『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第14話 往路① ~沈黙の中で~ 後編

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 ◇別の日◇

『ダンジョン』内のマナーについて。
 そんな表題の小冊子がある。
 特定・不特定を問わず、人間の集団が共用するモノになら、たいてい存在するルールを明文化したものである。

『人間の集団が共用とするモノ』。
 これには、『ダンジョン』も含まれるのだ。

 めぼしいところで言えば、『挨拶を忘れない』なんてものが冒頭に書かれている。
 すれ違うパーティがいたら、最低限会釈はしようってやつだ。
 『火の取り扱いに注意』とか、『ゴミは極力持ち帰りましょう』なんてものもあるな。
 ようするに、『キャンプ地』でのマナーと大差はない。

 大きく違うところがあるとすれば、『トイレ事情』となるだろう。
 あたりまえだが、『ダンジョン』内に公衆トイレなんてない。

 低階層であれば、『持ち帰り』が基本だ。
 それ用の『マジックバック』を用意して、男子ならペットボトル型の容器に直接、女子なら間接的にため込んで、これを持ち帰ることになる。

 大でも同様だ。
 密閉できる容器に詰めて持ち帰り、トイレに流すことになる。

 だが、これが中層から深層へと進むと、それだけでは済まなくなる。
 単純に、量がすさまじいことになるからだ。
 深く、深く潜ろうという場合には持ち込む荷物も半端なく多い。
 ここに、『排泄物』まで抱えるというのは難儀なのだ。

 もちろん、『排泄』をするからには『消化』している。
 食べているわけだから、持ち込んできた食糧が減る分だけ、『排泄物』が増えるだけ。
 そうとも言える。
 言えるが、気分はまるで違うのが当然だ。

 特に女子にとっては最悪な話だ。
 そこで、暗黙のルールとして、床に土がある『ダンジョン』に限り、穴を掘ってそこへ『排泄』をする。
 これを、埋めることで処理することが許されている。

 「さっさと掘りなさいよ!」
 ゲシゲシと足で急かされる。

 かなり切羽詰まっておられるようだ。
 今回は戦闘が長引いたからな。
 我慢の限界なのだろう。

 だったら、穴ぐらい自分たちで掘ればいいのに。

 何メートルも掘るわけじゃない。
 縦横30センチ、深さも30~50の穴を掘るだけだ。
 大した手間でもないだろう。

 6人もいるんだから。
 そう。穴のサイズが意外に大きいのは人数が多いからだ。
 
 っていうか、一人一人で掘れば早いし楽じゃね?
 とも思うが、これにはちゃんと理由がある。

 ダンジョン内のこと。
 都合よく安全な個室なんて見つかるものじゃない。
 行き止まりの通路奥とかで『する』しかないのだ。

 下着やズボンを下ろして、しゃがむ。
 そんな態勢のところをモンスターに襲われでもしたら終わる。
 仲間の男に見られたらこれまた別の意味で終わる。

 なので、女子同士が同じ穴を交代で使う。
 そのための深さだ。

 女子同士が交代で使う。
 見られたくない。
 臭いも気になる。
 だから、ある程度の土をかけて交代する。
 浅いとあふれる。

 だから、深めに掘る。
 掘らされる。

「掘れましたよ」
 いつも通りの穴だ。
 むしろ、少し深めかもしれない。
 あまりにせっつかれたので、逆に時間をかけてしまった。

「掘り終わったんならさっさとどっか消えなさいよ。気が利かないわね!」
「いいこと? 絶対に覗くんじゃないわよ?」
「うっかりギルティしちゃったりしたら大変だしね」
「ちょっと! 余計なことは言わないで!」
 戦士に回復役、魔法使いが軽口を叩くと、剣士が少し慌てた様子で止めに入った。
『殺す』というのは、冗談で口にしていい言葉ではないからな。

「そうだね。覗くようなら・・・処理してもらう?」
「あ、それ一度やらせてみたかったやつ」
 別パーティの姉妹が、ある意味さらに際どいことを口走る。

 周囲の空気が、一瞬だけ凍りついた。
 笑っていいのか、怒るべきなのか、誰も判断できなかった。

「はあ?」
 おそろしいほどに低くドスの利いた声がユニゾンで出た。

 姉妹とは価値観が相容れないようだ。
 カルマにも、そんな趣味はないけれど。
 ただ、笑いながら語る彼女たちの目が、何より怖かった。

 笑い声が、心の奥に突き刺さった。
 ポーションじゃ、癒せない痛みだった。

「面白そうじゃない?」
「ちょっと汚いけどね」
 ケラケラと笑う姉妹。

 4人の眉間に青筋が浮いた。
 でも、誰も止めようとはしなかった。
 ただ、目を逸らし、笑いに混ざることで、自分が『標的』にならないようにしていた。

「もういい、黙れ!」
「こっちのメンタルがもたないね」
「早く済ませましょう」
「そうね。本隊に追いつけなくなるわ」

「ノリが悪いなぁ」
「みんなおこちゃまだから」
「「「「あんたたちがヘンタイなだけでしょ!」」」」
 カルマはただ、静かに拳を握った。

 その手のひらには、まだ熱の痕が残っていた。

 でも、それよりも痛かったのは──

『自分の存在が、誰かのストレス解消になっている』という事実だった。

 それを、誰も疑問に思っていないという現実だった。
 ダンジョン10階層での出来事。
 このあと何度も似たようなやり取りが続けられた。

      (回想終わり)


 そして——、

『その日』が来る。
 彼らは、いつも通りだった。
 笑い、騒ぎ、軽口を叩き、油断を抱えたまま、『日常』を過ごしていた。

 でも、迷宮の空気は、いつもと違っていた。
 まるで、誰かが『見ている』ような気配があった。

 それは、旧校舎でまんじりともせず座り続けた、戸脇駆馬の視線だったかもしれない。
 誰にも見てもらえなかった者が、今、見ている。
 そんな気配があった。

 空気が、少しだけ重かった。
 光が、少しだけ濁っていた。

 迷宮が、息をひそめていた。
 準備は整った。
 始まりを待っている。

 回り舞台――。
 静かに、音もなく、世界が裏返る。


 シーンが変わろうとしていた。

 カルマのターン。
 受けではない、攻撃が始まる。

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