんな意味があるの?」
 元陸上短距離のエース裕子が、久しぶりに生えている足をさすっている。

「んー、最終的な『スタンプラリー達成報酬』に差が出るとかだね」
 種類や質に差をつけるのだ。
 ゴールすればみんな一緒、ではない。

「小学校の運動会。100メートル走で一位はノートだけど、順位が下になると鉛筆とかだったのと一緒だね」
「・・・たとえが・・・。わかりやすいけど!」
 ダンジョンっぽくないっ!
 肩にツッコミが入った。
 昔なら跡が残るようなやり方だっただろうけど、今は押された程度だ。
 むしろ心地いい。


「運動会の次は・・・」
 なにがあったっけ?
 考えて思い出した。

「生徒総会だ」
 意見を求めるふりをして、実は意見を縛る会合。

「委員会に強制参加させよう」

 風紀委員は治安維持。
 図書委員は記録の管理。
 視聴覚委員会は行事の内容配信。
 保健委員は回復と健康増進。

「ありふれて見えるけど・・・」
 クスッ、と真梨華が笑った。

 これも、『スタンプラリー帳』に記載。
 のちの評価につなげる。

「で、ついに来ました『中間考査』だ」

 実技。
 武器を使っての模擬戦。(ソウルポイントの吸収)
 魔法による威力測定。(マナポイントの吸収)

 座学。
 ごく一般的な教養問題。
 ただし、筆記具は使うと魔力を消費する。(マナポイントの吸収)
 座学が苦手な者によっては『ソウルポイント』も吸収できる。

 成績はもちろん、記載され評価される。


「この間には『部活動』なんかも盛り込んでおこう。『探索者』が各々やりたいことを選べる形にする」
 文化部になるのか、運動部になるのか。

 もちろん、選んだ『部活』によってスタンプラリーの流れは変化する。
 イベントが変わり、ゲームも変わる。
 当然に『景品』と『賞品』も。

『野球部』なら、千本ノック、ストライクチャレンジ、板抜き。
『バスケットボール』なら、千本シュートやドリブル走。

 ・・・そんなところだろうか。
 『文化部系は謎解き系』、『運動部系はタイムアタック系』と考えておけばいいだろう。


「あとは・・・『ドロップアイテム』や『景品』に『ダンジョン内通貨』を混ぜる」
「通貨というと・・・『お金』ですか?」 
 真梨華が不思議そうだ。

 「ダンジョン内でしか使えない『お金』を渡す。で、どこかに『縁日』っぽい屋台のフロアを作るんだ。ゲームしたり食べたりできるようにね」
 
 屋台で遊ぶ・食べる・景品をもらう → 感情が動く → ソウルポイント発生!
 ゲームには当然に魔力消費があるものも仕込む→マナポイント収集!
 特に「悔しい!」「嬉しい!」みたいな感情が強いミニゲームほど効率が良い。

「・・・なるほど?」
 納得していない顔をされた。
『楽しませるだけ? あなたが?』って顔だ。

「楽しければ楽しいほど、長居する。ポイントを落としてくれるわけだ。悔しくて欠けさせた魂を、楽しむことで修復して、また削る。無限機関が完成する」
 働かせてばかりでは効率が下がるから休暇はやる。
 ただし、休んだならまた働け、ということだ。

「そして、楽しいからどんどん下に来る。・・・帰れるといいな?」
 楽しすぎて帰ることを忘れるかも?
 ちょっと冗談ぽくカルマが言ってみる。

「・・・あぁ・・・」
 妖怪たちが揃って頭を押さえて、息を吐きだした。
 カルマが何をしたいのか、おぼろげに見えた気がしたようだった。

 「四季折々のイベントも入れていくよ」
 
 林間学校、海水浴、花火大会。
 お花見、お月見、雪遊び。
 夏期講習、スキー合宿、修学旅行。

 楽しい思い出とともに、物悲しい別れもある。
 協力して作り上げる、それが終わる。
 青春と呼ばれる儚い『祭り』の時代・・・その幻。
 このダンジョンは『そういうモノ』になる。

 「ダンジョンの構造は・・・基本的に板の廊下だな。で、時々教室が見つかる。でも、この教室は必ずしも開いていない。別の教室で何らかの条件をクリアしないと開かなかったりする。部活や委員会選択の結果が影響したりもするかもね」
 部室棟があるフロアでは適応する部の部員になっていないと、入れない。
 体育館に入れるのは『運動部』の部員だけ、とか。

 まさに、『校舎丸ごと使ってのスタンプラリー』だ。

 各教室でイベントを発生、クリアしながら進んでいく。
 手に入る『景品』を先に見せることで、『これ』を手に入れるには『この』ルートを何としても進めないと―――とならせる。

 進み方をある意味縛ることで行動予測をつけやすくする。
 モンスターを適当に配置するのではなく、『どこで』、『誰が』迎えるかを決めておける。
 それが、『スタンプラリー方式』の利点だった。

「スタンプラリーって、『景品』が重要よね?」
「ああ、スタンプラリーの報酬設計か? もちろん考えてあるさ」

 カルマはノートをめくりながら、口元だけで笑った。

「まず、スタンプの数に応じて報酬を段階的に変える。3つ集めれば飴玉、6つでおもちゃ、9つでご褒美。子どもだってわかるルールだろ?」

「・・・子ども扱いしてるの?」と誰かが呟いたが、彼は聞こえないふりをした。

「重要なのは、『全部集めたら何が起こるか』を匂わせることだ。特別な称号、隠し教室、あるいは『記憶の断片』・・・それが何なのかはわからなくても興味は引く。そういうもの。それが欲しければ、全部の教室を回るしかない。つまり、こっちの思惑通りに動いてくれるってわけだ」

 ノートの端に書かれた「模範生徒」「問題児」「委員長」などの文字を指でなぞる。

「称号もいい。探索者の行動を記録し、評価し、ラベルを貼る。『あなたはこういう人間です』ってね。自覚させることで、行動が変わる。・・・いや、変えさせる」

「それって、洗脳じゃ・・・」

「教育だよ」

 カルマはさらりと言い切った。

「報酬は、ただの飴玉じゃない。行動の誘導装置だ。欲望を刺激し、選択を縛り、感情を揺らす。そうして得られる『ソウルポイント』と『マナポイント』が、ダンジョンの燃料になる」

「・・・楽しませてるようで、搾取してるってこと?」

「違うな。楽しませることで、搾取が成立するんだよ」

 彼はノートを閉じて、にやりと笑った。

「さあ、スタンプを集めよう。全部集めたら、きっと『何か』が起こる。・・・帰れるといいな?」

 そう言って、カルマは窓の外に目を向けた。
 ありそうな、でも実際には存在しない、ありふれた風景が見えるだけだ。

『妖怪』たちは気が付かない。
 彼の目に映るその風景には、なぜか『人』だけがいなかった。
 まるで、『誰か』がそこにいたはずなのに、忘れられてしまったように。
『誰か』にいてほしいと願うように。

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